旅の終わりの、更にその先の物語。 作:しろまち
・ペルソナシリーズ・トリニティソウルのネタバレ配慮していません。
・時系列無視、自家設定、捏造設定多々。
・トリニティソウルの本編内容と展開が異なります。
・注意書きが前置きも無く増えます。
・ペルソナシリーズの登場人物達は全員出る訳ではありません。
・pixivにて先行投稿。
0話:キタロー&ハム子視点
大体は慎orキタロー&ハム子視点。
目を閉じた、その瞼に。
……輝く蝶が通り過ぎた。
『――……次は
音楽を流すイヤフォン越しに、電車のアナウンスが聞こえて来る。
知らない駅名だ。窓ガラス越しに映る景色も見覚えは無い。
行き先は知らされども他には何も分からず控えめに揺れる電車が少し高い建物の陰に入ると、車内へと反射したガラスを通して少年と同じく外を見る少女と目が合った。
音楽が次の曲へと変わる。流れる景色と共に視線が流れて隣に居る少女へと移り、互いに直接顔を見合わせた所で目の前のドアが開いた。
綾凪駅と繰り返すアナウンスを背景に、乗客が次々と電車から降りて行く。それに半ば押し出されるようにして少年と少女も電車から降り、駅から出た。
外は既に陽が暮れて、暗くなり始めている。
元々そこまで往来も盛んでないのか、それとも時間帯の為か、行き交う人々は全く居ないという訳ではないがとても多いというまでもいかない。勿論、目の前で通り過ぎる人々も、駅の外も、少年と少女には見覚えの無いものだった。
見知らぬ街で、声を掛けて来る者は居ない。駅前のほぼど真ん中で突っ立った姿に怪訝な目を向けていく者は居るが、それだけだ。まるでその他の人々と同じように、ただの通行人のように思われているようだった。ただ行き交う人々を見ているだけでも時間は過ぎ、傾いていく陽につれて影も伸びていく。
そうして幾程経っただろうか、実際はそこまで長時間経っている訳でもない中で、少年は少女と共に歩き出す。
首許から垂らしたイヤフォンを耳に掛け、プレーヤーのスイッチを入れる。充電はフル。懐かしくも聞き慣れた音楽が流れ、見知らぬ街のざわめきとを隔てる。
知らぬばかりの中で、よく馴染んだ音。しかしそれを引き裂いたのは、プレーヤーの音量よりも高く大きく鳴り響くサイレンの音だった。
けたたましいサイレンの音が重なり合い、プレーヤーの音楽どころか他の物音すらも遮って足下を震わせる。足元から伝わる鳴動の気配が膝から指先、そして心臓を震わせるのとほぼ同時、視界に映った揺らめきに少年と少女は走り出していた。
「ふぁあ……はぁ、ダル……って君達!? そっちは通行禁止――」
擦り抜けた刑事らしき男の制止が背中に聞こえて来たが、それに耳を傾ける事無くただ走る。
夜陰を染める赤色のパトランプに明瞭としないノイズ混じりの無線、サイレンの音と混じり合う中で歩道橋の階段を駆け上がった。
中段の踊り場から、橋桁まで。段を上がる毎に歩道橋全体が大きく揺れ、足裏から響く振動も動かす身体と同じく鼓動を跳ね上げさせる。
夜闇を照らす筈の電灯は明滅を繰り返し、やがて微かな火花を散らして消えて一段暗闇へと誘う。
そうして周囲の照明が落ちた歩道橋の橋桁上に最初に見えたのは、倒れ伏した警察官らしき人々と、見知らぬ男の背中。そして、その男に組み伏せられた女性と――中空に揺らめく「もの」だった。
半透明の人型らしき「もの」が、同じく半透明の女性型の「もの」を組み伏せた女性から引き剥がすようにし、黄色めいた幾筋の糸で絡め取って己が内に取り込もうとしているように見えた。
その行為がどのような名を持ち、何の意図を以て行われるのか、少年も少女も知らない。だが、その行為によって引き起こされる意味を、少年と少女は知識を越えた領域で理解した。
したがって、行動も意識的にというよりも無意識に近かった。歩道橋を駆け上がった足に勢いをそのままに人型の「もの」を従えた男の背中へ向けて走り出し、腕を振り上げようとして――そして、振り上げた手の先に握られたものを見て、動きが止まった。
いつの間に。まさしく、そんな形容が相応しかった。
何故、「それ」が此処に在るのかは分からない。先程まで、「それ」を取り出した覚えも無い。
しかし、酷く手に馴染む「それ」の名前を、「それ」の使い方を、少年と少女は忘れようも無くよく覚えている。
故に「それ」を使って今するべき行動に、一片の躊躇いも無かった。
銀色のスライド部分に刻まれた「S.E.E.S」の文字が、月光を受けて鋭く煌めく。
「死」の衝動を沈めた碇たる魂が波立つ。心の海から打ち寄せるのは、懐かしくも決して忘れ得ぬ始まりの「仮面《ペルソナ》」。
銃口はこめかみへ。指先は引き金へ。
染み付くように馴染み過ぎた所作で、心の海に揺蕩う「自分」を喚んだ。
『――ペルソナ!』
我は汝、汝は我。
召喚器の引き金を引くと同時、青い欠片が飛び散ると共に少年と少女、それぞれから一体ずつ「もう一人の自分」が現れる。
竪琴を携えた幽玄の奏者――オルフェウス。
喚び掛けに応じた二つの姿が顕現し、そして自分の意思に従って動きを生じさせる。
女性型の「もの」を取り込もうとする存在の背に向かって、携えた竪琴を振りかぶる。気配に気付いた男が少年と少女の方を振り返り、同時に男が従える「もの」も振り向いたが、遅い。
打撃音らしい音は響かなかったが、衝撃がすっかり暗くなった空に浮かぶ雲を切り裂く。空を覆った雲が薙ぎ払われた事により、冴々とした月光が降り注いだ。
オルフェウスの攻撃を受けた「もの」が、その衝撃によってか捕らえていた女性型の「もの」を離す。女性型の「もの」は少しずつ半透明であった色彩を薄くし、やがて男が組み敷いていた女性と重なるようにして消えていく。
そしてそれは、男の方も同じであった。男が従える「もの」がオルフェウスの攻撃により、その体躯を揺らしながら徐々に輪郭を薄めていく。数秒後には先程の女性と同じように、ふらつく男の身体と重なって消えていった。
深く呼気を漏らすと、それに合わせて喚び出したオルフェウスの姿も消えていく。ただ完全には消えずに心の浅瀬を揺蕩うような感覚を覚えつつ、少年と少女は召喚器を下ろした。
「オイコラ何やってんだ!? 通行規制しとけって言っただろうが!」
「イヤだってあの子達が勝手に……」
静寂は一瞬だけ。けたたましいサイレンの音と警察官と思しき者達の声に、はっと我に返る。同じくして、複数の足音が歩道橋を駆け上がって来るのが聞こえた。
仰向けに倒れた女性が小さく呻くのが耳に届く。意識は回復していないようだが、見た限りでは目立った外傷は無いようだ。
ならば男の方は、と視線を向けると、その瞬間に目の前に幾枚もの純白の羽根が舞い、少年と少女の視界を塞ぐ。
風と共に巻き上がる羽根に思わず少年と少女が目を瞑って立ち竦み――『瞼の裏に』ちらついたモノに目を見開いた時には、既に羽根の名残も男の姿も無かった。
「君達、そこで何をしている!?」
背中に刺すような鋭い声を向けられ、少年と少女は思わず肩をびくりと揺らす。お互いの顔を見合わせ、視線が合ったその一瞬後。
逃げよう、という両者が下した判断は完全に同じ且つ即座だった。
声を向けられた反対側へ向かって、走る。後ろは振り返らない。「オルフェウス」は自分だが、振り返った先にエウリュディケは居ないと思うので振り返る事もしない。絶対面倒臭い事になるという少年と少女の思考が一致し、双方とも無言で近付く足音や向けられる声から離れようと全速力で歩道橋を駆け下りた。
変わらず鳴り響くサイレンの音が煩い。音楽プレーヤーの電源はいつの間にか切れていた。道路脇に停まったパトカーに通行人達が何事かと時折立ち止まったり囁いたりしている。少年と少女はその人波の間を縫うようにしながら、やがてサイレンの音も遠ざかって人通りも少なくなって来た所で、少年と少女はほぼ同時に足を止めた。
息はほとんど切れていない。故に呼吸を整える事に使ったのは数秒のみで、そこから一度息を深く吸った後に改めて少年と少女は互いに向き合った。
『ねぇ』
これからどうしようか。
そう声を向けるのも、全く同じタイミングだった。
※作者、トリニティソウルは一度見ただけです。