暗部組織Team Neoにとある仕事の依頼が舞い込んだのは2週間前のことだ。
「幻想御手?」
涙子は、手渡された書類と、依頼主であるアンチスキルを交互にみやる。
TeamNeoは、他の暗部と違い、裏だけでなく、表からの依頼も引き受けている。故に裏では表に情報が流れるのを警戒され、依頼が来ないこともある。
「ざっくりいえば、能力を底上げする麻薬じゃんよ」とアンチスキルのヨミカワさんが
ため息をついた「使用者の中には原因不明の昏睡状態に陥った者もいる」
「なるほど・・・被害者に無能力者が多いのもそういう理由ですか」
かつての自分なら躊躇いつつも使ってしまいそうだが、自身の「獣」が目覚めて、能力の
恐ろしさを知った今、欲しいとも思わない。
「で?要件はなんだ、先生方?」と私の隣で生卵を丸呑みする男性、ジンさん(本名は不明だが皆にはそう呼ばれている)がヨミカワさん達を睨んだ「恥を忍んで俺ら裏の人間に
頼みたい仕事っていうのは?」
「幻想御手の大本を探ってほしい」
「ほう?」
「恥も承知じゃんよ。彼女のような少女に危ない真似をさせている奴らの力を借りようとしている私たちは、教師以前に大人失格かもしれない。だが、被害は大きくなる一方だ。
このままじゃ死人が出る」
「ほう、アンチスキルにも自分の不甲斐なさを理解できる人間がいたか、結構結構」
「ジンさん、お客さんですよ」
「涙子ちゃんは優しいねぇ。良いじゃねぇか。治安維持だなんだっていうが、こいつらが
救うのは『表の人間』だけだ。アンチスキルとは名ばかりで本当に助けを求めている奴らを助けられない無能集団なんだよ」
「貴様!」と後ろで私たちを睨み続けていた別のアンチスキルが睨んだが
「やめろ・・・本当のことだ」
「分かっているんなら、少しは改善してもらいたいもんだ・・・で?涙子ちゃん、どうする?」
「へ?」
「あのなぁ・・・TeamNeoのリーダーは涙子ちゃんなんだぜ?俺はあくまでも、この
組織を援助しているだけのただのオッサン。決めるのも断るのも、最終的な判断は、涙子
ちゃんがすることだ」
「・・・受けましょう」
「!」
「それは・・・使った無能力者に対して思う事が?」
「関係ありませんね。自業自得です。だってこれ、見るからに怪しそうじゃないですか。
そんな物に手を出すから、そうなるんですよ」
「・・・」
「・・・でも、それ以上に腹が立つ。人の弱みに付け込んで、何かを得ようとする奴が
いるってことに・・・ヨミカワさん」
「!」
「確かに私は、不幸だったのかもしれません。日常が崩れて、会いたい人にも会えなく
なった。もう私は、暗闇でしか生きていけない。それが当たり前になってしまいました」
「ッ」
「でも・・・ここにいる人達は、そんな私を受け入れてくれて、認めてくれて・・・愛してくれる人も出来た」
「・・・」
「普通の女の子とはちょっと違うけど、ここが私の居場所です。だれかに命令されている
からじゃない・・・私が、自分の意志で、ここにいるんです」
「!」
「あなたは優しい。でもその優しさは・・・私には家族に対する侮辱でしかない」
「・・・すまなかった」
「あぁ、いえいえ。私の方こそごめんなさい・・・というわけなので、ご依頼の方、
お受けします。お代も後払いで構いません・・・それと」
「初春達にお前の事は黙っておけと?」
「・・・はい」
「・・・分かった。協力、感謝する」
「結局、涙子を襲った奴が幻想御手を使用していたという事が分かっただけで」とハルカ「大本に関する情報は得られなかったわけだ」
「ま、分かってはいたけどねー」と涙子は、ソファに身を預けた「こりゃあ、簡単には、
見つからないかも」
「そんな簡単に行くかよ」とジン「第一、俺たちは探偵じゃない。ただ、町の中うろうろ
して、見つかることは、ありえない」
「ジンさん、じゃあ、どうするんですか?」
「決まっている・・・餅は餅屋だ」
「どういうこと?」
「俺たちにはいるだろう?強力なツテがな」
そのとき、電子音と共に、何かの粒子のようなものが人を形作り、地面に降り立った。
「まっていたぜ・・・九条」
「「九条さん!!」」
「よう・・・話は聞かせてもらった」
TeamNeo専属の情報屋、九条貴利矢。アロハシャツに赤いジャケットという謎の
出で立ちの青年はにっと笑うと、スマホを取り出した。
「大本ではないが、売人と連絡を取って、本物を入手できた」
「本当ですか!」
「あぁ」と貴利矢は、スマホを操作し、音楽プレイヤーを立ち上げる。画面に表示されて
いたのは・・・。
「『Level Upper』!!」
「幻想御手っていうのは、使用者の脳波に直接干渉し、脳波パターンを統一させることで、
一つの巨大なネットワークを作るプログラムだ。これを音楽ファイルとしてばらまいて
いたってわけだ」
「なるほどな」とジン「共感覚性の応用か」
「そゆこと」
「「???」」
「ようするに、何台もパソコンをつないで、スーパーコンピュータ並みの演算装置を
生み出したというわけだ。この場合、パソコンの役割を果たすのが」
「幻想御手の使用者!」
「なるほど。それなら、使用者の昏睡状態も説明がつく」とハルカ「常にネットワークに
接続して、自分の脳で誰かの能力の演算をさせられている状態が長く続くわけがない」
「あぁ」
「さすがだな、九条。こりゃあ、情報料はそれなりに出さないとな」
「そのことだけど」と九条「今回は、情報料はいらない。その代わり、俺に少し、手を
貸してほしい」
「というと?」
「どうにもキナ臭いんだよ」と貴利矢「これはただの科学者どもの実験じゃない・・・何か
裏がある気がするんだ」