続きです。
食蜂操祈が少年を見付けたのは偶然だった。
今日は以前からマークしていた人物がデパート付近に現れる情報をキャッチしていたから訪れただけだ。
蹴飛ばしてしまいたい所だが、その人物には(悪い意味で)借りがある。
それを倍返しにして送り返さなければ気は済まない。
だからこそ、デパートに来ていた訳だが……まさか“夢で見たのと同じ少年と出会えるとは思ってもみなかった。”
彼の様子も窺おうとコソコソと追い掛けていた。
何故、こんなモヤモヤしているのか?
しかも、第三者からすればストーカー極まりない姿を見られるのだ。
(はあ、馬鹿馬鹿しい)
自分のしようとした事にほとほと呆れ果て、彼女は撤退をしようとした矢先に……例の事件は発生した。
事の次第は理解している。
偶然にも来ていた自分の可愛い手駒に偵察をさせて傾向と対策を考えようとした。
それよりも早く、件の少年が駆け出していたのだ。
野次馬根性を見せたのではなく、この事件を解決する為に全速力で奔走する――そのように思えてしまった。
実際、彼女の勘は嫌な位に的中していた。
ツンツン頭の少年は如何なる理由か、人払いの結界の影響を受けていない。
それどころか自分のターゲットに戦いを挑もうとしていた。
さすがにそんな事をさせてはならないと食蜂操祈は自然と動いていた。
立ち向かおうとする彼を引っ張り、攻撃を回避していたのだ。
操っている少女とは言え、食蜂操祈がまさか“夢で見たから”などというくだらない理由で助けるとは自分が一番考えもしなかった。
だけども、現に彼女は少年を助けた……何の得にもならないと言うのに。
上条当麻は混乱していたと表現するのは正しい事だ。
男が突如現れた少女に対して放った言葉の中でも特に上条の興味を引いたのは『
この呼び名は上条の知る学園都市で扱われていたものと同様だ。
『
「逃げるわよぉ。態勢を立て直すわぁ」
上条の襟首を掴むと、そんな細腕の何処にあるのか引き摺って駆けて行く。
「ど、おおおおおいっ!? 痛い!! 痛い痛い痛い!!」
引き摺られる上条は悲鳴を上げる。
固い床にお尻を何度も打ち付けられるのは痛い。
「逃がす訳――」
「あらぁ☆ それはねー、逃がしちゃうキャラの台詞よぉ☆」
少女は言いながらポケットに忍ばせていた野球ボール大の球を投げ付けた。
ボムッ!! 鈍い音と共に白い煙幕が張られる。
古典的――だけども、かなり効果的だ。
悪魔だろう敵であれ、視界を奪われては追うのも難しい。
階は移動せず、1つ隣の服のフロアへと逃げ込む。
そこは男子には近付きづらい女性ものの下着コーナーではあったが、現在の状況を考える上条には気を回す余裕はない。
試着室を盾にし、その陰に隠れる形で一息着いた。
「お疲れ様ぁ☆」
ふと、声がした。
そちらにはリモコンを手にした甘栗色の背中位まで伸ばした髪、ショルダー式のポシェットを肩に掛けた御坂美琴同様に常盤台中学の制服を着た少女だ。
見覚えがある。確か、以前に“一度だけ出会った少女だ。”
「悪いけれど、ここで黙って待っていてね☆」
リモコンで人を操作するかのように――実際にしてるのだろう――常盤台中学の制服を着た少女は、おかっぱ頭の少女を停止させた。
物言わぬと形容できる程にピクリとも動かない少女に上条は面喰らうも、意識をもう1人の少女へ向ける。
「あなたとは“初めましてになるわよねぇ?” 食蜂操祈よぉ☆」
「俺は上条当麻」
どうやら向こうも上条の事は記憶に無さそうだ。
仕方無い事ではあるが、物寂しさも感じてしまう。
「ところであなたはどうしてこんなところに居るのかしらぁ?」
哀愁に更ける上条の事など食蜂は知るはずもなく、話をドンドン進めていく。
「ちょっと買い物に来てて……」
「そうじゃないでしょ? 一般人のあなたが結界内に入れてる理由を知りたいのだけれどぉ?」
食蜂の問い掛けに上条は言葉に詰まる。
果たして馬鹿正直に言っても良いものか……だが、この件を上条当麻も解決したいからこそ話す。
「俺の右手には異能を打ち消す作用があるんだ。多分人払いの結界だよな? これも無効に出来たんだ」
上条が答えると、食蜂は「そうなの」と言って納得してくれた。
「まあ、そういう事にしておいてあげるわ」
「嘘じゃないんだけどな」
とは言え、判断材料が無いのだから仕方無い。
気を取り直し、上条は敵の事を訊ねる。
「そもそもあいつは何なんだ? 悪魔とかなのか? それとも超能力者や魔術師か?」
「こちらの事情も把握してるのね」
話の手間が省けて助かる――食蜂は言外に告げてきた。
まあ、今は細かい話をしてる場合でもなし。手間を省いて話せるのだから良しとしよう。
「あいつは悪魔よ。しかもはぐれのね」
「はぐれ悪魔がお前を捜してたが……何かあるのか?」
「ちょっと因縁が、ね」
食蜂とあの悪魔の男の因縁――果たして如何なるものであるのかは上条には想像もつかない。
彼女は一拍程置いてから話す。
「私の買い物を……邪魔したの」
「…………………………………はい?」
上条の時が止まった。
いや、話が理解できないのではなくて、何故そのような内容からスタートするのかが分からなかった。
「私はね欲しいものがあったのにあの男が私がいくら可愛いからと言ってしつこくナンパをしてきたから……まあ、追い払った訳よ。そうしたら、事ある毎に私を狙ってきてね」
「それって質の悪いストーカーじゃないか?」
最近、ストーカー気質になりつつある人物ばかりが上条の周りに集まるので何となく親近感。
された方はたまったものではなかろう。
食蜂はまたも大きな溜め息を漏らす。
「そうなのよぉ。諦めが悪くてね。元々がはぐれ悪魔だから尻尾を掴むのも大変なのよ」
この分だと向こうが一方的に知ってるようで、こちらは名前すら知らなそうだ。
「しかも、力付くで捕まえに来るものだから倒しに来る始末なのもね」
「それストーカーじゃなくて病んでるだけじゃね?」
もう何処からツッコミをすべきなのか上条には分からない。
ともかく、現状の打破は食蜂の力添えがあれば叶いそうだ。
「いずれにしても、あなたが手を貸してくれるなら楽に倒せそうね♪」
「そこは問題ないけど、どうするんだ?」
声を弾ませながら食蜂は人差し指を顎に当てながら言った。
上条を働かせるつもりなのだろうが……別に構わない。
被害を増やされても困るだけだ。
「? あなた、結構簡単にOKしたわね」
上条が二つ返事で了承した事には不審な目を向けてくる。
「そりゃあな。女の子が困ってるんだ。放っておけないだろ?」
ここで理不尽に暴れられる事への怒りもあるが、その矛先は食蜂に向けられている。
だとすれば、彼女を狙って暴れるのだ。それを諌めないでいられるものか。
「変わってるって言われない?」
「ん、まあ……似たような事は言われたかな」
どんなに背伸びをしても、どんなに言葉を並べても、どんなに立ち向かっても――上条当麻がただの高校生である事は自覚している。
だから、自分の為せる事を為す。
彼の『理解者』からそう教わった。
「俺は何をすれば良い?」
「そう難しく考える事はないわ♪」
楽し気な雰囲気を醸し出しながら、食蜂操祈は「提案」をした。
「お待たせ♪」
待ち合わせした相手に掛けるような内容を、開口一番に告げる。
食蜂操祈が声を掛けた相手は絶賛敵対中である。
そんな気軽に声を掛けられる相手でもない。
「待ってたぜ~。食蜂操祈。いい加減にムカつかせないでくれ。お前が欲しいのにうっかり殺しちまいそうだ」
ヘラヘラと笑いながらとんでもない事を口にする。
食蜂の事を本気で好いているのだろうが、あまりにも歪が過ぎる。
上条の指摘するように「病んでる」が当てはまる。
「まあ、あなたを倒す事には間違いないからどうでもいい話よね」
食蜂はポシェットからリモコンを2つ取り出した。
リモコンのボタンを押す。
音はない。だけども、変化はすぐに起きた。
この周囲一帯から人が現れる。
物陰に隠れていたのと食蜂との会話に気を取られて気付かなかった。
「一般人を巻き込むつもりか?」
「安心して良いわ。全員超能力者で、私の手駒だから」
笑みで以て余裕を見せて返した。
何処か冷めたような視線を突き刺してくる。
手駒と呼んだ者達がどうなろうと関心を持たない部分はあろう。
だが、それ以上に不安点があるのだ。
(精神汚染系の弱点を無意識に突いてくるから嫌なのよね)
この相手は“精神力が高い。”
最初の頃は操ろうとしたのだが、それは叶わなかった。
気合いと根性なんて非科学的なもので捩じ伏せられた。
まあ、超能力なんて超常の力を使えるのだから人の事は言えたものじゃない。
いずれにせよ、食蜂操祈にとっては相性最悪な相手な訳だ。
(でも、操るだけが脳じゃないのよねぇ)
悪巧みでもしそうな微笑は健在だった。
リモコンの操作は変わらない。
直後、男を取り囲む超能力者が一斉に彼に襲い掛かる。
「《ヒーレイ》」
先程の紫色の閃光が放射される。
「っ!?」
咄嗟に食蜂はリモコンを操作する。
放射されるのは直線で、避ける事は難しくない。
紫色の閃光の直線上に立つ者を中心にしゃがませて回避できるので、そうさせる。
男は、閃光を横へとゆっくり移動させる。
それに合わせて食蜂も持ち駒を減らしたくないと回避運動を取らせる。
(あとは、任せたわよ)
食蜂も男の攻撃を避ける為にしゃがみこむ。
その際、ピィィィッ!! と甲高い音が反響した。
理由はよく覚えていないが、“肌身放さず持ち歩いていた”安っぽい銀色の防犯ホイッスルを鳴らした。
何事なのかと男は警戒する。
その時だ。すぐ後ろから上条当麻が駆け出していたのは。
「『
上条に応え、左腕に赤い龍を象った籠手が出現する。
だが、まだ強化はしない。
向こうも上条の接近に気付いたから。
「《ヒーレイ》」
駆けてくる上条を狙う紫色の閃光。
しかし、これが“異能力によるものなら上条に対しては無意味だ。”
右手を突き出し、それが閃光に触れた瞬間だった。
パリィィィンッ!! ガラスの割れる音と同時、紫色の閃光は見るも無惨に消え去った。
何が起きたのか、男はきっと理解できない。
そんな呆然とする間に上条当麻は一気に距離を詰める。
『Boost!!』
1回分だけの強化で十分だった。
打ち消す効果と併用できないのだから先に敵の攻撃を無力化し、上条の身体能力を強化する。
直後、彼の右の拳が男の頬を強く打ち付けた。
パンッ!! と破裂音も同時に起こる。
身体が軽く浮き上がり、意識を手放してしまう一撃をその身に受ける。
無様にも上条の一撃で男は沈んだのだ。
「勝った……」
「作戦成功ね☆」
そんな上条へ弾んだ声音で声を掛けたのは食蜂だ。
彼女が囮を務め、隙を見付けて上条に突入させる。
その合図が今のホイッスルだ。
「あとは
この世界にも
なら、あの白井黒子も居る筈だ。
「悪いけれど、事情説明の為に私に付き合って頂戴」
「それはまあ、仕方無い」
リアスには後で報告しよう。
それよりも気になる事がある。
“最後の破裂音は何だ?”
恐らく『
それが何なのかは分からない。
だが、上条当麻は思う。
(何が……起こっている?)
身震いしたくなる。
上条当麻はこの前といい、はぐれ悪魔がこの近辺に現れる頻度が多くなったのは偶然とは思えなかった。
何かが目まぐるしく動き出す――そんな予感がしてならなかった。
如何でしたでしょうか?
ちょっと今回は原作を見ていないと分からないような部分が多かったと思います。
超電磁砲での事は触れず、新約11巻に近く、少しだけ新約7巻の内容も入り混じっておりました。
知らない人の為に書いておくと、インデックスと出会って記憶を失う1年前の上条は食蜂と出会っており、その際に事件に巻き込まれて彼女を庇って重傷を負い、その際に血液が足りなくなってショック症状を起こし、応急処置をしなくてはならないのに危険な状態で麻酔が使えなくてみさきちが代わりに能力で痛覚遮断を行った。
そのおかげで一命を取り留めるが精神系の能力は相手の脳の水分を操作して操るものだったので血液がなくて脳の水分量が足りなくなっていた上条さんの脳の『食蜂操祈に関する記憶』の呼び出し経路が破損し記憶の蓄積は出来るが呼び出しが出来なくなってしまった、という
本編内で「初めて会った」の部分に“”があったのは、原作での最初の出会いを忘れている事を強調したかった訳ですよ、はい。
ネタバレになってたらすいません。
ちなみに幻想殺しは元を断たねば持続する能力には無意味なのと同様、上条当麻の部位の一箇所に集中させると、この手の能力が通用します。
現に旧約2巻にてアウレオルス・イザードの時に記憶を一時的に消されて外に放り出されていました。
さて、雑談はこの辺にして次回の更新は再来週にできたら良いなと。
ではまた。