続きです。
「まったく…………毎回毎回騒ぎを起こさないと気が済まないんですか? 特に上条ちゃんは成績も出席日数も低空飛行しているのですから悪行が過ぎますと考えがありますよ?」
目の前で学園都市で、現在の駒王学園きってのミニマムティーチャー小萌先生が威圧を放つ。
放たれているのは上条、匙、木場、小猫――――そこに土御門と青髪ピアスの姿まである。
場所はファミレスから離れて学園の職員室である。
あの後、木場の生い立ちを聞いた匙が号泣した。
木場の置かれた過酷な環境を聞かされた匙が知りもしない相手に怒りを覚えてくれた。
何て良い奴だと上条は思った。
その直後だ。匙は自分の胸の内を吐露した。
曰く、彼は主であるソーナ・シトリー会長と所謂「できちゃった婚」をする事だそうだ。
匙が如何に彼女に恋い焦がれているのかが良く分かる。
そこへ現れたのが偶然にも居合わせた土御門と青髪ピアスである。
何をしに出てきたのかと思えば物申すとばかりに出てきた。
この2人が物申す内容ともなれば――――自分達の好みの女性論である。
土御門はソーナ・シトリーに姉属性の部分を感じるのでNOと言い出す始末。
青髪ピアスは「会長さんに蔑まれた目で見られるのもええけど、普段は見せへんような照れ顔を拝みたいなぁ」等と言い出すのだ。
それに噛み付いたのはソーナの兵士である匙。
自分の主をそのような目で見られるという事実は見逃しがたい。
「会長をそんな目で見るだ等と許さない!!」と自分の事を棚上げした発言を始める。
そして遂には上条にまで話は飛び火する。
好みの女性の話になった時、彼が「管理人のお姉さんが良いに決まってるだろ!!」と爆発した。
徐々に論議がエスカレートしていき…………最終的には小猫に拳骨を喰らう事で事態は収束した。
無論ながらそれで終わりではない。
ファミレスで騒いでいた時には制服を店員に見られて駒王学園へ連絡が入れられ、小萌先生が迎えに来た次第である。
そして今に至る。
「上条先輩達のせいで私と祐斗先輩まで呼び出されたのですから反省して下さい」
シレッと横から毒を吐いてくるのは小猫だ。
これに反応したのは土御門と青髪ピアスである。
「木場は無罪放免ってか? はーっ!! このイケメンめ!!」
「イケメンだからって許されると思ったら大間違いやで!! イケメンだって人間なんや!! トイレ位は行くんや!!」
木場を庇う小猫の発言に庇われた者へ不満を爆発させる。
と言うか、途中から木場ではなくてイケメンへの嫉妬が入り混じっている。
「今回はお店の方も騒ぎを起こさなければ良いと仰っていましたので、見逃しますが…………次は無いですよ?」
店側の意向でお小言だけで済んだのを喜ぶべきだろう。
反省文レベルの問題を不問にしてくれた店側に感謝だ。
小萌先生の言うように今回はこれで解散となった。
「上やん」
小萌先生よお説教から解放された一堂。
土御門が上条を呼び止める。
「そういえば上やんに渡すものがあるのを忘れてたんだにゃ。教室まで来てくれると助かるんだけどなー」
「渡すもの?」
「そうそう。前に上やんに頼まれてたものなんだぜぃ」
前に頼まれていた――――その導入には些か引っ掛かる点がある。
しかし、『この世界』においての上条当麻の以前の行動を今の上条当麻が知る由もない。
記憶喪失になったばかりの頃を思い出す。
これまでの上条当麻に成りきるとまでは言わないが、矛盾を起こさないよう行動するのは吉だろう。
「分かったよ、着いてってやる」
今回はこれで解散にしようと木場達にも伝える。
「それじゃあ、行くとしましょうかにゃ~」
土御門が腕を振り上げながらずんずんと進み始める。
テンション高いな~と思いながら上条は彼の後へと続いていく。
「おい土御門、なんだってこんなところまで連れて来られなくちゃならんのだ?」
土御門に連れられ、上条は校舎裏まで連れてこられた。
「校舎裏と言ったら定番中のど定番。愛の告白に決まってるにゃ~」
「背筋がゾッとする事を言うのはやめい!!」
冗談だとは分かっていてもいい気分がしないのは確かだ。
上条は身震いしながら土御門から距離を取り始める。
「冗談冗談。相変わらず上やんは面白いぜよ」
ニマニマとしながら土御門は告げる。
冗談にしたって心臓に悪い事には変わりない。
「ところで上やん、悪魔になったってのは本当かにゃ~?」
「ああ、そうだよ」
土御門の問い掛けに上条は頷いた。
“考える事もせずに。”
「なあ、上やん」
「ん? 何だよ?」
「お前、何で“何の疑問も持たずに頷いたんだ?”」
「何でもなにもそういう情報の窓口の多い土御門なら知ってておかしくなんか――――――」
そこまで言い欠けて己のバカさ加減に気付かされる。
科学サイドと魔術サイドの二重スパイを土御門がしていたのを知っているからこそ、自然と土御門の問い掛けにも頷いた。
だが、“今の上条当麻の立場はどうなのだ?”
世界観はこれまでとはガラッと変化している。
超能力や魔術といった馴染み深い異能力の他にも悪魔やら天使やらエクソシストといった連中まで存在する。
天使こそ上条は聞き覚えがあったが、童話にも出てくるような輪っかに羽の生えた存在なのだろう。
「答えられないか?」
サングラスを整えながら声音に籠る覇気が強まる。
「ま、待ってくれ!!」
別に悪いことをしようとしてる訳ではないのだが、何となくそんな気分になってしまう。
一つ深呼吸を置く。
どうせいつかはボロが出る。
こういった面でもプロである土御門相手に駆け引きなど無用だ。
だったら、今ここで吐いてしまった方が楽になる。
信じてくれるかどうかは――――『
「逆に聞きたいんだけどさ…………俺の事は何処まで分かってる?」
「最近グレモリーの眷属になったこと、その後にレイナーレを倒し、フェニックス家のライザー・フェニックスを打倒した今代の『赤龍帝』ってところまでだにゃー」
それはほとんど知られているも同然だ。
けれど、土御門のもたらした情報の中には“不足している点が存在する。”
「他には? 何かあるんじゃないか?」
「それは、どういう意味ぜよ?」
「そのまんまだよ」
腹の探り合いなど上条には不向きだ。
だから、今度はストレートに質問を重ねよう。
「ライザーとの戦いを見てたってのなら、“不可思議な現象が起きていたのも知ってるだろ?”」
上条が重ねて行う問い掛けに対し、土御門は無言になる。
ややあって、彼は口を開いた。
「確かに、上やんがライザー・フェニックスの発した不可思議な炎を消したみたいな話は聞いてる」
けれど、それは『
あの場の誰もがそういうものだと認識している。
上条が更なる質問をしてきた事から、それが『
「それは俺自身に宿ってる全く別の異能の力だ」
だから、続けて上条が自分の能力について白状した事に少なからず驚きが隠せない。
そんな土御門の戸惑いなどお構いなしに話を勝手に進める。
己の代名詞の異能について。
「『
「ほう。そんな力を上やんが持っていたなんてな」
「まあ、弱点は多いし、未だに謎な部分があるけれど」
土御門も納得半分といった所だろう。
上条の能力は他の異能力が存在して初めて立証される。
他の異能力者なくして上条当麻の強味は活かされず、決して表沙汰になろう筈もない。
「確かめてみるか?」
「いや、良い。わざわざ上やんが言うんだから適当な事を言ってるとも考えづらいしな」
半信半疑の域は脱しないが、それでも土御門は上条が嘘を付くメリットがないと考える。
「でも、やっぱり一番は上やんが策士みたいな真似事が出来るとは考えづらいからにゃ~」
「遠回しに人を馬鹿にするのは止めなさい!!」
暗に上条を馬鹿にしてくる。
それでも否定できないのは悲しいかな、上条当麻の生まれ持った性であろう。
「まあ、『
「そういや、ファミレスにお前も居たもんな」
あの時の割り込みの勢いが強烈すぎて忘れていた。
その時の事を引き合いに出せば土御門もこんな剣呑な雰囲気を出さなかったであろう。
戦闘面ではない上条当麻の閃きは、こういう時には鈍い。
「あー、もうその反応で上やんの策士説は消え失せちまったぜ」
「やめてやめて!! 上条さんにそういう事を言うと目から大量の水分が吹き出ちゃうの!!」
土御門に言われて、ファミレスでの一件を思い出した上条は手で顔を覆う。
ついさっきの出来事を忘れてしまうとは悲しい程に低い記憶力である。
「話が大分脱線したけど、これにどんな意味があるのかね?」
土御門は改めて上条へ問い掛ける。
今ので上条に隠された能力を開示しただけで、根本の質問の回答には至っていない。
土御門の事を“意外にも”知っていそうな上条の情報源の出所を突き止めなければ。
「それは、いつだかに聞いてきた学園都市ってのと関係でもあるのかぜよ?」
「覚えて、たのか?」
学園都市――――上条にとってはかなり馴染み深い単語である。
それを土御門の口から出された。
いや、たった今彼は「いつだかに聞いてきた」と前置きをした。
この世界へ来た時に土御門と青髪ピアスにいの一番にした質問が学園都市の存在の有無である。
その時の事を土御門は覚えていた。
「いきなり話にぶっ込んできたから何かあるとは推察してたぜよ」
あの時は少しでも多くの情報が欲しくて上条は聞いたのだ。
まさかそれがこのような形で使われるとは思いも寄らなかった。
「学園都市なんてもの、調べた限りでは影も形も見当たらなかった。けれど、上やんの口からは当然のように発せられた訳だ」
とても適当に告げられた内容だとは土御門も到底思えなかった。
その後、彼なりに調べてみたのだろう。
「はてさて、学園都市ってのがどういうのかまで引くるめて説明を願おうか?」
「もちろん、最初からそのつもりだ」
土御門が脅すように圧を掛けてくるが、上条はそれを受け流して自ら進んで頷いた。
元より、彼には説明しなくてはならないと考えていた位だ。
超能力や魔術といった単語から土御門が魔術師か超能力者か、はたまたその両方かの疑念は付きまとう。
けれど、以前は陰陽博士などと持て囃された彼ならば魔術師としての道を歩んでいよう。
超能力も授かりはしたが、こちらの才能の方はからっきしで上条と同じ学校に通う位であるのだから。
「手っ取り早くい言うとな、『この世界』は俺にとっては『別の世界』そのものなんだ」
「はい?」
上条が勇み足で出した情報に土御門は当然ながら首を傾げる結果となる。
そうなるのも致し方無し。
上条の言っている事は支離滅裂にも程がある。
「えと、何だったか…………そう!! 位相された…………じゃなくて、赤と青を混ぜて紫になるような、上書きされて」
ここのところ事件続きで上条も謎解きは見送っていた。
朧気にしか思い出せない可哀想な上条君は記憶の引き出しを出し入れし続ける。
何とか言葉を絞り出そうとするが、悲しいかな要領を得ない。
元々科学サイドの上条にとっては魔術サイドの話は振られるだけで困る。
なのにこちらからしようとなると情報の欠落部位があるのだから余計だ。
上条が何とか説明しようと無い頭をフル稼働させ…………
「せっかく説明してやったのに忘れるとは何事だ」
上条の頬が横から引っ張られる。
「いふぁい、いふぁい!! 痛いですことよ!!」
最後には引っ張るのを止めたようで、上条は勢いのままに不届き者へ怒号を上げる。
こんな仕打ちをする人物に上条は勿論の事ながら心当たりがあった。
「オティヌスさんや!! こういう事を突然なさるのは止めてくれませんかね!?」
「人がしてやった授業を聞いてるんだか聞いてないんだか分からない回答をしよってからに!!」
小さな『理解者』は授業してやった内容を忘れられてご立腹である。
上条が分かっていても、説明できない事にも物申したくなる。
「ふむ。話を聞くに、上やんが悪いな」
教えてやったと言うのにメモを取らない生徒の方に問題があると土御門はジャッジを降した。
これで2対1。哀れ低空飛行の成績の持ち主・上条当麻を擁護する声は上がらない。
「そんな先生不幸な上やんは置いておくとして、このミニマムエロ衣装の金髪さんはどちら様?」
「神を相手にそんな敬称で呼ぶとは良い度胸だな」
土御門が軽口で言ったようだが、このミニマム神様は大層お気に召さなかった。
まあ、土御門がニヤニヤしながらおちょくるのも悪い気がする。
「落ち着いて神様。被害はさっきから俺の頬に来てるんですが!?」
小さい神様の怒りの発散方法は上条の頬を殴るという物理的な意味で実行された。
おかしい。土御門へ憤怒の切っ先を向けている筈なのに無実の上条が罪を背負うなどあってはならない冤罪だ。
「それは神の有り難い授業を忘れる生徒への鞭だ」
「そこに愛がなければただの体罰ですことよ!?」
シレッと言う小萌先生よりもミニマムなティーチャーさんの鞭は痛いだけで愛は無いようだ。
何処の教育委員会へ訴えてやろうか。
「さて、話のレールを元に戻そうかにゃ」
「そうだな。この人間の理解力の低さを忘れてしまっていたこちらの落ち度だ」
言葉の暴力とは言ったものだ。
オティヌス先生からの容赦なき言の刃が上条当麻を切りつける。
「と言うか、今更ながら…………覚えてるの?」
「本当に今更な問い掛けだな」
上条の質問がこれまでのやり取りの初っぱなに来そうなものなのにここまで出遅れてしまうとは。
怒濤の展開の連続だった事を思えば無理もない。
「その通りだ。“今だけ思い出している”」
それは上条とオティヌスの間にしか伝わらない文言である。
詳細は不明ながらオティヌスは『元の世界』――――学園都市があった世界の事を定期的に思い出す。
法則があるのか無いのか、その周期はバラバラであるのが本人の談である。
それも含めて土御門には説明が必要だ。
「この人間の為にも分かるように用いた例題をもう一度説明してやろう」
溜め息を吐きながらオティヌスは呆れたように言う。
何だかんだで受け持った生徒の事を見捨てない、まさにゴッドティーチャー様だ。
「まず端的に言おう。ここはこいつの居た世界とは『別の世界』でもある。しかしながら、そうとも言い切れないのが現状だ」
「ほう? それじゃあ、具体的には何なのか分からないぜよ?」
「急かすな。これからきちんと説明してやる。良く聞けよ」
最後の部分は上条に向けて言われた。
無言で出来の悪い生徒は頷く事しかできなかった。
よろしい、との言葉の後にオティヌスは上条の左肩に腰掛けて授業を再開する。
「まずは眉唾な話の根幹となってる『別の世界』とか言う点の証明からしよう」
「そうしてくれると、話が呑み込みやすいから頼むぜぃ」
上条とオティヌスからすれば土御門の説明の為に『別の世界』の存在の認知は必須となる。
彼自身が学園都市などの事を覚えていない以上は難しい議題になりそうだ。
しかし、教鞭を握るオティヌスにはそんなものなど難題の内にも入らないだろう。
「さて、質問だ。こいつとの会話の中で違和感を覚えた事はないか?」
上条の頬をペシペシと叩きながらオティヌスは質問する。
土御門は「ふむ」と唸ると、覚えがあるのか切り出してきた。
「確か、少し前に上やんってば俺達に自分の席の場所を確認してきたよな?」
それは上条が『この世界』へ連れてこられた初日の出来事だ。
学校へは辿り着けたものの、自分のクラスや席は全く分からないのだ。
その時に記憶喪失後に学校へ訪れた時の方法で席の場所を確認したのである。
「ああ、そんな事もあったな」
あの時は「どうしようか」と考えていた事もあり、上条の記憶の中では風化されていた。
土御門には十分に覚えがあったようである。
「説得力としては薄いけど…………まあ、満更嘘でもないかもしれないとは思えてきた」
土御門としても違和感として捉えるには説得力の方が欠如してない訳でもない。
それでも、普通に考えてスルー出来よう内容でもないのは確かである。
「それだったら、上やんがこっちの事を知ってた理由について説明できるなら納得できそうだけどにゃ~」
普段のおどけた口調と雰囲気を以て、土御門は上条を見ながら更なる証拠の提示を求める。
しかし、言い方を考えれば上条の持つ情報を引き出すつもり満々なのが窺い知れる。
「それが、ここに来る前の『別の世界』に居た時の土御門の印象が残ってるってのがある」
上条の方はといえば、一切の思考フェイズも無しに直球を投げた。
少しは答える内容に逡巡するのかと思えば、何の迷いもなしに直球勝負である。
肩に乗っかる神様先生は「やれやれ」と頭を左右に振る。
上条の即答は予測されたものだったのか、オティヌスが怒る様子は見受けられない。
上条は構わず言葉を続ける。
「俺の知ってる土御門は科学サイドの学園都市と魔術サイドのイギリス清教とを股に掛けたスパイ活動を行ってた」
「二重スパイをしてたって? それはスパイ映画の観すぎだぜ」
こちらの土御門は二重スパイといった活動は行っていないよう――――――
「それがもしも“流せる話の内容だったら良かったんだけどな”」
続けられた言葉へ対し、上条は土御門の方を見る。
今の台詞回しから連想されるのは1つしかない。
目の前のグラサンシスコン男は以前の世界と何ら変わらない活動を行っている事になる。
「何と無くだが、信用に値する話にはなってきたよ。上やんの情報網がこっちを上回るって言うんなら話は別になるけども…………それは無さそうで安心した」
上条の顔を見て判断される。
信用されたのは嬉しいのに、何故か釈然としない。
「それじゃあ、次は実験といこうか」
話が切り上がったと見るや、オティヌスはそう切り出した。
「実験って…………何をやらせるつもりだよ?」
何かをやらかすつもりだと上条は察知し、身構える。
オティヌスはそんな上条の心配を知った上で言葉を紡ぐ。
「折角だから『
不適に笑いながら告げる『理解者』の発言に上条は何処と無く嫌な予感を覚えた。
「今からこいつの頭に触れれば良い。恐らく、それだけで全てが解決する筈だ」
「ほう」
オティヌスの確信めいた発言に土御門も興味を惹かれる。
しかし、惹かれるだけで終わってしまう。
「けど、それで本当に分かるのかどうか疑問が残るところだと思うぜよ?」
「確かにな。『
現にオティヌス自身がそういう意味でも証明してしまっている。
一時的に思い出したとして、その時の記憶を封じられては結局意味がない。
「こういう記録を残すのにおあつらえ向きの道具があるだろう? なあ、現代っ子よ?」
「そうか」
上条は自分のスマホを引っ張り出す。
第三者からの視点であり、機械的な記録を残すにはうってつけの現代人の必須アイテムを用意する。
「いや、せっかくならこっちのスマホで記録をしてくれ」
土御門はそこへ「待った」を掛ける。
上条の物ではなくて土御門の物を使って欲しいとの申し出だ。
「変な小細工をしても証拠は残るし、解析もできる。信用できる内容なら記録として残せるしな」
「まあ、当然だな」
オティヌスとしても土御門の意見は至極全うだと思っている。
だから、彼の意見に口を挟むつもりはない。
こちらは清廉潔白である事を証明したいのだから。
「ほれ人間、さっさと動画撮影しないか!!」
「分かったからペシペシ叩いて急かさんでくれ」
オティヌス先生に命じられるままに土御門のスマホを動画モードにして撮影を始める。
「それじゃ、失礼して」
左に持ったスマホで土御門を撮影しながら上条は右手で彼の頭に触れる。
パァァァァァンッ!!
聞き慣れた破裂音がと轟いた。
「うっ、くっ!?」
土御門は頭を抑えて一歩、二歩と後退していく。
「か、上やん…………これは」
「土御門!! おい、大丈夫か?」
「あ、ああ…………悪い」
口では言うが土御門の顔が少し青白くなっているのが分かる。
けれど、これまでとは様子が変わっている。
悪い方向――――だとは思えない。
「思い、出した……ぜ。学園都市とか、全部な」
上条へ向けて土御門は言った。
「やはり、な」
「どういう事だよ?」
右手で頭に触れる――――そうする事で土御門に記憶が戻ったと言うなら“もっと早くに他の面々の記憶が戻っても不思議はない。”
「お前の右手で“ただ触れるだけじゃ記憶操作の能力を無効に出来ないこは前回で気付いていた”」
オティヌスと再会した際に彼女に触れても記憶を操作しているだろう異能力の類いを上条は無効化できなかった事を思い出す。
ただし、“普通のやり方なら。”
「現状の私が“記憶を取り戻しているなら『
その結果が今目の前で起きた。
「いや、でもそうだとしたら――――」
「前回ので私に掛けられた異能力を無効にできていた、か?」
上条の疑問点はオティヌスも分かっている。
だからこそ、考えうる推論は立てている。
「『
土御門が言葉を引き継いだ。
「断続的に続く異能力へ対して、処理が追い付かなければ『
それは上条自身も身に染みる思いである。
これまで『
中には破壊される事を前提とした攻撃も存在した程である。
「上やんの『
「抜け道か」
『
「多分だが、抜け道を確保するが故に何処かで綻びが生じて、たまに記憶が掘り起こされる。そこにはその右手が関わっていないと断言が出来ない筈がない」
記憶が戻る事に上条当麻の右手が無関係だとは考えにくい。
その結論に至るのは何もオティヌスだけに限った話ではなかった。
「『
記憶が甦る点に関しては上条当麻の右手に某かが起因している可能性が十二分に高い。
その鍵を握るのは、やはり『この世界』に訪れる直前に出会った男の存在。
「問題は、綻びが生じるタイミングと記憶が戻る奴が他に居るのかどうか。現在のようなタイミングなら『
自然と記憶を取り戻したのは現状ではオティヌスだけ。
他に同様の存在が居ないとも考えられない訳がない。
これがこの先も可能か否か、上条は調べる必要性がありそうだ。
「うっ、く」
「早い、な」
突如として土御門とオティヌスが苦しみ出す。
これは前回にも起きていたのと同様だ。
「大丈夫かよ!?」
「心配するな。まあ、だが…………後の事は頼む」
「本当、上やん。すまねえな」
オティヌスは上条の肩で、土御門はその場で踞る。
そして、上条はこの光景を土御門のスマホに延々と録画したままだ。
「これで信じてくれると良いんだが…………」
録画を止め、土御門が起き上がるのを待つ。
その時はこちらに敵意はない事を改めて知ってもらわねば。
如何でしたでしょうか?
今回は物語の進行はありませんでしたが、本編で起きている問題に関して掘り起こさせて貰いました。
一筋縄ではいかない内容、それらをどう伝えるべきか悩んでいたが故に更新が遅れてしまいました。
新たに生じた疑問の方が多いですが、きっと上条さんなら何とかしてくれます。
ではでは、また次回もよろしくお願いします。