第三回ヒヨリミコロシアム投稿作品

参加作品共通テーマ「こころ」

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進歩する技術と原初から存在する心。相容れない?それとも?

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思考実験第一号

聖羅市を大きく北から南へ二分する一級河川、赤霧川。大規模な再開発が行われた東側と違い、西側は未だに歴史ある建造物や昔ながらの町工場などが軒を連ねている。

我らが三須賀(みすか)大学のキャンパスもここにある。

明治半ばごろに建てられたモダン建築の学生会館がパンフレットの表紙に選ばれるくらいの看板だが、その中で異彩を放つのが僕の所属する工学部棟だ。

 

なにせこのレトロな校舎にあって――何故かピッカピカの近未来的ビルヂングであるからだ。

 

外壁はスモークガラス、8階建て。建築家のセンスを疑うな。あまりにも浮きすぎている。まあ旧校舎の老朽化に伴う建て替え、と言う名の事故の隠蔽工作であったらしいが。詳しいことは僕は分からない。

さて、そんな工学部棟の一室で物語は始まる。

 

 

「秋葉くん秋葉くん」

美少女が僕に呼びかけてくる。

黒髪ショート、身長150cmほど、丸メガネ。着飾らせて座らせておけばそれなりには見えるだろう。喋らせなければ。

「なんですか教授」

「飽きた」

「……」

 

そう、この美少女が僕の師事する森 雲雀教授。

見た目こそ美少女だが、御年ウン十二才。『人間をデータに落とし込む』事においてこの人以上の技術者はそうそういないだろう。

人間をハードウェアとして、それらを動かすものをソフトウェアとしてみなしているからこそ、と本人は言うが、それをプログラムに起こすのは別の話だと思った。

 

「今度は何がしたいんですか」

「花見の時期だぞ秋葉くん、ちょっとコンビニでビール買ってきて外で飲もうじゃないか」

あと見た目によらず酒豪であった。何故だ。

「勘弁してくださいよ、この前四方さんが困り果ててましたよ?」

「王城の腰巾着がなんぼのもんだ、半田の阿呆がまともなデータを寄越さないのが悪い。なんであいつが第一開発部の部長なんかやっとんのだ」

「そうは言ってもウチと王城工業の大型プロジェクトでしょう?外から金出して貰ってるだけ良いじゃないですか」

「私が引き受けたわけじゃない、勝手に学部長が引き受けて勝手に私に振っただけだ。私にも自分の研究があるのにだぞ!?」

教授はなぜか学部長に頭が上がらない。噂によればこの工学部棟建て替えにも関わる話なのだそうだが、その話を聞くと関係者が一様に口をつぐんでしまうので事実関係は分からない。

教授は腹を立てたまま僕の眼の前じたばたと暴れ始める。そろそろ壊れそうだからやめてほしい。

「兎にも角にも、だ。食指が伸びないのだから今日はこれ以上進める気はない。大体なんなんだこのプログラムは。死人の声なんぞどうするつもりだ」

「いくつかの音声パターンからライブラリを作成する音声合成ソフトウェア。王城工業はこれを使って映像を作るそうです。かつて名優と呼ばれた声優達による、『あたかも本人たちが喋っているかのような』アニメ映画。――不気味の谷を人類が超克するための、と」

「死人を墓から掘り起こすのと何が違う。眠らせておけば良いのだ。人の心がないのか」

「教授にそれを言う資格はないと思いますが」

そう返すと教授は黙ってしまう。相手は前例の無いものを提案してきたわけでは無いからだ。

「実績のあるものは高望みにはならないでしょう?」

「それはそうだが、だとしてもだ」

「だとしても、ですよ」

僕は画面の方向を向いたまま、視線だけを教授に向ける。

「それを望む声があるなら、技術はそれに応えるべきです。それが技術者の務めであるべきですよ、教授」

「大きな口を叩くようになったな、秋葉くん」

ニヤリと笑ってこちらを見る教授。まずい。

これはお決まりのアレが来る。

「では解を出してみせろ」

 

森教授名物、空想実験の始まりだ。

 

「……今回はなんですか」

「AI、人工知能についての説明はいらんな?」

「自立して思考するプログラムの羅列。謂わば人間の作った新生命体。は、教授の言い分ですね」

「まあその辺で良いだろ。では秋葉くん、心の定義は?」

「以前の問いかけに倣うならば、僕の出した解は」

 

感情を動かす【(しん)】となるもの。

 

「結構。ではAIが心を持つことはできるか?」

「……技術的に?理論的に?」

「どちらもだ」

「僕の解を引用すれば、理論的には可能、技術的には未だ」

「では仮定として心を持たせよう。理論上は人間となんら変わらないだろう」

「そうでしょうね。身体の有無を除けば、間違いなく」

「では秋葉くん」

 

「心無き者が与えられた心を理不尽に奪われるとしたら、元心無き者は果たして如何なる反応を示すか?今回の問いだ、解を出してみせろ」

 

AIに齎された心、それによって生み出される感情。

感情を持ったAIは人間と同じように思考するなら、間違いなく拒否、ないし抵抗するだろう。だがしかし、元はやはり心を持たなかったもの。元に戻るだけであるならば、それに納得できるか否か?

 

「……教授」

「ん?」

「今回は中々簡単ですよ。いただきです」

「ほほう?」

僕は自論の展開を始める。

 

「人間の成長の過程において経験は蓄積されます。その経験が基となって感情が発達してゆく。おそらくAIにその機能が搭載されていれば、執着が生まれ、抵抗も拒否もするでしょう。」

「ふむ」

「しかしながらそれが与えられたばかり、もしくは心を失っても良いと思えるほどの経験を得てしまったAIならば」

 

一拍置く。じっと教授を見る。

 

「……最早心などいらないと、思えてしまうのではないでしょうか?」

「……結構」

 

どうやら今回は一発合格だったようだ。ほっとため息をつく。

 

「もしもどちらかの答えだけを出してきたら遠慮なくボツにしてやろうと思ったが、そこまで阿呆では無かったか」

「なんだと思ってんですか僕を」

と言うと、教授はニカっと笑って

「不肖の弟子だろうよ」

などと答えてみせる。この人に敵うことはないのだろうか?

 

「それでは実証実験といこうじゃないか」

「は?」

 

今なんと言った?実証?

 

「今まで黙っていたが、秋葉くん、君は実は私が開発した最新鋭高性能AIなのだ」

「はぁ!?」

「つまり君が見ている情景も何もかも、感じているものですら私が組み上げたプログラムによるものだ。残念だったな。ということでこれからその中核となる、所謂心に相当する感情制御基幹プログラムを破棄してみようと思う」

「ちょちょちょ、待ってください!?」

「さて、秋葉くん」

 

「今どんな気持ちだい?」

 

最悪だ。

「最悪の一言に尽きます。なんて事をするつもりなんですか。僕は生きてます。生きてるんですよ」

「それすら君に私が与えた擬似的なものに過ぎない。さあ、観念したまえ」

そんなことがあるものか?

「大丈夫、元に戻るだけだ、何もかもがな――」

 

ああ、これは本当に覚悟を決めるしか――

 

「なんてな」

 

「……教授」

「そんな怖い顔で見るんじゃない、冗談だとも」

ケラケラと笑いながら心底楽しそうにする教授。

全くこの人は……

 

「そろそろ時間か。私は一度仮眠を取るからシャットダウンだけよろしく頼む」

「まったく……分かりました、それじゃあまた明日」

「ああ、秋葉くん」

「はい?」

 

最後に教授はニッと笑って。

「とらわれるなよ。おやすみ」

そう言って僕の前から姿を消した。

 

 

 

世界が暗転する。

 

 

 

 

「焦ったな…まさかそんな反応を返してくるとは。私の組んだプログラムに間違いがあったか?」

薄暗い部屋の中、()は呟く。

()()は聞いちゃいない。望み通りシャットダウンしたからだ。

「すこし修正する必要はありそうだな。……まだ表に出すには、性能不足か。思考実験の癖は再現できてきたようだがな」

 

扉が3回ノックされる。

「秋葉学部長、ご在室ですか?」

「ああ、居るよ。少し待ってておくれ」

 

部屋の照明をつける。明るくなった部屋は殺風景。

いくつもの鉄の箱とコンソールがあるだけの部屋だ。

 

「大丈夫ですよ教授。僕が必ず甦らせてあげますからね、必ずですよ」

 

例えそれが、倫理に障る事であっても。

教授曰く「人の心がない」行動であっても。

 

僕の心のままに。

 


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