旅の終わりの、更にその先の物語。 作:しろまち
時刻表通りに電車が到着し、駅のホームからそれに乗り込む。
控えめに揺れる車内で座席に並んで座りながら、湊と美奈子は窓から外を眺めた。
遠ざかっていく綾凪市の景色。決して長くはなかったが、短くもなかった。流れていく景色の幾つかは見覚えのあるもので、訪れた事もある。過ぎ去っていく街並みを引き立たせる、透き通ったスカイブルーの空が眩しかった。
窓越しに差し込んで来る陽光に目を眇め、そこからまた座席の近くまで視線を戻す。持ち抱えているのは、くじらのはねの絵本とピンクのワニの冊子、東京銘菓が入った紙袋に真っ赤なバラの花束。この綾凪に来た時には、持っていなかった。あの場所で出会って、得たものだった。
「美奈子」
「湊」
湊から美奈子へ、美奈子から湊へ。僕、と湊が言い、私、と美奈子が言う。
全く異なる面立ち。正反対のようで、どちらとも浮かべる表情や滲む感情は違い無く同じだった。
「楽しかったね」
「会えて良かった」
有り得ない事だった。本来なら、無い筈の事だった。思ってしまった事を利用されてしまったが故の事でもあったけれど、それだけじゃなかった。
出逢えた者が居た。紡ぎ深めた絆があった。感じ合えた想いがあった。生きたその先が存在した。
同時に言葉を紡ぎ、声が重なって、想いが同じ心の海で溶け合う。
どちらからともなく互いに寄せ合った肩が触れ合い、温もりを伝え合う。全く同じ温度であると知りながら、同じ温かさから込み上げる心地良さを分け合って感じ取る。
湊と美奈子が座るシートの反対側、いつの間にかそこに座していたファルロスはそんな湊と美奈子を微笑んで見つめていた。
「二人とも、お疲れさま」
柔らかに労うファルロスの声が、酷く遠くに聞こえる。
……何だかとても眠い。
空がこんなに綺麗で、陽の光がこんなに眩しくて。間近に重なり合った温かさが、心の海に積み重なって揺蕩う気持ちが、こんなにも心地良くて。
瞼が重くなる。瞬きする事すら億劫になって来る。ぼんやりと霞む視界の中で、ファルロス、否、綾時だろうか。どちらも同じだから、どちらもかもしれない。どちらともの姿が湊と美奈子を穏やかな表情で見守っていた。
「本当に、ほんとうに――よく、がんばったね。だから今はゆっくり休んで、僕はずっと君達の傍に居るから。それから、また……」
その先はもう聞こえない。繰り返していた呼吸も、刻んでいた鼓動も。
ただ目を閉じると、何処かで見た蝶が羽ばたいた気がした。
完結。
ここまでお付き合いいただき、誠に有難う御座いました。
またいつかどこかで。