熱も無事完治しました。
では、続きです。
帰り道。上条は肩を落としながら歩いていた。
既に彼は嵐が通り過ぎたように制服が泥で汚れていた。
案の定、彼を知る者であれば何があったのか分かるだろう。
毎度起こる不幸が上条に降り掛かった。
空いていたマンホールに落ち、工事で穴を掘っていた際に土を掛けられたり、子供にぶつかりそうになったのを避けたら他人の庭に足を踏み入れた時に飼っていた犬が近くにいて噛みつかれたりetcetc
右手に持った学生鞄が無事なのが奇跡に思えてくる。
「あの……上条当麻君ですか?」
正面に女の子が立っていた。
ツヤツヤの黒髪、スレンダーな体型だが気品の良さを身体全体で醸し出していた。
「えっと……君は? どうして俺の名前を?」
「ご、ごめんなさい。私は天野夕麻(あまのゆうま)。上条君の名前は駒王学園では有名だよ? なんたって『不幸が服を着て歩いている』って噂がされる位だもの」
「何か俺ってすごい事になってるのな!?」
自身でいつも思っている事をまさか他人が……しかも噂のレベルでされているなどとは凹む。
「それで? 不幸が服を着て歩いている上条さんに何の御用で?」
「えと……ここだと無理だから公園に行こう」
そう言って天野夕麻は上条の左手を掴んで走り出した。
当の上条はされるがままだったのだ。
夕暮れに染まった公園の噴水。
何色にも染まる透明な水が夕暮れに塗られていた。
「あ、あのね……上条君!!」
噴水を背に夕麻は上条に意を決したように彼の名前を呼ぶ。
続け様、彼女は勢いに任せて叫んだ。
「私と付き合ってください!!」
人にとって一斉一代とも言うべきイベント――愛の告白だ。
天野夕麻は不幸が人の形を成した上条当麻に恋をしており、その想いを口にした。
無論、上条にはこんな告白を受けるのは初めての事態だ。
脳の処理が追い付かずに万年落ちこぼれの思考回路はオーバーヒート寸前だった。
(はっ!! いや、待て!!)
上条は思い出す。
きっと、これは巧妙な罠なのだ。
大体にして上条に不幸属性がある事を知っているのに「付き合いたい」だなんて言う女子がこの世に存在するだなんて思えない。
彼は今の事態にいくつかの予想を立てた。
①実は彼氏が居て、後になってボコボコにされる。
②いつだったか、夏休みの終わりに起こった御坂美琴との疑似デートに終わる。
③罰ゲームでやらされている。
うん。間違いない――上条当麻は慎重だった。
きっと、彼女にはやむにやまれぬ事情があったに違いない。
「あのさ、天野さん……無理しなくて良いんだよ」
肩を叩き、上条は夕麻に諭すように告げた。
一方の夕麻は「はい?」とでも言いたげな視線を送る。
「いや、上条さんには分かってる。君は罰ゲームとか何かで俺に告白するように言われたんだろ? 大丈夫だ。俺はこんなの慣れてる。むしろ告白なんて俺には一生縁のない話が飛び込んできたんだから理解している――」
「だぁぁぁあああああっ!! どんだけネガティブなのよあんたはぁぁぁーーーーっ!!」
上条が夕麻の告白を真に受けていない事が分かると、告白した当人が叫び声を上げた。
「普通喜ばない? こんな可愛い女の子が告白してるんだからさ? デートの1つでもしたいと思わないの?」
「そりゃあ上条さん的にもデートはしたいよ!! だけどさ、今までを振り返るとそうは思えないんですたい!! これまでどんだけの不幸と相対してきたのか分かるか!!」
「ええい!! 面倒な!! なら、私とデートしたいと素直に言いなさい!!」
「そっちは乗り気なら俺だってデートしたいって!!」
「なら、良いじゃないですか!!」
「くっそー!! こうなりゃ破れかぶれだ!! デートさせてくれ!! ただし、お金はないから割り勘な!!」
「デート前から割り勘宣言するとか男としてどうなんですか!?」
上条と夕麻のやり取りには何処か漫才染みた内容を感じる。
だけども、そんなつもりは一切ない。
夕麻の方も「もう良いわ」と切り出す。
「あなたって思ってたよりもめんどくさそうね……いっそのこと――」
唐突に彼女の雰囲気が変わる。
冷たさを孕んだ瞳、まるで敵を倒そうとしているようだ。
次の一言で、上条はこれまでの経験で得た直感が正しいと直ぐに理解する。
「消しちゃおうかしら」
夕麻の口からおぞましい言葉が繰り出された。
バサァァァッ!! 彼女の背中から黒い両翼が音を奏でて出現した。
それは錯覚ではないと上条に伝えるように、黒い羽が1つ足下に落ちる。
「お前……」
その姿に上条は驚いた。
リアスの一件から異能の力が関与した事柄は少なからずあると踏んではいた。
しかしながら、こうも早くに目の前に降って出るのは予想外も良いところ。
「冥土の土産に教えてあげる。天野夕麻は夕暮れにあなたを殺すって意味で作った偽名よ」
「俺を殺す……だと?」
この世界にやって来て早々に殺すだの殺さないだのの話が持ち上がるとは思わなかった。
天野夕麻――先程までそう名乗っていた彼女は上条を値踏みしていた。
「あなたに『
そう言って彼女は手元に光る槍を出現させた。
上条は身構える。
相手に背中を向ければ、あの槍に刺されて人生ゲームオーバーだ。
「セイ……何だよ?」
「知らなくて良いわ。これから死ぬんだもの。でも、私の名前くらいは教えてあげる」
光る槍を1つ、天高く掲げると上条を狙う。
そこから投げ付けるつもりなようだ。
「私の名前はレイナーレ。上条当麻、今からあなたを殺す名前よ。覚えて死になさい!!」
そして、光の槍が投げられた。
直撃すればどんな事が起きるのかは馬鹿でも分かる。
上条だって、何度も経験をしてきたのだ。
それでも、“この程度では”上条には通じない。
「残念だが……俺を殺すには弱すぎるぜ」
光の槍の軌道に合わせて右手で払うように触った。
パキィィィンッ!!
上条には聞き慣れた、レイナーレには初耳の音が反響した。
『
彼の右手に宿るその力の前では如何なる異能も無力とかす。
どんな努力をも幻想として殺す力を惜し気もなく発揮する。
「な、何なの……何が起きたの?」
事態を把握できていないレイナーレはパニックに陥っていた。
一方、上条はその隙を突いて走り出していた。
右手をいつでも出せるように左へ、そして目的は“逃げる事だ。”
得体の知れない敵なのは上条もレイナーレも同じ。
ここは逃げに徹して、戦闘を回避するのが一番だ。
レイナーレの方も上条と同じ考えらしい。
上条が逃げるのを追わなかった。
「作戦の練り直しが必要ね」
レイナーレは上条が逃げおおせた事に驚きはかくせない。
上条側にも対処できる力があると分かってしまったからだ。
家族を襲うなんて事もできるが、上条には別の手札があるのではないかと思うとできない相談だ。
「上条当麻……」
レイナーレの心のブラックリストに上条当麻の名前が記された。
「ぜえ、ぜえ」
上条はそこそこに体力はある方だと自負している。
しかし、公園から家までどのようにして走ってきたのかを覚えていない。
それだけ切羽詰まっていた。
まあ、それでも無事に家に着けたのは不幸中の幸いだ。
先程のレイナーレという彼女は上条の中に『何か』があると言っていた。
(俺が思っている以上にヤバいんじゃないか……?)
もしもレイナーレが上条の代名詞とも呼べる『
(だけど、そんな事はないか)
レイナーレの反応を思い出していた。
上条が『
つまり、彼の右手以外に“別の何らかの力が上条自身にあるのではないか?”
(でも『
『
上条に他の能力の可能性があったとして、『
「どうすりゃ良いんだ……」
上条が肩を落とし、今後にふりかかろう不幸に難儀していた時だ――
「あら、また辛気臭い顔をしてるわね」
本日だけで2度目の凛とした声音が上条に届いた。
紅の腰まであろう髪を靡かせた少女――
「リアス先輩?」
帰り際に出会った少女が上条の前に立っていた。
「ええ、さっきぶりね上条当麻君」
何となく、リアスに「君」付けで呼ばれると背中がむず痒くなる。
「さて、単刀直入に聞くわ。あなたは“人間かしら?”」
「はい?」
リアスと言葉のキャッチボールを交わそうとした矢先にとんでない暴投がやって来た。
人間かしら?――とか、何を当たり前な事を言うのか。
「そんなの人間に決まってる。そんな言い方をしたらリアス先輩が人間じゃないみたいじゃねえか」
先輩と後輩の立場を忘れ、上条は突っ込んだ。
リアスは「確かに」と小さく笑いながら応える。
「ええ、私は人間じゃない――」
一旦間を置いた。
直後、彼女の背中に黒い……悪魔に生えていそうな尖った部分の多い羽が現れる。
「私は悪魔よ」
この時、上条は自分が何をすべきが分かった。
これまで天使だの何だのといった輩とは拳を交わしてきた。
だから今更悪魔がやって来た所で驚かない。
しかし……きっとこれから起こるだろう事柄は上条が安売りしているものを呼び込む。
なので、先手を打たせてもらおう。
さあ、皆様もご唱和下さい。
この不幸に愛された少年のお決まりのセリフが近所迷惑レベルで叫ばれます。
せーの、
「不幸だぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああーーーーーーーーっっっ!!!!」
如何でしたでしょうか?
レイナーレが何かキャラ崩壊してた気が……
上条さんの能力が未知数ならレイナーレも手出ししづらいと思うし、空を飛ぶ相手には勝てないので逃げると思いまして、このようは形になりました。
いくら上条さんでも何の策も無しに空中を飛ぶ相手には勝てないでしょうから。
あと、最後の上条さんの台詞やりたかっただけです。
この後に迎える「不幸」をいち早く読んで叫んで貰いました。言える機会ってそんなにない気がして
さて、次回は来週の日曜日です。