-『さて、そろそろ解散するか。』
先ほどの話から1時間後。一度アキバに帰還し、回復を経て、再度フィールドに赴きレベル上げ。そしてまたアキバに戻って回復を完了させた6人。
「え?もう終わり?もういっちょ行こうぜ!」
『バーカ。お前それエンドレスコースだろ。ダメだ。オレ明日午前中から講習あんだよ。』
『ゴメンねマサ君。僕もなんだ。そろそろ落ちるよ。』
『悪いなマサ。俺も落ちるわ。今日の練習キツくてさ。ちょっと眠いんだ。』
次々と発言される離脱宣言に雅一は落胆の色を隠せなかった。
「マジかよお前らー。これからアップデートなのに。」
『まー明日もあるし、ここらがいっちょ退き際ってヤツじゃねーの?』
『んだな。また明日にするべな。』
各々別れの挨拶を適当にしてログアウトし始めた。一人ポツンとアキバの街に佇む雅一。
「どーすっかなぁ。アップデートまでまだ時間あるし。」
おもむろにケータイで攻略サイトを開く。手軽なクエストがないか探すためだ。
「中々ないなぁ。レベルも上げれてお金も入って秘宝級のアイテムも手に入るクエスト。」
クエストを探しながらwebサイトを転々とし、気付けば仲間と解散してから1時間半が経っていた。
半ば諦めていたその時、とある攻略サイトに掲載されていたクエスト情報が目についた。
「お?なんだこれ。」
クエスト名は「囚われの暴れん坊」。世界地図で言うインドの中央辺りにある〈タル・マ・ハータの祠〉のダンジョン。その最深部にいる〈シャルカノン〉と言うモンスターを討伐すると、武闘家専用の武器〈如意金箍棒(にょいきんこぼう)〉が手に入るクエストである。
運営サーバーが日本では無くインドであるため、〈妖精の輪〉を使わなくてはいけない。
「なんだこれ?何て読むんだ?まぁいいや。このクエストなら俺でも行けそうだな!」
別のページを開くと妖精の輪の移動先ターンテーブルが書かれていた。今が丁度インドに行ける時間帯だが、12時を回ると行き先が変わってしまう様だ。
「今何時だ?・・・うお!やっべ!あと20分しかないじゃん!」
パソコンに向かい、取り急ぎ必要な回復や食料アイテムを買い込むと、妖精の輪の場所まで走り出した。
いざ、妖精の輪に飛び込もうとしたその時。
『グゥ〜・・・。』
腹の虫が鳴った。
「腹減ったなぁ。何か食うか。まだ時間あるしな。」
そう言うと雅一はパソコンを離れ、「腹が減っては〜♪」と謎の歌を口ずさみながら台所へと向かった。
家の中の電気は消えている。両親はもう寝てしまったのだろう。雅一には1人、5歳上の姉がいるのだが、雅一が進学と同時に就職を決めて家を出た。口うるさい世話焼きの姉だったが、いなくなってしまうと少々寂しいものである。
「お。ご飯あまってるじゃん♪お・か・ず・は〜♪」
冷蔵庫を開け中を覗くと、目の前に梅干しが現れた。
「げ!梅干しかよ。俺梅干し嫌いなんだよなぁ。なんで買ってくんだよ母ちゃん。」
他にないか物色してみるが、めぼしいものは見当たらない。そうこうしているうちに時計の針は55分を過ぎていた。
「やっべ!まずい!飯は後だ!」
慌ただしく自室のパソコンにかけ戻る。直ぐに操作し、妖精の輪へと飛び込んだ。
雅一は気付かなかった。あのwebサイトはこの10年ほど更新されていなかったことに。
「ふー。間に合ったー。・・・お?」
時計の針が12時を指した。日付が2日から3日へと変わる。
パソコンの画面に文字が現れた。
『アップデートを開始します。』
『アップデートを完了しました。ゲームを再開します。』
少年は後悔する。食事をしっかり摂らなかった事に。
少年は涙する。大切な命が失われることに。
少年は手を伸ばす。弱き命を救うために。
少年は目指す。生まれた故郷に。約束のために。
ようこそ。〈エルダー・テイル〉の世界。『セルデシア』へ。
冒険者よ。君たちを歓迎します。