旅の終わりの、更にその先の物語。   作:しろまち

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15:悪魔(2)

 綾凪の総合中央病院。総合受付から離れた些か隅の方で、湊と総司は向き合っていた。

 総司の休憩時間は以前に空のランチボックスを返しに行った時に聞いている。スタッフ用の休憩室に寄る際には一階の総合受付を通るというので、湊は一階で待ちながら病院内での業務の邪魔にならないように総司の休憩時間を見計らって声を掛けた。

「これ、お裾分け」

 総司が湊から差し出された袋を覗き込むと、袋の中には幾つかミカンが入っていた。

 このミカンは、めぐみから貰ったものだ。厳密には八尾にあるめぐみの実家に行った後、寮へ送られて来た。段ボール箱一杯に詰め込まれて送られて来たミカンはめぐみ一人では到底食べきれるものではなく、皆でどうぞという添え状の通り湊と美奈子含めた他の者達で分ける事になった。持って来たミカンは、少し多めに貰って来た分だ。ちょっと多めに貰っても良いかと聞いた時、それで足りるのかと言われた。自分だけで食べ尽くすつもりだと思われているのだろうか、そこまで食い意地張っているようには見せていないつもりなのだが。勿論食べられないのかと言われたら食べられるが。

 それはさておきとして、袋の中のミカンから視線を持ち上げた総司は湊を見た。

「良いのか?」

「前、そんなにお返し出来なかったし」

 前、とは空のランチボックスを返しに行った時の事だ。ちゃんと洗って返したものの、御礼という御礼は出来ていなかった。温泉旅館に行った際にキツネから貰った葉っぱを添えたくらいか。あれも何となくお土産的な感覚で布包みの中に何の説明もなく添えただけなので、総司の方も偶々葉っぱが紛れ込んだものとしか思わなかったかもしれない。それについての言及もなかった。

 持って来たミカンも、めぐみの実家からのお裾分け。湊が買った訳ではない。故にこちらがした手間など大したものではなく、首を横に振って答える湊に総司が少し困った風にして同じく首を横に振った。

「それは俺の方も助かったし、俺のはただのお節介みたいなものだからいいんだ。折角の友達からのお裾分けなのだろう?」

「……友達」

 ごく短い単語に、忘れ掛けた鼓動が跳ね上がる。

 鸚鵡返しな湊に、総司は何か気付いているような様子はない。ただ訝しげに目を瞬かせながら眉を寄せた。

「お裾分けなのだろう? そういうのは、よく付き合いがある人からじゃ……あ、お隣さんとかか?」

 今寝起きしているのはマンションなので、御近所付き合いといえばマンションの住人になるのだろうが生憎と他の住人とは活動する時間帯が違うのか擦れ違ったりしないので特に交流は無い。

「御近所とかじゃなくて、クラスメイトから」

「なら、友達からじゃないか」

 そう言って少し笑った総司の顔に、ふと何かを言いそうになる。

 ――何を、言おうとしていたのだろう。

 何かを言おうとしていた。何か言いたかった。もしかしたら、いつか言ったのかもしれない事を。

 けれどもそれが何なのか辿れぬまま、代わりに違う言葉を以て返す。

「なら、そこからまた友達にお裾分けしたっていいと思うから」

「えっ」

「こうしてお裾分けしたから。同じお節介」

 喉から零れる言葉が何故だか少し引っ掛かる。どうしてだろう、もっと他に違う言い方が、単語があったような気がする。確かに言ったような、そんなデジャ・ヴ。

 湊と総司の横を、無気力症候群の患者を乗せたストレッチャーが通り過ぎていく。無気力症候群の患者は増えるばかりであるらしい。ここに来た際に、受付のソファでそんな話をしていたのを聞いた。

 今の状況を、人々の意識を変えなくば、無気力症候群の患者は増加の一途。

 その果ては――否、そんな事にさせてはいけない。再び胸底が深く沈むのを感じながら顔を上げた湊と、総司の目が合う。

「……どうかした?」

 もしかしたら、さっきからずっと見ていたのかもしれない。平静を装って――否、そんな必要は無い程に、湊の方が思わず伺ってしまう程に。

 見上げた視線の先、黙りこくったままの総司の瞳が、今にも雨が降り出しそうな曇天と似ていたから。

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