Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第一章 第二部 『地獄のワッショイ超特急』
第一話


 ナイトに四つの高貴なる名門あり。

 光文明と闇文明にまたがりし『神』を擁する最古の家門《黄昏の魔光》。

 光文明に君臨する貴族に相応しき精神性を重んずる家門《断罪の天雷》。

 水文明の科学と魔術の力で貴族の地位に上り詰めし家門《狡猾の氷牙》。

 

 そして、その三名家を差し置く、強大なる勢力を持っていると言われているのが。

 闇文明に居を構えし残虐非道の実力主義で知られた家門《滅殺の邪眼》。

 

 その《邪眼家》の当主にして、世界最大の大企業《邪眼財閥》の総帥、世界一の大富豪……それこそが、《邪眼皇ロマノフⅠ世》であった。

 

 

 サムライが戦国武闘会の覇者ならば、ナイトはこの平和な時代の「社会」の覇者といってもよい。

 平和な世界で何が力を持ち始めたかは、この超獣世界とてそう変わりはなかった。富や、権力だ。

 彼らはいち早くそれを手にすることに成功した、生粋の貴族たちだ。魔光、天雷、氷牙、邪眼と言えばだれもがその威光を認める。……無頼の輩、サムライを除いては。

 そう、ナイトにとってサムライは、目の上のたん瘤にも他ならなかった。いくら自分たちが富と社会的地位を築けど「武闘会」の英雄たるサムライたちにその他一般の超獣が向ける尊敬のまなざしには勝てない。

 そうでなくとも平和な世界で、クロスギアを……あの『呪われた武器』を再び目覚めさせ使う、サムライたち。ナイトたち、貴族として社会を率いる立場の彼らからすれば、彼らが世界の主役になることなど到底許せない事であった。

 

 では、どのようにすれば良いか。

 

『第一回戦国武闘会』が開かれた時、4名門貴族たちは結託し、打倒サムライを掲げ、おのずから戦国武闘会の場に降り立った。すなわち武を究めんとするサムライを、真っ向からその武をもって叩き潰し、貴族の威光をあらわにせんとしたのである。彼らの権力のシンボルたる《魔銃》を携えて。

 第百回戦国武闘会、決勝戦の場に立ったのはロマノフⅠ世、そしてサムライの《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》であった。

 その結果は。

 

 ……第一回戦国武闘会、優勝者の座に輝いたのはサムライであった。《紫電二連斬》の前に、ロマノフはあえなく敗れ去ったのである。

 

 ……それ以来、サムライとナイトはお互いにいがみ合う、因縁の関係となった。ことにナイトにとっては。

 ロマノフの敗退。それはナイトの支配が完全なるものではないことを知らしめられたことに他ならなかったからだ。

 いつしかサムライを制し、ナイトが完全に世界の覇権を握る。それこそが、同盟しながらも腹の底ではお互い何を考えているやら分からないと牽制し合っている四名家が唯一純粋に思いを通わせるところであった。

 

 

 

 

『さあ、ウルトラヘビー級予選第一回戦《大陸一周障害物競走》もいよいよ大詰め! 1位を争うのは名門邪眼家の実力を持ちし《ドラゴン・ゾンビ》、《邪眼死龍デモトリーⅤ世》と自然文明のサムライ集団『新一派(あらたいっぱ)』の頭にして全大会4位、優勝候補の《薩摩の超人(サイゴウ・ジャイアント)》選手ですっ!』

 今行われているのは、レースはレースでもライト級の雪山一周レースなどとはスケールが段違いの、ウルトラヘビー級のレース。

 何しろ、火文明と自然文明の存在する大陸の海岸線を、数多の障害物を乗り越えながらぐるり一周するというものだ。《ジャイアント》に《リヴァイアサン》、山をも凌駕せんばかりの体格の彼らには、このくらいでなければ試合の張り合いがないというもの。

『本来であれば前大会ベスト8は予選免除がなされるところを……たゆまぬ自己研鑽のためと予選第一回戦から戦い続ける薩摩の超人選手! その闘志や見事! デモトリーⅤ世選手も、その刃と魔銃でありとあらゆる障害物をなぎ倒していきます! どちらが1位で勝ちぬけでしょうかっ!?』

 しかし、そう実況の声が響いた中……薩摩の超人、と呼ばれたそのジャイアントは急に「むっ!?」と声を上げ……自分が進んでいた方向から90度曲がった方向、すなわち海の方に向かって歩みを進めた。

『おっと、これはどういったことでしょう!? 薩摩の超人選手、急に海に入りました、一体何がっ!? そ、そうこうしている間に……邪眼死龍デモトリーⅤ世選手が一気にラストスパートを決め……そのまま、ゴール!! 続いて《天牙海聖キング・サプライズ》選手もっ! そのあとに続くのは……ジャイアントの永遠のライバル同士、《維新の超人(リョウマ・ジャイアント)》選手と《戊辰の超人(ヒジカタ・ジャイアント)》選手ですーっ! おっと、ここで薩摩の超人選手、レースに復帰! さすがに速い速い! ほかの選手を見る見るうちに追い抜き……5位で到着ーっ! ベスト5が出そろいました! これにて通過者が全員決定―ッ! ウルトラヘビー級予選Aブロック、終了となりまーす!』

 そのアナウンスにがっくりと肩をおとす、他の巨大な選手たち。それにしても……薩摩の超人のあの奇行は、何だったのだろうか? 

「……ジッキョウ」

 その中に海からぷかり浮かんでくるのは、戦国武闘会海中スタッフの《サイバー・ウイルス》たち。《パステル・ジェリー》たちだ。

 サイバー・ウイルスはこの惑星最小級の人造種族。地上のラ・ウラ・ギガたちと同じような役割を、彼らは果たしている。

「……コレ」

 彼らはその赤い目に映した映像を、念波に乗せて実況者の持つモニターに映し出した。そこには……薩摩の超人に逃がされている《フィッシュ》たちの姿。

 

『こ、これは……まさか、我々大会運営側の不備により、フィッシュの群れがレースコースに迷い込んでいたようですっ!』

 フィッシュ。それは読んで字のごとく、野生の魚たち。当然、大した力など持たないものが大半。

 それが大スケールのウルトラヘビー級のレース、それも最終盤の熾烈な争いに巻き込まれればどうなるかなど、考えるまでもないことであろう。

『ま、まさか薩摩の超人選手!』実況は薩摩の超人の方へラ・ウラ・ギガを飛ばす。

『フィッシュたちを、助けるために……?』

「うーん、ばれてしまったでごわすか」

 薩摩の超人はゴール地点で、照れたように笑った。

『し、しかしなぜそのようなことを……? おかげで1位は……』

「このルールでは上位5位が通過。今回はあくまで予選。5位以内に残れば、それでよいのでごわす。必要なか戦いで小さか命を犠牲にすることは、おいどんの求めるサムライ道ではありもはん」

『み……皆様、聞きましたか? 薩摩の超人選手、なんというサムライ魂の持ち主! 他者を傷つけるプライドなら持たぬ、その巨大な体躯とは裏腹の優しい心! そしてその裏に見える、5位以内には必ず残れるという圧倒的な自信と誇り! そしてそれを裏打ちする実力! これぞ全大会4位の益荒男薩摩の超人! サムライの中のサムライの姿ですーっ!』

 

 

 

「……下らん」

 ウルトラヘビー級の予選の様子を、闇の魔力を投影した鏡によって見ていたロマノフは、魔力の波を断ち切りその映像をも断ち切る。またしても、サムライの『勝利』。実際に勝利を得たのはナイトであるというのに。

 デモトリーのやつも、何をやっているというのだろうか。サムライに勝利の目線など与えるとは。誇りも、栄誉も奪い去り完膚なきまでに叩きのめしてこそ、真の騎士、真の邪眼家であるというのに……。

 

 サムライの完全制圧。それがナイト全員の望みであることは先述した通りであるが、ナイトの中でも一番それを望む存在はと言えば……このロマノフを置いて、他はないであろう。

 何しろ第一回戦国武闘会決勝、世界の覇権を握るのはサムライか、ナイトかという大一番で、敗北を喫した張本人であるのだから。

 

 

「どうにも不機嫌だな、Ⅰ世?」

 ……そんな彼のもとに、入ってくる影がある。彼の名は《邪眼教皇ロマノフⅡ世》。当主たるロマノフⅠ世の弟であり、彼に連なる邪眼家の腹心の一角だ。

「デモトリーの試合を見ていたのだろう? 奴のお株を食う薩摩の超人の活躍ぶりを見て腹でも立ったか……? それとも」

「……」

「世間では、今度の大会にお前は出場しないという噂もたっているようだが、どう考えている?」

 ロマノフは、前大会、第九十九回大会の優勝者である。先述した通り、本来であれば前大会ベスト8は予選免除。当然、ロマノフも本選までは出場せずとも良い。

 だが、ロマノフはその問いに答えない。Ⅱ世はふっ、と息を吐いた。

「まあ、本選まではまだまだ時間がある……ゆっくり考えることだな。無理もあるまいよ。何しろ『あれ』が……」

「Ⅱ世」

 ロマノフは厳かな声を発しつつくるりと振り返った。

「下らぬ世間話をするため、我の下へ来たではなかろう……何用だ?」

「ああ。お前の耳に入れねばならない事態が起こってな。つい先ほど行われていたミドル級の試合だが……」

「なんだ?」

「《アレクセイ》……わが息子が敗退した。予選第一回戦でだ」

 その言葉を聞き、ガタンとロマノフは立ち上がる。

「奴が……?」

「それも、相手は誰だと思う?」

「よもや……サムライか?」

 アレクセイ。《邪眼銃士アレクセイ候》。彼は邪眼の中でも屈指のサムライ・キラー。

 武士道など、彼の騎士道の前では、あまりにも無力。ありとあらゆるサムライを、クロスギアを葬り去ってきた実力者だ。

 そのアレクセイが、敗退? 思わず動揺した様子を見せたロマノフをⅡ世は面白がるように笑い、「安心しろ、サムライではない」と言った。

「いや……安心は、しかねるかもしれぬがな。ある種では……それ以上に我々にとって厄介な存在かもしれん」

「回りくどい言い回しをするではないか」

「疑問に思うなら見てみろ、Ⅰ世」

 先程の鏡にⅡ世は横合いから魔術をかける。するとそこに再び映像が映される。

 惑星に数多散らばるとある闘技場……そこに確かに、アレクセイは地に膝をつかせられていた。

 対峙しているのは……火文明のヒューマノイドか。確かに見たところ、サムライのようには見えない。

 

『な……なんということだ! ミドル級第一予選Dブロック、これはまさかの大番狂わせ──ッ!! 観客の皆さんも、誰一人驚きを隠せない!!』

 

 だが……魔導具以上に「在ってはならない」ものがそこに散らばっていた。

 翼をもつ種族同士の戦いというわけでもないのに、その場には赤い羽根が散らばっている。羽……それは、アレクセイの周囲にも散らばっている。

 それは、魔弾を撃つときに出る特有の薬莢そのものであった。

 

『名門邪眼家の実力者、サムライ相手には負け知らずの邪眼銃士アレクセイ候選手が……まさかの謎の「魔弾使い」! 《爆獣装甲ヴァルアーサー》選手を相手に……予選一回戦敗退だぁぁ──ーっ!!』

 

 そう……そのヴァルアーサー、という選手は、魔弾を使ったのだ。

 光と闇の魔光、光の天雷、水の氷牙、闇の邪眼……どの派閥にも属さないはずの選手が、「魔弾」を使い、そして名門邪眼家の実力者を敗退させた。

 

 くすくすとⅡ世は笑い、「まだあるぞ」と、こんどは複数枚の小さな鏡をロマノフの前に突き付けてくる。

 それはライト級、ミドル級、ヘビー級の予選の様子であった。そこに映るのは……魔弾を操る火文明、自然文明の戦士たちの姿。

 いずれも……魔銃を、魔弾を握ることを許されているはずの自分たちには決して属すことを許されないであろう者ばかり。

 

 

「き、貴様……一体、何奴か……」

 鏡の中で、アレクセイがぎろりとそのヒューマノイドと、赤い羽薬莢を睨み付けながら言う。そして……それに臆する様子もなく堂々と、ヒューマノイドは答える。

 

「《爆獣騎士団》。以後、お見知りおきを!」

 

 

「……『爆獣』……」

 目を見張るロマノフに、Ⅱ世はまたぞろ笑って「どう出る? Ⅰ世。私たちは無論のこと……お前の意思には常に付き従おう」と言った。

 

 

 

 

 ところ変わって、火文明と自然文明の国境近くの某所。

「ベンケイ、やっぱすごいべなー! 予選あっさり1位で勝ち抜けなんて!」

「あったりまえよ、ベンケイ様を舐めちゃいけねえぜ」

 ベンケイの予選第一回戦も無事終わり、トドロキとベンケイは次に向かう場所……ライト級予選第二回戦Dブロックの会場に向かっていた。

 ベンケイは地図を開きながらトドロキの頭にちょこんと乗っている。「お前に地図を見せたところで、どこ行くんだかわかりゃしねえからな」というのが彼の弁である。

 さてはて……自然と火の国境らしく、自然文明特有の豊かな緑もだんだんに鳴りを潜め、ごつごつとした赤黒く埃っぽい岩肌の目立つ場所を歩きに歩いていくと、ふと、どこかに向かって長く伸びる線路が目に入った。

「みつけた。あれが目印だぜ」ベンケイが言う

「線路沿いに沿っていくんだ。そこに、第二回戦の待ち合わせ場所があるってよ」

 

 言われるがままに線路に沿って歩いていけば、なるほど、そのうちにすぐに「その」場所は分かった。

 マボロシ山脈とは比べ物にならない数、どこからどう見ても3桁はくだらないだろう小柄な超獣たちがひしめき合っている。

 そこは……長い長い列車のホームだった。

 

「すげー……強そうなやつが多いべな」

「ったりめえよ。皆予選を勝ち抜いてきてるんだからな」

 さて、ここが待ち合わせ場所だとは見ればわかるものの、あるのは殺風景なホームがただ一本だけ。

 周りは「ここ、どこで待てばいいの?」「知らね。適当な場所に居りゃいいんじゃね?」などと話し合っている。そしてそうこうしている間にも、線路を伝って一人、また一人と超獣たちが集まってくる。トドロキとベンケイも、適当な場所で待機していた。

 

 そして、しばらくしたころだ。

 上空でラ・ウラ・ギガが「全選手、到着を確認いたしました」とアナウンスを響かせる。

「間もなく、『試合会場』が参ります。全選手、その場でしばしお待ちください」

「試合会場が……?」

 その妙なアナウンスにざわめく周囲。しかしその空気を……甲高い汽笛が引き裂いた。

 線路に沿って、巨大な何かがやってくる、いや、線路に沿ってやってくるものといえば、勿論一つしかない。

 列車だ。だが、ただの列車ではない。

 

 

『ハイハーイ! ライト級Dブロックの皆さん、ご機嫌よー! 僕が試合会場件実況、《直神兵ワッショイエクスプレス》と申しまーす!』

 

 それは平和になった世界の技術の粋を集めて作られた、世界最速を誇る汽車型の《アーマロイド》。それに二十近い車両がずらりと取り付けられている。

 

 ワッショイエクスプレスはホームに完全に停車し、そしてアナウンスを響かせる。

 

「予選第二回戦は……この僕が世界の中心、武闘会の聖地『コロッセオ・シティ』にたどり着くまでの間……僕の客車内で行われる、ルール無用のバトルロイヤル大会となっておりまーす! バトルロイヤルを勝ち抜いて無事、シティのホームにたどり着いた選手が、予選通過となります!」

 

 コロッセオ・シティ。

 そこは五元神が現れた場所、世界の中心に築かれた平和の象徴たる計画都市。5つのコロシアムがそびえたつ武闘会の中心地。

 世界最速ワッショイエクスプレスがそこにたどり着くまでの時間は……ざっと、3時間。

 それまでの長時間を、ライバルたちと共に戦い続ける。それが、予選第二回戦。

 

『世界最速ワッショイ特急! 乗りたい奴は勝手に乗るべし! 発車とともにバトルはスタートとなります! 怖けりゃ帰ってもいいですよ!』

 

「怖けりゃ帰っても、だって?」

 無論、ホームにずらりと集められた戦士たちとてそう言われて闘志を燃やされないはずがない。

「へへっ、誰が帰るかよ! こちとらルーキークラスの洗礼も潜り抜けてきたんだ、なめんな!」

「バトルロイヤルか、面白そうじゃねーか!」

「ほかのやつら全員蹴散らして、俺一人がコロッセオ・シティに降り立ってやるぜ!」

『ハイハーイ! 皆さん、威勢がいいですねえ! そうそう、コロッセオ・シティに行くんなら、そうでなくっちゃ! さあ皆さん、扉を開きます! 駆け込み乗車は大歓迎! お近くのドアより、ご乗車下さーい!』

 

 長いホームに止まった二十両の車両のドアがその言葉とともに一斉に開く。それと同時に勇ましく、次々に数百名は居そうな超獣たちが押すな押すなの勢いで列車に乗り込んでいく、無論、トドロキとベンケイも……。

「……トドロキ、どうした?」

「ベンケイ、オラ、やっぱあっちの車両の方がいいべっ!」

「えっ、急にどうしたんだ、おーい?」

 

 勇み足で「とある」車両へと駆けこんでいった。

 

 

「ワッショイエクスプレス。全選手の乗車を確認しました」

『了解です。じゃあ……ご乗車の皆さんも早く、戦いたいところでしょっ? 早速、出発いたしまーす! お立ちのお客様はお近くのつり革や手すりにおつかまり下さい、なんてね!』

 

 ガタン。

 そう響いた振動と、するどく響く汽笛が、第二回戦のゴング替わり。

 

『ライト級予選第二回戦Dブロック……「地獄のワッショイ超特急」発車します! 「決闘」スタートッ!』

 

 数百名の超獣を乗せたその列車は、見る見るうちに速度を増し、とんでもないスピードで世界の中心に向かって突進し始めた。

 

 

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