旅の終わりの、更にその先の物語。   作:しろまち

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キタロー&ハム子視点。


1:魔術師(3)

 夜闇の中を駆ける。

 都心ほどは整備されていないがそれなりに舗装されたコンクリートの道を走った先にあったのは、工事現場。明かりも付いていないそこは夜間工事などは行われていなさそうで、周りの照明は街灯と月明かりくらいなものだ――と、空を仰いだその先に。

「う、うわぁあっ!?」

 人が飛んでいた。

 言葉に表すと荒唐無稽そのものだが、そうとしか言えなかったのだから致し方無い事だろう。工事現場から何かが飛び上がったと思うと、それは物凄い勢いで何処かへ飛び去って見えなくなる。そしてそれは、人の姿をしていた。否、厳密には人と、人の姿をしていたもの、だった。

「人って飛ぶんだね」

「なるほどなー……?」

 意外と、でもないが、まだまだ常識としては考えられない事があったらしい。勿論驚きはしたが、今日で既に驚愕の閾値は疾うに越えてしまって、感想がどうにも間抜けになってしまった。

 それより、人の姿をしたものはともかく、人の方はあまりの勢いによく姿が捉えられなかったのだが、何処かで見た上に何処かで聞いた声だった気がする。何処だっただろうか、と思えども、

「今はどうでもいいか」

「そうだね」

 取り敢えずそっとしておこう。そういう事にした。ついでに工事現場に向かう際に入れ替わりに見知らぬ男女達とも擦れ違ったが、そちらも気にしない事にした。あちらが些か警戒するような目を向けてもいたが、直ぐに逸らされてしまった上にそちらも何処かへ急いで行ってしまったので知る術は無い。声を掛けても良かったのだが、つい人が飛ぶ様を目撃してしまったのでうっかり此処で飛んで行ってしまった人を知らないか、と言ってしまいかねない。流石にそこまでしたら駄目だろうという自制心はあった。

 人が飛ぶという言葉の時点で問い掛けとしては間違えている事には少年と少女は気付かないまま、工事現場の中へ入る。

 内部に人の気配は無い。地面には鉄骨やら資材が散乱し、頭上には仮囲いが不自然に破られたような形跡があった。

 何かあった、もしくは何か居た、のは間違いない。だが、今は居ない。他には何も、と少年と少女が改めて上部に穴が空いた場所の直下に目を戻すと、先程には確かに居なかった姿があった。

 幼女――否、少女だろうか。どちらなのか分からない。どちらにも見える。臙脂色の少し波がかった髪に、白いワンピース――それか、同じ赤系統の服、どちらか。それだけなら、否、それだけでも一人工事現場内に佇んでいるには不自然だが、更にそれよりも不自然な点があった。

 幼女、もしくは少女の足下。そこに「影」は無く、そして足は地面に付いていなかった。

 つまり、浮いている。その事実を改めて認知した所で、目の前の姿がゆっくりと少年と少女の方へ向いた。

 感情の薄い、寧ろ感情が滲んでいないかのような無表情。整った容貌であるのに能面を貼り付けたような顔の双眼が、少年と少女を映した。

 途端、仮面を被ったように固まった表情が歪み、口唇が噛み締められる。口紅を塗ったかのように髪と同じく濃い赤の口許が開かれながらも呼吸音は漏れず、代わりのように白い羽根が辺りに舞った。

 周囲に鳥は居ない筈なのに、突然産み出たかのように白い羽根が周囲を埋め尽くすかのように巻き上がる。音も無いのに音すらも覆い尽くさんとするばかりのそれに少年と少女が咄嗟に再び召喚器に手を掛けた所で、全く別の声が割り込んだ。

「駄目だよ」

 瞬間。

 夜闇よりも濃い「影」が、辺りに舞う白い羽根を食らい尽くすように広がる。そうして少年と少女が瞬きひとつ経る頃には赤髪の幼女もしくは少女の姿は無かった。

代わりに、広がった「影」が新たに「ヒトの形」を作る。

 そしてその姿は、

「ファルロス」

「綾時」

 少年と少女が口にしたのはそれぞれ別の名前で、しかし。

「こんばんは」

 白と黒のボーダー上下を纏った少年、それから黄色いマフラーを巻いた青年の姿がテレビの砂嵐のようにぶれてから不自然に重なり、けれども口から紡がれる声はひとつで全く同じだった。

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