旅の終わりの、更にその先の物語。   作:しろまち

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慎視点。


8:正義(1)

 授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。

 程良く滲んだ凝りと疲労感に軽く伸びをした後、慎は他の生徒達と同じく帰り支度を始めた。

「なぁ、この間のテストの紙、知らねぇか?」

「はぁ? 返却の時に普通に受け取ってただろ?」

「この辺にあった筈なんだけどよ……」

 教科書を鞄に入れているとそんな事を訊いて来る拓郎に、慎は怪訝に眉を寄せる。振り返った先に居た拓郎は、何やら鞄の中や床を探すように身を屈めていた。

 慎も一応周囲の床やらを見回してみるものの、テスト用紙らしきものが落ちている様子は無い。再びまだテスト用紙を探しているらしい拓郎へ目を向けると、ちょうど叶鳴とめぐみ、湊と美奈子が近付いて来た。

「神郷君も榊葉君も、どうしたんですか?」

「ああ、拓郎がこの前のテストを何処かにやっちゃったみたいでさ。探しているんだ」

 問い掛けに答えると近付いて来た四人も暫く辺りを探してみたものの、これといった収穫は無く揃って首を横に振られた。

「ありませんね……」

「間違えて捨てちゃったんじゃない?」

「いやそんな筈ねーって……捨てたんならまだしも、もし誰かに見つかったらハズいだろ」

「そう?」

「別に」

 やや気まずげに頭を掻く拓郎の言葉に対して、すげなく返す湊と美奈子に思わず慎は何とも言えない気分になる。湊と美奈子は転校して早々のテストから学年トップを叩き出していた。きっと比較してはいけないのだろうと思う。

 他の者達も何となく思考は同じだったのか、呆れたような空気が流れ出したので些かわざとらしくも咳払いをして気を取り直す。

「そ、そういえばさ。ここの所、学校内の設備点検多くないか?」

 新たな話題として挙げたのは、学園内で行われている設備点検。この所、学園内のあちこちで点検中だとかで立ち入り禁止になっている場所が多い。学園というハコモノである以上、定期的なメンテナンスが必要だというのは勿論分かるのだが、それにしてはここの所立て続けなのではないのだろうか。少し遠目に見ただけでも管やらが奇妙に曲がっているのもあり、つい疑問に思ってしまった。

「まぁ、確かに……ここってそんなに古くないのにね」

「じゃあやっぱアレだろ? 幽霊の仕業って噂」

 にやり、と何やら訳知り顔で囁くように言う拓郎の言葉に、数秒沈黙が流れる。

 幽霊。口の中で単語を転がすと、慎は自分でもやっぱり何とも言えない顔になってしまうのが分かる。他の皆は、と思って反応を伺ってみると、めぐみは明らかに呆れた半目になっているし、叶鳴もきょとん、と不思議そうな顔になっている。湊と美奈子は何とすら思っていないような、スンっとした無表情だった。

「えっと……幽霊、ですか?」

 暫く流れた沈黙におそるおそると叶鳴が問い返す。幽霊、という言葉に怖がっているというよりも、戸惑いやよく分からない、という方が正しいような反応だった。

「そうそう。色々と言われてんだぜ? いじめを苦にして自殺した女生徒が夜中の学校を彷徨っているとか、昼間なのに疾走する人体模型や白骨標本とか」

「人体模型と白骨標本は僕」

「部屋に持って帰っちゃってたなぁ」

「は?」

 いや何か変な事言わなかったか。湊と美奈子がおかしな事を言うのは時々ある事だが。

 唐突に飛び出した妙な発言に他の三人の視線も湊と美奈子に向き、しかし向けられる視線をものともせず湊と美奈子は言葉を続けた。

「確かめてみる?」

「いや何を」

「だから、幽霊」

「肝試しってヤツだな! いいじゃねぇか、今夜早速行ってみようぜ」

 幽霊、確かめてみる。何を。ここの所の学園設備のメンテナンスの多さが本当に幽霊の仕業なのか、それともそもそも幽霊が居るのかどうかを確かめてみるという意味なのか。

 色々な意味で意味がよく分からず、こてん、と首を傾げている湊と美奈子をただただ眺めてしまった慎の一方で、拓郎が乗り気に声を上げる。先程までテスト用紙を探していた筈なのだが、それはもうすっかり意識の外のようだ。

 気も早くあれこれと算段を付け始める拓郎に少し押されつつも、慎も何だかんだで些か浮き立つような気分になっているのを自覚する。

 八十稲羽の温泉旅館に行っていた間、洵は偶々休みだった諒と過ごしていたらしい。洵から聞いたのみだが、一緒に映画を見に行ったとか、お昼は牛丼を食べたとか――兄の諒と弟の洵はそれなりに仲良くやっていたらしい。少し嬉しそうだった洵に微笑ましい気持ちになる一方で、もやもやとした気持ちも抱いてしまった。何だか仲間外れにされたような、まるで拗ねているような気分で、思っていたよりもまだまだ自分は子供なのかもしれない、と慎は思う。だから肝試し、なんていう幼稚にも思える事にもつい楽しそうだという気持ちがちょっと浮かんでしまったのも、自分はまだまだガキっぽい証拠なのだろう。

「じゃあ、洵にも誘ってみるか」

「えぇっ、神郷君まで?」

「まぁまぁ。でも、楽しそうですね」

 賛意を示す慎にめぐみが驚きに声を上げ、叶鳴が宥めながら穏やかに微笑む。

 それを湊と美奈子が眺めつつ、夜の学園に集まろうという事になったのだった。

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