人生n週目の里香ちゃんは、今世では憂太と結ばれることを諦めたはずだった   作:しらたま大福

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仲直り

 

 場所は移り変わり、東京某所の水族館の帰り道。大きな水槽に、大きなショー用のプールがあった結構立派な水族館の姿に、私は年甲斐もなくテンションが上がっていた。

 色とりどりの魚や可愛らしいアザラシがすいすいと泳ぐ姿は、呪霊などというおぞましい姿のモノを相手にしてきたせいで荒んでいた心によく染みた。

 

 ……何よりも、大好きな憂太と一緒に初めてデートなる事をしたのだ。憂太はやっぱり何年経っても優しい人だ。私が「あの魚が綺麗」だと言えば、展示パネルからその魚の名前を探し出し、ググってさらに詳細な生体などを調べてくれたのだ。憂太が私の為だけにしてくれた……それだけで私は嬉しくなってしまうのだ。

 

「水族館大きくて凄かった……」

「そうだね。向こうの水族館だと結構小さかったもんね」

 

 憂太が言っている水族館とは、宮城にある水族館の事だろう。私たちの地元にあった水族館は小さかったが、学校の行事などで気軽に出かけられるような場所だったのだ。

 

「幼稚園とか、小学校の時遠足とかで行ったりしたよね」

「わぁ、懐かしいね」

「でも、もうあそこ2年前に閉館しちゃったけど」

 

 もう思い出の水族館はない。施設の老朽化に伴い、2年前に閉館し新たに仙台へと移転したのだ。

 

「そういえばそうだったね、もう僕はその頃にはこっちに来てたから新しくなった水族館に行ってないなぁ」

「移転したと言っても、新しい水族館もあんまり大きくないよ」

「え、そうなの?」

「うん」

 

 水族館が出来て少しだった頃、学校の行事で行ったことがある。そう言うと、憂太は「僕が知らない間の里香ちゃんの話が聞きたい」と言葉に出した。

 

「あそこに公園があるから……もし良かったら、もう少し話をしてから高専に帰らない?」

「うん、いいよ」

 

 こうして、私達はもう少しだけ寄り道してから帰ることにした。

 

 

 公園の中にポツリと設置してある東屋で、私達は互いに合わない期間の間に起った出来事などを話し合った。私は主にバイト先での話ぐらいだが、憂太からは出張で海外に行ったときの話などを聞いた。

 私達の間には、久しぶりにゆっくりとした時間が流れていた。その心地よい雰囲気にまどろんでいると――憂太は突然声色を変えた。

 

「里香ちゃん」

「どうしたの憂太」

 

 目の前に座った憂太は、改めて姿勢を正して私に向き合った。その顔は酷く落ち込んでいて、何だか元気がなかった。

 

「ごめんね」

「一体何を謝ってるの? 別に憂太は何も悪いことしてないでしょ?」

 

 憂太が謝る理由が分からない。あの久しぶりに憂太に再開した夜の事だって、きっと憂太が来てくれなかったら……私は呪霊に殺されていた。それを助け、尚且つこうして呪霊と対抗する術を教えてくれたのは憂太だ。何を謝る必要があるのだろうか?

 

「ううん、僕は里香ちゃんを迎えに行くだなんていっておきながら……こんなにも待たせちゃった」

「……えっと、何を言っているの?」

「里香ちゃん――本当はループしてる記憶があるんでしょ?」

「――っ」

 

 憂太からの直接的な核心をとる質問に、私はひゅっと息を飲み込んだ。黙る私に、憂太は畳み掛けるように言葉を続ける。

 

「ねぇ、再開した夜のこと覚えてる?」

 

 ……忘れるわけがないよ。だってあの時、私にとってやっぱり憂太はこの世界で1番かっこいいヒーローだって再確認した日だもん。そんな日を、簡単に忘れられるわけがなかい。

 

「僕がプロポーズした後、里香ちゃんは「僕の名前を知らない」って言ったよね」

「……うん」

「その時、里香ちゃんは横髪を耳にかけてたよね。それ――里香ちゃんが嘘をつく時にする仕草なんだよ」

「――えっ」

 

 ……私、が……嘘をつく時の仕草? そ、そんな……わたし、無意識のうちに……そんな癖があったの?

 

「里香ちゃん――本当は覚えてるんでしょ?」

 

 わなわなと震える私に、憂太は優しい表情(かお)で私の心臓へと確信という刃を突き立てた。

 

「……っ」

 

 ……憂太。全部わかった上で、私のおままごとに今まで付き合ってくれていたんだね。

 

「……ごめんね、憂太」

 

 私は憂太に嘘をついた。

 これは今でも私を思ってくれている憂太を傷つける嘘で、大義も何もない私のわがまま。憂太が許してくれなくても――私は彼に謝らなければならない。

 

「私、もう憂太が1人で生きてるところを見たくなくて……私は憂太との未来を諦めた」

 

 憂太の事が好きで好きでたまらない。だから、何度ループしたとしても私は憂太との未来を掴み取るために必ず憂太に会いに行った。

 でも……そろそろこの終わりのないゲームに疲れてしまった。

 

「――だから、私はあの日病院の裏庭に行かなかった」

「里香ちゃん、それは僕も同じだよ」

 

 憂太のまさかの申告に、私の口からは間抜けな「え?」という言葉が滑り落ちた。

 

「でもね、あの日僕が裏庭に行かなかったのは、里香ちゃんとの未来をつかみ取るためだよ。僕はね――今回はもっと僕が強くなって、里香ちゃんを守れるぐらい逞しくなってから迎えに行こうと思ってたんだ」

 

 憂太が私の手を取る。

 

「里香ちゃん、大好きだよ」

 

 優しい憂太の声が私に愛を囁く。あぁ、そんな声で言われてしまえば――もう自分の気持ちに蓋なんてできない。

 

「私も……憂太が大好き」

 

 無意識のうちに、私の口からは憂太に対する思いが溢れた。私の心の奥底から湧き上がる、憂太に対する愛しいという感情。それを一度認識してしまえば、もうこの気持ちを――偽る事なんて出来ない。

 

「やっぱり、憂太じゃないとダメだよ」

 

 これが――何十回も死に戻りした私の最終的な判断。

 やっぱり、どう足掻いても最終的には憂太との幸せな未来を望んでしまうのだ。大好き、大好きだよ憂太。たとえこの思いが憂太の事を呪ってしまうとしても、私はこの思いを止める方法を知らない。いや、止めようとも思わないのだ。

 

「僕達、両思いだね」

 

 そう言った憂太が、そっと私の頬を撫でた。心地よい体温が頬を滑る感覚に、目を細める。そんな私のまるで猫のような態度に、憂太もそっと目を細め色っぽい表情を見せた。そしてゆっくりと憂太は目を閉じ、その顔を近づけ――。

 

「……ごめん、ちょっと刺激が強いから待って」

 

 憂太と私の唇が重なる前に、私はとっさに自分の手を間に挟みガードする。いや……むりむり、憂太がかっこよすぎて今キスなんてしたら私死んじゃいそう。

 

「あの……やっぱりお友達からのスタートでお願いします」

 

 両思い=恋人関係になるのはちょっと早急だと思う。私も一応何十週も人生ループを繰り返している身で中身はそれなりにおばあちゃんであるが……ソレとこれとは話は別。私の恋愛経験は小学校低学年レベルなのだ。

 それをいきなり、その……大人な恋愛に移行されても困る。精々おままごとレベルから始めないと、私のこの小さなキャパがパンクするに決まっている。

 

「ゆ、憂太が大きくなってるし、イケメンすぎて……その、恥ずかしいの」

「里香ちゃん……」

 

 私の一杯一杯な態度に、憂太は何とも言えない表情を浮かべている。だが、憂太は優しくてとても良い子だ。きっと最終的には私のこの我が儘だって受け入れてくれるに決まっている!

 

「流石にそれは受け付けられないよ」

「え?」

「ねえ里香ちゃん、僕がどれだけこの時を待っていたか知ってる? 少なくとも今世では17年も里香ちゃんの事を待ってたんだよ。そしてようやく意地っ張りな里香ちゃんが素直になって僕に愛を囁いてくれたのに……それを今さら待ってだなんて虫のいい話だと思わない? 第一僕の里香ちゃんに対する愛がその程度で止められるぐらいだと――」

「ご、ごめんなさい!」

 

 私は思わず謝った。

 

 結局私は憂太の勢いに呑まれ、そのまま憂太と交際することになった。(私、いつか憂太の色気に殺されるかも知れない)

 

 その後、色々ありルンルン気分の憂太と、どことなくボロボロ(比喩表現)な私が仲良く手を繋いで高専へと帰ったら、2年生の皆が「ようやくくっ付いたかバカップル」と言いわれたのであった。

 

 

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