Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第三話

 

「な、なんだ!? 急にドラゴンが神殿を抜けたと思えば……!」

 ようやく迷宮から出てきた頼光にとっても、バグナボーンの存在は予想外のことであった。バグナボーンはその力を使って、次々にマナをクリーチャーに変換し、他の選手たちを足止めさせる。

「くそっ!」

 頼光はズバット・アクセラーで彼らを断ち切るが……いかんせんマナのあふれるマナ・プラント。数が多すぎる。

「バグナボーン、足止めもほどほどにいたしませんと。これは、レースですから」

「分かっておる、だが、久々に石板の外に出られたのが楽しくてのう……もう少し遊んでやりたい気分じゃわい」

 カカッ! と余裕でバグナボーンが笑ったのもつかの間のことだった。彼らの隣を、猛然とかけていく姿があった。

 

『おおーっと、これはー!? 《トランス・ドラグーン》選手の猛烈な追い上げだーっ!』

 

 それは、マナ・プラントについたとたんに急加速を始めたティラノ・ドレイクの選手であった。

 彼はその身にマナを吸収し、肉体の真価を発揮する。

「パワーではドラゴンには叶わないが……これがレースであることが幸いしたな」

 彼は恐ろしいまでのスピードで、バグナボーンの打ち出すマナ・クリーチャーさえもひょいひょいと交わし、あっという間にバグナボーンに並び立ったのだ。

「先に行かせてもらうぞ」

「くっ、小癪な!」

「火文明の癖にマナの力を利用できるなんて、生意気です!」

 

 カブラたちとトランスの熾烈な戦闘争いが、マナでキラキラと光るマナ・プラントの中で繰り広げられ続ける。バグナボーンはマナ・クリーチャーでトランスを攻撃しようとするが、トランスはさらにマナを自分の体に吸い上げ、難なく躱していく。

 ……しかしだ。その際、さらに彼らの先を行く存在が現れた。

 

『あーっと、ここでさらに猛烈に追い上げを始めたのは……! ガーディアンの『地脈の守護者ラグ・マルタス』選手―ッ!』

 

 その通りだ。ラグ・マルタスと呼ばれたガーディアンが、一瞬のうちにカブラとトランスを追い抜いていった。

 

「なっ、何だ、あれは……」

 

『えーっと、手元の資料によると……ラグ・マルタス選手、《地脈》の動きに合わせてそのパワーを操ることのできるガーディアン! トップ二人の使うマナの動きに合わせてその真価を発揮したってところか!』

 

 その通り。地脈の守護者ラグ・マルタスは地脈……その土地のマナの動きに合わせて、その力を自在に変える性質の持ち主。マナの動きが活発であればあるほど、彼は強く、早くなる。

 彼はバグナボーンの打ち出すマナ・クリーチャーをもその圧倒的なパワーで貫き、ただただまっすぐ進んでいく。

 

「畜生、早い!」

「なんというパワーだ! 術師よ、我をサポートしてくれ!」

「言われずともそうします! 奴を足止めしなくては!」

 

「残念だが、マナをいたずらに使いすぎたことが貴様らの首を絞めた」人造種族であるガーディアン特有の無機質な声音で在りながらも、ラグ・マルタスは勝ち誇ったようにつぶやく。

 

「貴様らは、ここで終わりだ」

 

 

 ところが、だ。

 

 

『あー! 危ない! ラグ・マルタス選手前見て、前!』

「前?」

 

 その時、ラグ・マルタスはぎょっとした。道なりに進むレースコースは、内向きの急カーブになっている。

 バグナボーンとトランスがマナを思い切り動かしたせいで、全速力を出しながら真っすぐに進んでいたラグ・マルタスがそれを曲がり切れるかというと……。

 

 ザクッ。

 良い音を立てて、ラグ・マルタスはマボロシ山脈のとある崖に思い切り突き刺さった。

 

 

「……抜けない」

 

「(あいつ、アホだ……)」

「(あの者、アホじゃ……)」

「(あの人、アホですね……)」

 

 先頭二組は各々、同じことを考えながら内向きカーブを曲がっていく。地脈の守護者ラグ・マルタス、ここにてリタイアと相成った。

 

『さて、順位は相変わらず、バグナボーンの力を借りたカブラ・カターブラ選手とトランス・ドラグーン選手の壮絶な戦闘争いだぜ! もうすぐマナ・プラントも抜けて次に来るのはウタカタ澤! ほかの選手たちもバグナボーンのクリーチャーの足止めからようやく解放されたからか、どんどん追い上げていってるぜ!』

 

「行かせはしないわよ!」

 シャーマン・メリッサもマナの力を思い切り借りて雪の魔術を連打。雪崩や吹雪で他選手の足を奪っていく。

 だがロドミアと頼光はやはり、雪などものともしない。

「クッ、ずいぶん時間を使ってしまった……!」

「ウタカタ澤へ向かわねば!」

 

 次々に選手たちが自分の先を通り過ぎていく気配を察知して、ラグ・マルタスはつぶやいた。

 

「……誰か、私を抜いてくれ」

 

 

 幾度かカーブを抜ければ、急勾配の崖。その底が枯れ川のウタカタ澤だ。

 その中を進んでいくカブラたちとトランス。

「しつこいですねえ……バグナボーン、力を貸します! やっちゃってください!」

 カブラは魔法のステッキを一振りして、バグナボーンの体にマナの力を充填させる。バグナボーンはウタカタ澤のマナをも呼び出すが……それさえ、ひょいひょいとよけていくトランス・ドラグーン。

「くっ……!」

「無理さ。マナの力ある限り、俺は『奇跡』に守られる」

 

「貴様のような矮小なものにマナの扱いで負けるなど、我のプライドが許さぬ!」

 バグナボーンは今度は、数個のマナを一気に集めて特大のマナ・クリーチャーを顕現させた。これならば、よけられなかろう……! だが、トランスは、自分もマナを呼び出し……その場に複数のバリアを展開してみせた。

 もともとは同じ場所の同じマナからできている者同士、ぶつかると同時にそれは溶け合い、雲散霧消していく。

「そろそろ余力も削られてきたのではないか、先に行かせてもらう!」

 そろそろウタカタ澤の上も騒がしくなってきたのを聞き届けて、トランス。ドラグーンはその力を走ることに集中させた。

 

 しかし、だ。その時、異変が起こった。

 ゴー、という音が聞こえてくる。

「?」

「な、なんだ?」

『な、なんだ? 上流から何か、変な音が……』

 

 その時だ。

 枯れ澤であるはずのウタカタ澤に、突如、大量の雪解け水がなだれ込んできた。鉄砲水だ! 

 

「わあっ!」

「じゅ……術師よ、危ない、我につかまれ!」

 ウタカタ澤は一瞬のうちに水で満たされ、先頭を走っていた二組を猛然とした勢いで押し流していく。

 

『な……なんだこれは!? どういうことだーっ!?』

 チョッキーすら、その事態には驚いていた。大会運営とて予想だにしていなかったことだ。

 

 そして、その時、ウタカタ澤の上流……レースコースであるウツセミの尾根に、「何者か」が顕現していた。

 

「あ、あれは……!?」

 遅れてしまったのが逆に幸い、鉄砲水に巻き込まれなかった頼光とロドミアは目を見張る。

 

 

「ぷはー、やっと抜けれたべぇ……」

 トドロキもようやく、一番ビリで神殿の迷路を抜けたところだった。そして……マナ・プラントを走っていく彼の目からすらも、「それ」は見えた。

「な……なんだべか?」

 何故か? 

 

「それ」はあまりにも巨大であったからだ。

 

『あれは……』

 チョッキーが声を震わせる。

「《ジャイアント》!?」

 ジャイアント。この惑星最大級種族であり、自然文明の大地の化身。

 信じられない事だが、彼らの前に急に立ちはだかったその存在はまさしくジャイアントそのものであった。

 

 

 

「ぷっはぁ!」

「うええ、海まで流れちゃったじゃないですか……これじゃ浅漬けになっちゃいます」

「だ、大丈夫か、術師よ!」

 結局鉄砲水に押し流されるまま海まで流れつき、トランスにカブラ、バグナボーンはやっと人心地ついた。

「こんな流されてしまったのでは、レースには戻れないな……」

「なんなんですか、あれ!?」

「あれはちらと見えたが……ジャイアントではなかったか?」

 バグナボーンが真剣な声で呟く。

「そ、そうだとすると……あの山の化身ですか?」

「でもそれなら、ちゃんと大会側が話を通すのではないのか? お前にしたように……」

 トランスが当然の疑問を呈した。しかしバグナボーンは「それが……」言いよどむ。

「我があの神殿を護る前のことじゃから、詳しくはよく知らぬが……あの山の化身たるジャイアントは、極神戦争の折、暗黒凰の攻撃を受けて以来、仮死状態であったそうじゃ。それが……マナの激しい動きに反応して今、目覚めたのやもしれぬ」

「とすると……」

 トランスとカブラは顔を見あわせた。

「めちゃめちゃ、やばいことになってませんか!?」

 

 

 そのジャイアント……《動脈の超人(パルス・ジャイアント)》は茫然とした様子で「なんだ……何事だ……」と呟いていた。

「この、マナの乱れは……何事……」

「ど、どうしてジャイアントが!?」

「大会運営側というわけでもなさそうだが……」

 うろたえる頼光とロドミア。それにようやく追いついたシャーマン・メリッサも、目を見張る。

 

『あ、えーっと……あなたは……この山の主ですか?』

 一先ず、不測の事態に対して対処しようと歩み出たのがチョッキーだった。彼はラ・ウラ・ギガを飛ばし、動脈の超人の前に立つ。

 

『挨拶が遅れたのと、この山を勝手に使わしてもらって申し訳ありません……あの、オレたち戦国武闘会っていう大会をやっていまして……ちょっとこの山を借りてレースを……』

 

「マナの……乱れが激しい……何事だ……山の……森の、危機か……」

 だが、彼はチョッキーの言葉など聞こえていないかのようだった。

 彼はどうやら案の定、バグナボーンやトランスによるマナの大量消費を嗅ぎつけて蘇ったらしい。

「暗黒鳳の仕業か……!?」

 それも……その意味を大分、曲解しているようだった。

 

『えーっと……? 聞こえてます? 違いますよ、暗黒凰なんかじゃありませんって。暗黒凰はもう千年も昔にボルフェウス・ヘヴンに倒されて……』

 

「気配が……する……暗黒凰の……」

 動脈の超人はチョッキーの言葉も一切聞かずにその巨大な体をぶるぶると震わせ続ける。それは森を傷つけられた超人の怒りというよりも……恐怖であるかのようだった。

 

「貴様ら、暗黒凰の僕か……!!」

 

 動脈の超人は咆哮を上げ、チョッキーを攻撃した。『ひいっ!』と声を上げ、チョッキーはラ・ウラ・ギガを慌てて操縦し躱そうとするも、小柄な彼らではジャイアントの大きな手のひらから逃れられる術も無し。

 彼らはあっという間に吹き飛ばされ、ウツセミの尾根のかなたに消えていった。

 

 

「あの者……攻撃もしない者に何を!」

「暗黒凰の気配がどうこうとか言っていたな」憤る頼光に対して、冷静に言うロドミア。

「どうやら久々に復活したが故、多少混乱し、迷妄に取り付かれていると見える」

 彼は魔銃を構え、「悪いが、冷静になってもらおう」と魔弾を放とうとした。だが、それは……。

「ぐはっ!」

 ……義憤に駆られて真っ先にズバット・アクセラーとともに突っ込んでいった頼光に、偶然にも直撃する形になってしまった。

「何をする、ナイト!」

「こちらの台詞だ! 邪魔をするな!」

 態勢を立て直して抗議する頼光と、それに反論するロドミア。そうこうしている間にも、動脈の超人の混乱は止まない。

 

「暗黒凰の僕……!! 全員、主と共に排除してくれる! 森よ、我に力を与えませ……!!」

 

 その時だった。

 マボロシ山脈のマナが彼の体に集まり、彼の体が丸く肥大化していく。ただでさえ巨大な超人の体が、さらに強大になりつつある。

 それは青くきらめき、まるで宇宙の色であるかのよう。

 

「……何が!」

「まずいわ!」同じ自然文明であるメリッサが、いち早くその脅威に気が付いた。

 

「みんな、早く逃げて……! ジャイアントの《進化》が始まるわ!」

 

 しかし、彼女の制止も一足遅かった。より巨大な体に進化していく彼の体から一瞬、グワンと一つ大きな衝撃波が響き渡り、宇宙色のオーラが周囲を襲った。

 

 

 

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