ログ・ホライズン -ワールドツアー-   作:はにかみ詩

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日本へ帰るために

-「アメリカ・・・?ここはアメリカなのか・・・?」

 

「『アメリカ』・・・ですか?」

 

スタンリーは聞きなれない言葉に首を傾げる。

インドに来ていると思っていた雅一は動揺を隠せなかった。スタンリーに詰め寄る様に聞き返す。

 

「おっちゃん!ここって、ホントにアメリカ(つってもわかんねぇか)・・・んーと。ココで間違いねぇのか!?」

 

大地人であるスタンリーを配慮して、現実世界での国の名前を伏せて直接指差した。

 

「ええ。確かです。大陸地図も同じ様に描かれていますし、間違い無いと思います。」

 

雅一は頭を抱えてうなだれた。

 

「マジかー・・・。どこで間違ったんだー?入り方がまずかったのかなぁ・・・。」

 

「冒険者殿。もしかして、ビッグアップルには妖精の輪で来られたのですか?」

 

スタンリーの言葉に顔を向けて反応する。

 

「え?そうだけど、なんで?」

 

「もし、妖精の輪をくぐってこちらに来られたのであれば、もう一度くぐって戻る事は出来ないのでしょうか?」

 

この事案に関しては雅一も考えたことがある。だが、妖精の輪は全て〈入り口〉になっている。例えば、日本から妖精の輪でアメリカまで来たとして、また同じ妖精の輪に入っても移動先は日本では無く別の地域に出てしまうのだ。

これは雅一がこちらの世界に来る前、彰から何度か教えてもらっていた事だ。

 

「んー。ダメなんだ。何かよくわかんねぇけど、続けてくぐったら危ねぇらしい。」

 

ただ、雅一はそれ程理解していたわけでは無い様だが。

雅一の返答に、まるで自分のことの様にスタンリーは肩を落とした。

ふと、雅一はスタンリーに質問した。

 

「ところでおっちゃんさー。何でおれが〈冒険者〉ってわかったの?」

 

スタンリーはフフッと笑い、笑顔で答えた。

 

「その姿を見ればわかりますよ。〈武闘家〉の冒険者殿ですよね?」

 

そう言われて、雅一は改めて自分の姿を確認した。

こちらの世界に来る前は、Tシャツにスウェットといういかにも部屋着という出で立ちだったはず。

それが黒のインナーシャツの上に革製の防具、その上から袖が破れたジャケットを着ている。下は炎を纏った龍の刺繍が施されたズボン。靴は脛の中辺りまでのブーツ。手には指ぬきの黒い革製のグローブをはめており、確かにどこから見ても〈武闘家〉の様な形をしている。

雅一は自分の格好に見覚えがあった。

 

「ありゃ?この格好、〈エルダー・テイル〉の装備だ。」

 

雅一の目からすればコスプレの様な格好だが、着ている衣服や道具はどれも丈夫そうな素材で出来ており、着心地も悪くなかった。

 

「冒険者の方は雰囲気でわかりますよ。どなたも大地人には無い勇ましい印象がありますから。まぁ、先ほどは随分取り乱されて様ですが。」

 

雅一は頭を掻きながら軽く頭を下げて「いや〜。お恥ずかしい。」と謝罪する。

 

「ところで、どうされますか?お察しするに、ここは目的の場所では無い様ですが・・・。」

 

「うーん。そうなんだよなぁ。とにかくおれは日本に帰らなきゃ。って言っても飛行機とかあるわけ無ぇし。船でもありゃあ・・・。」

 

腕を組み、唸りながら地図を睨みつけていた雅一はハッと何かを閃いた。

 

「もしかして、海を突っ切って行きぁ日本に帰れるんじゃねぇか?」

 

現在雅一のいる位置は現実世界で言うところの〈ニューヨーク〉付近。そこから大陸を横断し、アメリカ大陸の西海岸沿いに出て、船で太平洋を横断すると言う大胆不敵な計画である。この世界にも船くらいはあるだろうと考えていた。

だが、雅一はここからどっちの方向に向かえばいいのか。方向の感覚はわからなかった。

 

「地図さえありゃ、何とかなるかもしれねぇなぁ・・・。」

 

「何かいい案が浮かびましたかな?」

 

一喜一憂する雅一を見て、スタンリーは口を開いた。

 

「冒険者殿。私に出来る事があれば力になりますよ。」

 

スタンリーの言葉に、雅一は驚いた様に顔を上げた。

 

「私は冒険者の方々には大変お世話になりました。いつか何かの形で恩を返したいと思っていたのです。私に出来ることがあれば、何でも言ってください。」

 

スタンリーの言ったことに雅一の心情は揺らいだ。この世界地図があれば、日本に帰れるんじゃないかと思っていた。

ただ、この地図はスタンリーが別の冒険者に作ってもらった物だ。恐らくスタンリーにとっては大事な物だろう。そんな大事な物を譲ってもらえるだろうか。

しかも、雅一は妖精の輪に入る前、ありったけの食料と回復アイテムを買い込んだことで手持ちの所持金が0に近い。地図を購入すると言う手段はとれなかった。

思い悩む雅一に、スタンリーが声をかける。

 

「冒険者殿。どうかされましたか?」

 

意を決して、雅一は顔を上げた。

 

「おっちゃん!頼みがあるんだ!」

 

「はい。何でしょうか?」

 

雅一は勢い良くテーブルに両手と頭を叩きつけた。

 

「この世界地図!おれに貸してもらえねぇか!?」

 

顔を上げてスタンリーを真剣な眼差しで見る。

 

「おれ、どうしても日本に帰らなきゃいけないんだ!!でも、おれ地図も持ってないし、お金も無ぇ!!」

 

スタンリーは少し驚いた様に雅一を見た。

雅一はそのまま訴えかける。

 

「この地図はおっちゃんが大事にしてるのはわかってる!でもこれが無ぇとおれは日本に帰れねぇんだ!だからお願い!お願いします!!」

 

雅一はもう一度土下座する様にテーブルに頭を叩きつけた。

恐らくスタンリーには土下座などの意味はわからないだろう。だが、雅一の必死な姿勢で懇願する想いは伝わったのか、その表情は優しい物だった。

 

「冒険者殿。顔を上げてください。」

 

雅一は以前頭を下げたまま動かない。スタンリーはフーッと一息ついた。

 

「この地図は、もう数十年前に頂いた物で、かなり年季が入っています。私はこの地を離れたことは一度も無いので、この地図が正確に書かれた物かどうかはわかりません。もし、他の大陸に変異が起きていれば、この地図は当てにならないかもしれません。」

 

雅一は少しだけ頭を上げた。やはりこれは大事な地図。どんなに頭を下げたところで、無償で借りる事は出来ない。ハッキリと断られる事を覚悟した。

 

「それでも良いならば、どうぞお持ちください。」

 

「え?」

 

予想とは反対の返答に、思わずスタンリーの顔を見た。スタンリーは先ほどと変わらぬ優しい顔で雅一を見ていた。

 

「ほ!!ホントに良いのか!?おっちゃん!!」

 

勢い良くその場に立ち上がる。

 

「ええ。構いませんよ。私に出来ることが『地図を貸す』と言うことであれば、喜んで力になりましょう。」

 

スタンリーは額縁を外して、中の地図を取り出した。取り出した地図を丸めてヒモで結ぶと、それを雅一に渡した。

 

「地図がかさばる時は、小さく折りたたんでいただいても構いません。ただ、丈夫な紙で描いているとはいえ、古くなっていますので、くれぐれも扱いには気を付けてください。」

 

地図を受け取ると、雅一は丸められた地図を見てワナワナと打ち震えた。

 

「おおお。うおおおお!おっしゃーこれで帰れる!!日本に帰れるぞー!!」

 

喜びを体全体で表現すると、雅一はスタンリーの手を取り、固い握手を交わした。

 

「おっちゃんありがとう!ホントありがとうございます!無事に日本に帰れたら、必ずこの地図を返しに戻ってくるから!!」

 

雅一の握手にスタンリーは笑顔で応えた。

 

「大陸の沿岸沿いに出れば、船が出ているでしょう。道中には獰猛なモンスターも生息しています。長く険しい道のりになるでしょうが、どうかお気を付けて。」

 

雅一は「うん!おっちゃんも!」と元気良く返事を返すと、扉を開いて外へ出た。

歩き出そうとする雅一をスタンリーがとっさに呼び止めた。

 

「失礼!冒険者殿!」

 

雅一は足を止めて振り返る。

 

「別れ際に言うことではないと思うのですが、私の名は『スタンリー』。『スタンリー・プラフォート』と申します。冒険者殿のお名前は?」

 

雅一はスタンリーの方に向き直して口を開く。

 

「おれは雅一・・・。あ。」

 

本名を名乗ろうとしてハッとした。ここは〈エルダー・テイル〉と言うゲームの世界。この世界での名前を、ゲームを始める前に設定していることを思い出した。

雅一はスタンリーを見てニカッと笑うと改めて自分の名を名乗った。

 

 

「おれの名前は『マーサー』ってんだ!また必ず会おうな!スタンのおっちゃん!」

 

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