続きです。
木場は因子の結晶を哀しそうに、愛しそうに、懐かしそうに撫でていた。
「皆……」
木場の頬を涙が伝う。
彼の精神は悲哀と憤怒の両方の感情がない交ぜとなっている。
ただ、生きたかった。
それは木場だけではない。
結晶化してしまったかつての仲間も皆等しく同じ想いだ。
それを『聖剣計画』等と言う倫理観の欠片も無い計画のせいで、たった1人の狂った人間のせいで――――そんなありふれた希望さえ根こそぎ叩き斬られる。
「ずっと、思っていたんだ…………僕だけが、生き残っていていいのかって……」
木場よりも夢を持った子が居た。
木場よりも生きたかった子が居た。
なのに自分だけがのうのうと、平和な暮らしを過ごして良かったのか?
木場祐斗は罪悪感を抱いて生きてきた。
そんな彼の心の吐露が行われる。
変わり果てたかつての仲間の姿を見て、木場の感情はぐちゃぐちゃになってしまったのだ。
その時だった。
結晶が淡い光を発し、校庭を包み込むまでに拡大したのは。
「これ、は…………?」
突然の出来事にその場の全員が足を止める。
バルパー・ガリレイ、更にはコカビエルでさえ何事かと発信源の木場へと視線を向ける。
上条もこの状況に硬直する。
校庭を覆う青白く淡い光、しかし彼の『
この状況は上条当麻を対象に取らないもの、もしくは不特定多数を相手にしていて上条当麻は『
「いったい……」
当の木場も分からずに困惑している。
校庭の地面の各所から光が浮いたかと思えば、人の形へと変貌した。
青白く淡い光を放つ少年少女達である。
「この戦場に漂う様々な力が因子の球体から魂を解き放ったのですね」
朱乃がそのように冷静に分析する。
何でもござれの状態だ。
元々の上条の生活環境も非日常であったのだから今更何があろうと驚かない。
「もしかして…………」
この現象をいち早く受け入れたのは木場であった。
彼にはこの場に現れた人の姿を模した存在の正体が判明したらしい。
「聖剣計画で結晶化された人間達だろう」
オティヌスが冷静な言葉で以て告げた。
霊魂とでも呼ぶべきなのか、そうなってまで木場の前にかつての仲間は姿を見せた。
少年らしき姿の霊魂が口をパクパクと動かす。
生憎と読唇術の心得は無いので何を言っているのかが伝わってこない。
「『自分達の事はもうい。君だけでも生きてくれ』と彼らはそう言ったのです」
朱乃には伝わっていたようで、通訳をしてくれる。
それを聞いた木場は涙が溢れ、止まらなくなる。
続いて、少年少女達の霊魂は口パクをリズミカルに同調させていた。
「聖歌」
アーシアが呟く。
彼等は聖歌を歌っていると、そう告げる。
木場も涙を流しながら聖歌を口ずさむ。
辛い人体実験で希望を保つ為に手に入れ、生きる糧だったのだろう。
木場と霊魂となった少年少女は幼い子どものように無垢な笑顔に包まれた。
『僕らは一人ではダメだった』
『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった』
『けど、皆が集まればきっと大丈夫』
彼等の魂が青白い輝きを放ち、木場を中心に眩さを増していく。
魂の声が上条にも聞こえる。
様々な力が入り乱れているが故の奇跡だろうか。
『聖剣を受け入れるんだ』
『怖くなんて無い』
『たとえ神がいなくても』
『神がみていなくても』
『僕達の心はいつだって』
「ひとつだ」
霊魂となった少年少女の言葉を最後は木場が紡ぐ。
魂が天にのぼり、大きな光となって集約する。
それは木場の元へと降りて、彼を包み込んだ。
同時、ドライグは告げる。
『相棒、あの『
「至った? それって……」
『
それは『
上条の想い1つで『
『想いの強さ以外にも別の領域がある。所有者の想いや願いが、この世界に漂う「流れ」に逆らう程の劇的な転じ方をする事もある』
「もしかして、それが?」
『そう』
実に楽しそうにドライグは笑いを漏らす。
『『
研究施設から飛び出し、生を求めて木場は走り続けた。
森の中で血反吐を吐きながら走った彼が望むのは人として当たり前の事――――生きる事だ。
そんな当たり前を彼は得られなかった。
常に死と隣り合わせなのが彼の日常で、現実であったのだから。
けれど、彼にも転機が訪れる。
とある上級悪魔の少女と出会い、問われた。
「あなたは何を望むの?」
その時、彼の命の灯火は消失寸前であった。
かすれていく視界の中でたった一言だけ呟く。
助けて――――と。
命を、仲間を、人生を、願いを、力を、才能を、自分を――――。
「悪魔として生きる。それが我が主の願いであり、僕の願いでもあった」
それでいいと思った。
だが、エクスカリバーへの憎悪と同志の無念だけは忘れられなかった。
「忘れても良かった。だって、今は最高の仲間が居るから」
でも、忘れられる筈がない。
それだけ木場は同志との絆が深かったから。
復讐を願っているとしたら、憎悪を宿した剣を下ろす訳にはいかない。
だが、先程に解き放たれた。
同志は復讐を願ってはいなかった。
「でも、全てが終わった訳じゃない」
木場の視線は『聖剣計画』の元凶――バルパー・ガリレイへと向けられる。
「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼす」
もう二度と、あのような悲劇を起こさせてはなるものか。
「ふん。お前と言い、『赤龍帝』と言い、どうにも話にならん。凡人には天才の成す事など理解できんと言う事か」
バルパーは理解してもらう事を諦めた。
「あなたとは最初から理解し合えるだなんて思っていない」
木場もまた上条と同じように台詞を吐き捨てた。
バルパーのやる事なす事、それら全てに反吐が出る。
理解をする? そんなもの、決して不可能だ。
天才だとか凡才だとか、そんなものは関係無い。
もっとそれ以前の、人としての在り方が違いすぎる。
人の生死を玩具にしか見ていないマッドサイエンティストと普通の感性の一般人が共感する等という奇跡は起こり得ない。
最初から結果は決まっていた。
バルパー・ガリレイとは決して交わる事はないと。
「木場!! そっちは、頼めるか?」
上条が問い掛ける。
彼の眼前にはコカビエル。
それを目の前にして、上条当麻は仲間へ声を掛ける。
「任せて」
木場もまた応える。
仲間として、何よりこの状況を作り出してくれた恩人――――否、もっとシンプルな理由だ。
単純に友として、彼は応える。
上条は頷き、コカビエルと相対する。
木場も見据えるべき相手は間違えない。
バルパー・ガリレイ、そして――――
「ハハハッ!! お涙頂戴の寸劇は終わったのかなぁ~? そしたら、悪いんだけどぉ~、ちょぉっと、死んでくんね?」
フリード・セルゼン――――4本のエクスカリバーを統合した聖剣を持つ男。
この2人が木場が相手をするべき敵だ。
「フリード・セルゼン――――その身に宿る僕の同志達の魂をこれ以上悪用はさせない」
「できるのかい? この4本のエクスカリバーを統合させた無敵の聖剣ちゃんに勝てるとでも思ってるんですかねえ?」
下卑た笑みをフリードは向けてくる。
木場の心は想像よりも落ち着いていた。
焦る必要などない。
呼吸を整え、木場は前を向く。
「僕は剣になる」
木場の魂と融合した同志達の想いを形にしよう。
仲間達の剣となる為に。
瞬間、彼の願いに応えるかのような出来事が起きた。
魔なる力と聖なる力が融合する。
木場の『
これは昇華だと。
木場の中に宿る『
神々しさと禍々しさ、相反するオーラを放ちながら木場の前に1本の剣が手元に現れる。
「これが僕の『
聖と魔を有する剣をフリードへ向けながら木場は疾駆した。
『
「せっ!!」
フリードが視線を外した瞬間に木場は踏み込み、斬り込んでいく。
しかし、甲高い音を起てて木場の一撃を止める。
本当に大したものだと木場も感心する。
だが、感心するだけだ。
彼の持つエクスカリバーを覆うオーラが木場の剣によってかき消されていく。
「本家本元の聖剣を凌駕すんのか!? そんな駄剣が!!」
「それが真のエクスカリバーだったなら勝てなかっただろうけどね。けれど、そのエクスカリバーでは僕と同志達の想いまでは――――断てない」
口の悪いフリードに、皮肉を混ぜて返してやる。
舌打ちをするも、木場を押し返して後方へ下がる。
距離を取り、態勢を立て直すつもりだろう。
そして、遠距離手段も用意してある。
「伸びろ!!」
彼のエクスカリバーが意思を持ったようにうねり始める。
宙を無軌道に激しく動きながら迫ってくる。
これは『
4本の聖剣を統合しているのだから能力も当然ながら使える訳だ。
と言う事は――――木場が推測をすると同時に剣の先端から枝分かれし、神速で降り注ぐ。
『
木場の予想通り、能力も同時に扱える。
四方八方、あらゆる方向からの鋭い突きを木場は全て防いだ。
フリードの殺気が丸出しだ。
殺気さえ分かれば雑作もない事だ。
種は割れている。
これでもフリードは攻撃方法を変えないなら一生勝てない。
「何でだ!? 何で当たらねえええええっ!!」
焦りが見え始める。
しかし、まだ向こうの能力は出切っていない。
「次はこいつだ!!」
聖剣の先端がふいに消える。
透過現象だ。
これは『
だが、いくら不可視でも殺気がただ漏れの状態では木場には届かない。
フリードの小細工はいとも容易く防がれる。
自分の失態に気付けないフリードは驚愕の色に顔を染め上げる。
「そうだ。そのままにしておけよ」
横からゼノヴィアが割り込んでくる。
左手に聖剣を持ち、右手を宙へ。
「ペドロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」
何かの言霊だろうか?
ゼノヴィアの隣の空間が歪む。
彼女は躊躇いも見せずに手を入れる。
次元の歪みから1本の聖なるオーラを放つ剣を引き抜いた。
「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。デュランダル!!」
エクスカリバーに並ぶ有名な剣の名称。
「デュランダルだと!?」
「貴様、エクスカリバーの使い手では無かったのか?」
バルパーに続き、コカビエルさえ驚く。
「残念。私は元々、聖剣デュランダルの使い手だ」
エクスカリバーの使い手は兼任していたにすぎない。
デュランダルとエクスカリバーを2つ構える。
「バカな!! 私の研究ではデュランダルを扱える領域までは達していない筈だ!!」
人工的なデュランダルの使い手は創れていない。
それはゼノヴィアが所属する筈のヴァチカンとて同じ事だ。
では、何故か?
答えは至ってシンプルだ。
「人工聖剣使いじゃないってだけの話ぜよ」
これまで沈黙をしていた土御門がニヤニヤとしながらバルパーへ返してやる。
ゼノヴィアは言葉を横取りされ、土御門を一睨みだけする。
彼は口笛を吹くポーズをする。
今は戦闘中である事を考慮し、ゼノヴィアはフリードへ向き直る。
「デュランダルは想像を上回る暴君でね。触れたものは何でも切り裂いてしまうんだ」
デュランダルをフリードへと向けながら宣言する。
「せいぜい一太刀目で終わってくれるなよ?」
「ここにきてチョー展開!! クソッタレが!! そんな設定いらねえんだよォォォォォッ!!」
フリードは不可視の剣をゼノヴィアへと伸ばしていく。
しかし、彼女はつまらなそうな表情を浮かべながらデュランダルを横へ薙ぐ。
ガキィィィィィンッ!!
衝突したと分かるや、砕かれたエクスカリバーが姿を見せた。
たったの一薙ぎでエクスカリバーを破壊してしまったのだ。
「マジかよ!! マジかよ!! 伝説の聖剣が!! エクスカリバーが木っ端微塵になっちまった!?」
「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手にもならないようだな」
項垂れ、殺気を弱らせていくフリード。
折れたエクスカリバーを見下ろし、ゼノヴィアは溜め息を吐く。
そして、この状況を眺めているだけの木場ではない。
既に身体は動いていた。
一気にフリードへと接近していく。
「っ!!」
フリードも気付いたが、もう遅い。
木場は渾身の力で剣を振るう。
鈍い音が辺りに反響した。
その理由はエクスカリバーが砕けたから。
更にエクスカリバーを砕いた勢いでフリードを斬り払う。
「見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」
木場はこれまでの苦難を歩んできた同志へ言葉を掛ける。
彼の言葉に同志は応えてくれた気がした。
如何でしたでしょうか?
今回は殆んどアレンジは無しです。
木場にとっても大切な一戦。
完全に彼の中に燻るエクスカリバーへの憎悪を消して欲しかったのが理由になります。
そういう意味で話は同じものの繰り返しになったのは申し訳無いです。
ただ、上条との間にも絆が芽生えてますね。
それが今後、どのような形で繋がっていくのか?
答えはわかりきっているような気もしますが。
さて、次回は上条さんがコカビエル相手に大暴れ(予定)
では、また。