GGOは、見ての通り多くの銃火器が実装されている。もちろん世界観に違わず光学銃みたいなSFチックな見た目の銃もあるが、やはり現実の銃も数多くあることが人気の一つとなっている。ガンマニアやミリタリーオタクたちにとってここは天国のような場所であろう。まあ当然のごとく、PvPが推奨されているわけで、フィールドでプレイヤー同士が出会ったら即撃ち合いが始まるとまで言われている。
そういう意味ではさっきのこいつの行動はそれこそやっちゃだめな典型的な行動と言えるが…初心者なので仕方ないのだろう。知らないものは仕方ない。
「んで、お前…結局なんであんなとこいたんだ? 普通初心者が最初に転移するとこは街ん中なはずだろ?」
「ねえ、そのお前っていうのやめてくれる? 私の名前はシ、ノ、ン。ちゃんと自己紹介し合ったじゃない」
「あ、はい。すみません」
さっき移動しながら軽く自己紹介しあい、堅苦しい敬語はいらないと言ったらとたんにこれである。まあ見た目からして猫みたいな釣り目で明らかに気が強そうである。どうやら俺は気の強い女性ととことん縁があるようだ。ちなみに俺のプレイヤーネームはエイトと登録している。俺にそのへんの洒落た名前を期待しないで欲しい。ようはリアルネームじゃなきゃいいのだ。
ていうか怖いよ。こっちが敬語になっちゃったじゃん。
「もともと、新…友人に勧められてこのゲームを始めたのよ。私は…どうしても、ここでやらなくちゃいけない事があるの」
………。なんだろう、この空気は。俺としてはほんの軽い雑談程度の気持ちで振ってみたのに、なんかものすんごく重そうな答えが帰って来た。軽くキャッチボールするつもりだったのに、返ってきたのがボールではなくグレネードだった。いやなんでさ。
えぇー。何、どうすんの。これ。知らず知らずのうちに地雷原に足踏み入れちゃったよ。地雷掘り起こされる側だったのにいつの間にか地雷掘り起こす側になっちゃってたよ。これは返答次第ではものすんごく角が立つ気がする…。必要以上に親しくする気はサラサラないが、かと言って別に嫌われたいわけでもない。地雷を踏まれるのは誰だって嫌なもんだ。ソースは俺な。
と、色々ごちゃごちゃ考えた結果、俺がとった答えは─────
「ん、そっか。…お、ほら、街が見えてきた」
聞かなかったことにした。スルーである。だってしょうがないよね、そもそもそんなことに踏み込むような仲でもないし。どうせすぐ別れるしね。
シノンも気を遣われたと思ったのか、それ以来そのことについて言及することはなかった。
気まずい沈黙が場を支配し始めたのもつかの間、目の前に巨大な数多の高層建築物群が現れたことで払拭された。
俺たちが今ついたのはここGGOの首都である「SBCグロッケン」。移民船団の宇宙船の上にそのまま都市を築いた、というもので見た目もかなり近代的である。
俺としては目にだいぶ悪そうなネオンカラーのホログラムがバンバン飛び交うこの都市があまり好きではないのだが、そういうものとして割り切ってしまえばまあ耐えられないこともない。それと首都と銘打っているだけあってGGO最大規模の都市であり、店なんかも個々が一番品揃えが充実しているので重宝している。あのライフルを入手してからは装備が固定化してあまり店には足を運ばなくなったが、たまに
「んじゃ、ここでお別れだな。ここみたいな都市はフィールドと違って戦闘禁止区域だから、襲われる心配はまずないから」
「え、あ、えっと…その…」
取り合えず人目につく前にサヨナラバイバイするべく、さっさと立ち去ろうとした俺なのだが、そのいかにも不安げな声にまたもや後ろ髪をぐいぐい引っ張られることとなった。
振り返って見ると、気丈な態度を保とうとしているがどうしても不安を隠しきれていない、もじもじしながらチラチラこちらを見てくる美少女初心者プレイヤーが、そこにはいた。ていうか、シノンだった。情報量が多い。
いやお前、さっきまでの強気な姿勢はどうしたんだ。明らかにキャラ違くない?」
あ、声に出てた。俺のバカ。
「さ、さっきまではその…戦闘のあれでテンションがおかしくなってたのよ…。じゃなきゃ初対面の人にあそこまで言えないわよ、普通…」
あぁ、うん。ソウデスネ。遠くからでもあの鬼気迫る戦いぶりは怖気が走ったからね。ドーパミンドバドバ出てたよねきっと。口には出さないけど。撃たれたくないし。
『─────エイトにはあれだよ、気遣いが足りないよ! いーい、女の子には優しくしなきゃダメなんだからね! よって、これからエイトは極力女の子には優しく接するよーに! 具体的には、ほら、ボクとか。ボ、ク、と、かー!!』
ふと、以前あいつに言われたことを思い出した。今まで女の子に優しくされたことほとんどないんですがそれは…と反論したが黙殺されてしまった。やはり世の中は理不尽である。
しかしなし崩しとは言え、約束は約束である。一方的な宣言は約束とは言わない気がするが、それを言うと多分泣かれるのでやめておいた。あいつが泣くと俺の心も泣くし、それを察知して飛んでくるあいつらにボコられて物理的にも泣くため悪いことづくめなのだ。ま、それはともかく、
「んー、じゃああれだ、装備整えるぐらいならつきあってもいい、けど…」
「……ん、じゃあお願い」
食い気味にお願いされた。
「OK,じゃあ取り敢えず、初心者向けのショップ行くか」
そう、これは頼まれたからに過ぎない。彼女は右も左もわからない状態で他に頼れる人物のアテがなく、たまたま近くの俺が都合が良かったので頼っただけ。
本当にただそれだけなのだ。キチンとそう自分に言い聞かせておく。油断するとすぐに顔を出す勘違いの虫を、力ずくで押さえ込む。
以前だったら、こんなに心の中で動揺したりしないはずなのに。やはりあの部室での出会いから、俺は弱くなってしまったらしい。
たとえば、こうして頼まれるとバッサリ断るのが躊躇われてしまうほどには。 そして、そんな俺が、俺は嫌いだったハズなのに。なんでだか、今だけはそんなに嫌じゃないと思えることが、俺にはとても不思議に感じられた。
さて、そんなこんなでショップに来たはいいが、ここである問題点に気づいた。そう、俺はまだシノンのこれからのプレイスタイルについて全く聞いていないという事だ。
GGOではレベル制を採用しておらず、「職業」や「クラス」と言ったような決められた型は存在しない。プレイヤーは六つの
だがその分やり方を間違えると自分のやりたいプレイスタイルに
と、いう旨を伝えたのだが、シノンの反応は芳しくない。おい、ちゃんと俺の話聞いてたよね? 一回しか俺言わないよ?
「…エイトは、どういうタイプなの?」
「俺は、どっちかって言うと
シノンはどうやら違うらしく、このGGOが初のゲームだそうだ。まあ、初めてなんだから悩むよね。なんだかんだいって俺だって最初の
「取り敢えず、何をしたいかでその時の
「やってみたいプレイスタイル…。ねえ、エイトみたいな
「うーん、いや。ぶっちゃけあんまいないな。そもそも、このゲームのシステム上、狙撃ってあんまり向いてないんだよな。居場所特定されると避けられちゃうし…。いや、俺が知らんだけかもしれんけど、あんまりおすすめしないぞ。俺は基本的にマジョリティからははぐれてるからな。現実でも、仮想でも…うん…オールウェイズでマイノリティなんだよ、ははっ…」
「自分で言ってて自分でダメージ受けるのやめなさいよ…聞いたこっちが悪いみたいじゃない。取り敢えず、あんたには友達がいないってことはよぅくわかったわ」
「いやいや、いないことはないからね!?ちゃんといるし! …大体、そういう意味ではシノンだってそうなんじゃねぇの?
「うっ…やめましょうか、この話題は。お互いに傷つくだけだわ」
「………だな」
互いにダメージを与えあった不毛な会話を打ち切り、ゲームのことに話を戻す。
「んで、結局なにがいいんだ? 決まらなければ、先に装備を決めてそっちに合わせるのも手だぞ」
「私、は………じゃあ─────────」
☆ ☆ ☆
現在俺たちがいるのは遺跡と呼ばれる、まあいわゆるダンジョンだ。かつては栄えていたであろう巨大都市は、暴走した機械兵器や、遺伝子操作で生まれた生体兵器なんかが跳梁跋扈する魔窟となっている。
その一体である
「はい、ハズレ。ちゃんと狙え。ここは外のフィールドと違って風とかないから、比較的難易度が低い。
「ちょっと! 私がまだ初心者だってこと忘れてない? それに
「いいから早く、じゃねえとほら、向こういっちまうぞ?」
「〜〜〜ッ!!あーもう!」
言いたいことを無理矢理のみこんで、シノンは、やけくそといった感じで弾丸を放つ。今度は外れず、
「ふふん、どうよ!」
やってやりましたが? みたいなドヤ顔でこっちを見てくる青髪の少女。いや、狙ったの頭ですよね? じゃあダメじゃんと言いたいところだが、とりあえずは良しとしておこう。これはゲームなんだし、グチグチ細かいこと言ってても始まらないしな。
と、思いながら、俺は数日前の出来事を反芻していた。
「────エイトと同じ、スナイパーをやってみたい」
あのあと、そういったシノンを押し問答し、結局その方向で行くことにしてその日は解散となった。後になって考えてみれば、シノンのやるゲームなのだから俺があれこれ口を出すのははっきり言って筋違いもいいところだったのだが、特にむこうは気にした様子もなかったので、いいのだが。
そして、何故かその日からシノンと一緒にGGOをプレイするようになっていた。どちらから言い出したというわけでもなく、なぜかこう、自然な流れでそうなっていた。わけがわからんって? 俺にもわからん。
とりあえずは店で安めの中古のライフルを購入し、銃の扱い方などを軽くレクチャーしてから、遺跡に挑むことになって、こうして今現在までに至る。
基本的にはシノンが狙撃手、俺が観測手としてペアで行動し、シノンの射撃スキルを上げている最中だった。
と、迫りくる
基本的には相手の死角とか、それこそ結構離れた距離から撃っているためほとんどモンスターに襲われることはないが、たまに撃ち損じた敵や背後からの奇襲に備えるためだ。
しかしこうしてみた感じだが、シノンは多分俺と同等か、あるいはそれを上回るくらいに射撃センスにすぐれている。いや、今はまだ言わないけどね? なんか悔しいし。
そりゃ今比べたら俺が勝つだろうが、それは普通に俺のほうが経験があるからに過ぎない。多分、このまま順調に行けば、トッププレイヤーと呼ばれる連中に仲間入りするのも夢じゃないと、思う。
まあシノンとしては他にやるべきことがあるみたいなこと言ってたし、そういうのはあんまり興味無いのかもしれんが。
さっきとは裏腹に、集中モードに入ったのか、次々と敵モンスターを仕留めていく。タァンタァンとリズムよく響く銃声をどこか心地よく感じながら、最後の一体を仕留めるのまでしっかりと見届けた。
「……………お見事」
そう口の中でそっと呟いて、俺はシノンの横顔から目をそらした。真剣にスコープを覗き込むその横顔は触れれば消えてしまいそうなほど、儚く、美しかった。
緊張を解いて息を吐き出すさまを横目で捉えながら、周囲への警戒に戻る。どうやら気付かれてはいなかったらしい。作りものであるはずのアバターに見惚れてたなんて知られるのは、ひどく不愉快で、普通に恥ずかしすぎた。
あと絶対からかわれる。