人生n週目の里香ちゃんは、今世では憂太と結ばれることを諦めたはずだった   作:しらたま大福

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同級生

 

 東京にやってきた次の日。女子寮に迎えに来た憂太と共に教室へと向かう。あらかじめ用意されていた呪術高専の制服に身を包んだ私の姿を見た憂太は「可愛い」と頬を緩めて褒めてくれた。むずむずとした気持ちを抱えながら二人で今日も手を繋いで登校した。

 

「憂太~久しぶりだな」

「しゃけ、しゃけ」

「出張の間に身長伸びたな」

 

 教室の中には、二人の男女とパンダがいた。そう、パンダだ。あの動物園とかにいる人気者のパンダ。決して「パン」だではない。動物のパンダである。……ここって動物園だっけ?

 

「皆久しぶり、元気そうで良かった」

 

 憂太は何も変なことなんてないかのように、二人と一匹へとにこやかに挨拶をした。……え、もしかしてここではパンダがいることなんて当たり前なの? ぐるぐると思考が回る、色々な仮説が脳裏に浮かんで消えていく。気分はスペースキャットである。現状ぶち当たってるのはキャットじゃなくてパンダの怪だけど。

 

「なぁなぁ、所で憂太の後ろに隠れてる女の子って……」

「あぁ、皆にも紹介するね! 彼女が祈本里香、僕の婚約者だよ」

「お、お友達だよ!!」

 

 こ、婚約者なんていう紹介はまだ気が早いよ!そんな事を思いながら憂太の制服の袖を引っ張れば、彼はニコニコしながら「落ち着きなよ」と宥めてきた。

 

「へー」

「お前が例の……」

「ツナ……」

 

 私の前にたちはだかるパンダと2人は、じっと私の顔を覗き込んできた。その値踏みするかのような視線に、ひくりと口の端がひきつるのを感じた。

 

「憂太のコレか……」

 

 パンダはそう言って自分の小指を立てた。それってアレでしょ、彼女を表現するやつでしょ?

 というか、彼女をそう表現するのって結構古くないか? と思ったが、初対面の人(?)にそう指摘できるほどツッコミ属性や関西の血(偏見)がある訳でもないし、メンタルもそこまで強くないのでそっと黙った。

 

「随分小さいなぁ」

「里香ちゃんは小柄だからね」

「明太子!」

「め、明太子?」

 

 脈略のない突然の「明太子」に思わず聞き返してしまった。いや、どうして突然明太子? ……訳が分からないよぉ。

 そんな私の疑問に、答えたのはなんとパンダだった。

 

「あぁ、こいつは呪言師なんだ。言葉に呪力を乗せるから、他人と自分のために語彙を絞ってるからおにぎりの具しか喋らねえ」

「しゃけ!」

「まぁ、そのうちお前も慣れるよ」

「な……なるほど?」

 

 7割方は理解できなかったが、とにかくおにぎりの具しか喋れないという事だけは分かった。

 

「あ、せっかくだから皆里香ちゃんのために自己紹介してほしいな」

「おう。私の名前は禪院真希だ。苗字は嫌いだから、真希と呼んでくれ」

「こっちのおにぎりの具しか喋らないヤツは、狗巻棘だ」

「ツナ、ツナ!」

「で、俺はパンダだ」

 

 ポニーテールの女の子が、禪院真希さん。マッシュヘアーのおにぎりの具が狗巻棘さん。そしてパンダが――パンダ?

 

「……あの、見れば分かりますけど」

「パンダ君は、名前もパンダなんだよ」

「……パンダが、パンダ? パンダの名前がパンダで、パンダ?」

「パンダのゲシュタルト崩壊だな」

「それな」

「しゃけ」

 

 パンダの名前はパンダということなのか? ……分かりやすくていいと思うけど、色々と不便なんじゃないのかな?

 

「まぁ、そのうち慣れる」

「は、はぁ……」

「里香、改めてよろしくな」

 

 真希さんが私に手を差し出した。その手にそっと手を伸ばせば、ぎゅっと握られた。……すごい、これが初めましての握手と言うやつか!

 

「えっと、真希さんよろしくお願いします……」

「おい、私達は同級生であり仲間だ。堅苦しい言葉遣いなんてしなくていい、気軽に真希って呼べ」

「わ、分かった」

 

 こ、これ……すごく友達っぽい。初めての憂太以外の友達っぽい会話に、少し私の心は躍った。そんなこんなで、これから仲間となる2年生の皆と交流を深めていればチャイムが鳴った。チャイムの音と共に教室の扉が開き、一人の男性が入ってきた。

 

「おーいお前ら、出席取るぞ」

「あ、日下部だ」

「あの人が、僕達の担任の日下部先生だよ」

 

 隣に座った憂太が、教卓に立つ厳つい顔の男性の紹介をしてくれる。どうやらあの人が私達の担任らしい、てっきりこの間いた目隠しの五条先生なる人物が担任かと思っていたが、違うようだった。

 

「この間の人は?」

「五条先生は1年生の担任」

「なるほど」

 

 うんうんと納得していると、日下部先生が空いている机に座っていた私に視線を向けた。

 

「早速編入生来てたか」

「お、おはようございます……」

「おはよう、しっかり来てるようで良かった」

 

 パンパンと日下部先生は手を叩いた。

 

「さて、多分乙骨から説明があったと思うが、今日から転入生の祈本里香が加わった。通常であるならば、今まで呪術師界に関わったことがないヤツは、一年生に転入になるんだが――今回は特例らしい」

 

 ちらりとこちらへ視線を寄こす日下部先生に、思わず肩を竦めてしまう。はい、大体憂太のワガママのせいですね。本当に申し訳ない……。

 

「で、流石にペーペーをいきなり2年に突っ込むのは可哀想なんで、助っ人を用意した」

「……助っ人?」

「誰だ?」

「高菜?」

「誰か暇な奴っていたっけか?」

 

 一同は皆首を傾げていた。高専の内示情報はよく分からないがきっとこの態度を見るに、そんなに暇な先生なんて居ないのだと思う。確か、術師はマイノリティな職業だって聞いてたし、その中からさらに教職に就こうだなんて考える物好きはあまりいないのだと思う。

 

「入ってこい」

 

 日下部先生の声と共に、教室の扉が開いた。黒いウィンドブレーカーに身を包んだハーフアップの男性が、教室の中へと入ってきた。

 

「やあ皆、おはよう」

「はいこちら、特級呪術師の夏油傑先生だ」

 

「……は?」

 

 隣に座っていた憂太から、物凄く低い声が聞こえた。……え、憂太どうしたの??

 

「夏油先生は、先日まで長期任務で不在だったが……今回ようやく終わって帰ってきたらしい」

「しばらくはこちでのんびりしようと思った矢先に、悟に捕まってね。面白い子が入学して来たから、任せるって言われてしまったのさ」

 

 にこやかに挨拶する夏油先生は、見慣れない顔である私を見つけて「キミが祈本里香ちゃんだね、今日からよろしく」なんて朗らかに挨拶してきた。

 

「えっと、よろしくお願いします」

 

 夏油先生と握手をしようとした瞬間――私の手首を憂太が掴んだ。

 

「……ダメです」

「ん? 何がダメなんだ?」

「夏油……センセイと、リカちゃんを二人っきりなんてさせません!! 無理です!!」

「おい、憂太落ち着けよ」

「明太子!」

「大丈夫、僕はとっても落ち着いてるよ。でも男には決して引けない時があるんだ!!」

「パンダ!!」

「おう!」

 

 夏油先生へと掴みかかる勢いでダッシュを決めようとした憂太を、パンダが羽交い締めにした。

 

「パンダ君、離して!!  僕にはやらなければならない事が!!」

 

 さすがに昔よりムキムキマッチョになった憂太でさえも、パンダの力には勝てないようだ。バタバタと手足を動かしながら必死にその拘束を解こうと藻掻いていた。

 

「……お前、本当に乙骨に嫌われてるな」

「うーん、……特に何もした覚えが無いんだけどなぁ」

 

 憂太と夏油先生は仲が悪い。里香は理解した。(ダジャレか)

 

「前世で嫁でも寝取ったんじゃねえか」

「ありえる~。憂太せめて殺るなら、日下部が見てないところで殺れよな」

「しゃけしゃけ」

「……これ、私は憂太に刺されるのが前提なのかな?」

 

 多分夏油先生は碌でもない人なんだと言うことは、この会話の流れで察した。夏油先生を刺そうとする憂太と、それを止めるパンダ達がわちゃわちゃとしている中、ボーッとそれを眺める私の肩にポンと手が置かれる。

 

「祈本、ストッパーよろしくな」

「……え?」

 

 日下部先生、全てを私に投げるのはどうかと思います……。誰か助けて。

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