Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第四話

 

「な、なんだべかー!」

 その他大勢の選手より遅れてマナ・プラントを走っていたトドロキにも、その様子は見えていた。

 動脈の超人は……はあ、はあと恐怖と疲労に耐えかねたように、星空色のオーラをその身にまとわせながらも先ほどまでの姿に戻っている。

「おい、君、大丈夫か!」

「あのジャイアント……まだ完全に進化できるだけの力は戻っていないみたい」

「ありっ? 兄ちゃん姉ちゃんたち、なんでコースを逆走してるんだべか?」

 前を見ると、頼光にロドミア、そしてシャーマン・メリッサたちがマナ・プラントまで引き返してきていた。

「貴様、あれが見えないのか!?」頼光が声を荒げる。

「ほかの選手たちが皆……先ほどのオーラにやられた! 俺たちだけが何とかよけられたんだ!」

 

 その通りであった。

 動脈の超人がただ一瞬宇宙色のオーラを放ったウタカタ澤の底には……レースに参加していた十数名の超獣たちの代わりに、それと同じ数だけのマナがふわふわと浮かんでいる。

 動脈の超人……彼は進化を為そうと放つオーラで、その場の生命をマナの姿に変えてしまったのだ。

 

「レースどころじゃないわよ! は、早く助けを呼ばないと!」

「ひとまず奴から離れることが先決だ!」

「さすがは、ジャイアント……リーチの差が違いすぎる」

 そうしてとにもかくにも、生き残った三人は彼の猛攻から逃れてコースを逆走し始めたというわけだ。

 

 しかし、だ。

 彼らがそう話し合っている中、トドロキはと言えば……その目をキラキラ輝かせていた。

 

「わーい! 本物のジャイアントだべ! オラ、ジャイアントと戦ってやるべよー!」

「あっ、危ない! 戻れ!」

 

 頼光の制止も聞かずに、トドロキはマナ・プラントを駆け抜け、動脈の超人の方へ向かっていく、動脈の超人も当然、彼の存在をとらえた。

 小さな姿、しかし、自分の力を見せたにもかかわらず、自分へ向かってくる姿。そして……。

 

「さあっ、いくべよジュウベイ! ジェネレート!」

 その小さな存在の握る剣に灯る、炎。

 ……炎。

 

 

 ──熱い。

 彼の記憶がよみがえっていく。

 熱い。苦しい。消えない炎に飲み込まれていく、森、大地。

 自分は、敵わなかった。奴はきっと、自分の存在に気付いてすらいなかった。

 ただの攻撃、ただの流れ弾で焼かれていった、自分の山、自分の森……。

 

 ……苦しい。

 ……怖い。

 

 

「あぁぁぁぁんこくおぉぉぉぉぉっっっ!!」

 

 彼はより一層錯乱し、再度その体に宇宙色のオーラを纏わせた。

 

「きゃっ!」とシャーマン・メリッサが声を上げる。マナ・プラントのマナが一斉に、彼をめがけて吸い込まれていく。

 今度はより一層実態化したそのオーラが周囲に放たれる。「わっ!」トドロキは間一髪のところでよけたが、今度はクリーチャーだけではない。樹氷と化した森の木々、深雪の奥に眠る木の芽までもがマナとなり、ぷかぷかとその場に浮遊しだす。彼はわけもわからぬまま、生命という生命をマナに変換しつつあるのだ。

 動脈の超人……否、進化し《大宇宙シンラ》にならんとしているその超人は。

 

「倒す……倒す……絶対に、貴様だけは……今度こそ……」

 

「おっ! やる気だべな!」

 トドロキもジュウベイを構え、生き残った樹氷に飛び乗り、思い切り動脈の超人をめがけてジャンプ。

 しかし……。

「散れっ! 邪悪なる魂よ!」

 動脈の超人が拳を一突きすると同時に、トドロキはその斬撃を届かせることも叶わずに吹き飛ばされてしまった。

 

「ちょっと、あのおチビちゃん、飛ばされちゃったわよ!」

「魔弾プラス・ワン!」

 ロドミアが急いで空中に展開したバリアに、トドロキはなんとか守られ、マナ・プラントの雪の中に無事着地した。「馬鹿め!」頼光があまりにも無鉄砲なその行いを叱責する。

「悔しいが、ただ向かっていってどうなる相手でもない……まずは」

 

 ……「まずは?」

 まずは、何だと言うのだろう? 

 そう、頼光と、ロドミア。彼ら二人とて何も、ただ無様に逃げていたわけではない。

 

 ……ただ逃げるのは「道」に反する。それが武士道であれ、騎士道であれ。

 大会運営の助けなど待っているのは、戦士の誇りに反する。ここで向かって言ってこそ、戦国武闘会の戦士であると。

 

 彼らは、今一度態勢を立て直さんとしていたのだ。

 だって戦国武闘会ルーキークラスの洗礼……ここまで相応しい試練が、あるだろうか? 

「(この俺が今度こそ、最終決戦の場に立つためにも……)」

「(偉大なるロレンツォ様の顔に泥を塗らぬためにも……)」

 

「まずは策を練らねば」

 

 

「策!?」

 それに驚いたのはメリッサであった。

「バカ言わないでよ、あたしたちだけでどうにかなる相手じゃないでしょ、助けを求めないと!」

「ああ。だから貴女は、そうしてくれ」

 ロドミアが言い返した。

「貴女にはこのまま引き返して、助けを呼んでもらいたい。我々はこの場で、奴と交戦しよう。……サムライ共」

 慌てるメリッサをそのまま捨ておいて、ロドミアはトドロキと頼光の方へ振り替える。

「少なくとも、今は共闘しようではないか」

「……癪だが、仕方のないことだな、その話、乗った」

「おっ! 兄ちゃん達やる気だべな! オラもやるべよー!」

 

 そういって彼らは、マナを吸い上げられ続けるマナ・プラントの中を進んでいく。メリッサの意見も聞かぬまま。

「な、何よ……」彼女は一人、そうポツリと呟いた。

 

 

「はあっ、暗黒王の僕ども……全員、いなくなったか……」

 動脈の超人は息を荒げながら、千年ぶりに復活した体、しかし千年前の傷はいまだ癒え切っていない体に、それでもマナを充填させようとする。

「どこだ……どこにいる、暗黒凰……感じるぞ、貴様の気配……! 必ずや、森の怨み、晴らしてくれる……!」

 

 彼は不完全な進化を断続的に繰り返していく。どくん、どくんと心臓が波打つように、一瞬、一瞬ずつ宇宙色のオーラを纏った超人の姿を実体化させつつある。

 

 ……と、そこにだ。

 

「誰が全員いなくなったって?」

 やってくる姿があった。頼光とロドミア、トドロキであった。

 

「刺客の彼女も言っていたが、幸いなことに、彼は今一瞬で完璧な進化ができる状況にはないようだ。おそらく、その千年前の傷がまだ治ってないのだろう」と考察したのは、ロドミアであった。

「完全に進化し切られれば、終わりだ。だからあのオーラの隙をつかねばならない。私のバリアに乗って、君たちも飛べるようにしよう」

 

 動脈の超人は慌ててオーラを飛ばす、しかし頼光とトドロキの反射神経の方が早かった。

「静まれ、超人! 俺たちは、敵ではない!」

「やかましい、暗黒凰の僕たちがあっ!」

 どくん、と彼の体が波打ち、また一瞬彼は進化しようとする。だがその胸に現れたコアを……頼光のズバット・アクセラーがとらえた! 

 

「奴の進化体の弱点はおそらく、胸のコアだ。マボロシ山脈のマナは、あそこに向かって結集されていた」と見抜いたのは、頼光自身であった。

「あそこを叩けば、完全な進化には至れないはずだ。あそこを集中砲火と行こう」

 

 ズバット・アクセラーの斬撃に加え、ロドミアの魔弾も超人の胸のコアを炸裂、続いてトドロキも、今度こそはその斬撃をコアに向かって直撃させた。

 白く輝いて居たコアがたちまちのうちに衝撃にはじけ、緑色のマナ、山脈に本来眠っていたはずのマナが雲散霧消していく。「ぐっ……」超人はうめき声をあげた。

 

「やった、効いてるべ!」

「早まるのではない、サムライの少年!」ロドミアが叱咤した。「彼はまだやる気だ!」

 頼光も、その言葉に続く。「今のうちに、コアをこれでもかというほどに叩け!」

 

「おのれ……」

 動脈の超人はコアを集中放火され進化の叶わなくなった身となった体で、三体の小さな超獣を文字通り払い倒そうとした。

「あっ、頼光の兄ちゃん! 危ないべ!」

 彼が標的に選んだのは、より強い斬撃を浴びせるためにズバット・アクセラーへしばしマナをチャージさせている途中の頼光であった。頼光も無防備なとこを不意をつかれ、少しの間うろたえる。

 だが。

「魔弾プラス・ワン!」

 ロドミアのバリアが、彼を守護した。バチン、と光のバリアに弾かれ、超人は驚いたように手を引っ込める。

 

「……借りができたな、ナイト」

「言っている場合か。借りと思っても欲しくない」

「だか、これで……最大火力の攻撃ができる!」

 そして……頼光はさらに、言葉を紡ぐ。

 

「まだ、力を貸してもらえるか!?」

「……お安い御用だ!」

 

 ズバット・アクセラーは完全にチャージが完了、マボロシ山脈一体の雪が全て溶け切ってしまいそうなほどの火力を携えたそれを、彼は思い切り動脈の超人のコアに向かって自分の体こと突き刺した。

 無論のこと、動脈の超人はそれを払いのけようとする。しかし……ロドミアのバリアが、またしても頼光を護った。それだけではない、その両腕が弾かれたことにより、コアは丸出しの無防備状態になる。

 そして、そのコアは……たった一点の孔が開いたと同時に、見事に一刀両断される。いや……コアを通り越し、動脈の超人の体にさえも、それは炸裂! 頼光は見事に、超人の体を貫いた。

 

「ぐああぁぁぁぁっ!」

 超人は悲鳴を上げて、その場に膝をついた。

 

 

「やったぞ!」

「頼光の兄ちゃん、すげーべ!」

 

 喜ぶロドミアとトドロキ。「話を聞いてもらおう」頼光は毅然とした態度で、膝を折った超人に向かい合った。

「冷静になってくれ。俺たちは暗黒凰の僕などではない。その暗黒凰はとうの昔に滅んでいる。今、貴様が恐れるべきものなど何もない」

 

「……嘘、だ……」

 だが超人はぼそぼそと呟いた。

「だって、気配が、する……」

「……それは貴様の迷妄だ。安心してくれ。惑星はこの千年間、平和な世を保っているのだ」

 

「嘘、だ……」

 そして。

 胸を貫かれたはずの超人は不意に、その大きな手で雲散霧消したマナをがばり、とかき集めた、

 無理やりのうちに彼は、マナを結集させ、コアを作り出す。その動きは、彼らにとっても予想外の出来事だった。

 

「すべて、消し去ってくれる……」

 カッ、と彼の体が宇宙色に輝き、周囲一帯を飲み込む。反応する暇すら、与えはしなかった。彼は体に鞭を打って、無理やりに進化を遂げた……大宇宙シンラへと。

 

 

 

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