Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第十一話

『これにて準決勝も終わりっ! 決勝はボルベルグ信玄チーム対爆獣チームだーっ!』

 ショーの実況が響き渡る。その声が示す通り、第2ラウンド第二回戦を難なく制したのも、爆獣騎士団。

 信玄の予測は見事に当たったというわけだ。

『それでは決勝戦の前に、30分の休憩を取るぜ! 観客の皆さん、しばし待ってくれ』ショーの声が入るとともに、信玄は「……いくか」と腰を上げて控室に向かった。向かい側のベンチに座るヴァルアーサーたちも同じく、別の控室へと向かっていく。……両者、じろりとお互いをにらみ返すことは忘れずに。

 

 

「どうだ? トドロキ」

「うん、美味しいし凄い良く効くべなー、ソウジの持ってきたドリンク!」

「オイシイ! イザハヤテモ、イクラデモノメル!」

 30分の休憩中、トドロキたちはソウジが持ってきたドリンク剤を飲んでいた。フィオナの森の滋養満点の魔法の実のエキスを、水文明の科学技術によってより熟成させた代物だ。

「ふん、特にお前はしっかり飲んどけよ」と、ソウジは言う。「無謀に二回も必殺技を出したんだから」

「うん、ありがとうだべっ! おかげで元気百倍だべよっ!」

 つんけんしたソウジの態度も、トドロキの方は意に介さない。そんな中だ。「……トドロキ、いる?」と入ってきた声があった。メリッサだ。

「メリッサ姉ちゃん!」トドロキは彼女の方に駆け寄る。

「どうしたんだべか? 一回戦も二回戦も観客席にいなかったべ」

「トドロキ、メリッサは仕事があったんだろうよ」と、ベンケイ。だがメリッサの方は「うん、ちょっとね……」と、うかない顔だ。

「なんだ、なんかあったのか、君。ちょうど休憩中だし、話になら乗るぜ」

 信玄の方も、彼女のその雰囲気に気が付いたのだろうか。心配げな様相で問いかけた。「ありがとう」とメリッサは言い、そして……彼女は話し出す。

「第1ラウンド第三回戦、あったでしょ? あの時、爆獣騎士団と戦ってたユウナギって子……あの子、あたしの友達だったの」

「なーるほど、友達があんだけボコボコにされて、観客にもヤジ飛ばされてんの見りゃ、傷つくよな」と信玄。「任せろって、その子の分の仇も、オレたちが」

「違うの! その子……」メリッサは、信玄の声をかき消すように言う。

 

「何年も昔に、『神隠し』にあって行方不明になった子なの……しかも、あたしのこと、忘れてたのよ……!」

 

 

 神隠し。

 それは、超獣世界においてもたまに、まことしやかに語られる話であった。ある日ふと、超獣たちを吸い込むどこともわからない空間が生まれるという。そこは一度行けば帰ってこられない次元の狭間とも噂されている。

 ユウナギという妖精は、メリッサの幼馴染だった。腕白な少女で、その日も彼女はメリッサを引っ張って、スノーフェアリーの里の外へ探検に出かけていた。

 そんな中、彼女らは小さな洞窟を見つけた。入ってみようよ、と言ったのはユウナギの方だった。メリッサの方は怖気づいたものの、ユウナギはそんなことは意に介さず、彼女を置いて入って行ってしまった。

 入ったまましばらくユウナギが出てくる様子がないのを怖がって、幼い日のメリッサも「ユウちゃん? どうしたの?」と彼女の名前を呼びながら、その洞窟の中に入っていった。狭くて、暗い洞窟。しかしその中に……彼女は異常な光を見つけた。

 なんとも名状しがたき、五色の光が渦巻く空間。そこから、手が生えていた。……いや、生えていたのじゃない。手だけを残して、何者かが飲み込まれていたのだ。

 小さな白い手、幼い手。その手が誰のものか、彼女はすぐに分かった。

「メリッサちゃん……」と、響いた声が、ユウナギのものであったからだ。

「逃げて……」

 その声を最後に、ユウナギの手もその謎の空間に吸い込まれてしまった。メリッサは恐怖でパニックになり、その場を無我夢中で逃げ出した。

 

 洞窟を出て冷静になったメリッサは、当然大人たちを呼んだ。しかし洞窟の中をいくら調べていても、そんな空間は存在しなかった。それはただの行き止まりの、小さな洞窟でしかなかったのだ。

 しかし事実としてユウナギの姿は忽然と消えてしまった。恐れるメリッサに、スノーフェアリーの大人たちも恐れをなした顔で言った。ユウナギはきっと、神隠しに会ったのだ、と。

 

「大丈夫、いつかきっと帰ってくるって、周りの皆はあたしを慰めてくれたけど……ユウちゃんが帰ってくる気配は、いつまでたってもなかったわ。だからあたし、成長すると同時に里を飛び出して旅に出たの。ユウちゃんがこの世のどこかで生きていないかって思って……それに……」

「それに?」と、トドロキ。

「万が一あたしが『神隠し』に会ったら、今度こそ飛び込んでやろうと思ったのよ。そこにきっと、ユウちゃんがいると思ってね……結局今に至るまで、異空間に出会えたためしはないけど」

 武闘会のスタッフをしているのも、彼女にとっては路銀を稼ぐための仕事らしい。「なるほど……」と、信玄は神妙に呟く。

「そんな友達が、今現れて、なぜかシノビになってたと」

「そうなの」メリッサは言う。

「間違いないわ、成長してるけど、あれは絶対にユウちゃんよ。あたしのことも、忘れているみたいだけれど……」

「シノビ……どこから来たかわからねえ連中だが」信玄は思案する。「まさか『神隠し』と関係してるかもしれねえとはな……」

「でもメリッサ姉ちゃん、友達が見つかってよかったべ!」神妙な顔をする信玄とは対照的に、トドロキは笑って言う。

「姉ちゃんのこと今は忘れてても、友達ならきっと思い出してくれるべよ!」

「そ、そうね……そう。ユウちゃんが元気だったのはいいんだけど……」

 しかしその言葉に再度曇るメリッサの顔。「どうした? まだ何かあるのか?」とソウジが問いかけた。

 

「もしユウちゃんの記憶が戻っても、もう、あたしたちに帰る所は、無いのよね……」

 

 

 メリッサが再度語りだしたことによれば、こうだった。

 彼女が旅の途中に里帰りしたある日のこと。彼女の暮らしていたスノーフェアリーの里はもう、無くなっていた。

 そこは彼女の過ごした妖精の里ではなく、氷牙騎士団が氷の魔力を供給し魔弾とするための工場地帯と化していた。

「村の皆は、他のスノーフェアリーたちが暮らす里に引っ越したって聞いたわ。あたし、そっちの方にも行って……みんな、本当は故郷を捨てたくなかったんだけど、氷牙家が大金を積んで無理やりに、って……」

「そんなこと、あったんだべな……」それを聞いて、トドロキの顔も曇る。

「だから、ユウちゃんがもし記憶を取り戻してくれても……あたしたちが生まれ育った故郷はもう、無いのよ……あの子をどこに連れて行けばいいのかも、分からないの。……それでもあたしは、ユウちゃんに会いたくて、旅を続けていたんだけど……正直こうして会えて、でもユウちゃんはあたしのこと忘れてて……自分でも何が正解なのか、もうわからないわ」

「……色々辛いことがあったんだな、君も」信玄が言った。

「だからあたし……正直、ナイトって嫌いよ。貴族でお金があるからって、何してもいいって思ってるんだわ」メリッサは悔しそうに言う。

「すごく正直に言えば……だから、爆獣騎士団も好きじゃない。あの子たち、ナイトに憧れて五番目の騎士団を目指しているとか言うけど……そんな存在になりたいんだって思ったら、正直軽蔑するもの」

「まあ、君がそう思うのも道理かね。ただ……」信玄はうなずきつつも……その表情はどこか、何か考える所がありげだ。

「ただ、何? 信玄選手」

「爆獣がどう思ってナイトを目指しているのか……それは、奴らとの戦いで、明らかになると思う。オレは……奴らがただ四名家並の金や権力にあこがれて騎士団を目指しているとは思わない。……奴らの戦いを見て、そう思った」

 

「分かるのですか? 兄様」と、ソウジが言う。

「ああ。オレも、下らねー目的で戦っているやつらはたくさん見てきたが……あいつらは、そんな存在じゃねえと感じる。だからよ、メリッサちゃん」彼は言う。

「次の試合はぜひ、見届けて欲しい。トドロキだけじゃなく、奴らの試合もな。……これは武闘会に立つ戦士として頼みたいことなんだ。一人の戦士として、その戦いぶりも見ずに誤解を受けたままでいるなんて、悲しいことだからな」

「え、ええ……」信玄のそのいつになく真摯な物言いに、メリッサも思わず合意した。

「ま、『武闘会に立つ戦士』としちゃあそうだが……」メリッサから合意をもらえた後に、信玄はにやりと笑う。

「『トドロキの父ちゃん』としちゃ、また話は別だけどなっ! まかせてな、息子の嫁をあんなどことも知れない馬の骨にゃあ渡さねえぜ!」

「だからあたしはトドロキのお嫁さんじゃないし、そんなことには関わらないって言ってるでしょーっ!?」

 

 

「……」

「……なんだかな。聞きたくねえ話聞いちまったな、リーダー」

 そんな話を傍らから立ち聞きしている影があった。多分メリッサはトドロキに会いに来ているだろうと思ってやってきたヴァルアーサーと、それについてきたイナバであった。

 予想通りメリッサはそこに居たものの、あまりに神妙な雰囲気に出るに出られず、一部始終だけは全部聞いたというわけだ。

「……帰るか、イナバ」

 流石にヴァルアーサーも、この状況では出方を見失ったらしい。「おうよ」と小さく答えたイナバと一緒に、彼は自分たちの控室に引き返す。

 

「メリッサさんに、あんな過去があったなんてな……ナイトを嫌いだっていうのも、当然だ」

「なんだよ、分かってたことだろ? ナイトは貴族、お綺麗なだけの存在じゃないって」

「勿論、全くわかっていなかったってこともないが……」ヴァルアーサーは自分の装甲に備え付けられた魔銃をぐっと握りしめる。

「ボルベルグ信玄……俺たちのことを、あんなふうに思っていてくれてたとはな。彼の言う通りだ。ナイトが、綺麗なだけの存在じゃないからこそ……俺たちは、俺たちの騎士道を戦いで貫かなくちゃならない。俺たちの魔銃と、俺たちの魔弾で」

「厄介な道を選んだもんだぜ? ヴァルアーサー」イナバはふっとため息をつきつつも、笑って言った。

「おれたちだってお綺麗じゃない道を選んだって、良かったんだ。でも……それで納得しないお前だから、おれもこうして、本気でついていこうって思えるんだけどよ。……ま、せいぜい愛しのメリッサさんに恥ずかしくない騎士道を見せつけてくれよ、リーダー」

「勿論だ」

 ヴァルアーサーはゴーグルの底の目をキランと輝かせる。

「見てやがれ、ボルベルグ信玄……メリッサさんは渡さん!」

「どっちが勝っても関係ないって本人は言ってっけど?」

 などと彼らが話していたさなかのことだった。「リーダー、ヴァルアーサー!」彼らを呼び止める声があった。控室の方からやってきたマチューだった。

「マチュー」

「よかった、探してたッチュよ……大変ッチュ! オレたちの所に、お客さんが来てるッチュ!」

「お客さんだって?」ヴァルアーサーは怪訝そうに返事した。

 

 

「……で、またあんたか」イナバが呆れがちに言った。

「ヴァルアーサー……さん……ご無沙汰……して……おります……」

 そうぼそぼそと話すドラゴン、邪眼の使徒シーザーこそが、ヴァルアーサーを訪ねてやってきた「お客さん」だった。

「あ、ああ……いえ、こちらこそご無沙汰してます。……あの、俺たちの試合も、ご覧になってましたよね。観客席から」

「……! 気付かれ、ましたか」

「いや、まあ……目立つので。何か御用ですか? また、邪眼家から俺たちに用が?」

「無論……その……通りです……」

 シーザーはこくりとうなずき、そしてヴァルアーサーの手を取る。……正確には、彼の装甲、その手の部分に備え付けられた魔銃を。

 その行動に爆獣騎士団の面々がざわつく。ヴァルアーサー本人も何を、と言おうとしたが、シーザーがそれより早く口を開いた。

「ロマノフ様……から……命じられ、ました……」

 そしてシーザーの手から……闇のマナがあふれ出す。

 闇の魔力が凝り固まり、それは……一発の魔弾となって、ヴァルアーサーの魔銃に充填された。

「ロマノフ様が……仰られました……ボルベルグ信玄は……本当の、強敵……。いざとなれば……この魔弾を、使っても……よい、と……あなたは、それを、撃ちこなせるだろうと……我々邪眼家から……あなた……方への……贈り物……です……」

「……生憎ですが、シーザーさん」

 確かに闇の魔力が自分の装甲に充填されたのを文字通り肌で実感しながら、それでもヴァルアーサーは言う。

「お気持ちは嬉しいですが、ロマノフ様にも言ったはずです。俺たちは、俺たちの力で戦うと」

「……わたくしが……命じられたのは……とにもかくにも渡せと……ただ、それだけ……強力な、魔弾です……それは、保証……いたしましょう……」

 シーザーがぼそぼそとそう言ったときのことだった。控室に、アナウンスが響く。間もなく、30分の休憩が終了。両チーム、闘技場に戻るようにと。

「……それでは。……わたくしは、見守って、おります……」

「あっ、シーザーさん!」

 そして爆獣騎士団の面々が引き留める暇もなく、シーザーはその闇の魔弾をヴァルアーサーに託したまま去って行ってしまった。

「ど、どうするでチュか……?」と、マチュー。

「……ひとまず、やるべきことは一つだ」

 ヴァルアーサー……その場で誰よりも、その闇のマナの威力、ひりつくほどの膨大なマナの威力を感じる彼は、それでも冷静に告げる。

「コロシアムに戻るぞ。1位通過は、俺たちのものだ」

「……わかったでチュ、リーダー!」

 

「もうか」

 控室で信玄たちも腰を上げる。

「さあ、気ぃ引き締めていくぞ! サムライの根性、見せつけてやれ!」

「了解だべ、父ちゃん!」

 

 

『さぁーて! 皆様、お待ちかね! 見事Aブロック予選通過を果たした2チームによる決勝戦が、ただ今幕を開けるぜ!』

 コロシアムに集まり対峙する、信玄のチームと、爆獣騎士団。

 まずは先鋒二人が、歩み出る。

『ボルベルグ信玄チームからは、風来の雲ベンケイ選手!』

「初戦じゃ痛い目見たからな、油断は一切抜きで行くぜ」

 

『そして爆獣チームからは、爆獣の式神ブラッキー選手!』

「ひええ、なんだか怖そうですね~私にどこまでやれるでしょうかぁ~」

 凛としたベンケイとは裏腹に、ブラッキーは魔法の杖のような魔銃を抱えながらぶるぶる震えている。どうやら彼は、臆病なたちのようだ。

 

「ブラッキー、いけーっ!」

「初戦も第二ラウンドも無事だったじゃねえか、自信持てよーっ!」観客席から爆獣の仲間たちの声が飛び交う。続いてベンチからも。

「ブラッキー、芋引きやがったら俺がぶっ飛ばすぞっ!」

「ひぃ~、ダキテーさん、怖いこと言わないでください~」

 

『両選手、準備はよいかっ!? それではさっそく……「決闘」、スタートッ!』

 

 

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