妄想全開なのでご注意ください。
「藤先輩」
心は前に立ち歩く彼の名を呼ぶ。
藤と呼ばれた男は立ち止まる。
「また先輩呼びしているよ。心君」
そう言いつつ笑いながら藤は振り返る。
心はキョトン...としていたが、ハッと気づくと恥ずかしそうに咳払いをする。
「んんっ...ごめんなさい、傀さん」
「ふふっ。君が九頭竜高校を卒業してからもうすぐ1年経つというのに、まだなれないのかい?」
「だって...高校生活を終えても、先輩は先輩のままなんですからぁ。それに、先輩呼びのほうが落ち着くんです」
「そうか、それは嬉しいね。しかし、その先輩後輩の関係もつい先月変わっているけれど?」
薬指に嵌めた「それ」を見せ、傀は意地悪く微笑む。その笑顔に心の顔はすぐさま真っ赤になる。
「おや、どうしたんだい心君?顔が真っ赤じゃないか。熱でもあるのかい?」
「っ...!顔が赤いのは夏のせいです。からかわないでください!いくら傀さんでも怒りますよぉ?」
「ふふっ、すまない。君が感情を出し始めてから、からかうのが楽しくて」
「もうぅ...」
心は頬を膨らませる。傀はそんな彼女を見て口元を隠し笑う。
高校を出てから、傀はよく笑うようになった。高校時代の傀とは雰囲気が違う。しかし、そんな彼も心は好きだ。
そんな傀が、今は心の隣りにいる。それは、この世界へと帰還した心が、密かに想い描いていた夢であった。
「さて、着いたよ」
傀が足を止める。たどり着いたのは、一軒の洋館。フランスの貴族、そして二人の恩師でもある高校教師「代理四世」が住まう館だ。
「さて、行こうか。『こころ』」
「はいぃ、『旦那様』」
二人は照れくさそうに笑い、門を潜る。その握りあった手の薬指には、愛を誓いあった指輪が美しく輝いていた。
「「お久しぶりです。先生」」
傀と心は目の前の人物に頭を下げる。
シルクハットを目深に被り、その顔にはペストマスクをつけている。一見すれば危険な香りしかしないこの人物こそ、高校時代の恩師、「代理四世」である。
代理四世は二人に顔を向け、挨拶を返す。
「ええ、お久しぶりです。結婚披露宴以来でしょうか?」
「はい。お元気そうで良かったです」
「そういう君たちも、変わらず元気そうでなによりです」
会話が弾む。心地良い時間と空間が彼らを包んでいる。
そうして話題は、高校時代へと遡る。
「そういえば、藤君が泣いていた時もありましたね。懐かしい」
「せっ...先生!それは...」
「まぁ、そうなんですかぁ?」
「ええ。心君が意識不明になっていたとき、藤君が今までにないほど取り乱して...私に助けを求めたんですよ」
「こ...この話はもうよしましょう!」
「えぇ〜?もうちょっと聞きたいですよぉ。さっき私をからかったバツです。大人しくしててくださいねぇ」
「ぐっ...くっ」
「ふふっ...ではもう少し続きを話しましょうか」
懐かしむように話す「代理四世」。
顔を赤くしながらも耳を傾ける「藤 傀」。
そして、そんな二人を見ながら、明るく笑う「藤 心」。
そんな彼らは『探索者』。
未知なる存在と相対した、未知を知った者たちである。
きっと、こんな幸せな時間は長くは続かないだろう。だからこそ、二人はこの時間を大切に、そしてそれ以上に、かけがえのない伴侶を守り続け、支え合うのだ。
薬指に嵌めた、婚約指輪に誓って...