人生n週目の里香ちゃんは、今世では憂太と結ばれることを諦めたはずだった 作:しらたま大福
夏油先生から、伏黒先生に変わって早くも1週間。私の呪具は、英国紳士が使っているようなかっこいい杖となった。どうして杖になったかというと、遥か昔カードをキャプターする春の花の名前の女の子のアニメが大好きで、その子に憧れて少しバトンをかじってみたからだ。自分に合う呪具を探すために、伏黒先生が持っていたコレクションを何個か持ってみた結果、杖がちょうどバトンと同じくらいの長さで妙に手にしっくりときたのだ。
まさかここで昔好きだったアニメが役に立つ日が来るとは思わなかった。ありがとう、さ〇らちゃん……。
ただひとつ言うのであるならば、見た目がカッコよすぎて憂太が「里香ちゃんにはもうちょっと可愛いやつの方が似合うんじゃないの? 伏黒先生、もっと可愛いやつないんですか?」と詰め寄る憂太に、「ある訳ねえよ」と伏黒先生が突っぱねて軽く険悪なムードになってしまった。そんなことで喧嘩しないで欲しい。
まぁ確かに、私まだ肉体だけはピチピチの女子高生だから、下手にオシャレな杖を持つとちょっと怪訝な目で見られるか、厨二病(お年頃)的な思考回路で格好つける痛い子に見えるかも知れないけどさ。(そんな目で見られるのは嫌だから、普段はバトンケースにしまって憂太と同じように背負っていることにした)
ちなみにケースに入ってても呪具には変わりないので、そのままケースごと殴っても祓えるからとっても便利である。
パンパン、と夏油先生が手を打ち鳴らす。その音に釣られて先生の方へと視線を向ければ、どこか胡散臭さがにじみ出る笑顔でこう言った。
「里香、憂太、お疲れ様。そろそろ高専に戻るよ」
高専に戻る……? 今、夏油先生は高専に戻ると言ったか?(大事なことなので二回繰り返す)
「え、……もう戻っていいんですか?」
「うん。里香はもう準2級ぐらいの呪霊だったら祓えるようになったし、後高専の方でちょっとトラブルがあったから戻らないと」
「トラブル?」
夏油先生の言葉に私は首を傾げる。
「憂太にも関係があるから、ここで説明しておくね」
憂太にも関係のあるトラブルとは一体なんだろう? 二人で首を傾げていると、夏油先生は神妙な表情で口を開いた。
「実は先月、一年の虎杖悠仁が死んだ」
「え?」
あのめちゃくちゃ元気だった虎杖君が……死んだ? 彼は少しというか、大分普通の一般人よりも丈夫だった。そんな彼が死んだって……。
「この件には――恐らく上層部が関わっている。普通だったら入学したばかりの一年生をあんないつ特級が出てくるか分からない任務に突っ込むわけがない」
夏油先生は目をスっと細めた。
「両面宿儺は虎杖悠仁の体を使い結果的には特級呪霊を祓った。だが、宿儺は虎杖悠仁の心臓を自ら抉り取り――虎杖悠仁は死亡」
「……そして、虎杖君は宿儺となんらかの縛りを結んで蘇生したんですね」
「当たりだよ」
心臓抉り取って死んだのに……生き返ったとか。呪いの王凄すぎでは? 心臓直せるぐらいの能力を持ってるとか……特級呪霊って本当に怖いね。(ループしている私がこんなこと言うのもどうかと思うけど、私の場合は気付いたらループしていた系だから別枠だよね)
「そんなわけで、せっかく生き返った悠仁をこのまま馬鹿正直に上に存在を報告すると、また再び彼は命を狙われる羽目になるだろう。だから、今上層部が彼が死んでいると思っているうちに修行をつけてパワーアップを図ろうという訳だ」
なるほど、薄ら察していたが呪術師界も上層部が腐っているということなのだろう。どの時代にもそう言った碌でもない輩がいるものなんだなぁ。
「その修行に僕も参加しろってことですか?」
「そうだよ、里香もそろそろ立派になったし、区切り的には悪くないはずだ」
「確かにそうですね……」
憂太は「そうですね」と言ってはいるものの、その表情にはでかでかと「心配です!!」と書かれている。まあそれもそうだよね、私はつい数ヶ月まで今世はただの一般人だったもの。でも、いつまでもここで凄い人達を独占して修行をしている訳にもいかないからね。
私は、憂太に「大丈夫」という気持ちを込めてアイコンタクトを送った。そうすれば、憂太は「しょうがないなぁ」と言わんばかりにその眉をぺしょっと下げた。(そんな私たちの姿を生暖かい目で見守る夏油先生の姿は見ないふりをする)
「あぁ、悠仁の生存はごく一部の人間にしか知られてないからうっかりバラさないでね」
「はい」
返事を返す私と憂太に、夏油先生は満足そうに頷いた。
「あ、そうだ」
ふと思い出したかのように先生は声をあげた。そして、「どこにやったかな」などとブツブツ独り言を言いながら、自らの懐を漁り始めた。そして目的のものを掴んだ彼は、その2枚の紙切れを私達の前へと差し出した。
「二人とも、これをあげるよ」
夏油先生の手にあるのは、海の生き物が描かれた紙切れ2枚。イラストの隣には都内にある水族館の名前が印刷されていた。
「これは……水族館のチケット?」
「どうしてこれを?」
私と憂太の訝しむ声に、クスッと笑った夏油先生。
「里香は東京に来て直ぐに任務に送り出されちゃったから、ろくに観光してないでしょ?」
「……確かに」
一日目は学校の案内、二日目は高専へ登校し、そのまま憂太の長期出張~お荷物の私を添えて~が始まってしまったため、東京観光なんて全くしてない。
東京なんて、中学の時の修学旅行で来たきりだ。
「せっかくだから、二人でデートしてきなよ」
「で、デート!?」
デートって、あのデート!? あの男女が共に出掛けてふふふ楽しいねって笑いあったり、手を繋いでポッと赤くなったりするあの甘酸っぱいやつですよね……!!
「夏油センセイ……珍しくいい事しますね」
「今日も私に対する憂太の扱いが酷い」
「自業自得ですね」
私は何も憂太にした覚えがないんだけど!!という悲痛な夏油先生の叫び声が森にこだました。