八幡in GGO   作:ヴァルプルギス

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第一話

五月上旬。寒い寒い冬があけ、ようやく暖かくなってくるかという季節だ。たまにアホみたいに暑くなったり、また冬に逆戻りしてみたりと、あっちこっちな時期でもある。

 

――――まるで、今の俺みたいだな。

 

ふと、カッコつけて自嘲してみる。けどまあ、そんなことをしたところで現状に何が変化があるわけでもないのだが。

 

あの総武高校を卒業し、大学に進学したはいいものの、ただなんとなく日々を過ごすだけの怠惰な生活を送っている俺である。

大学は、俺は地元ではなく東京の大学に進学することにしていた。マイリトルエンジェル小町のいる実家を離れるのはかなり、かなーり嫌だったのだが、今回はなんとも珍しくあの地元にいたくないと言う思いのほうが勝ったのだ。ちなみに、俺が実家を出て一人暮らしをするといったときには小町以外誰も俺を引き止めてくれなかった。凹む。

親父なんかは邪魔者である俺がいなくなることがよほど嬉しかったのか、俺が出発するまでたいそう機嫌が良かった。厄介払いできてせいせいすると言わんばかりの雰囲気だった。ていうか実際に言ってたな。絶対に許さない。

 

とまあそんなわけで、一人寂しく上京し、結構ボロいアパートの一室を借りてちょこちょことバイトと実家からの雀の涙程度の仕送りでどうにかこうにかやっている。ていうか実家でても俺の扱いが雑ってどうよ。お父さんお母さん、もっと息子を慈しむ心を持て。いやまあ別に期待してないけども。

 

最寄り駅で電車を降り、一人でいつもどおりの帰路につく。大学では何か変わるかもと思い、ちょっと奮発して結構立派な手帳とか買ってみたはいいものの、よくよく考えれば見知らぬ土地に見知らぬ人達。そしてぼっちスキルをカンストしていた俺が新天地でうまくやっていけるはずもなく、予定帳はどこまでも白紙のまま、俺の引き出しの中でずっと眠っている。多分もう日の目を見ることはないんじゃないかな、うん。

むしろ高校二年からの二年間が異常であったのだ。それを何を勘違いしたのか、大学でも…と思っていた自分が今になってみるとすごく滑稽で笑えてくる。

 

はぁ。最近、常にひとりでいることが当たり前になってきたせいか、自虐的な思考が増えてきている気がしてならない。

 

アパートの自室の扉の前にきて、カギを取り出しながら、俺は思考を振り払う。これからせっかくの気の休まる時間に、つまらない自虐で台無しにするなんてそれこそつまらない。楽しみは楽しんでこそだ。

 

上着を脱いでハンガーにかけ、俺は机からあるものを取り出す。アミュスフィア。ナーヴギアの次世代機であるこれには、俺は大変お世話になっている。というか唯一の俺の今の趣味と言ってもいい。

あの世紀の大事件があった後、VR業界は一時期もはや終わりかと囁かれていたものだが、なんともたくましいものである。俺も最初は警戒していたのだが、とうとう誘惑に耐えきれずに購入し、今に至るまですっかり愛用してしまっている。それだけ今のVR技術の進歩は目覚ましい。本当に現実世界と見分けがつかないのだ。

これを一番最初に体験できたSAOプレイヤーはうらやま…うん、ゴメン。嘘ついた。やっぱ羨ましくねぇわ。デスゲームとか俺には無理です。

 

アミュスフィアを装着し、ベッドに楽な姿勢で寝転がる。ここんとこ、たまにわからなくなる時がある。はたして今の俺は、現実世界と仮想世界、どっちに生きているのだろうか。ふと、そんなことを考えながら、俺は仮想世界へと飛び込んだ。

 

「リンク、スタート」

 

 

あの有名なSAO事件の後、ザ・シードなるものが世界中にばらまかれ、そのお陰で息も絶え絶えだったVR業界はすこしずつ、だが確実に息を吹き返していった。ザ・シードは簡単に言うと誰でも簡単に仮想世界を作ることができるパックみたいなもんだ。誰が最初にばら撒いたのかは不明だが、その誰かさんのお陰で今や世界中で新たな仮想世界が続々と誕生している。俺から言わせればそんなもんを作れるのは一人しかいないと思うが、今のところ問題はないようなのでとりあえずはいいかという感じである。一介の大学生がどうこうするような問題じゃないしね。いやまあVR関連の犯罪は結構後を断たないけど、そんなことはなんにでも言えることなのでしょうがないといえばしょうがないのだ。使うのが人間なのだから、これはもうね、うん。

 

そんな数あるVRMMOの中で、今俺がプレイしているのはガンゲイルオンライン、通称GGOと呼ばれるものだ。多くの他のVRMMOがファンタジーな世界観なのに対し、このゲームは唯一の世紀末的な世界観なのだ。ちなみにモヒカンはいない。いやいるかもしれないけど、俺はまだお目にかかったことはない。

 

設定としては、最終戦争から出戻った人類が、荒廃した未来の地球で光学銃やら過去の遺物である実銃やらで機械兵器や生体兵器とドンパチやらかす、などといった感じだ。もっと公式ホームページなんかやWikiなんかで調べれば詳しく載っているんだろうが、そこまでは興味がわかなかったので調べていない。ようは楽しめればいいのだ。

 

このGGOに出会う前は、いろんな他のVRMMOを転々としてきたのだが、これを見つけて以来珍しく俺がはまり込んでいる作品でもある。剣と魔法のファンタジーだって嫌いじゃない。だが、それよりもこの世界観がなぜだかすごく好みなのだ。リア充とか見ると心の中一気に世紀末になるからね。俺の心象風景とそっくりなのかもしれない。あのアーチャーよりも今の俺の心は荒野になっているに違いない。

 

取り合えずいつもどおりにログインした俺は、普段俺が使っている廃ビルの一つに潜り込んだ。ちなみに潜り込んだというのは比喩で、地下に物理的に潜り込んだわけではない。以前は高層ビルとして立派な外観を誇っていたであろう建物は完全に朽ち果てていて、まさに廃墟という言葉が相応しすぎるほどだ。いつも思うのだが、これ何かの拍子に倒れたりしないよね? 大丈夫だよね?

 

一番高い位置で、なおかつ広範囲を見渡せる場所に陣取り、ウインドウを操作して愛銃をオブジェクト化させる。SVLK-14Sだ。

これは実銃で、手に入れてから調べてみたところ、ロシアがその技術の粋を集めて制作した高性能スナイパーライフルである、とのこと。世界でも類を見ないほど超長距離射撃を可能にするほど射程が長いのだそうな。主に射程に重きをおいて開発された銃らしく、なんと4km先の目標まで届くそうだ。ヤバイ。

その代わりといってはなんだが、超長距離の目標を狙撃しようと思えばどうしても撃ってから着弾までの時間は長くなるし、風なんかの天候にも左右されやすい。GGOにはちゃんとそういうシステムも搭載されており、やりにくいといえばやりにくいのだが、そこがいいと言うプレイヤーも多い。まあ俺もその一人だが。

まあごついし重いし持ち運びには不向きだが、俺はこれを手に入れてからずっと愛用し続けている。最初は狙撃なんてまだるっこしいと思っていたものの、やってみると意外とこれが面白い。

 

相手の攻撃が届かない安全圏から一方的に攻撃できるというのは最高のアドバンテージだ。ビビリな俺にもぴったりな戦術と言えよう。

銃を横に置いてスコープだけ取り外し、望遠鏡代わりに覗き込んで周囲を見渡し、敵を探す。大体ハズレの時はこうしてただ見渡しているだけなのだが、たまに遺跡へ向かう連中やPvP専門のスコードロンなんかを見つけるときもある。そういうわかりやすい成果があるときはいいのだが、ない時も結構多い。まあでも待ち伏せなんて相手が来るまでひたすら待ち続ける受け身の戦術なので、仕方ないのだけども。

 

そんなこんなでかれこれ一時間。そろそろ違うポイントに移動しようか迷っていると、とうとう動きがあった。二時の方向にプレイヤーが合計九人。スコープを調節してアップで見てみると、どうやら一人を八人で襲っているようだ。よく見たらその一人は大した装備すらしていない。うん、ていうかあれ初心者(ニュービー)だな。初期装備だし、あれ。対して他の八人はきちんとした装備で、なおかつ集団戦にも慣れている動きをしていた。恐らくだが初心者狩り専門のスコードロンか何かだろう。こういうゲームには必ずと言っていいほどいるような連中だ。

 

こういうのがいるから新しいゲームに新規参入するのをためらう人達が出てくるのだ。特にこういうMMOにはよくある話で、誰だってまだ右も左もわからないときに集中してキルされ続ければ嫌にもなってしまう。ていうか俺だって嫌だ。一回されただけで心折れてる自信がある。普通にマナー違反も甚だしいのだが、特に罰則が決められているわけでもないのでそれをやるやつは必ずいる。マナーなんて曖昧な縛りはそいつの胸先三寸でどうとでもなってしまうのだから。

 

「ちっ…胸糞わりぃな」

 

 

スコープをライフルに取り付け、伏せ撃ちの状態で構える。体を床に投げ出し、楽な姿勢でなおかつ射撃精度も安定する姿勢だ。

欠点は近づかれたときにかんたんにやられてしまう姿勢なのだが、遠距離戦においてはその心配はない。

 

このGGOにおいて、スナイパーの最も大きな利点は「相手に位置を把握されていない初弾」にのみ、射撃予測線(バレットライン)が表示されないことだ。至近距離での撃ち合いならばこれが見えていたとしても見えるのと着弾するのがほぼ同時なためあまり意味はないが、これぐらいの距離だと予測線が見えていれば回避するのは容易である。なにせ距離があり、なおかつくる場所がわかっていれば子供でも避けられようというものだ。こういう理由であまりGGOで狙撃手がいない、というわけだ。

 

だけど俺はこうも思うわけだ。だったら初撃で仕留めりゃいいじゃない、と。

んな簡単にいくわけ無いと思うだろ? だがそうでもない。何事も慣れである。もちろん最初の内は俺も外しまくり、位置を特定されて追いつかれて殺されたり命からがら逃げ出すなんてことは日常茶飯事だったのだが、ようやくコツを掴んだのか、ある日を境にめきめきと命中精度が上がっていったのだ。今ではこの状態から外すことなんて殆どない。

まあたまに調子に乗ってトッププレイヤーに喧嘩を売り、外して逆襲をくらったりもしているが。特に闇風さんはやばかった。あの時やり過ごせたのはかなり幸運だった。あのプレイヤースキルは圧巻というほかない。それ以来俺は闇風にさんをつけて呼ぶようになった。後にも先にもさん付けで呼ぶのはあの人くらいだろう。やばい人だぜ、闇風さん。プレイヤーネームは中二っぽいけど。読み方がダークウィンドとかじゃなくて本当に良かった。

 

バイポッドを立て、スコープを覗いて狙いを定める。とりあえずはスコードロンのリーダーっぽいやつから狙うのがいいだろ。八人の中でより後方で、他の連中に指示をしている一人の後頭部に照準を合わせる。

風向きや風速なんかも計算に入れての位置取りである。万に一つの間違いもない。

引き金(トリガー)に指をそっと添えると、俺の視界に収縮する半透明のライトグリーンの円が表示される。攻撃側に適用されるシステムアシストで、撃った弾丸はこの円のどこかにランダムで当たることになる。

この射撃予測円(バレットサークル)は自分の脈拍によって拡大、縮小するため、命中精度を上げるには自分のそれをうまくコントロールする必要がある。要はドキドキしていたら当たんないよって事。

ゆっくりと深呼吸し、頭の中のあらゆる雑念を排除する。ぼっちは基本的には単独行動を好むので、周りの騒音や雑音をシャットアウトして自分の世界に入るのは得意分野と言ってもいい。むしろそれしかやることがないとも言える。

 

今日はいつもより調子がいいのか、スコープの中の標的の細かい仕草や状態まで手に取るようにわかる。周囲の色は一面灰色となり、ゾーン状態に入った。

 

「ーーーーハッ!!」

 

射撃予測円が限界まで縮小するのと、俺が引き金に掛けた指を引き絞るのはほぼ同時だった。体全体に後ろ方向への強い衝撃が走るとともに、銃口から眩い発射炎(マズルフラッシュ)が溢れた。

 

放たれた弾丸は吸い込まれるようにリーダーの後頭部にクリーンヒットし、HPを一撃で全損させる。強烈な一撃は、頭部だけにとどまらず上半身をほぼまるごと吹き飛ばした。後ろからなので顔は見えないが、おそらくは驚愕の表情を浮かべていたであろう。

事実、リーダーが一瞬にしてポリゴンとなって爆散したのを見た他のメンバーも何が起こったのかわからないと言った顔をして皆一様に固まっている。

狩る側であったはずなのに、一瞬にして狩られる側にまわってしまったのだ。無理もない。だが俺から言わせるなら、揃いも揃って隙だらけもいいところだ。格下の獲物を甚振るのにかまけて、周囲への警戒を疎かにするからこうなる。自分が追う側でいると、ついつい気の緩みによって大なり小なり隙というものは生まれてしまうものだ。まあこれは俺が言ったというか、普通に言われている事なんですけどね。

 

ボルトを引いて薬莢を排出し、次の弾丸を薬室に送り込むと、素早く次の標的に目を向ける。ここから先は時間との勝負だ。奴らがこちらの位置を把握してしまえば、その時点で射撃予測線(バレットライン)が出て狙撃が一気に困難になる。

普通はそうならないためにチームを組むのだが、現実世界と同じく仮想世界でもほぼぼっちな俺はそれができない。ていうか、スパイ映画じゃあるまいし、スナイパー一人だけでできることなんて限られてくる。一応対策はしているが、やはりちゃんとした前衛がいてくれたらなといつも思う。あいつら、GGOに来ねえかなぁ…。

 

くだらないことを考えつつも、ちゃんと狙いは正確なので、次々とヘッドショットを決めていく。普段はこんなにうまく行かないのだが、今日はどうやら絶好調のようだ。

 

「あ、やべ」

 

と、思った途端にこれだ。五人目が終わり、六人目というところで当たるはずだった一撃を綺麗に避けられてしまった。どうやら居場所を特定されてしまったらしい。こうなるともう狙撃は不可能だ。

たがまあ、こんなところで初心者狩りなんてやっている連中だ。 リスクを避け、追撃に注意しながらも逃げ帰るだろう。特に貴重な装備を持っていた場合、運が悪いとドロップ品として失ってしまうこともありうる。逆に標的であった初心者がいい装備何かの持ち合わせがあるはずもなく、このまま襲ってもメリットが少なすぎる。十中八九逃げる、はず。たぶんね。

 

俺としても弾がもったいないし、残り二人くらいはいいかと思っていたのだが、次の瞬間、驚きで目を見開くことになった。なんと襲われていた初心者と思しきプレイヤーが、背後から二人に奇襲を仕掛けたのだ。

 

防具をつけていない背後から、しかも至近距離でハンドガンを乱射した。ちゃんと狙いを付けてもいない発砲だったが、ほぼゼロ距離で撃たれたため、一人はほぼすべての弾丸を喰らい、あっという間にHPを全損させられて死亡した。初期装備のハンドガンは実銃だが威力に難があり、皆他の装備を手に入れると途端に使われなくなるのだが、あの距離ならば問題なく倒せたのだろう。

その証拠に二人目は振り返ったものの撃たれた反動で仰け反り、明らかに体が泳いでいた。その隙に押し倒されて抵抗を封じられ、顔面を何発も撃たれて息絶えていた。

 

……………うん、ぶっちゃけ怖いです。え、何あれやばくない?マジで初心者なのあれ?実は初心者を装った初心者狩り狩りだったりしない?ガッツありすぎでしょ。

 

いや、流石にそれはないか。事実さっきまでやられっぱなしだったし。自惚れるわけじゃないが、多分俺が助太刀に入らなかったらやられてたと思う。ていうか初心者狩り狩りってなんだ。自分で自分のネーミングセンスに勝手に絶望していると、スコープ越しにその初心者プレイヤーと目がバッチリあった。

 

とっさにスコープから目を離し、視線を外す。いやいや、流石にスコープなしでこちらが見えるわけもない、普通に気の所為だろう。うん、気の所為気の所為。よっし、じゃあもうここは引き払って、別のポイントに移動しようか。そうしようそうしよう。善は急げっていうし、急がないといけないね!

 

ライフルをストレージに収納し、さっさとその場を後にしようと俺は移動を開始する。ちょっと高いくらいならばショートカットのために飛び降りてもいいのだが、あんまり高いところから飛ぶと落下ダメージがあるためいちいち自分の脚で降りなければならないところが面倒なところだ。

 

周囲を軽く警戒しながら、廃ビルを出てさっきとは反対の方向へ行こうとしたとき、不意に一発の銃声が轟いた。

 

そこから先は考えるよりも早く体が動いた。さっき周囲を確認したときに敵影は皆無だった。ならばまさか狙撃、いや銃声が聞こえたので至近距離から、などとぐるぐるする思考で左手でサイドアームの1911ガバメントをぬき、もしものために右手を腰に回したまま振り向くと、そこには予想だにしない襲撃者がいた。

 

いや、よく考えなくてもわかるはずの話だった。周囲に見た限り敵はいない、ならばいるのは俺とさっき襲われていた初心者プレイヤーだけだ。なんとなく嫌な予感がして急いで降りてきたが、どうやらそれがかえってアダとなったらしい。

 

俺としたことが、失敗だった。初心者(ニュービー)だからといって無意識に脅威ではないと判断したのは軽率にも程があった。思い込みは時に信じられない結果をもたらすこともある。

 

だがしかし、同時に今からでも十分に巻き返せるのもまた事実ではあった。たしかに先程は不覚を取ったが、そもそもあんな貧弱な装備では俺は殺せない。いや、時間をかければできるだろうが、それは俺が抵抗も何もせずにぼけっと突っ立っていたときだけだ。

防具だってそれなりのものを揃えているし、スナイパーだからと言って近接線が不得手だとは限らない。

 

「あの、待って待って! その、別にあなたとやり合おうとかじゃ無くて!」

 

「はあ? 何言ってる。そもそも撃ってきたのはそっちだろ? 俺はあんな初心者狩りみたいなことはしないが、手を出されたなら話は別だ。大体、発砲しといてその言い分が通るとでも?」

 

「っ……、あ、当てるつもりは最初からなかったわよ!でも仕方ないじゃない…あなた、普通に呼び止めようとしても逃げてたでしょう」

 

「む…それは…」

 

うん、たしかに。相手は初心者、しかも女性プレイヤーとあっては、残念な‎がら面倒ごとの匂いしかしない。ゲーマーたちのやっかみとは時に死ぬほど面倒な事態を引き起こすことだってある。ここまで強引なことをされなければ俺は即座に立ち去っていたことだろう。ていうかなんでわかったの君。

 

「さっきは本当にごめんなさい…助けてもらったのにその恩をあだで返すみたいなことして。そして助けてくれてありがとう。でも恥を承知でお願いします、私を街まで連れて行ってくれませんか…?」

 

「…………」

 

参った。これは本当に参った。これではどう転んでも俺はこの娘を街まで連れていくしかないではないか。

 

いや、普通に見捨てても何ら問題はないのだが、それだとこの初心者はまた同じような連中に襲われるのがオチだろう。

 

初心者狩りではなくても、中には女性プレイヤーを好んで襲うと言った変態としか思えない行動をするプレイヤーも存在している。

 

そしてこいつはただでさえ珍しい女性プレイヤーで、しかもなかなかに整った容姿である。ぶっちゃけて言えばまあ美少女である。VRMMOのようなフルダイブでは現実世界の性別と違う性別のアバターを使うことはできない。

 

思考的、肉体的に負荷がかかるためだ。そのため、従来のMMOのようなネカマネナベなどは一切ない。まあ中にはM9000系のようないわゆる男の娘なアバターもあるらしいが、それもかなり珍しい。

 

現実世界ではどうかはともかく、今のこいつは鴨がネギ背負って更に追加で高級霜降り肉をぶら下げているに等しい。

それがわかっていながら放置するって、どんだけ鬼畜なの? という話になってしまう。そして俺は鬼畜ではない。

 

しかも曲がりなりにも一度助けたのに、今度は知らないなどは流石に無責任すぎるというものだ。中途半端にやるぐらいだったらむしろ最初から関わりを持たないのが正解なのだ。何事も中途半端はろくなことにならない。

 

そう。つまりこれは俺の精神安定的な面でそうするしかないというだけで、決して不安げな美少女の上目遣いにくらっときたからではない。ないったらない!

 

「お前、それ俺がお前を後ろから撃つとか考えないの? 頭大丈夫なのか?」

 

「あなたはそんなことしないと思ったから…だって、本当にそういう人だったらあの時私も撃たれていたはず」

 

一応、最後の抵抗とばかりのこの言葉も、あえなく撃墜されてしまった。ヤダこの娘、だいぶ強くない?主にハートが。

 

「はぁ…わかったわかった。一応乗りかかった船だ。今日のことでGGOを嫌いになられても嫌だし。レビューとかで悪評ばらまかれても困るからな。一GGOプレイヤーとして。一GGOプレイヤーとしてだかんな?」

 

そう、勘違いされては困るのでよく言っておく。俺は別に君が美少女だから助けたとかそんなんじゃないからね?勘違いしないでね? というニュアンスを込めて。

届け、この思い!

 

「………ふふっ。ええ、そうね。ありがと」

 

え、何このかわいい、みたいな笑い方。やめてくんない? 違うからね、別にツンデレとかじゃないんだからね? とわめきたいのをこらえて、俺は背中を向けると歩き出した。

 

諦めたとも言うね。後ろからついてくる足音を聞きながら、俺はゴーグルをかけていたことに心底感謝していた。キョドっていたのがバレなくてよかった。マジで。

 

 

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