~探索者たちの備忘録~   作:アルファ@自己満

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【フジの花はココロに響くか?(前編)】

【登場人物】

 

骨喰(ほねばみ) (こころ)

 

容姿端麗、運動神経抜群の九頭竜高校1年生。九重神社の管理をしている。

そのミステリアスな雰囲気と愛想のよさのギャップがあり、男子生徒から人気がある。

 

 

(ふじ) (かい)

 

九頭竜高校3年生。部活の先輩。

端正な顔つきでスポーツ万能、どこかアンニュイな雰囲気を醸し出すため、女子生徒からの視線は熱い。

 

 

千雪(ちゆき)

 

古武術部道場にいる少女。心に懐いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____これは、すれ違う二人を描いた...1つの物語である。

 

 

 

 

 

「こころちゃ~ん!この後カラオケ行かな~い?」

 

「ごめんなさい。先約があるんですぅ」

 

 

1年の教室に、鈴のような声が響く。6月のとある放課後...梅雨の時期には珍しい涼風が、教室のカーテンと少女の髪を靡かせる。

彼女の名は「骨喰 心」。個性のスラム街ともいわれるこの九頭竜高校において、数少ない平凡な女子生徒だ。

強いて彼女の個性を挙げるとすれば、その独特な雰囲気だ。羽織のような制服、背中に背負った日本刀、そして妖狐をかたどった面も相まって、どこかミステリアスな雰囲気を放っている。その為、最初の頃は彼女に話しかける生徒は少なかった。

しかし、いざ話してみれば、鈴のような優しく落ち着きのある声で、優しく返してくれる。そんな彼女は学園内でも人気が高く、特に男子生徒の間では今年の「ミス九頭竜」に選ばれるのではないかという噂がたっている。

 

さて、そんな彼女は、友人の女子生徒の誘いを断り、教室を後にする。

廊下に、彼女のローファーの音が木霊する。心は足早に廊下を進み、古武術部の道場へとたどり着いた。

彼はまだ来ていないようだ...。

心はほぅ...と一息つくと、誰もいない道場へと入っていく。

畳を踏みしめ、奥へと進む。そして綺麗に掃除されたスペースへやってくる。

心は棚を開け、そこから折り畳み式の雀卓と牌を取り出し組み立てる。

そして準備を終え、心が口を開く。

 

「こんにちはぁ。千雪ちゃん」

 

心がそう挨拶をすると、廊下からひょこっと少女が顔をのぞかせた。

少女の名は「千雪」。座敷童子だ。といっても、確証はない。彼女が自分のことをそう言っているだけだ。しかし、心にとって、そんなことは些細なことだ。

千雪はトトト...と近寄ると、対面に座る。

心は丁寧に牌を混ぜ山を積み、丁寧に配っていく。パチリ...パチリ...と牌を切る音が響き渡る

 

「...フジ」

 

ポツリと千雪が呟く。たった一言、それだけでも、彼女の言わんとすることが伝わった。

 

「先輩ですかぁ?今日は来ると思うんですが...」

 

心はそういって時計を見る。時刻は18時を回っていた。約束の時間だ。

 

「ココロ、心配?」

 

「大丈夫ですよぉ。先輩は忙しい人ですけど、約束は守る人ですからぁ」

 

心はそう言って、対面に座る少女に微笑む。千雪はそんな彼女に笑い返す。

 

そうして約束の時間から10分ほど過ぎたころ...

千雪がピクッと反応し、玄関の方を見る。心はそんな彼女を見て察すると、優しく撫でる。

 

「今日はここまでにしましょうかぁ。また遊びましょうねぇ」

 

千雪はその言葉にうなずくと、「...感謝」と言って道場の奥へと消えていった。

心はそれを見送ると、対面の手配を倒し、オープンした状態で再開する。

 

「御無礼...待たせたね」

 

暫く練習していると、声が響いた。高校生にしては低く掠れた、しかし聞きなれた声。心はその声の主に視線を向け、挨拶をする。

 

「藤先輩、大丈夫ですよぉ?」

 

「遅れてごめんよ、ちょっと麻雀部と勝負してたんだ...」

 

「そうでしたかぁ...藤先輩が遅れてくるなんて珍しいなぁって思ってましたよぉ」

 

心の言葉に安心したのか、藤は一息つくと、先程まで千雪が座っていた対面に座る。そうして牌を混ぜ、手積みしていく。山を積み終え、手牌を並べた後、不要牌を切っていく。

心の約束とは、「藤 傀」との麻雀である。

初めは遊びに付き合う程度だった。彼の趣味に付き合うだけ、それだけだった。しかし、それが続くうちに、彼女自身がこの時間を心地よく感じていった。

 

「...上手くなったね...」

 

「そうですかぁ?」

 

「最初に、君と打ったときとは別人...だと思う」

 

「それなら...よかったですぅ」

 

なんてことのない、少ない会話。しかしその時間が、心は好きだった。

静寂の世界に、二人だけの声が響き、また静寂に戻る。

その繰り返しが、心の胸の内を鎮めてくれる。

 

 

「...ロン...御無礼。18000(インパチ)だよ」

 

「あらぁ...」

 

藤が手配を倒す。心は役を確認し、点棒を手渡す。

6500点差...藤の勝利だ。

彼は顔色一つ変えず、腕時計を見やる。

 

「...もうこんな時間だね。今日はこれくらいにしておこうか」

 

心も掛け時計を見やれば、19:30を回っていた。

時間を忘れてしまうほど、熱中していたようだ。

心はうなずくと、卓をたたみ、牌を寄せる。

 

「...最近は物騒だ。送っていくよ」

 

「はいぃ、お願いしますぅ」

 

心と藤は暗くなっていく中、道場を後にする。

 

 

コツ...コツ...

 

アスファルトに2人の靴の音が響く。外はすっかり暗くなっていた。

心はそっと藤を見やる。端正な顔つきにどこか憂いを帯びた目をしており、彼を慕う女子は多い。実際、心のクラスメイトにも彼のファンと謳う子は数人いる。

そんな彼が、いま心の隣にいる。

それが何故なのか、心には覚えがない。強いていうなら彼に自分の事情を話したくらいだ。

心はそんな彼との出会いを思い返す____

 

 

心には親がいない。

中学生の頃だ。家族旅行の帰りにどこかに食べて帰ろうと、夜道を走っていたあの時...

追突事故に巻き込まれた。誰もが目を逸らすほど、凄惨な光景だった。

心は軽い骨折で済んだ。両親が咄嗟に庇い、大事には至らなかった。しかし両親は...

被疑者は20代後半の男女だった。飲酒運転を行っており、平衡感覚を失い対向車線に乗り込んでしまったらしい。

心は恨まなかった。恨む気にすらなれなかった。そんなことをしても、あの人たちは帰ってこないのだから...

 

それ以来、心は笑わなくなった。表面上では笑顔でも、彼女の心は冷たいままだ。喜怒哀楽...感情の一切が、骨喰 心の中から消え去ったのだ。

 

高校に進学し、正式に神社を継いだ。生徒指導部の「西ローランド」、古武術部顧問の「代理四世」に届け出を出し、一週間に二日、公欠を貰うことになった。

 

そんなある日だ。

いつものように部活動を終え、帰り支度をしていた心に声がかかった。

 

「御無礼...少しいいかな?」

 

それが、藤 魁だった。彼の話はクラスメイトの女子から聞いていたため、彼が自分に何の用があるのかわからなかった。

 

「はい、どうしましたかぁ?」

 

心はいつも通り笑顔を作り、愛想よく返事する。しかし、彼の次の言葉に、その笑顔は崩された。

 

「なにか、辛いことがあったのかい?」

 

心は言葉を失った。ちゃんと笑顔を作っていたはずだ。悟られないよう、完璧に演じていた。そのはずだった。しかし、彼は悟った。

けどまだ大丈夫...一瞬動揺したが、まだ彼は自分の事情は知らないはず...このまま隠し通そう...。

心は再び笑顔を作り、明るく返す。

 

「大丈夫ですよぉ?どうしたんですか先輩?」

 

しかし、相手が悪かった。彼は眉を寄せ、問い詰める。

 

「本当に大丈夫なのかい?苦しんでいる後輩を...僕は見過ごすわけにはいかないよ」

 

「なにか事情があるなら...僕も力になるよ」

 

 

 

なぜ彼はこんなに心配するのか。私の事情を話して何になるというのか。

それは今でもわからないままだ。ただ一つだけ...彼のあの言葉に込められた暖かい感情以外は。

それは憐みでも、同情でもなかった。守りたい。救ってあげたいという感情。

それは、心が今まで紡いできた人生の中で、求めなかったもの...手に入らなかったものだった。

 

それ以来、彼とは放課後、暇な時間に麻雀をし、帰り道を歩いている。

不思議と緊張は無い。この関係性に、早くも思考回路が慣れてしまった。

帰りに送ってもらう、先輩後輩、それ以上もそれ以下も望まない。

帰り道で一言二言かわしながら歩く。それでいいのだ。

 

 

鳥居が見えてきた。どうやら回想に浸っているうちに着いてしまったようだ。

 

「では藤先輩、また明日ですねぇ。今日も送っていただき、ありがとうございますぅ」

 

「気にすることはないよ。じゃあ、また明日」

 

そう言って藤と別れる。また独りの時間がやってきた。

しかし、今はこの時間も苦にならない。「また明日」、彼に会えるのだから...。

軽い夕食を済ませ、湯船に浸かる。髪を乾かした後、就寝した。

「また明日」、彼の笑顔を見るために___

 

 

しかし、そんな彼女の平穏は、脆く、そして前触れもなく突然に崩れ去った_______

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