Saga of Creatures〜Battle Galaxy~ 作:hinoki08
「すまねえ、相手に有利なフィールドを作り出させちまった……」会場脇に戻されつつ、言うベンケイ。
しかし信玄の方はというと……悠長に笑って言って見せた。
「ま、お前の油断だな。……だがいいってことよ。これくらいハンデがないと、張り合いもねえ」
彼はパン、と手を鳴らす。その声にイザハヤテはにっこりと笑って起き上がる。
「行ってきな、イザハヤテ!」
「ワカッタ!!」
『さーてっ、ボルベルグ信玄選手のチームから登場する次鋒は……貴星虫イザハヤテ選手! 普通は飼い主がいてこそ真価を発揮するパラサイトワーム、果たしてどんな戦いを見せてくれるのだろうか!?』
ショーの実況通りだ。観客も、一人で戦うパラサイトワームという不思議な存在に半ばワクワクとしている。
「ほほう、これはまたまた面妖なりィ! 言葉をしゃべるパラサイトワームとはァ! しかしィィィ!!」
ゴエモンは再び、会場に飛び散るあぶくを一つ、自分の身に吸収させる。……やはり、ベンケイ以外のチームメイトのデータも全て読まれていたか。
「なるほどなるほど、やはり知性を持ち、クロスギアをも操る摩訶不思議なるパラサイトワーム! その実力も誠道場の名に恥じぬものとあるゥ! だがぁ! 攻撃されなくては、意味なァァし!」
ゴエモンはまたぞろ、インビジブル・ジンバオリを身にまとう。再び姿の見えなくなるゴエモン。だがイザハヤテは……狂暴なパラサイトワームという種族にも似合わず、まずは落ち着き払っていた。
「まずはお前の情報、もっと集めようぞ! よよいっ! お前のクロスギアの力はなんだァァァ!!」
『姿の見えなくなったゴエモン選手の声だけが響いていくぜっ! そして……またあぶくが一つ、吸収された! イザハヤテ選手、何やら大きな動きは見せないが……?』
「……《ジャソウ》」
その時だ。一つのあぶくが姿の見えないゴエモンに吸収されると同時に、イザハヤテはようやくクロスギアを取り出す。
「《コウモリック・チェーン》ジェネレート!」
イザハヤテはぬるりと尻尾をうごかし、一本の魔力に満ちた鎖鎌をまずはぶんと虚空に向かって振り回した。「ぬうん!」とゴエモンの声。
「なるほど、データ通りィ……お前のクロスギア、振るうたびにその魔力で戦闘相手を弱体化させる……そしてその効力の及ぶ対象はぁ! 鎖鎌でとらえた相手のみにあらじ! 振るえば振るうほど、この場全てにその魔力を振りまくというわけかァ! それで、拙者を姿見え無くしても倒そうというのだなぁ!? パラサイトワームにしてはなかなかに見上げた作戦、褒めてやろう、よよいっ!」
どこからともなく聞こえてくるゴエモンの声が全てを説明する。……しかし、だ。その相変わらずハイテンションに響く声が一つの事実を観客たちにも伝える。
それはコウモリック・チェーンの弱体化の魔力が、ゴエモンを……少なくとも今一撃で仕留めるほどには及んでいないという事実だ。
だがイザハヤテはそれでも、虚空に向かってコウモリック・チェーンを振り続ける。会場にはだんだんに、毒の魔力が立ち込め始めた。
「無駄だ無駄だぁ! 拙者とてサムライの端くれ、数うちゃ当たるに引っかかるほどやわな動きはしとらんぞぉ! ちょうどよい、お前が疲れきるまで、逃げ切ってやろうぞォ! そしてこの攻撃、うぅ、けぇ、きぃ、れぇ、るぅかぁ!!??」
コウモリック・チェーンを振り回し続けるイザハヤテを、ゴエモンのビーム攻撃の連打が襲う。まるで多方面から降り注ぐように……歌舞伎ロイド・ゴエモン。その巨体に見合わず、本当に姿の見えなくなった身で俊敏な動きをしているようだ。
『おおっと、ゴエモン選手のビームが、イザハヤテ選手の沢山ある眼たちに直撃だぜ! ……これは痛そう……いや、あれ、目じゃない!?』
イザハヤテの頭に二列に連なる赤い目のようなものは、ビームを受けて粉々に砕け散る。どうやら宝玉のような材質をしているらしい。
「クッ……」だがその攻撃を受けてイザハヤテはうめく。そして……その砕けた赤い宝玉の破片が魔力のオーラとなってコウモリック・チェーンに灯る。彼はその魔力と共に虚空目掛けて猛攻を仕掛けた。
「無駄だと言っておるのがわからんのかぁ……!! ぬん!?」
「あ、ようやく気が付いたようですね」と、ソウジの声。
「……ま、ようやくか。敵ながら及第点かな」信玄が彼と共にいう。
『なんとっ!? イザハヤテ選手のあふれる魔力が会場中に立ち込め……コテガエシ選手の残した情報のあぶくが、それに押されるようにしぼんでいくぜっ!』
「なっ!」コロシアム脇のベンチで、コテガエシも焦った。
「ゴエモン、奴の狙いはお前を魔力で仕留めきることではなく、私のメモリー・アクセラーのあぶくだったのだ!」
「早く仕留めてくれ!」ツバメガエシも言う。「コテガエシの戦いが、無駄になっちまう!」
「言われずとも、気が付いたからにはそのつもりィ!」
ビームを充填する音が響く。特大のビーム攻撃が来るようだ。だが……。
「甘いな」ソウジは言う。
「イザハヤテの野生の勘をなめるな。お前の居場所ぐらい、奴はとっくに見切っている」
「……ソコダナ」
イザハヤテはニッと笑い、迷わず、「ある一点」目がけてコウモリック・チェーンを飛ばした。
すると、そこから……何かが割かれた傷口のように、グレートメカオーの機体があらわになる。インビジブル・ジンバオリが引き裂かれたのだ。
「あいや、見抜いていたかァァ! これは不覚ゥゥゥゥ!!」
その言葉とともに、ジンバオリが完全に力を失い、ゴエモンの姿があらわになった。どよめく観客。イザハヤテはとっくの昔に、ゴエモンの居場所などお見通しだったのだ。
イザハヤテはさらにコウモリック・チェーンを動かす。たちまちのうちにゴエモンの体が鎖でぐるぐる巻きにされ、そして……。
『な、なんとっ!? これはド迫力! グレートメカオーのゴエモン選手を、まるでおもちゃのように振り回しているぞ、イザハヤテ選手―ッ!』
「あいやいやいや、目が回るゥゥゥ!!」
「アハハッ! タノシイ!」
イザハヤテは尻尾を動かしながら、ゴエモンを鎖につないだ状態でぶんぶんと振り回し、着実にその体にダメージを与えていく。当然、その間にもコウモリック・チェーンの魔力は会場を満たし、ゴエモンがベンケイとの戦いの間育てた情報のあぶくはさらに小さくなっていく。
「ゴエモン!」口火を切ったのは封魔ラセツ・コロンゾンだった。
「早く俺に変われ! 俺が仕留めて見せる、そのワーム!」
「あいやまたれェ、コロンゾン殿ォ!」
しかし、ゴエモンもゴエモンで、最後まで気丈だ。彼はぶんぶんと魔力の中振り回されながらも……ビームのチャージを止めていなかったのだ。
「おのれ、せめてコテガエシ殿の戦いだけは、無駄にはさせぬゥゥゥん!!」
「トドメ!」
イザハヤテがぶんと思い切り尻尾を振り上げ、ゴエモンを地面にたたきつけようとしたその瞬間……。
「隙、ありぃ!」
『おおっと!? ゴエモン選手浮かび上がったすきを利用してコウモリック・チェーンを抜け、宙に飛び上がったぞっ! そして……ビーム発射体制に入ったぁ!』
重いグレートメカオーの体、滞空時間などたかが知れている。
だが、ゴエモンはあえて受け身を取らんとはしなかった。既に自分自身の機体も限界。それに……この知性あるパラワイトワームだからこそ、判断してくるだろう。抜けたからには受け身を取って態勢を立て直すと。
だからこそ、彼は鋭い勢いで落下する中……若干そのことに戸惑ったようなイザハヤテの隙を見届け、ビームを放った。コウモリック・チェーン目掛けて。「アッ!」とイザハヤテが気が付いた時には、もう遅い。
それは……見事に炸裂。コウモリック・チェーンの魔力を吐き出す鎌の部分を崩壊させた。
とたんに会場中には黒い魔力ではなく、再び青いあぶくがぷかぷかと浮かぶフィールドに逆戻りする……と、同時にガシャン、と大きな音を立て、ゴエモンは地面にたたきつけられた。
「無念、もう、動けぬゥゥ……」
そうつぶやいた彼は、会場の魔力によって会場脇のベンチへと運ばれていく。
「ありがとよ、最後の最後まで派手に大見栄切ってくれたな、ゴエモン」
「当然、それが拙者のサムライ道ォォ……」
「あとは、俺に任せろ」
ドスの利いた声でそう言いながら歩み出るのは、水文明サムライ連合軍の中堅、封魔ラセツ・コロンゾンだ。
「まずは武器を失ったワーム一匹か……易い!」
「イザハヤテノ、クロスギア……」
茫然としているイザハヤテ目掛けて、コロンゾンは「ぬん!」とその太い腕で背に背負った刀を抜き、真っ向勝負で思い切りイザハヤテに斬りかかる。
「グッ……」
イザハヤテの白い体にずぶりと刃が食い込み、彼は苦しそうな声を上げた。だが……次の瞬間だった。
彼の赤い目が煌めく。そしてゴエモンの攻撃によって砕け散っていった目の宝玉たちも、再び魔力の宝玉となって彼の眼孔内に集まっていき……。
『こ……これは!? イザハヤテ選手、赤い目の魔力でコウモリック・チェーンを復活させたぞーっ! これはすごい、ダークロードもおらずパラサイトワーム一人の身で、なんという魔力の使い手だーっ!』
「マダマダ……イクゾ」
イザハヤテは再びコウモリック・チェーンに魔力を宿らせ、コロンゾンへとその攻撃を放たんとした。そしてあふれ出る闇の魔力は、水文明のサムライたちを援護するあぶくを打ち消しにかかる……と思われたその時だった。
「コテガエシに続いて、ゴエモンの戦いまで無駄にする気か……? そうはさせねえよ、ワーム風情が!」
コロンゾンは自ら、その攻撃の中に身を投じていった。『おおっ、真っ向から受け止めるつもりか、コロンゾン選手!?』とショーの実況が響く。それと同時に、彼は……自分自身のクロスギアを抜く。
「〈流波 スパイラル・エーテル〉、ジェネレート!」
コロンゾンがそう唱えるとともに、彼の体、そして刀を蒼いエネルギーが包んでいく。
グランド・デビルの魔力をそのままクロスギア化させた、実態を持たないクロスギアだ。彼は青いオーラを纏ったその刀をコウモリック・チェーンの鎖鎌とかち合わせた。すると……一斉にそこには時空移動の渦が湧き、コウモリック・チェーンの攻撃、さらには魔力を、無に帰していく。
イザハヤテも、これには驚いている様子であった。彼は態勢を立て直そうと尻尾を再び降りなおし、何とか時空の渦に飲み込まれないようにとコウモリック・チェーンを引き戻す。だが……そのすきが、コロンゾンにとってはチャンスだった。
「感じるぜ、お前、魔導具の修復で結構魔力を使いやがったな。その判断、失敗だったかもしれねえぜ。無駄じゃねえんだよ……コテガエシの戦いも、ゴエモンの戦いも」
そうコロンゾンはつぶやいて……コテガエシの残した情報のあぶくを一つ、体に取り込んだ。
すると、彼の体がさらにオーラに包まれていく。
「あいつ、イザハヤテの弱点の情報を取り入れたか!?」と叫ぶソウジ。コロンゾンはその声を聞きつけ、「それだけじゃねえぜ、坊ちゃん」とにやりと笑った。
「悪魔らしくはないかもしれねえが、俺はな……『仲間の力』を感じることで、強くなれるんだぜ!」
コロンゾンのただでさえ太い剛腕が、さらに筋肉に膨れ上がっていく。彼は……情報のあぶくによって、身体的にも強化された!!
「仲間の戦いは、絶対に俺が無駄にはさせねえ! 優勝候補のお前たちのチームだからこそ! 俺たち水文明サムライ連合軍は一体となってお前たちに挑みかかるぜ!」
そして武器を引いたイザハヤテのそのすきを突き……スパイラル・エーテルの力を思い切り刀に集中させて、コロンゾンはイザハヤテ目掛けて斬りかかった。
イザハヤテが慌ててガードしようとした……のも、つかの間のことだった。コロンゾンの刃はそれよりも早くきらめき、イザハヤテの腹部に思い切り刃を食いこませた。明らかに増している。スピードも、パワーも。
それはそのたった一撃が勝負をつけたことからも、自明の理であった。
ワーム特有の低いうめき声が響き、イザハヤテはずしんと地面に倒れ伏す。それでもなお、彼は「グギギ……」と、起き上がらんとする。しかしだ。「よせ、イザハヤテ」信玄の声が響いた。
「この後も戦いがあるんだ、今は下がって、魔力の回復に注力しろ。あとは……」
戦闘不能をくだされたイザハヤテは、会場脇へと押しやられていく。それと同時に、パンと信玄は手を打ち鳴らした。
「こいつがやってくれらぁ! なあ、トドロキ!?」
「うん! オラ、頑張るべっ!」
『異端のワームイザハヤテ選手、ここにて敗退! 次なるは中堅、牛若剣士トドロキ選手の出番だーっ!』