Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第五話

 体が削れるような感覚を、動脈の超人は味わっていた、無理もない。瀕死の体で、無理に進化を遂げたのだから。

 だがいくら命が削られようとも、森を護れるならば彼は本望だった。すべてが宇宙色に染まった世界で、頼光とロドミアだった赤と金色のマナもぷかぷかと浮かんでいる。

 探さねばならない。暗黒凰を。今度こそ探して、消し去らねば……。

 

 と、その時だ、

 彼は自分のエネルギーにのまれていながら……その場にマナとしてではなくたたずむ、一人の「存在」に気が付いた。

 

 

 それは、ヒューマノイドの少年……トドロキであるかのように見えた。だが、先ほどまでの無鉄砲なわんぱくぶりとは、様子が違う。そしてそれとは対照的に、彼が握るクロスギアだけは……先ほどとはくらべものにもならない輝きを放っている。

 その表情からは。たたずまいからは……生気が消えうせていた。まるでヒューマノイドというよりも、ヒューマノイドの形をした肉の塊が、クロスギアを「持たされている」ようですらあった。

 

「……」

 彼は無言のまま、宇宙色のオーラをものともせずにシンラに向かい合っている、そしてその刀、ジュウベイにまとわれる炎は、より一層のこと、強くなっていく。

 

 炎。

 シンラのトラウマがまた、刺激される、

 消さねば、消さねば。炎は、悪だ。

 

 シンラはその巨大な手で、トドロキとジュウベイを握りつぶそうとした。しかし彼は……ロドミアの飛行バリア無くしても、ひらりとそれをかわす。

 まるで、炎のオーラが彼を飛行可能にでもしているかのように。その身のこなしはまるで、鳥であった。まるで……不死鳥であった。

 

 ……不死鳥だ。

 目の前にいるのは、不死鳥だ! 

 シンラは混乱のままに、彼を握りつぶさんとする。だがトドロキは無言のままひらりと飛翔しその拳を……ジュウベイの炎で、叩き切った。

 宇宙色のオーラが雲散霧消する。続いて彼は、実体化したシンラの体を駆けのぼり、胸のコアを目指す。

 させはしない、と伸ばされたもう片方の腕。しかしそれに反応するかのように、ジュウベイはさらに火力を増した。すると、どうだ。マボロシ山脈の雪が溶かされるかのように、その腕は蒸発してしまった。

 宇宙色のオーラが次々と、山に帰っていく。

 

「お、のれ……」

 シンラはうめく。

「貴様こそが、その『気配』であったか……」

 

「……何、言ってんべ?」

 しかしだ。

 トドロキがコアにたどり着いたとたん、ふいに彼の様子が変わった。先ほどまでの……感情豊かなヒューマノイドの姿に戻っている。

 しかしだからといって、シンラにとって反撃はもう手遅れであった。

「オラたち、落ち着いてほしいべよっ! あんたに!」

 ジュウベイの炎が最大火力に燃え上がる。そしてトドロキはそれを思い切り……シンラのコアにたたきつけた。

 コアは雲散霧消し……シンラは動脈の超人の姿へと戻っていく。

 

 しかしだ。

 動脈の超人は、感じていた。

「……違う」

 この炎は、「あれ」とは違う。

 全てを焼き焦がしそうなほど激しいながらも、どこか優しい。どこか、慈愛を感じる。この炎は一体、何だ……? 

 

 その時であった。

 彼の心のざわめきが、一気に引いていくのが分かった。

 

 

「……ったく。奴はマナの乱れに反応したのよね……? じゃあ、マナの乱れを元通りにすれば良かったんじゃないの……!」

 戦いの間。シャーマン・メリッサが「あること」をしていたおかげだ。

 彼女は自然文明の、マナの魔術の使い手。フェアリー・ライフも本来の使用法は、地から植物を、そしてマナを生み出す魔法。

 彼女はそれを使って、マナ・プラントの乱れたマナの動きを元通りにしていたのだ。それに伴い、動脈の超人も我に返った。

 そして、そのオーラでマナに変換されていた選手たちも、次々に元通りになっていく。

 

 

「んん……あれ、オレたちどうしてたんだ?」

「なんか、ジャイアントがいたような……うわっ、まだいる!」とうろたえるウタカタ澤の選手たち。

 

「やっと抜けられた。一度マナになったおかげか」

 ちなみにラグ・マルタスも、どうやら無事に突き刺さった崖を抜けられたようであった。

 

 戦いを終えた動脈の超人は、茫然としている。

「本当に、いないのか? 暗黒凰は……」

「いねーべよ、ずーっと、そう言ってんべ」

「そうか……悪い、ことをした……」

 そう当たり前のように語らうトドロキと動脈の超人の姿に、元に戻ったロドミアと頼光は呆気に取られていた。

 何があったのだ? 自分たちがマナになっている、その間に……。

 

「さっ、兄ちゃんたち!」しかし、トドロキがその場の空気を引き裂いた。

「レースに戻るべよ! オラたち、引き返した分遅れてるんだから、早くしねーとビリ組になっちまうべっ!」

 

 

「うう、何がどうなっちまってるんだ……?」

「記憶がありません」

 ウツセミの尾根のある場所。チョッキーとラ・ウラ・ギガも動脈の超人にたたきつけられて気絶していた状態からどうにか立ち直った。

「飛べるか?」

「何とか問題ありません」

 一先ずも、状況を確認しなくては。確か、ジャイアントが目覚めていたはずだ。早く大会運営側に連絡して対処法を取ってもらわないと……そう判断したチョッキーはラ・ウラ・ギガに乗って飛行を開始。そして……そう考えていたことも忘れて慌てて、マイクを入れなおした。

 

『おおーっと!? これは、どういうことだあーっ!? オレたちが気絶している間に……レースはもう終盤戦! トップ4名が最後の難所、ウツセミの尾根を抜けようとしているぞーっ!』

 

 トップ4名。

 勿論それはトドロキに、頼光、ロドミアに、シャーマン・メリッサ。

 彼らは一度マナ・プラントまで引き返したハンデもなんのその、レースに復帰しては他の選手たちをごぼう抜きにし、今まさにウツセミの尾根で苛烈なトップ争いをしているところであった。

 

 ウツセミの尾根。

 そこはマボロシ山脈の中でも、最も雪の深くなる場所。何しろ真夏になって雪が溶ければ、尾根自体が消え去る。

 そんな尾根を圧倒的火力とともに進む頼光と、その火力を吹雪によって食い止め、自分に有意な地形を維持せんとするメリッサ。魔弾のバリアで自らを護りながら進んでいくロドミアに、そんな猛攻もなんのその、軽々と雪の上をひょいひょい流れ弾をよけながら突き進んでいくトドロキ。

 

 そんな様子を、動脈の超人も見ていた。

「……『戦国武闘会』なるほど。そうか……本当に戦争は、終わったのだな……」

『えーっと、謎のジャイアントも試合の様子を見ているぜ。どうやら本当に、一件落着したようだ! あの大波乱はマジで何だったんだ、一体!?』

 

「みなさーん! 助けを呼んできましたよー! って、あれ!?」

 ちなみに。大会運営側に助けを呼び、何体かの攻撃抑止用の超獣を連れて戻ってきたバグナボーンにカブラ、トランスの三人組もその様子を見てびっくりしていた。

「ジャイアント、大人しくなってるじゃないですか! ってか、レースも再開してますし!」

「術師、我らも早く復帰せねばな!」

 圧倒的な後れを取りながらも、彼らも再びレースに復帰。

「言われずともそうしましょう、バグナボーン!」

「最後まで、勝負は捨てん! 戦国武闘会の場に立ったならな!」

 

 

「喰らいなさい! 氷の力を!」

 メリッサがリュートをかき鳴らすと、小型の雪だるまのような妖精たちが現れ、頼光やトドロキの手足にまとわりついた。

「ヒーっ、冷たいべ!」

「何を小癪な、ズバット・アクセラーの火力、忘れたか!」

「私もいるぞ、忘れるな! 魔弾プラス・ワン!」

 ロドミアもバリアを展開し、彼らの行く末を妨害。頼光はそれにいち早く気が付いたかと思うと、次の一瞬で「なんの!」とバリアをズバット・アクセラーで一刀両断する。

「ふ……さすがだな!」

「いくらでも来い! 俺とズバット・アクセラーは負けはせぬ!」

 そして彼がそうしている傍らで……メリッサとトドロキはバリアに思い切りぶつかってタイムロス。

「いったいべなー、兄ちゃんたち……」

「悪いが、もう共闘の時間は終わりだからな! 後はお互い、ライバルとしてあらゆる手段を投じてこの試合に勝つまでだ!」

「そんなら、オラだってまけねーべ!」

 トドロキは気を取り直して、ひょいとバリアを駆けのぼる。そしてそこから勢いをつけて、思い切りジャンプ。

 樹氷の森のてっぺんに登って、そこをひょいひょいと進んでいく。メリッサ、ロドミアの妨害魔法も意に介さないスピードと身軽さで。

 

『さあっ、一進一退の攻防が続くウツセミ山脈の戦いももう終わりだ! トップ四選手、いよいよ最後の地点、カゲロウ坂に差し掛かったぞーっ!』

 

 ウツセミの尾根のコースを進んだ先に在る非常な急勾配、カゲロウ坂。

 ここを降りた先が、いよいよゴール地点だ。

 

 各選手は一斉に、ゴールに向かって最終態勢に入っていく。

 

 雪は一層、深くなる。ズバット・アクセラーの火力でも、溶かしきれないほどに。

「あなたは、ここで終わりよ!」

 メリッサがダメ押しのように氷の魔術を発動した。ズバット・アクセラーがその炎ごと氷に包まれていく。だが……! 

 

「どうした、我が相棒……! 貴様の力は、こんなものではないだろう!」

 頼光が改めて「ジェネレート!」とクロスギアに念を込める。すると……ズバット・アクセラーは動脈の超人の体を貫いた瞬間もかくやという勢いで燃え盛り、ウツセミの尾根の雪を一気にえぐった。

 その調子で、頼光の進む道が一気に出来上がる。彼はそこを、猛然とした勢いで駆け降りる。

 

「させはせぬ!」

 そして当然、それだけの雪が溶かされれば……地形は一気にぐらつき、怒涛の雪崩がロドミアに襲い掛かった。

 だがロドミアはそれには少しもひるまないまま、魔銃を展開。そして……。

「魔弾プラス……ワン! トゥー! スリー! フォー!!」

 彼は正三角形のバリアを4つ展開し、正四面体状に自らの体を包み込む……魔弾の名の通り、弾丸のごときスピードで突き進むバリアで! 

 その勢いなら、雪崩にも負けない! 雪を蹴散らし、頼光とロドミアは進んでいく。

 

「なによ……やってくれるじゃない!」

 メリッサも、負けはしない。彼女は雪のマナを最大限に呼び出し、リュートを奏でる。

 

「あたしだって! 負けるためにここにいるんじゃないんだからね!」

 そう彼女が呪文を唱えると同時に、晴れていた空が一気に曇り、彼女の背中を押すかのように一転集中するような猛吹雪が巻き起こった。普通ならダメージになりそうなそれも、雪の妖精である彼女にはただ自分の魔力を増す追い風でしかない。彼女はその自分のために作られた追い風に乗って、一気に坂を下っていく。

 

 

 そして……トドロキは、どうだろうか? 

「にへへっ! 皆、すごいべな! なっ、ジュウベイ!」

 

 今のところとトップ4人の中で一番ビリの彼は、それでも……勝利を確信していた。

 この深雪、そして、吹雪の中に、彼はあるものを見出した。

 

 時には、春の到来が騒々しいこともある。

 

 

「ジュウベイ……ジェネレート!」

 

 トドロキは、ジュウベイの刀身に思い切り炎を燃やす。しかし頼光のズバット・アクセラーとも互角になるほどの炎を、宿せるだろうか? いや、それ以前に雪を溶かし進むならもう頼光に圧倒的に抜かれているが、それを追い越せる気でいるのだろうか? 

 

「さあジュウベイ……トドロ斬ってやるべよ!」

 

『おっと? これはどういうことだぁ? ほかの選手たちが熾烈に坂を下っていく中……牛若剣士トドロキ選手、前ではなく……上空に向かってジャンプだぁ!』

 

 チョッキーのアナウンスがこだますると同時に、トドロキは思い切り、炎に燃えるジュウベイの刀身を……カゲロウ坂の雪に向かって突き立てた! 

 それは地表に届く程に雪を一刀両断する。そして……頼光の被害とは比べ物にならないほどの雪崩が巻き起こる。

 

「! あのおチビちゃん……!」

 メリッサが反応した。

「下らん。雪崩など、すべて俺が溶かして見せる!」

「あの少年、この期に及んでこざかしい真似を……」

 それ等気にもかけない頼光とロドミア。しかし……メリッサだけは、その意味を理解していた。

 

「しまった、間に合わないわ!」

 

 彼女がそう反応したときのことだった。猛然たる吹雪の上を……ジュウベイをまるでスノーボードのようにして駆け下っていくトドロキの姿が見えた。

 

 時には、春の到来が騒々しいこともある。雪崩に春嵐、雪解け水。

 こと雪崩が恐ろしいのは雪ですべてを埋め尽くしてしまうその様相もさる事ながら、その速度もまたしかり。ましてや夏になれば地形が変わるほどのマボロシ山脈、その中で最も深い雪。その上シャーマン・メリッサという雪の妖精の力で蓄積された雪。

 それがはじき出す大雪崩の速度。山育ちのトドロキは、その恐ろしさを身をもって知っていたのだ。

 スノーフェアリーのシャーマン・メリッサだけが、その事実に気が付いた。

 

「じゃーな、兄ちゃん、姉ちゃん!」

「な、何っ!?」

「ば、バカな……追い越せないっ!」

 

 雪を溶かしきり猛然と進む頼光も、弾丸のスピードで突き進むロドミアも。その雪崩と、それを乗りこなすトドロキの速度に追いつくことはできなかった。

 

『あーっと、牛若剣士トドロキ選手、早い早い! 大雪崩を乗りこなして駆けていく! シャーメン、メリッサちゃん、抜かれた! 天雷の使徒ロドミア選手も、エッジアーム・頼光・ドラグーン選手も! 牛若剣士トドロキ選手がトップに躍り出た! ゴールは目前だーっ!』

 

 チョッキーの実況が響く。トドロキの雪崩はとどまる所を知らない。それはトドロキごと……カゲロウ坂の真下にあるゴールポストを打ち砕いて、ようやく止まった。

 

 

『文句なしの決着! マボロシ山脈一周レース、予選通過者は牛若剣士トドロキ選手―ッ!!』

 

 

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