続きです。
「今回は随分とまあ変わった相棒だな」
右も左も全く判断のつかない真っ暗闇。
そんな世界に上条当麻は浮遊していた。
だが、彼1人ではない事を痛感する。
何故なら、彼に語りかける声があったからだ。
「誰だ?」
「オレだよ」
突如、暗闇の世界が粉々に砕け散る。
今度は見渡す限りの灼熱の世界だ。
マグマが足下で蠢き、火柱が不定期に間欠泉のように湧き出る。
こんな人が生きる事を拒まれた世界に“それ”はいた。
紅い胴長の龍。
そんな幻想の世界にしかいない存在が上条当麻の前に姿を見せた。
「お前は……」
「初めましてだな相棒。オレはドライグ。二天龍なんて呼ばれている存在だ。今は『
「じゃあ、『
これでようやく『
中に龍なんて幻想ではあるものの、“ちゃんと生きた存在が居たからだ。”
もっと言うなら生命力を宿した存在。
土御門曰く、『
「積もる話はあるが、そろそろ起きた方が良いぞ。お仲間が心配している」
「それって、どういう――」
質問を言い切る前に灼熱の世界は消え去った。
そして、上条当麻の意識は浮上する。
「う……ん」
意識が覚醒する。
身体が寝かされていて、何か上に掛けられているのが分かった。
「上条さん、目が覚めましたか!?」
視界いっぱいに涙を目に溜めたアーシアが映る。
身を捩りながら上条は半身を起こす。
「此処は……俺の部屋か?」
「はい。リアスさんが突然倒れた上条さんを担いで来たので私が応急措置で回復させた後に、リアスさんの家の方が急いで病院まで送っていったんです」
それはリアス部長や皆に申し訳無い事をしたと上条は反省する。
「俺、どうして倒れてたんだ?」
「お医者様が言うには疲労と、風邪だそうです」
それらのダブルブッキングが今回倒れた事に繋がるのだそうだ。
「でも安心しました。3日も起きなかったんですから」
「悪い。それは心配を――」
今、アーシアは何と言った?
上条が倒れて“3日も目を覚まさなかったと。”
上条の記憶が正しければ、レーティングゲームを前日に控えていた。
それより3日も過ぎている?
「なあ、アーシア……リアス部長は?」
「あ……」
上条の問いにアーシアは表情を暗くした。
それだけで分かる。
レーティングゲームに敗北した事を。
「目が覚めましたか」
厳かな声音で部屋に入るのはグレイフィアだ。
「度重なる不幸に関しては同情の余地はあります。ですが、体調管理もできないあなたに非があります」
冷たく、突き放される内容ではあるがズッシリと上条の心に突き刺さる。
グレイフィアの言う通りだ。
自分の不幸を理由にはしない。
全ては上条の不注意でもある。
「ですが――今回に関しては逆に良かったのかもしれません。あなたに観てもらいたいものがあります」
告げると、グレイフィアはアーシアに退室を促す。
アーシアは小さく頷くと部屋を出ていく。
残されたのは上条とグレイフィアのみ。
その彼女はと言えば、部屋にあるDVDデッキにDVDを入れる。
「これからあなたにこれを観てもらいます」
グレイフィアの再生した内容――リアス達のレーティングゲームの模様だった。
舞台は地の利を与える為にリアス達の通う駒王学園だ。
リアスだけではない。小猫も、木場も、朱乃も、アーシアも――必死に戦っていた。
だが、数が圧倒的に負けているこちらは分が悪いながらもあと少しまで追い詰めた。
向こうの残りはライザー1人。
対してリアス、木場、アーシアである。
場所は校舎の屋根の上。
数の上では3対1。
戦えるのは木場だけだが、リアスもアーシアも支援を得意とする。
有利……に見えた。
「えっ!?」
突如、ライザーの雰囲気が一変した。
レイヴェルやライザーは紅蓮に近い炎を扱っていた。
だというのに、今彼の身体から出ている炎の色は――黒。
呑み込むような、覆い尽くすような、焼き尽くすような、見も心もへし折るような――禍々しさを目に見える形で体現している。
背筋がゾッとなる。
映像を見ただけでも異常さが伝わる。
これはあくまで勘だ。
これまで何度か異能の存在と対面してきたからこその直感。
映像は続く。
ライザーから噴き出した黒い炎は生きているかのようにその姿を変える。
人間の手と同じ形となり、対面する木場を捕らえんと伸びてきた。
『避けなさい!! 祐斗!!』
リアスの指示で木場はそれを紙一重でかわす。
その隙にリアスの対象を消滅させる強力な魔法が黒炎へと注がれる。
リアスの紙の色と同様の真紅――その光が直撃した。
『なっ……!?』
驚いたのは全員。
黒炎はリアスの魔法を“燃やし尽くした。”
焼き尽くすという表現が正しいかどうかは問題に位置しない。
ただ、あの黒炎にリアスの魔法は通用しない。
正直に言えば分かってはいた。
ライザー自身に自分の消滅の魔法が効きにくいのは承知していた。
技を磨けば一撃でライザーを気絶させるのも夢ではあるまい。
だが、圧倒的に技量の足りない自分には無理な話なのだ。
絶望に瀕している暇はない。
ライザーの黒炎は次にアーシアをターゲットに選ぶ。
アーシアを握り潰さんと、手を大きく広げた黒炎が迫る。
すぐ側にいたリアスが勇んで応戦を試みる……も、彼女の魔法だけでは届かない。
『アーシアちゃん!! リアス部長!!』
咄嗟に木場がリアスとアーシアの手を取って、『ナイト』の力を発揮して離脱する。
しかし、黒炎の一部が木場を掠める。
『ぐっ、あああっ!?』
それだけで悲鳴を上げた木場はリアスとアーシアの手を放して屋根の上に踏み留まらせる。
肝心の自分は耐えきれず、屋根から落下した。
ライザーは視線を落下した木場にロックオンさせる。
このままでは木場の命も危ない。
ライザーが屋根の側から腕を振り上げ、上空に丸い黒炎の塊を生み出す。
その瞬間――上条は違和感を感じた。
「これ……」
「気付かれましたか」
屋根に炎による影があった。
その影は“ライザーとは相反した動きを取っている。”
ライザーが腕を振り上げているのに影は棒立ちも同然の格好であった。
その後、仲間の身を案じたリアスが降参を告げた。
その際の彼女の顔は実に悲しげで、涙を流しているようにしか見えなかった。
これで終了とばかりにDVDは終わる。
本題は今観た影の事か。
「あの、あれはいったい?」
「分かりません。あんなものはこちらとしても想定外で。気付いたのはごく一部の者のみです」
つまり、簡単には気付けない内容なのだ。
それを伝えないとなれば――
「何か問題が?」
「はい。今回の件に私共は異議を申し立てられません。もっと言うなら、出来ない立場となってしまった」
「どうして?」
「一度は婚約に賛成をしたのです。それでフェニックス家との関係を一層険悪なものにしてしまえば、グレモリー家としても被害は大きいのです……それに」
言葉を一旦区切り、グレイフィアは告げた。
「もしもあれがフェニックス家全体が絡んでいるとすれば、根が深すぎます」
容疑者が多すぎて的を絞れない上に、この奇妙な事態をフェニックス家が知っているとしたら――不死身の存在の軍団との真っ向からの対立だ。
「ですが、もしこれがフェニックス家すら知らない陰謀の一端なのだとしたら……」
「裏で糸を引いてる奴が何処に居るのかが分からないから動きづらい訳か」
グレイフィアの言葉を受けた上条は彼女の言いたい事に先回りする。
その事に僅かながら驚く。
彼は悪魔に成り立てだと聞くが、影の事に気付いたりした件といい、洞察力は目覚ましいものがある。
まるで、そうした環境下に身を置いてきたかのような。
今はそんな考察などどうでもよい。
それよりも――と、グレイフィアは上条に伝える。
「今、リアスお嬢様はライザー様と婚儀をしています……が、得たいの知れない彼と結婚などさせたくはありません」
つまり、何が言いたいのかは分かる。
「その婚姻を乱入してぶっ壊せっていう訳だな?」
「察しが良くて助かります」
やはり、得たいの知れぬ者とは一緒に出来ない。
そういう点はグレモリーの血筋だと上条は認める。
「何で俺に頼むんだ? 朱乃さんや木場も居る筈だろ?」
「彼女達は先日のレーティングゲームの疲労と怪我が癒えておりません。満足に動けるのは病み上がりですが、あなただけなのです」
コンディションが整っているのは上条だけなのだ。
故に、彼に白羽の矢が立った訳だ。
「今はその話に乗るよ。でも、覚えておいてくれ。あんたらがリアス部長の事をもう少し考えてくれてればこんな事にはならなかったんだって事」
気付かぬ間に敬語は無くなっていた。
だけども、リアスの言葉を聞く耳持たずだった相手に攻撃的になるのも仕方無い。
「分かっております。私は先に向かっておりますので。準備が出来ましたら派手に騒いで来てください。私が先導しますので」
花嫁を拐う事を公認とした婚儀が流行っているのか。
いずれにせよ、上条当麻は向かわねばならない。
「準備は出来た?」
次に部屋に入ってきたのはレイナーレ。
グレイフィアに言われてから移動する為の術を用意していた事を上条は知らない。
「ちょっとだけ待ってくれ。少ししたら終わる」
「そう。なら、終わったなら私の部屋に来て」
レイナーレはそう言い残し、部屋から出る。
入れ替わるように今度はアーシア、そしてレイヴェルが来た。
「どうかしたのか?」
「お兄様を助けてください」
開口一番、レイヴェルが求めたのは兄の救済だった。
「ライザーさんはあそこまで冷徹な悪魔じゃないそうなんです。実際、私もレイヴェルさんにアルバムを見せて貰ってそう確信が持てました」
続いて、アーシアが言う。
彼女達からライザーを助けたいという気持ちが伝わってくる。
「上条さん、これを」
アーシアが水の入った小瓶を渡してきた。
「これは?」
「聖水ですわ」
聖水――簡潔に言うと、対悪魔用の水だそうだ。
効果の程は絶大で、ライザーにも通用する。
「私は、これを」
レイヴェルも同じ小瓶を渡してくれる。
アーシアのものとは違って、蓋は赤い。
「これにはフェニックスの涙が入っています」
「こんな事しかできませんが……」
初春から聞いた、回復アイテムだ。
至れり尽せりなこの状況。
上条は胸がいっぱいだ。
「2人ともありがとう」
この2人の想いに応えなくては男じゃない。
「任せてくれ。あいつは俺が連れ戻す」
上条当麻の決意は固まる。
その右の拳を握り締めたのが何よりの証拠だ。
そして、準備をすると言うと2人も部屋から出た。
「さて――ドライグ。起きてるか?」
「何だ? 相棒?」
上条の言葉に返事を返したのは左手――左腕に宿る力の源たる存在の声だ。
『
「今のうちに色々と聞いておきたい事がある」
「オレが答えられる事なら何でも答えてやる」
「じゃあ――」
やがて、上条当麻の準備は整った。
きらびやかな花嫁衣装。
女性であれば誰もが憧れ、手を伸ばしたくなるウェディングドレスをリアス・グレモリーは着ていた。
しかし、きらびやかな衣装とは裏腹に彼女の表情はまさしく曇天だった。
(こんな格好……)
リアスは現状に納得なんてしていない。
正直に言えば、彼女は不満でいっぱいなのだ。
おとぎ話にでも出てきそうな程に広いホール。
そこで立食パーティーの形式で行われるリアスとライザーの結婚式。
怪我は動ける程度には癒えているのでアーシア以外の眷属も参加している。
リアスは一番前の席でライザーと肩を並べて座っていた。
その間に彼を横目で盗み見る。
決して彼に気を許した訳ではない。
レーティングゲームの最中に見せたあの黒い炎だ。
あれはライザーのものとは違う確信があった。
では何なのか? その問いには誰も答えてくれない。
否、それどころか“誰も不審がっていない”様子なのだ。
新米悪魔の自分でさえ気付けた事を、ここに揃うベテランが気付かないのか?
何か、彼女の知らぬ所で大きな闇が蠢いてでもいると言うのか?
「リアス、どうしたんだ?」
ライザーの態度は普段と変わらない。
あの時に感じた重圧も今はない。
本当に何だったのか?
「何でもないわ」
素っ気ない応答になったのは不思議でも何でもない。
彼の身に何が起きたのかを把握できているのは自分だけらしい。
眷属の間――とは言えアーシア位だけだが――でも誰も気付けなかった。
グレモリーというだけではない、魔界を揺るがしかねない状況を放ってなんておけない。
(どうするか……答えは決まってる)
リアスの決意は固い。
今だって嫌ではある。
だけども、自分が何とかする。
フェニックス家に乗り込んで正体を暴く。
(でも、本当は――)
自分を励ましてくれた上条当麻の顔を思い出す。
彼は強い。
戦闘で、ではなくて精神的に、という意味合いでだ。
付き合いは短いが、彼ならきっとライザーに真正面からぶつかれるのだろう。
それだけの勇気を彼は持っている。
とは言え、今の彼は療養中だ。
だから頼れない、頼っちゃいけない。
「トウマ……」
不思議と、彼の名前をなぞっていた。
自分を「グレモリー」ではなくて「リアス」と呼んでくれた彼を。
彼はリアス・グレモリーという少女を真正面から見てくれた。
そんなのは初めてだった。
こんなにも彼が気になるのはそれが理由だ。
応えたい。
リアス・グレモリーとして、彼の主として――リアスは必死に自分を奮い立たせる。
この縁談に応じるのはライザーに起きた変化を調査する為。
これまでのような生活ができる保証はない。
全てが変わってしまう。
でも、それでも、リアス・グレモリーは――
パッリィィィンッ!! と音がホール内で反響する。
何事なのかと、全員が慌てる中、変化はゆったりと起こった。
この部屋に入る為の1つしかない出入り口――両開きの扉が開いていく。
全員の注目が集まる中、その原因は立っていた。
左腕に赤い龍を模した籠手を携えたツンツン頭の少年。
この場に削ぐ和ぬ学ランに身を包み、静寂が支配する部屋を堂々と突き進む。
全員は彼を止める事もしない。
それはそうだ。
今、彼は得たいの知れぬ力を用いてこのホールに張ってあった結界を粉々に破壊した。
やがて少年はライザーの前に立つ。
「何だ? 何か用か?」
「リアス部長を返してもらいに来た」
瞬間、どよめきが走る。
既に婚約は決定し、あまつさえレーティングゲームで白黒着けた。
今更、どの面を下げて言い出す?
「俺はレーティングゲームに参加できなかった。だから、“俺は納得していない”」
何て我が儘な言葉だろう。
だけども、実は珍しくもあった。
少年は基本的に我が儘を言わない。
このような形でさえ、言う事そのものが物珍しかった。
「つまり、お前が出ていれば結果が変わっていたと?」
「そうだ」
堂々と少年は胸を張って告げた。
こんなにも強く、宣言するのは初めてな気がする。
「くっ、はははっ!!」
ライザーは腹を抱えて笑う。
たった1人の少年、しかも悪魔に成り立てだという彼が戦況を変えられるだけの可能性を秘めていたとは思えない。
「馬鹿を言うな。悪魔に成り立ての癖にこの俺に勝てると思ってるのか?」
「いや、それはどうだろうね?」
少年の言葉をライザーのように偽りとは思わず、額面通りに受け取った悪魔が居た。
助け船を出したのはリアスと同様の赤い髪の顔立ちの整った男性。
彼がリアスの兄、サーゼクスなのだと直感が告げる。
「聞けば彼は『赤龍帝』らしいじゃないか。だとしたら、君より強いのかもしれない」
サーゼクスはそのように言い出す。
すかさずに彼はこのようにも続ける。
「それに彼には納得なんて出来ないだろう。自分が参加できていないのだから」
「ならば、どうすると言うんだ?」
その言葉を待ってましたとばかりにサーゼクスは口を開く。
「君達2人、1対1で戦うんだ」
「何故俺が戦わねばならない?」
「『赤龍帝』の戦いが見たいのと、純粋にフェニックスと『赤龍帝』のどちらが強いのか興味がある」
ライザーは訝しい表情を作る。
そう、彼に今更戦う理由はない。
「怖いのか?」
だったら、その理由を“今から作る。”
「俺は下級悪魔みたいなものだろ? 上級悪魔として下級悪魔に負ける事が怖いから戦わないんだ」
「ふん――」
安い挑発だと分かりつつも、ライザーは見過ごせなかった。
だからだろう。一も二もなく、少年の目の前に憤怒の表情で立ったのは。
「面白い。お前ごときでは俺に勝てない事を証明してやる」
あっさりと、彼は挑発に乗る。
この状況を設けたサーゼクスも随分とやる。
あとは、自分が何とかするだけだ。
「やれるもんならやってみろ」
少年は右の拳を強く握り込む。
得たいの知れぬものが潜む敵……恐怖はある、足が震える、だけど――前に進む。
それだけの勇気を少年は持っているのだ。
「お前が抱くその幻想を、ぶち殺す!!」
少年――上条当麻は宣言する。
他の誰にでもない、自分の信じる正義の為に――。
如何でしたでしょうか?
他人の為に上条当麻は我が儘を言う。
でも、例え身内の了承はあれど、この状況では政略的なものもある。
本来なら、彼の言葉は他の勢力には通用しないです。
故に、今後の動向が気になります。
さて、駆け足ですがいよいよライザー戦がスタート!!
次回も3週間後位を目安にお願いします。