Saga of Creatures〜Battle Galaxy~ 作:hinoki08
たった一人の予選通過者を告げる、実況の声。
「やった……」
トドロキは確かに、その声が自分の名前を呼んだのを聞いた。
「やったべよ──!!」
「トドロキ──!!」
それと同時に飛んでくる、赤くて真ん丸の姿がある。ベンケイだ。
「ベンケイッ!!」
「なんでぇ、一時はどうなっちまうかと心配したけどよ……まさか生きて帰ってくれるだけじゃなくて、マジで予選通過しちまうなんてよ、思ってもみなかったじゃねえかっ!」
「にへへっ、ベンケイ、オラをなめてくれちゃダメだべよ!」
ベンケイと二人、トドロキは雪まみれになりながら笑いあう。これで、立てるのだ。戦国武闘会、歴戦の猛者たちと同じ舞台に。
「しかしよぉ」とベンケイは言う。
「オレからも見えてたぜ、お前、あのジャイアントはどうしたんだ? 何か相当、やべーことが起こってたようだが……」
「そのジャイアント、そのおチビちゃんが倒したわよ」
その声に振り替えると、そこに居たのはまもなく2位でゴールにたどり着いたシャーマン・メリッサであった。
「あたし、見てたの」
「そーだべっ!」トドロキが笑う。
「凄いわね、あんな何もかもをマナにしてしまうエネルギーの中で……あなたは一人で、どうして生き残ったの?」
それはメリッサにとって、至極当然の疑問であった。しかし……トドロキは首をかしげる。
「いや……オラ、あのジャイアントが進化? したあたりから、ちょっぴり記憶がなかんべ」
そうなの? とメリッサに驚いたように問われ、トドロキはこくりと一つ頷いた。
「ただ……あいつに落ち着いてほしいって気持ちを持ってたのは、覚えてんだけどなあ……」
うーん、とトドロキはうなって、ジュウベイに目をやる。
「ジュウベイが覚えてたりしねえかなあ?」
「武器に何言ってるのよ」メリッサは呆れたように言った後……クスリと笑った。
「ま、いいわ。カッコよかったわよ、おチビちゃん。いや……トドロキ君。ありがとう」
「……」
しかしだ。
その会話を聞きながら、しばしの間ベンケイはじっと神妙に何かを考えている様子であった。「ベンケイ?」とトドロキに言われて、初めて彼は我に返る。
「何考えてたんだべか?」
「……いや、ちょっとな」
「ベーンケイ。そんなぼーっとしてたら、ベンケイが予選落ちしちまうべよ? 一緒に二回戦に行けねーべ」
「第一回戦で予選落ちなんざするわけねえだろ、オレを誰だと思ってんだ、たわけ」
そういって彼らは、再び笑いあった。
『さあっ! 続いてエッジアーム・頼光・ドラグーン選手と天雷の使徒ロドミア選手、同時に3位で到着! ほかの選手たちも続々、ゴール地点を目指して集合しているぞ! 1位が決まっても、みんな自分自身のレースを、試合を捨てない! 皆、カッコいいぜ! ルーキークラスCブロック、皆もれなく、戦国武闘会の誇り高き戦士たちだっ!』
……3位。
予選落ちだ。
「ふっ……俺の実力も、まだまだこんなものか」
頼光は悔しそうに笑っていた。
なにが最終決戦だ。所詮自分もまだまだ……井の中の蛙。
「まだ、修行が必要だな。我が相棒。何しろ……あれほどの力を持つものが、まだまだこの戦国の世には居るのだからな」
彼は今一度ズバット・アクセラーに話しかけた。
予選落ち。
それがロドミアにとって何を意味するか、彼はとうの昔に悟っている。
彼は自分の持つ魔銃をじっと眺める。ナイトの象徴、騎士たる証。
断罪の天雷に相応しき精神性を認められ一門に迎え入れられ、この魔銃を賜った時、どれほどまでに嬉しかったことだろう。
その相方とも、今日限りだ。
「……」
だが不思議に、彼の気持ちは晴れやかであった。
自分は自分にできるだけの戦いを、強いライバルたちと共に繰り広げた……そこに、悔いはない。たとえ、天雷の恥さらしとして、騎士の称号を剥奪されようとも……この騎士として最後の戦いは、素晴らしいものであった。
「おい、貴様」
そんなロドミアに、頼光が声をかけた。
「同着3位とはな。勝ち抜けはあの餓鬼のものになったが……貴様と決着をつけられなかったのは、少し残念だ」
「ああ……そうだな」
そうだ。心残りがあるとすれば、そこだけか。
ロドミアのその様子に気が付き、頼光も「何があった?」と問う。
「何……約束していただけさ。わが主と。前回と同じ、予選第一回戦落ちなどという恥をさらさば……と」
その意味を、頼光も悟る。その魔銃を見つめるロドミアの視線から。
「お前はもう、騎士ではあれなくなるのか……」
「そういうことになるだろう。だが、悔いはない。尊敬する主に対して、恨みもない。きっとこの魔銃とて、喜んでくれたと思う。お前や……彼らとの戦いを」
「それでは」
しかしそんな彼に、頼光は言った。
「今度は『サムライ』と『ナイト』としてではなく……『頼光』と『ロドミア』として戦おうではないか。第百一回戦国武闘会を、楽しみにしているぞ!」
「……!」
ロドミアはその言葉に一瞬言葉を失った。しかし、今までの不愛想もどこへやら、にっかりと笑った頼光の顔に、彼も思わず「ああ」と声を発する。
「こちらこそ頼む。……エッジアーム・頼光・ドラグーン。……我が、ライバルよ!」
『最後の選手が今、ゴール! これにてライト級ルーキークラス予選Cブロック試合終了ッ! 通過者は《牛若剣士トドロキ》──―ィ!!』
「先ほどは、悪かった。怪我はないか。私がマナの力で癒そう」
レースも終わり、動脈の超人はチョッキーに話しかける。
「本当に……平和な時代が来ていたのだな。私が眠っている千年の間に……」
「ええ。ボルフェウス・ヘヴンっていう英雄と五元神が、世界を救ってくれてですね……」
「もっと、詳しく聞かせてくれ」動脈の超人はすっかり落ち着き、そして……喜んでいる。
こんなふうに、皆で武を競えるだけに平和になった世界を、千年ぶりに。
「私はもっと……この時代のことを知りたい」
『こちら、実況スタッフチーフ・ミラクル・ショーだっ! さてはて戦国武闘会をお楽しみの全世界の皆様に、ビッグニュースがあるぜっ! なんと! 本日付ですべて終わったライト級ルーキークラス予選……すべてのブロックにて、通過者が存在! すなわち全ブロックで『刺客』が敗退したというわけだーっ!』
「さあっごらんなさい! 《盾》の力を!」
Aブロックでは, まるで古の《聖霊王》のような力を宿した小さな《エンジェル・コマンド》が。
『Aブロック, 通過者は《天武の精霊ライトニング。キッド》選手―ッ!』
「ゴホッゴホッ、何だ、あいつの炎?!」
「あの炎、まるで……!」
「さあ、喰らいやがれ……」
Bブロックでは、その体に見合わぬ炎を操る幼いティラノ・ドレイクが。
「『ボルシャック・ファイアー!』」
「Bブロック、通過者は《パワーフォース・ドラグーン》選手―ッ!」
『な、何事だ!? 何が起こったか誰にも分からない!? 一瞬のうちにすべての選手が水の底に沈んでしまったっ!』
「これで終わりジャニね? 通過者は二名ジャニから」
「とっとと試合終了を告げなさい、気が利かないのね」
Dブロックでは、刺客も実況も誰も見切れない、謎の力を使う《サイバーロード》と、スノーフェアリーの少女が。
「でぃ、Dブロック、通過者は《斬隠テンサイ・ジャニット》、《土隠妖精ユウナギ》選手―ッ!」
その他にも、様々なブロックで、様々な選手たちが。
その小さな体、ルーキーという立場にもかかわらず、大会運営の用意した刺客も自分に果敢に向かってくるライバルたちも打ち破り、予選第二回戦へと駒を進めていく。
『こいつぁ、波乱の幕開けだ! 最弱のライト級ルーキークラスですらこの始末! 一体これから先続くミドル級、ヘビー級、ウルトラヘビー級の予選では、そして勝ち抜いた彼らが進む第二回戦では、どれほどの名勝負が早くもオレらを待っていようというのかーッ!? 空前絶後の大規模開催、第百回戦国武闘会、早くも目が離せないぜっ!』
「……思ったよりも、早かったわね」
戦いの余韻の冷めやらぬマボロシ山脈に、その時ふと現れる影があった。
選手たちは、誰もひっそりと表れた彼女の存在に気が付かない。みんな健闘をたたえ合い、また自身の戦国武闘会の終わりの余韻に浸っている。その場でただ一人、次の試合に進むことを許されたたトドロキを除いて……。
そう。そして彼女の眼は、そのトドロキに向けられていた。
彼女は、不思議な風貌だった。
蒼い姿の、人型種族。しかしこの惑星に存在する数多の種族とも、どことはなしに似ていない。
彼女はその空色に輝く目で、そのほかの選手たちには目もくれずに、じっと先ほどからはしゃぎにはしゃいでいるトドロキと……その腰にあるジュウベイに注目している。
「……間違いない。《轟剣レイジング・ザックス》……『龍炎鳳のカタストロフィー』が……その力を発揮していたわね」
彼女はクスリ、と余裕に満ちた表情で笑う。
「しばし、見守ってあげましょうか。何しろ……ここは、『私』の築いた時代。『子供』を喜ばせてあげるのは……『母』の務め、ですものね?」
「よーしっ! これで第二回戦進出だっ! 次の試合はどんなんだべかっ!」
そんな彼女の存在すらつゆ知らず、トドロキはジュウベイと共に次の戦いへと挑んでゆく。
「なんでも来るべっ! オラとジュウベイは、負けんべよっ!」