雄叫びを上げてから翌日。上条は誘ってくる眠気を必死に押さえ付けながら起床した。
(俺の……部屋か)
ただし、文頭には「仮」の文字が付いてくる。
何分にも随分と濃い1日を過ごしたものだと染々思っていた。
まあ、知らぬは本人ばかりかな。他人から見れば上条当麻の歩んできた
(はあ……何にしても憂鬱だな)
上条は再び夢の世界に飛び込みたい衝動に駆られたが、目が冴えてしまった為にそれは出来ない相談となった。
起き抜け、左腕に意識を集中させると昨日と同様の赤い龍をモチーフとした籠手が出現した。
「夢な訳ないよな」
トラブルに染まってしまっていた上条でも何処か現実味がないように感じられた。
『
だが、リアスは難しい顔を作って「こんなケースは初めてよ」と呟いた。『
(そういや、また『
上条は自分の右手を見つめた。
上条当麻という少年を「異常」の括りに縛り付け、全ての元凶であり、解決策に繋がる唯一無二の力――それが『
そこにどうしても“違和感を覚えてしまった。”
現に、こちらの世界に訪れて何度も右手の機能は失われていない事は十分に分かっていた。
「俺には分からない“何か”がある?」
思い出す。上条当麻がこの世界に足を踏み入れる切っ掛け。
「あの男を捕まえれば良さそうだな」
他に有力な手掛かりもない。当面の目標は決まった。気合いを入れ直し、上条は自分のやれる事を再確認する。
「当面の問題は……」
“自分が今どういった立ち位置に居るのか。”
昨日だけで気になる事がてんこ盛りで、その上に自分は悪魔になった“らしい。”
らしい――と言うのも、上条の中に入った『
後者に関しては右手の仕業だと分かるものの、前者に関してはどうだ? 果たして右手によるものなのか?
様々な疑問が上条の頭の中を駆け巡るけれど、決定打には程遠い。
「仕方無いな」
当面はリアスの方でも調べてくれると言うし、上条は学校に向かうのだった。
美琴とインデックスは日直とかで先に向かっているので上条は1人で登校をしはしているが、今朝に考えた事が頭から離れない。
あの男の足取りを掴もうにも情報が皆無である事に気付かされた。分かるのは容姿だけ。名前も何者であるのかも上条当麻は知らないのだから。
「あれ? これって詰んでないか」
登校中にも関わらず上条は思わずに足を止めた。
最近は自分が無理ゲーを進んでやっていないかと思えてきた。
まあ、今更な事ではあるので気にしたところで意味はない。
「でもな~」
手掛かりが無いのは上条としても何とかしたい。
「あ、あの~」
上条に控え目に話し掛けられる声。
そちらを振り返ってみると――目を奪われた。
「インデックス?」
気付けば、守ると決めた少女の名前を呟いた……けれど、それは違うのだと一瞬後に我に返る。
シスターだった。しかし、上条の知る銀色とは違って金色だ。金髪、碧眼の上条と年齢の変わらないだろう少女が話し掛けてきた。
「はい? インデックス? 目次がどうかしたのでしょうか?」
何にも外国人な少女が日本語をペラペラと喋るので、随分と学の高い少女なのだと思わせられる。
「あっ、悪い。俺の知り合いにそんな名前の奴が居るんだ」
「そうなのですか」
上条の言葉を疑わずに信じてくれるシスターの少女。年中腹ペコの少女に見習わせたい信仰心の高さだ。
「あっ!!」
しかし、少女は上条が何事かを考えている隙に別方向に走り出した。
近くにあった公園でランドセルを背負った少年が転んだらしくて、膝を擦りむいて泣いていた。
「大丈夫だよ? すぐに治るからね」
少女が安心させる笑顔で少年を優しく撫でる。
しかし、言葉が通じていないように泣き止んではいた少年は首を傾げた。
(何だ? ひょっとして……)
上条はリアスに言われた悪魔の特権の1つを思い出した。
他人との会話は自分の知る言語へと変換されるものだと教わった。
その機能が活きているのではないかと上条は考えたが、如何せん情報は少ないので断定は出来なかった。
「じっとしていて下さい」
少女は擦りむいた傷に手を翳すと、緑色の光を放った。
すると、数秒もせずに傷が消えたのだ。
「ありがとうお姉ちゃん!!」
笑顔でお礼を言うと、少年は走り去って行った。
学校に急いでいるのだろう。上条もこのままでは遅刻をしてしまう……が、それよりも気になった事があった。
「それ……一体?」
「その、なんと言いましょうか」
きっと、先日に教わったばかりの『
少なくとも様々な非日常な出来事に関わってきた。今更1つ2つ増えたところで上条の痛手にはならない。
「ひょっとして……今の光が関係あるのか?」
上条が確信を突いて言う。少女は嘘を付けない素直な性格なようで、目をあっちこっちに泳がせていた。失敗したかな――等と思いながら上条は少女の次の言葉を待った。
「信じられないかもしれませんが……私には“そういった力”があるんです」
「へえ。そうなのか」
少女は「信じられないかもしれない」と前置きをしてから上条に告げた。
ある程度の推測は出来ていたし、何ら不思議な事は無かったので彼女の弁を信じるのは早かった。
「信じて……くれるのですか? 私が言うのも何ですが、荒唐無稽だと思われても仕方無かったのですが」
「今のを見たら信じない訳にはいかないだろ」
上条当麻にとって、もはや非日常こそが日常だ。学園都市では超能力は当たり前、魔術だなんて存在もあった。
ここに来てからは悪魔だの天使だの堕天使様だの……更にグレードアップされている。
「それにさ、今のを見る限り羨ましいよ」
「羨ましい?」
上条の返答が予想外だったらしく、鸚鵡返しに訊ねてきた。
「だって、誰かを助けて笑顔に出来る力を持ってるんだからさ」
それは心から出てきた言葉だった。
上条当麻は幾度となく
そこには笑顔もあった。しかし、その裏には必ず傷付く者も居た。
金色の魔神の見せた世界は笑顔で満ちていた。誰も傷付かず、何の事件も起こっていない。
上条当麻の居場所が失われた世界――もっと言うなら“上条当麻を除いた全員が幸福である世界。”
そう。幸福の裏には誰かしらの不幸が付き纏う。
しかし、目の前の少女は全てを癒してくれる。
その事を不快に思う輩なんて居はしない。そう思っての言葉だった……のだが、
「そんな事を……言ってくれた人は初めてです」
今にも泣きそうな表情だが、微かに見せる微笑みを見逃さなかった。
「ごめん。何か気に障ったか?」
無意識の内に上条は少女を傷付けていたのかもしれない。そう思うと、上条はあわてふためいた。
一方の少女はあわてふためく上条の姿に我に返ったようで「違います違います」と誤解を解こうと必死に語りかける。
「色々あって、この力は“異端”であると言われました」
「異端って……そんな凄い力があるのにか?」
全く納得できない話の出だしに思わず噛み付いた。
少女はゆっくりと、胸の内に秘めていた闇を上条に見せる。
「教会に敵対する存在があって……私は傷付いた彼を見捨てられずに助けました」
ここだけ聞けば彼女の弁は正しかろう。見て見ぬふりをするのは人として憚れる。
しかし、上条が思っていた以上に根の深い闇が“その教会にはある”と踏んだ。
かつてインデックスを鳥籠に閉じ込めていた『
「それがバレてしまい、私はこの地へ来る次第となったのです」
現代社会における左遷――教会側からしてみれば厄介払い。どちらにせよ、彼女の人間的行動に友好的でないのは明らかだった。
「そんなの……」
上条は怒りで震えていた。
こんなにも心優しい少女を蔑ろにする教会とやらを許せない。
「ありがとうございます。私の為に怒って下さって」
上条の感情を読み取ったのか、彼女は礼を述べた。
彼が他人の事なのに一緒に怒ってくれる事に感謝を口にしてくれた。
「優しい人なんですね……えっと」
きっと名前を続けて言おうとしたが、お互いに名乗っていないので呼べない事に気付いた。
「俺は上条当麻」
「私はアーシア・アルジェントです」
少女――改めてアーシアと名前を交換した。
「ところで上条さんは何か悩んでいらしたのでは?」
「ああ、ちょっと人探しを……」
今はまだ上条の立場を知る人の数が少ない方が良い。無闇に話して、何処に耳があるか分からないのだ。
「アーシアの方は?」
「私は教会の方に用があったので」
そういえばアーシアはシスターさんだ。教会に用があるのは必然か。
「でも教会の場所が分からなくて」
「それなら案内するよ」
上条も他人を放っておけない性格から自然と口に出していた。
「ありがとうございます」
人を魅了する、そんな笑顔を咲かせるアーシアだった。
如何でしたでしょうか?
ちなみに平仮名の時はスマフォ、漢字ならPCから投稿をしているという余談をしつつ。
遂にアーシアが降臨、満を持して!
出会い方のシーンとかは少し変えてみました。
こんな口調だったかな? 原作読み返さないと。
はてさて、今回は「おや?」と思われた方もいるかと思います。
然りげ無く書いたつもりでしたが、勘の良い人は気付いてしまうでしょう。
今回はそれらの伏線のネタバレはここには記載しないようにしておきます。まあ、当分明かさない予定なので、忘れた頃に書いておきます。
ではでは、また次回でお会いしましょう。
次回の更新予定日は来週の月曜日です。