人生n週目の里香ちゃんは、今世では憂太と結ばれることを諦めたはずだった 作:しらたま大福
n番煎じの里香ちゃん成り代わりネタです。
ただし夢主本人に原作知識がないため、里香ちゃんであって里香ちゃんではない主人公となっております。
何でも許せる方のみ方のみお読みください。
なお、こちらの連載はストックがあるうちは毎日23時頃更新となります!
深く沈んでいた意識が、ふとした瞬間に光の方へと引き上げられる。瞼の裏からでも感じる強い光に目を細めながらも、必死にそれをこじ開けると――。私の人生で必ず1度は見る避難小屋でした。
「あー、……またここからのスタートかぁ」
硬い床の上に寝転んでいたせいか、体中があちこち痛い。凝り固まった体を解すようにゆっくりと体を伸ばせば、この幼い体には不釣り合いなパキパキという乾いた音が関節のあっちこっちから聞こえた。
私の名前は祈本里香。何度も同じ人生をエンドレスループで体験している系の人間である。
さて、皆さんへの自己紹介も兼ねて私の最古の朧気な記憶を語らせて頂こう。私の最古の記憶は、平成から令和の世を生きたどこにでもいる女の記憶である。この記憶は特に特筆した点はない。あえて言うのであるならば、この記憶があるからこそ短命な私がこうして大人びた考えを持てるようになったと言えることだろう。一度目の人生の最期の記憶は、眼前に迫ったトラックの記憶だったので、恐らくトラックに轢かれて死んだのだろう。
そして、2度目の人生が始まった。これは世に言う"転生"というやつだった。転生した私の名前は祈本里香という名前の少女だった。ただし祈本里香として生きた1度目の時、私は前世の記憶を所持しておらず、実質ただの幼女だった。
そんな祈本里香の人生は中々波乱万丈だった。母親は私が5歳の時に急死。小学校入学の2日前に父は私を登山に連れていき、その後私を残して失踪。父方の祖母に引き取られたが、祖母は私が両親を殺したと思い込んで私に辛く当たった。お陰様で私は祖母の事が苦手だ。そんな生活の中、検査入院した病院で私は――運命の出会いをした。
彼の名前は乙骨憂太。私と同い年のちょっと気弱だけど、やる時はバシッと決めてくれる心優しい男の子だ。私は憂太の事が大好きで、彼も私のことが好きだと言ってくれた。幼い私はその言葉が嬉しくて、まるで雨上がりの青空のように照らす憂太の笑顔を独り占めしたいと心の底から思うほど彼のことが好きだった。
『約束だよ。大人になったら里香と憂太は結婚するの』
『いいよ。じゃあ、ぼくらはずーっとずーっといっしょだね』
祖母の箪笥からこっそり持ち出した母の結婚指輪。憂太が私のものだという目に見える証が欲しかった。だから私は――憂太の誕生日に婚約指輪を贈った。
普通は男の子から女の子に渡すものだという事は分かっていた。でも、幼い私はそれを待つことが出来ずに勝手に憂太へと逆プロポーズをしたのだ。今となってみれば、何ともませた子供なのだろうと思う。でも、当時の私はそれで良かったのだ。
そんな相思相愛だった私と憂太であったが、11歳の時に事態は急変する。
私、祈本里香は車に轢かれ――死んだのだ。
あっという間の出来事だった。青信号を渡っていた時、ふと片足が何かに掴まれたような感覚がしたのだ。そのせいで、私はバランスを崩し転んだ。そして不幸なことに、そんな私に向かって車が猛スピードで突っ込んできた。後は一瞬だった。
まるでラズベリージャムのように広がる赤、一瞬のうちに処理落ちしたかのように塗りつぶされた意識の中、何かが絡みついたかのように私を絡めとった。湿ったかのように、温く、どこか愛しささえ覚えるソレに導かれるまま、私の意識はどこかへと行ってしまった。
その後のことは酷く朧気だ、夢の中でふわふわと映画を見ているように、ずーっと憂太のことだけを見ていた。楽しそうな憂太、苦しそうな憂太、怒った憂太、憂太がどんどん大きくなって、男の人へとなっていく。ずっと直ぐ近くで憂太の成長を見守る事が出来る、素敵な夢だった。
でも、そんな夢の中で色々な物が私達の仲を引き裂こうとした。それが煩わしくて、憎くて、私は暴れ回った。辛うじて聞こえた憂太の「愛してるよ、里香」という言葉と、口づけに私は酷く舞い上がってしまった。そして、自分の中の力が膨らみ上がって――弾けた。その後の記憶は酷く曖昧だ。
――
「ごめんね、里香ちゃん。待たせたね」
憂太が一歩私の方へと近づく。それに合わせ、私を掴んでいた"何か"がゆっくりと消えていった。夢を見ていたような視界から、どんどんクリアになった視界へと変化した。ぱちぱちと何度か瞬きをすれば、憂太は驚いたかのように表情を変えた。
私もよくわからず首を傾げていれば、知らない男性がやってきて色々と解説を始めた。それらの話をまとめるとこうだ。どうやら――私は憂太に呪われていたようだった。憂太が私が死んだ事を受け入れられず、私の魂を縛り付けたのだ。憂太は、全て自分が悪いのだと酷く自分を責めたが、私にとってはとても幸せな6年間だったので無問題だ。
「バイバイ、元気でね。あんまり早く、こっちに来ちゃダメだからね?」
「……っうん」
ぐしゃぐしゃに泣いた憂太を抱きしめ、最期には笑ってお別れをした。
こうして私は、無事に成仏したかのように見せかけて――実は成仏していなかった。
解呪された後はもう憂太の前に現れることはしなかったが、ずーっと憂太の傍で彼の事を見守っていたのだ。え、幽霊とか自分の意思でなれるのかって? なんかなれたので詳しいことは何も気にするな。
そんなわけで、幽霊となった私は基本的に何も出来ない。それでも、私は憂太の事を愛していた。だから、彼がいつか他の誰かと人生を歩むことになったら――その時は彼の子供の守護霊になってあげようと、そう思っていた。だけど――。
憂太は、私をずっと愛してくれた。他の誰も愛すことも無く、ただひたすらその生涯を私という存在に一方的な愛を捧げ続けたのだ。
そして、憂太の命が尽きる前に私は彼の前に現れた。今までずっと変わることなく、11歳で時が止まった私の事を視界に入れた憂太は、そっと優しく微笑んだ。その表情は、何十年経って老いたとしても、決して変わることのない愛しい人のものだった。
「里香ちゃん、ずっと僕の側にいてくれたんだね……ありがとう」
「……憂太って、本当に馬鹿だねえ」
「うん、僕は馬鹿なんだ」
「……っ、でもそんな馬鹿な憂太が大好きだよ」
「僕も里香のことを愛してるよ」
私達は、確かに愛し合っていたのだ。何十年と時が経とうと、例え私が死んでいたとしても。これは誰に何と言われたとしても、純愛だ。
「いつか――二人で幸せになろうね」
「……うん」
ゆっくりと目を閉じる憂太の手にそっと私の小さな手を重ねた。感じることないはずの体温を感じながら、そっと私も目を閉じる。
そして、このまま2人仲良く手を繋いであの世に行くかと思いきや――。
気づいたら、また父親が失踪したあの避難小屋で目を覚ましたのだ。起きた私はビックリ仰天、ついでに一週目では思い出すことがなかった祈本里香以前の記憶もセットで思い出したのだ。
「ばんなそかな……」
思わず困惑のあまり口から変な言葉が出てきたが、この小屋には私しかいないのモーマンタイである。
そんな訳で、困惑しつつも始まる祈本里香としての二週目の人生を歩み始めた。根本的には祈本里香としての性格が強いため、相変わらず憂太が大好きだった。そして、人生をやり直すからには今度こそは大好きな憂太との明るい未来を思い描いた。今度は私が死なないように車にも気をつけたし、2度目の人生から見え始めた変な化け物、呪霊にだって気をつけた。でも――どうしても私は11歳を過ぎる前に死んでしまった。
祈本里香が死ねば、今度は特級過呪怨霊・祈本里香としての人生がスタートする。1度目の時はほとんど意識がなかったが、2度目になってからは随分と意識が残るようになった。まぁ、意識が残ってたとしてもバーサーカー状態の自分の制御なんて出来なかったけど。と言うか、誰ですか私の事を「呪いの女王」とか言い始めたの。見た目はグロテスクだけど、一応肉体年齢(?)は11歳なんだけど? せめて、「呪いの姫」にしない?
そんな感じで割と二週目に入ってる私の脳内はハッピーであるが、側は特級過呪怨霊なので恐ろしいですね。おまけに狂化入ってるので、お友達は出来ませんでした。悲しみ……。(怨霊の身で友達を求めるなという意見は聞かない振り)
そうこうしているうちに、特級過呪怨霊・祈本里香は再び解呪された。そして解呪されれば、今度は守護霊としての人生がスタートする。今度は誰にも見えないので、ひたすら憂太の成長を見守るだけの守護霊としての存在だ。今日も憂太は格好いいなぁ……なんて、そんなことを思いながら残りの人生(?)を過ごした。
そして、憂太が亡くなると、また私は祈本里香(人間)として避難小屋からのスタートを送る。
ここら辺で私は気づいた。あれ、何かおかしくないかと? 薄ら覚えた嫌な予感を振り払いながら、私は再び憂太との未来のために色々と手を尽くして、死んで、怨霊になって、守護霊になって、また祈本里香(人間)になって――とエンドレスループ。
ねえ、ちょっと待って欲しい。これ、もしかして終わりがない?? エンドレスサマーならぬ、エンドレスライフですか??
この事実に気づいた時、私は頭を抱えた。今まで頑張って幸せな未来を目指したいけど……ここまでバットエンド(?)続きだとそのうち心が折れるわと。何度人生をやり直しても、1度目で追った死亡フラグとはまた違う死亡フラグが私に襲いかかってきて、非力な私は呆気なく死ぬ。そして、もれなく呪いの女王ルートへと突入。最終的に大好きな憂太は私との純愛を貫き、独身のまま死ぬ。
死に戻りの回数が両手では足りなくなった時、流石にこのままでは不味いと私はようやく気づいた。
憂太の事を愛しているなら、彼の幸せのために私達は出会わない方が良いのではないかと。そこまで思考が回った時、私の耳に何か音が聞こえた。
「誰か居るぞ!」
避難小屋の窓から、複数人の大人が覗いてきた。彼らは目を見開いて手元の紙を見ながら言葉を続けた。
「女の子だ!」
「きっと行方不明だった子供だ!」
今回も捜索部隊の人達に見つけられた。つまり、私はこの後大っ嫌いな祖母の元で切らすことになるのだろう。外から聞こえてくる大人の声に耳を傾けながら、私はゆっくりと目を閉じた。