人生n週目の里香ちゃんは、今世では憂太と結ばれることを諦めたはずだった 作:しらたま大福
憂太との病院での初めての出会いイベントをキャンセルし、なるべく小学校でも関わることがないように尽力した。そのおかげで、私は例の魔の11歳を無事に突破し、ついに17歳へとなった。
高校生になった私は、杉沢第三高校へと進学した。本当はもっと上の高校を目指せたはずなのだが……何だか私の第六感的なものが、杉沢第三高校以外に進学すると死ぬぞと訴えかけてきたのだ。とにかく私は、憂太ともちゃんと知り合ってないうちに死にたくはなかったので、大人しく志望校を杉沢第三高校へと変えた。ちなみに伊達にエンドレスライフを過ごしてきた訳じゃないので、受験は楽勝でした。
そんな訳で、とりあえず第六感に従い進学してみたものの……なんとこの高校、呪霊がめちゃくちゃ多かったのだ。あっちにウジャウジャ、こっちにウジャウジャ。多分そこまで等級は高くないものの、数は割と多い。まるで呪霊のバーゲンセールかのようだった。
でも残念ながら、私は特級過呪怨霊・祈本里香じゃない限り非力などこにでも居るか弱い女の子だったのだ。いくら「呪いの女王」なんて呼ばれた事があっても、ただの祈本里香は人間なのだ。
それこそ憂太みたいに、呪霊を祓ったりなんかは出来ない。なので私に出来ることといえば、呪霊達に"見えている"と悟られないようにすることだけだ。それだけ出来れば、あとは殆ど害などはない。(見た目のせいでメンタルは多少削れるけど、生きてればモーマンタイだ)
こうして、呪霊達に気取られないようにしながら、私は高校入学と同時にバイトを始めた。バイト先は初老の夫婦が経営する、隠れ家的な小さな喫茶店。旦那さんの入れる美味しいコーヒーと、奥さんの焼く優しい味のケーキが売りの喫茶店だ。昔からあるその店は、中々常連さんも多く、フレンドリーなとてもいい店だった。基本的に憂太以外の人間に対してそこまで何も感じない私ではあったが、オーナー達や常連さんの事は嫌いではない。こういった感情の変化を実感すると、私も随分大人になったなぁと感じた。
何より、バイトに打ち込むことによってあの大っ嫌いな祖母と顔を合わせる時間が削れるのは大きい。エンドレスライフを送る中で、大っ嫌いのいな祖母のいなし方は早々に身につけていたが、魂に染みついた嫌悪感という物は簡単には拭えるものでは無い。こればかりは何度生まれ変わっても治ることは無かった。
ちなみに、憂太とは中学の時に離れてしまったので、その後の行方は知らない。多分憂太の事だから、きっとかっこよく成長して、可愛い恋人とか出来ちゃったりしているのかなぁ。
ちょっとだけ傷んだ心に気付かないふりをして、小さく息を吐いた。私の心の中には、相変わらず憂太が大半を占めている。自分で諦めたはずなのに、未だに定期的に憂太の事を思い出しては1人でしょげてしまう。きっとこの先、憂太以上に好きになる人なんて現れないのだろう。
「……はぁ」
遠くに見えるラグビー場、今日もうじゃうじゃと呪霊がわんさかいる。相変わらずなその様子にため息をついていると声がかけられた。
「あれ、祈本先輩どったの?」
その声に振り向けば、派手な髪色をした有名な1年生が立っていた。彼の名前は虎杖悠仁、とんでもない身体能力を持ったある意味やばい後輩である。
「あぁ、虎杖君。ちょっと疲れただけだから大丈夫」
「あー最近先輩、色々と忙しそうだったっすもんね」
「まあね」
彼と話すようになったきっかけは、確か中学が一緒で、何年生かの時に私がベンチに忘れた本を拾ってくれた事だったような気がする。基本的に私の中心は全部憂太なので、憂太以外のイベントの記憶は曖昧だ。まぁ、これもしょうがない話だよね。だって私の目には基本憂太しか写ってないから。
うんうんと自分に言い訳するように言い聞かせていると、虎杖君は「あ!」と言った後ポンと手を打った。
「そうだ! この間センパイにちらーっと見せた箱あったじゃないっすか?」
彼のその言葉に、少し前の事を思い出してみる。そうすれば、私の記憶の中に彼が言ったことに該当する記憶が出てきた。
三日前ぐらいの放課後、バイトに行くために歩いていれば、百葉箱がある方から虎杖君がやってきたのだ。彼から何んとも言えないなんか妙な違和感を感じていると、彼はそんな私の視線を敏感に感じ取ったようでヒラヒラと手を振ってきたのだ。
そして、「先輩見てくださいよ〜!」なんて言いながら、その箱を見せてきたのだ。私の第六感が、アレはやべえやつだと告げていたのでそっとふーんと軽く話題を流しました。
「……あの不気味な箱?」
「アレの中身、今夜先輩達が夜の学校で開封するって張り切ってるんスよ」
「うわぁ……オカ研って本当に物好きだね」
「先輩達、そーゆーの怖いくせに好きなんで」
怖いもの見たさはわかる気がするけど、私は自ら死亡フラグに突っ込んだりしないので絶対にやらないけど。まあ、私は一応人生においての大先輩なので一応彼らに注意しておこう。
「"好奇心は猫を殺す"っていう言葉があるから気をつけてね」
「言っておきまーす」
ビシッと敬礼を決めた虎杖君が、ふと時計に視線をむけてから「ゲッ、そろそろ行かねえと!」と言った。
「じゃあ、先輩俺じーちゃんの見舞い行くんで!」
「お疲れ様、気をつけてね」
「先輩も意をつけて帰ってくださいよー!」
元気に手を振る虎杖君を見送ってから、私もバイトに行く為に歩き出した。何だか少しだけゾワゾワする背筋の悪寒に気づかない振りをしながら――。