旅の終わりの、更にその先の物語。   作:しろまち

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キタロー&ハム子視点。


1:魔術師(4)

 綾凪市内のマンション。綾凪市内でも比較的高収入層らしい立地にある、新しめのマンションに少年と少女は来ていた。

 住所は携帯電話に、鍵は制服のポケットの中に入っていた。当然の事ながら、少年と少女にその心当たりは全く無い。住所と鍵の存在を指摘したのは、ファルロスであり望月綾時でもある存在だった。なお、ファルロスでもあり望月 綾時(もちづき りょうじ)も少年と少女と共に居る。今は、綾時の姿で固定されていた。

 イゴールが用意してくれたのだろうか。あの鼻で、じゃない、恐らく「力を司る者」達と同じく人あらざる存在であろうに、住居手続きが出来たのか。そもそも、少年と少女の存在は既に亡い筈であるのだが。

 しかしながら、住居が確保されているというのは正直有難い事であるのだろう。疾うに親戚縁者は居ないし、この地に知り合いも居ない。制服姿だったから、未成年と思われる事確実である上に所持金も限られて来る。普通に生理現象もあったから、衣食住の住があるのは安心する所ではあった。

 エントランスを抜け、携帯電話と鍵に記された番号の部屋に辿り着いて鍵を開ける。ガチャリ、と特筆すべき所も無い解錠音の後、玄関扉を開けた。

 玄関先の照明は扉を開けた時点で自動で付いたが暫くするとまた自動で消えたので、どうやら人感式らしい。

 玄関先以外の照明は見る限り付いておらず、人の気配は無い。玄関から靴を脱ぎ、最も近くに位置するリビングの電気を付くと、夜に慣れた目には少し眩しい照明が部屋を照らした。玄関口以外にも電気が通っているのなら、他の場所のライフラインも問題無さそうだ。

「それじゃ、まず――」

「眠い」

「先お風呂入って良い?」

「良いけど勝手に部屋決めてるよ」

「え、普通にスルーする?」

 綾時のツッコミを聞き流し、間取りを確認する。思う以上に広い上に部屋数も多い。マンション自体も高所得者用だとは何となく感じていたが、部屋もそれに相応しいようだった。

 ふぁ、と欠伸をかみ殺す。今日だけで随分と走った。これだけ走ったのは、久し振りで――本当に、いつぐらいぶりになるのだろうか。

 制服の上着を脱ぐと、何か拗ねているような面持ちが視界に映る。

 仕方無い。そんな思考が思わず浮かんだのも、仕方の無い事だろう。故に少年と少女は、それぞれの行動へ移す前に綾時の方へ向き直した。

「ねぇ、綾時」

「また、明日。そう言える?」

 言葉は短くも、紡ぐ速度はゆっくりと。

 問い掛けられた綾時が意表を突かれたように目を見開いてから、少しだけ眉根を下げながらも微笑んだ。

「……そうだね。今の君達にも、此処の明日もまだ、あるよ」

 その答えに少年と少女は同じタイミングで小さく首肯し、再び言葉を紡ぐ。

「分かった。それならまた明日」

「明日、また話そう」

 告げて、綾時の答えを待たずに少年と少女はそれぞれ別の部屋へと入っていく。

 綾時は少年と少女が部屋に入っていくのを見送り、そしてまた、緩やかに笑んでから目を伏せた。

「今日はゆっくり休むといい。……おやすみ、また明日」

 部屋の壁に掛けられた掛け時計の針がカチリと動き、深夜0時を示す。

 空に浮かんだ丸い月は淡い月色を保ったまま、厳かに今日が昨日へ、明日が今日へ変わり行くのを見守っていた。

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