-2018年5月2日。東京都内の都立高校。今日行われた全ての授業の終わりを告げるチャイムが校内全体に鳴り響く。G.W後半と言うこともあり、教室の生徒達はガヤガヤと賑わい出す。数人で固まり連休の相談をする者、サッサと教室を後にする者、部活の準備をする者、実に様々。
「彰ー!おーい!!アーキーラー!!」
その喧騒な教室で負けずに声を荒げ人を探す一人の男子生徒。名前は『新堂雅一(しんどうまさかず)』。学校近くの空手道場に通う高校生。この物語の主軸となる人物である。
「聞こえてるよ。うるっさいな。何?」
『彰』と呼ばれた男子生徒。雅一とは小学校からの付き合い。成績優秀、スポーツ万能。実在する『出来杉君』である。
二人とも、老舗MMORPG〈エルダー・テイル〉のプレイヤーだ。
「今日はどうすんだ?inすんの?レベル上げ手伝ってくれよ!」
「またか。今日は塾があるから、やるなら夜だな。」
彰が〈エルダー・テイル〉を始めたのは中学校2年生くらいの時であり、古参と言えなくともベテランの域に達している。
一方雅一はこの1ヶ月位から始めたばかりであり、まだまだ初心者だ。それでもレベルは50くらいまで上がっている。彰や他の友人達の協力による賜物である。
「雅一はどうなんだ?空手道場あるんじゃないのか?」
「G.W中は道場休みなんだ。師範が家族旅行行ってんだってさ。」
ニカニカと笑いながら返事を返す。この人懐っこさが、雅一の魅力である。
「だから今のうちにレベルアップしておきたいわけなんよ!明日拡張パック導入だしさー!その前に上限の90まで!!」
「半日も無いのに40もレベル上げれるわけないだろ。バカですか?EXPポットがあっても無理だぞ。」
エルダーテイルの拡張パック『ノウアスフィアの開墾』の導入が翌日に迫り、雅一のテンションはすっかり上がってしまっている。
教室を後にする者がチラホラと出始めたころ、1人の大柄な男子生徒が二人の教室へと入って来た。
「何だ。二人とも、まだ帰ってなかったの?」
「お!トモ!!ぃよーっす!」
「はは!ぃよーっす!」
大柄な男子生徒の名は『友則』。バスケ部に所属しているイケメンだ。人柄がよく人望も厚い。彼も〈エルダー・テイル〉のプレイヤーである。
「トモ!今日もやるだろ!?〈エルダー・テイル〉!」
「ははは♪悪いな。これから部活なんだ。終わってからで良いなら付き合うけど。」
雅一はガックリとうなだれた。と言うことは、結局集合は夜になりそうだ。
「マジでかーお前らー。夜まで暇じゃんよー。」
「ソロで行けば良いだろ。雅一は『武闘家』なんだから。」
〈エルダー・テイル〉内の戦士職である武闘家は、攻撃力と回避率に優れ、更には自己回復能力まで備わっているソロプレイ向きの職業である。デメリットと言えば、防御力が致命的に低いことくらい。
ふと、友則が周りをキョロキョロと見回した。
「あれ?そう言えば、『龍』と『淳平』は?もう帰っちゃったの?」
『龍』とは、『龍一郎』。『淳平』も含め、彼らの友達であり、『エルダーテイル』のプレイヤーである。
更にもう一人、彼らには『颯太』と言う仲間がいるのだが、彼らとは通っている学校が違うため、ここにはいない。
「ああああああー!!そうだったー!!」
「うるっさいな。いきなり大声出すなよ。」
飛び上がる様に立ち上がった雅一は、何かを思い出した様に頷きながらニカニカと笑い出した。
「いたいたいたー!おれにはまだ仲間がいたー!あいつら三人を誘えば良いんじゃねぇか!!」
ポケットからケータイを取り出すと、LINEの画面を開く。いつも使っているトーク画面で文字を打ち始めた。
「えー・・・『アキバの大神殿集合』っと・・・。」
必要な情報を手短に打つ。送信しようとしたその時。
「新堂!!ここにいたのか!!HR終わったら職員室に来いと言っただろ!!」
「ゲッ!!せ、先生!!」
教師が勢い良く入ってくると、雅一の襟足を掴んで引きずり出した。
「まったくお前は!進級してから弛んでいるぞ!少し説教が必要の様だな!?」
「ええー!!そんなー!アップデート前の貴重な時間がぁぁー!!」
断末魔の様な悲鳴を上げながら、雅一は教室の外へと引きずられて行った。
「バーカ。」
「ははは・・・。LINEは俺から送っておこうか・・・。結局集まるのは夜になりそうだな。」
ーーー数時間後・・・。
脱ぎ捨てられた制服に投げ散らかしたカバン。お世辞にも綺麗とは言えない部屋で、〈エルダー・テイル〉をプレイする少年が一人。雅一である。
「おっしゃあ!ぶっ倒したったぁ!」
高レベルのモンスターを撃破出来たことに大声で喜ぶ雅一。まるで念願の勝利をもぎ取ったかの様なはしゃぎっぷりである。
『うるっさいな。ボイチャで叫び出すなよ。耳が痛い。』
雅一のはしゃぎ声に文句を言ったのは彰だ。ゲーム上の名前は『アックス』となっている。職業は妖術師。使っているアバターは魔法適性能力が高い法義族である。
「なはは!悪ぃ!」
『中々手強いモンスターだったねー。マサ君も随分上手くなったねー!』
続いて発言したのは『颯太』。ゲーム上の名前は『ソウソー』。職業は吟遊詩人。武器攻撃職だが、アバターはハーフアルヴに設定している。エルダーテイルを通して知り合った仲間だ。彰の講習先の友達でもあり、エルダーテイル歴は4年程のベテランだ。
『ソー。甘やかすなよ。こいつは直ぐに調子に乗るんだからな。』
『はは♪そう言うなよ。ナイスガッツだったぜマサ!』
友則のゲーム上の名前は『トモちんo(^ω^)o』で、職業は施療神官。アバターは女性になっている。白くフリルの付いた、露出の高い天使とも魔法少女とも言える格好をしている。本人曰く、「妹の趣味」だそうだが、自身もギャルゲーが好きと自負している。
「そうだろ!?ホラ!やっぱトモとソウは見てるとこ違ぇよ!」
『ま、どっちかってーと俺と10が引きつけてたからって感じじゃねーの?』
『んだな。後ろから小突いてたって感じだべな。』
続いて発言して来たのは『龍一郎』と『淳平』の二人。
『龍一郎』のゲーム上の名前は『D・モン』。本名の『龍』と苗字が『土門』であるため、そこからHNに使っている。職業は武士。「⚪︎⚪︎じゃねーの?」と言うのはリアルでも口癖だ。
『淳平』の名前は『10べー(じゅうべー)』。彼も職業は武士。猫人族のアバターを使う程、無類の猫好きである。
「るっせ!今に見てろよてめぇら!ギャフンて言わしてやるからな!」
『『空手家』なんてサブ職にしてるからいつまで経っても強くならないんだよ。別のに変えたら?』
「ばかやろう!『空手家』が『空手家』をやめるわけねぇだろうが!」
サブ職業『空手家』とは。
素手での攻撃力が増量する攻撃型のロール系サブ職業。レベルに応じて攻撃力が上がって行き、通常攻撃や技のモーションも変化する。また、技発動時にかかるキャストタイム、リキャストタイムが短縮されると言う特典もある。
が、これらの特典は全て素手で有ることが前提であり、正に武闘家のためのサブ職業と言えるだろう。
しかし、サブ職業『武侠』と内容がほぼ変わらない上、武闘家用の武器を持てば『空手家』にならなくても充分攻撃力を補うことができるため、『空手家』をサブ職業に選ぶユーザーはほとんどいなかった。
『で、でもさ。技のモーションもカッコ良くなって来てるよね。さっきの『ワイバーンキック』とか。』
『キシシ!『ワイバーンヌキク』じゃねーの?』
『『ワイバーンヌキク』だべな。』
『『フンヌゥワイバーンヌキク』乙。』
「くっ!てめぇら・・・!覚えてろよちくしょう!」
本来であれば、武闘家の攻撃力から敵の殲滅に一躍買う、もしくは活躍する事は出来るのだが、雅一はエルダーテイルを始めたのは最近であり、他の五人と比べるとレベルも経験も低い。
一方で他の五人は最長で彰と颯太が4年程。残りの三人は1年前後くらいの経験があり、レベルは雅一以外は全員上限の90にまで達していた。彼らからしてみれば、雅一の渾身の一撃も小突いている程度にしか見えないのは無理もなかった。
『ところでどうする?一旦アキバに戻るか?』
『そうだな。オレのMPも大分消費してしまったし、戻って回復するか。』
「軟弱な野郎だぜ!法義族なんか選んだからそうなるんだよ。おれはまだまだ行けちゃうぜ!?」
『お前を援護してたせいでMPが空っけつなんだよバカ雅一。なんならお前だけ先に大神殿に帰るか?』
『キシシ!先に帰れるなんてラッキーじゃねーの?』
「うあー!嘘嘘!ゴメン!ゴメンてぇ!ジュン!助けてー!」
『因果応報だべな。』
『もー。何やってんのー?早く戻ろうよー。』
『はははは♪ホント、しょうがない奴らだな!』
いつものメンツで、いつもの様にはしゃぐ。いつもと変わらない、〈エルダー・テイル〉の世界を満喫している6人が、確かにそこにいた。
後に『大災害』と呼ばれる人智を超えた異常事態に巻き込まれることを、この6人は知らない。知る由もない。
拡張パック導入まで、あと3時間。