終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
さて、夜が明ける。
シールドフィールドは光を遮る類のものではないので、海から上がる陽光がしっかりと街を照らしていく。まぁTOWERがあるから影に覆われたところはあるんだけど。とはいえこれ、もとからあった尖塔だから、こればかりは僕のせいじゃない。
「フレシシ」
「なんでしょうか」
「この国が滅びた原因ってわかった?」
「あー。人間が再起不能なので、如何とも。気になるんですか?」
「少しね。人間が死ぬ理由、人間の組織が瓦解する理由なんていくらでもあるけれど、国が滅びるまで行くと話は変わってくる。たとえば人間同士の争い……内紛、クーデターの類だったら傾くことはあれど滅びはしない。その後に、ということはあるかもだけど、流石にそんなにドンパチやってたら報道入るでしょ」
「フリス、毎日テレビ見てますもんね。言われてみれば確かにそういう話は聞かなかったかもです」
「世界の全てを見る事ができるわけじゃない僕にとって、報道というのは中々得難いツールだよ」
国が滅ぶ理由。
人間同士の争いじゃないなら、天災か、あるいはやはり機奇械怪か。
でも、おかしいんだよな。
この国に入ってから、
その全てが母アリアに打倒される程度。TOWERに支配される程度の段階でしかない。大型は幾つかいるけれど、動力源の消費を恐れてかあまり積極的に動いていないようだし。
各国にはそれぞれ、"それまで国を維持してきた程度"の奇械士がいる。勿論実力はピンキリだけど、その国にはその国の最強がいるし、その国はその国の層というものがある。なんなら地上の国々は、ホワイトダナップ以上に奇械士の育成には力を入れているはずだ。
それがいない。
ダムシュには奇械士の生き残りが一人もいなかった。
つまり、雑兵、木端な見習いに至るまでもが駆り出される程の戦いがあって、その全てが全滅した、ということだ。
だというのにその敵がいない。相打ちで壊しきった、にしてもその残骸が無い。
あるのは国……都市に刻まれた破壊痕だけ。
「いいね」
「いい、ですか?」
「うん。ほら、よく言っているけれど、僕はそんなに頭が良くないんだ。結構無計画だしね」
「まぁ確かに。でも今回みたいにあらかじめ準備をしておけば、フリスの計画も上手く行くように思うんですけど」
「ダメだよ。入念な準備をしたら、予想外なんか起きないだろ。フレシシ、僕は全知全能ではないけれど、君が思っているよりかは万能なんだよ。たとえばここで君の命を摘み取る事もできるし、作り直すこともできる。僕に対して何の隠し事もできないように、疑念も抱けないようにできる」
「……」
でも。
「でも、それをしないのは、意思という自由さが新たな可能性を生むと知っているからだ。世界の全てを知ってしまっては意味が無い。目先の物事に囚われ、想定外のアクシデントに振り回され、思ってもいなかったミスに四苦八苦する」
「今ここに、この国に、僕の知らない何かがある。そんなワクワクすることがあるかな。この国を滅ぼした何か。あるいは何者か。それはもしかしたら、僕の知らない入力をする存在かもしれない。あるいは単独で人間種を滅ぼすような者かもしれない。これが良くなくて、何が良いんだろう」
「謎を解明したい、とは思わないんですか? 私は……未知があるのは、怖いと思いますけど」
「勿論思うよ。だからこうやって思考を巡らせている。その間が楽しいんだ。謎と、未知と、可能性は同義。謎を解明している間。英雄の芽を見守っている間。思ってもみなかった可能性を見つけた瞬間。とても楽しいね。僕はね、今が一番楽しいんだ」
たとえどれほど。
どれほど、期待したモノがつまらない結果に終わっても。失望しても。残念に思っても。
飽きはしない。そちらへは行かない。
まだまだ知らない事が、まだまだ見ていないものが、まだまだ──新しさを見せてくれる存在が、いる。
いる事を知っている。
「ほら、来たよ、アモル。新時代を担う子が」
それを今、僕は。
あの子に見ている。
「……では、キューピッド。私は昨日の通り、TOWERを守ります」
「うん。古井戸はもういないからね、楽勝だろう?」
「楽勝でなくなることをお望みのようなので──鏖殺します」
「ああ。お願いするよ、アモル」
再開だ。
昨日の犠牲者は二名、追加分は排除。
八人の奇械士。たったそれだけで、この箱庭を打ち破れるものか。
「期待しているよ。心から」
心の、底から。
古井戸達が帰ってこなかった。
それは夜の時点でわかっていたこと。ゆえにケニッヒは既に違う作戦を組み立てている。キューピッドの数を知る手段がなくなった事は痛いが、そもそも古井戸とピオは追加戦力だ。ならば元に戻っただけ、と考えるしかない。
「以上だ。質問はあるか?」
「……質問じゃなくて、提案があるんですけど……」
「提案? なんだ、チャル。言ってみろ」
地下シェルターの中。
作戦を話し終えたケニッヒに、ある程度回復したチャルが言葉を浮かべる。
「私のこの銃は……もっと強くなります。エタルドだけじゃない、もう一つの機能があるんです」
「だから戦線に加わりたい、と? ダメだな」
ばっさり。
考える余地もないと、ケニッヒは切り捨てる。
「そんな……」
「チャル。お前の攻撃はお前の全体力を使う。俺達のやるべきは、お前を疲れさせること無くキューピッドに近づけることだ。その前にお前が疲れていたら……そのエタルドってのを使った時、生命維持にまで影響するかもしれない。いいか、チャル。今日で終わりじゃない可能性もあるんだ。明日でさえ終わらないかもしれない。全力で挑むってのは若い時にやりがちな考えだがな、違うぞ。
「……余力を残して倒せる相手ではないと思いますが」
「じゃあ明日誰も戦えなくなってもいいのか? ここはホワイトダナップじゃないんだぞ。この地下シェルターだっていつ発見されるかわからない。安全地帯が無い、ということがどれほど恐ろしいか。補給が無いんだ、だったらいつでも生き残るための力は残しておけ。ここを最後だと思うな。アレキ、チャル。アニータとレプスも、ワイユーとケンもだ。死ぬ気でやるな。生きる気でやれ」
言葉の綾ではない。
ケニッヒはそう考えている。それは声色となって、怒りとなってここにいる全員に伝わることだろう。
死にに行くな。
──あるいは、この言葉をメーデーが聞いていたら。
それを想う者はもうここにはいない。
「これで本当に以上だ」
「うん。それじゃ、先に行ってるよ、ケニッヒ」
「ああ、頼んだ」
「ワイユー、ケン。おいで」
「はい!」
アリア達が先にシェルターを出ていく。
彼女らは攪乱役。昨日はウォークライによって機械を引き付ける囮役を担っていたが、今回は違う。
目につく機奇械怪、その全てを狩り尽くす。
遊撃などという生易しいものではない。殲滅だ。機奇械怪にとって餌であるはずの人間が行う、その立場を逆転させた虐殺。防衛するためでも、資源を取るためでもなく、ただ殺すために壊す。
攻勢。それがアリア達の役目。
彼女らが出て行ってすぐ、轟音が響き始める。
地下シェルターにいても聞こえるレベルの轟音だ。推して知るべし。
「……それじゃ、俺達も行くか。アニータ、レプス。さっき言った通りだ。敵討ちとか考えんな。生きて帰って、あの二人の武勇伝をホワイトダナップに持ち帰る。それを考えて戦え。いいな?」
「質問なんですけどー、ケニッヒ隊長のこと、センパイって呼んでもいいんですか? 一応センパイだし~」
「馬鹿アニータお前馬鹿、今聞く事じゃないだろ馬鹿!」
「構わない。呼びやすい呼び方でいい。……リラックスしろとは言わない。緊張しろ。だが、詰めすぎるな。──行くぞ」
「はい!」
アリアが戦闘を始めてから少しして、ケニッヒ、アニータ、レプスの隊が出る。
彼らは直接キューピッドに相対する役目。彼を守る飛行機奇械怪やアモルを倒す。
残されたアレキとチャルは勿論、キューピッドを叩く役目。
「……チャル。大丈夫よ、私がついている」
「うん……。うん。そうだね。私も……ここで死ぬつもりなんてない。フリスに言われたし。無傷で帰ってくる、って」
「ええ、その意気」
さて、再開だ。
廃国家ダムシュにおける、キューピッド討伐戦。
その鍵を握るのは、最年少の少女ら二人──。
今、ここに。
走る。走る走る走る駆ける上る駆け上がる──。
今、アレキは走っていた。
チャルを抱き、戦闘の中を爆走していた。
アレキはピオのように飛行することはできない。そして今、どうしてか、キューピッドは飛行型機奇械怪を展開していない。そのせいで空中に足場が無いのだ。だから尖塔のどこかから跳躍して、キューピッドのもとにチャルを送り届けなければいけない。
「アレキ、大丈、夫……?」
「ええ。というか昨日も思ったけれど、あなた軽すぎ。ちゃんと食べてる……か。一緒に食べてるんだし。運動もしてる。だから……うーん、何が原因かわからないけど、軽いから重くなって」
「り、理不尽……」
余裕はあった。
今は周囲の怪物二人に隠れているが、アレキは体力おばけだ。刀剣という武器の性質上チャルよりも激しく動くはずなのに、チャルは彼女が疲れている所を見たことが無い。多少の息切れはするけれど、アレキが疲労を覚えている場面に遭遇したことが無い。
今もチャルを抱え、時折いる……恐らく防衛用に配備されているハンター種の機奇械怪を一刀のもとに切り伏せ、その上で爆走しながら会話をして、けれど疲労は見せていない。
「チャル。今のうちに聞いておくけれど、さっき言ってた別の力というのは何?」
「あ……うん、オールドフェイスっていうコインを使うとね、この銃はホントの姿を現す、んだって。オーバーロード状態……。今でも装甲の薄い機奇械怪なら簡単に貫けちゃうこの銃が、さらに強くなる。一枚で三日、強くなる」
「それ、試したことは?」
「まだ……。オールドフェイス一枚しかないから、練習に使うのは勿体ないというか、無理で……」
「そんなのを土壇場で使おうとしてたの? ……やめなさい。どんな代償があるかわかったものじゃない」
「でも、フリスがくれたから、大丈夫だと思うよ」
フリス。
その名が出た瞬間、アレキは歩を止めた。
否、違う。
フリスの名が出たタイミングで止まったのはまったくの偶然だ。
彼女が止まった理由はそれではなく。
「……チャル、降りて」
「え……あ」
突然のことに戸惑うチャルを降ろして、アレキは刀を抜く。
そこに。
そこに、いた。
赤茶けたコート。鳥の仮面。
拳を握り込んだファイティングポーズでアレキ達を見つめる──アモルの姿。
「鏖殺します」
「……チャル。引き返して、どこかから上に行って。コイツはここで止める」
「私も一緒に戦うよ!」
「いいから。多分こいつは、一人の方が戦いやすい。──行って!」
言葉に、身体が動く。
チャルにはもうわかる。この戦場は我侭を言える場所ではないと。ケニッヒの怒り。アレキの覚悟。アニータ、レプスも態度には出していなかったが覚悟を決めていた。ワイユーとケンは、この作戦に入るまで話した事さえなかったが、その全霊というものが全て伝わってくるほどに心を決めている。
帰る。
生きて、還る。
生還する。
ならばチャルのやることは一つだ。
「アレキ──またあとで!」
「ええ。すぐに追いつく。そうじゃないと、キューピッドのいる所まで飛べないでしょ、チャル」
「うん!」
「そこは元気な返事なのね……」
アレキを置いて、チャルは来た道を戻る。他の上昇口が無いかを探すために。
そんなチャルを見送って。
「意外。待っていてくれるとは思わなかった」
「キューピッドから命令されています。逃げる者は追わないこと。攻撃の意思なき者には攻撃しないこと」
「へぇ……?」
正眼に構えた刀が赤熱する。
機奇械怪の身体を斬り、鋼鉄のワイヤーも溶断する刀が唸りを上げる。
「じゃあ、攻撃の意思のある者には、どうするの?」
「──鏖殺します」
瞬間、拳が来た。
「!?」
その驚きは。
「何? 避けられたのが意外だった? それとも反撃が意外だった? ああ、もしかして──」
アレキは嗤う。
その身体にケガはない。反し、アモルの拳──腕の
「二刀目があったのが、驚いた?」
アレキの手。
右手には長刀。そして左手には短刀。
それが彼女の、本来のスタイル。
「チャルには言っていないことだけど、私」
──本来は人専門なの。
呟きは中空に溶けて消える。
アレキ。剣道家の娘。
あるいは。
「機奇械怪が人型を取る無意味さを刻まれて死になさい」
「鏖殺します」
ここに、誰にも見られることの無い戦いが始まる。
さて、チャルだ。
彼女はなんとか上階に上がる道を見つけた。
見つけて、外に浮かぶキューピッドに見つからないように尖塔の中を歩いて。
そこ──最上階に辿り着く。
いなくなった古井戸の遺した言葉。最上階に何かある、という言葉を信じて。
悔しい事に、チャルではキューピッドのもとにまで跳躍することはできない。だから自分に今できることをしようとした結果だ。
結果。
「……」
言葉が出なかった。
言葉を失った。
そこに吊るされる──息のある人間。
腕の無いもの。足のないもの。腹部に大きな縫合痕のあるもの。ギリギリ、死んでいないもの。
人間か。いや……保存食か。
「助けられなくて……ごめんなさい」
それは普遍的な言葉だったのかもしれない。
こうなってしまった事を未然に防げなかった。それを謝るかのような言葉。
けれど、普遍的なのは言葉だけだった。
行動は。
──渇いた音が最上階に響く。
「……驚いたな。素直に驚いたよ」
「っ、……キューピッド!?」
「あぁうん、僕だよ。それにしても驚いた。君は、君の性格を鑑みれば、なんとしてでも助け出そうとすると思っていた。なんとしてでも彼らを生かそうとすると。けれど、どうだ。蓋を開けてみれば」
キューピッドの声に振り返ったチャルの後ろ。
そこには、脳天や心臓、身体に繋がったチューブなどを撃ち貫かれ──完全に死した者達の姿が。
殺したのだ。
まだ生きていた、息の根があった彼らを、チャルが。
「なぜ殺したのかを聞いてもいいかな」
「……みんなのため。あの人たちがいたら……
「うん、正解だ。彼らは動力源だった。このTOWERの、そしてこの国全ての機奇械怪の。機奇械怪たちはちまちまとこれを啄み、生き永らえていた。そうだね、君が今殺してしまったから──機奇械怪達の餌はもう、君達しか残っていない。一層攻撃が激しくなるだろう」
「そんなの、元からだもん」
「後悔は欠片も無い。そんな顔だ」
「生きて帰る。生きて帰って、私は好きな子に告白する。だから、死なないために、みんなで帰るために……私はちゃんと、切り捨てる」
宣言だ。
心の込められた宣言。銃口をキューピッドに向けて、チャルはその目を彼に向ける。
「──良い啖呵だ。だけど、凡百の雑兵がその言葉を口にして散って行った。自らの価値を見出せず、示せず、肉塊となっていった」
朗々と、歌い上げるように。
キューピッドは嗤って言う。
「公平性を一つ上げよう。僕にモード・エタルドは効かない。あっちにいる偽物には効くよ。というか昨日ので大ダメージだった。急ピッチで修復はしたけれど、もう元の力の半分も引き出せないだろう。だけど、機奇械怪じゃない僕には、腐食の力は効かない」
「……機奇械怪じゃ、ない」
「そうだ。僕は機奇械怪じゃない。これについては昨夜古井戸が辿り着いていたからね。人間側に開示するヒントとしては妥当だろう。さて、さて、さて! 君は──どうする。それを聞いた上で、僕に何を見せる?」
チャルはこう考えていたのかもしれない。なんとか攻撃を避けて、なんとかエタルドの弾丸をキューピッドに当てれば勝ち目がある、と。
けれど、効かないとなれば。
それをどうにかする頭がチャルにあるか。この場で前提の覆った作戦をしっかりと形にする力があるか。
キューピッドは──。
「名乗りをあげよう。僕はキューピッド。
「……チャル・ランパーロ。島外作業員資格を取得したばかりの、ホワイトダナップ所属奇械士」
では、尋常に。
銃弾が放たれる前に手首を弾く。反対の銃は足で蹴って体ごと回避。床と柱に刻まれた弾痕を背に、ぐぐっと屈んでからのアッパーを繰り出す。
既のことで避けられるけれど、本命はアッパーではなく前足蹴り。二段攻撃。これは入った。
「っ、ぐ……」
「勝てる。そう思ったかな」
「……絶望的な力の差じゃない、と思わせたいのは、伝わってる、かな」
「へぇ?」
そうだ。今はチャルに合わせている。
ロクに武術も嗜んでいない人間と同じ感じにしている。僕も別に習って無いからね。
だからただの身体能力に物を言わせた格闘で、銃撃だけ重点的に対応するスタイル。今まで機奇械怪達の猛攻やアレキ、両親たちの洗練された動きを見て来たチャルにとっては、「そこまで強くないのではないか」という風に見えただろう。
……という風に見せるつもりでやったんだけど……見抜かれている。
ま、これは驚きはしない。僕の格闘に力量が無いのはわかっているし、かつて達人と呼ばれる人間と格闘戦をしたときも、似たようなことを言われた。「合わせてきている」と。
それでも達人ではないチャルが気付くのはちょっと驚きだけど。
「いいね、さっきから驚きの連続だ。君というスケールを僕は測り損ねていた。認めよう。君は今成長している。可能性を見せている。なんなら今の君を見る事ができたというだけで、君達全員をホワイトダナップに帰すのもアリだ」
「メーデーさんとケイタさんを殺したくせに、全員?」
「……蘇生が、お好みかい?」
赤い雷が走る。
二つ。その球形から、二人。
人影が降り立った。
「──!」
「メーデー。ケイタ・クロノア。起きるんだ」
俯いた二人が──顔を上げる。
その双眸がまっすぐにチャルを貫いて。
「あはは、なんちゃって。偽物、というか人形だよ。死者蘇生なんて神の如き御業、僕にはできないさ」
二つの機奇械怪をバラバラに崩す。
金属くずがその場に散らばるけれど、そこは念動力。フロアの隅の方に掃いておく。ああ、チャルの後ろの死体と動力炉もね。
「そうだね。全員は帰せない。けど、今生きている君達を帰すことはできる。僕は君の成長を見て満足した。これ以上誰かが死ぬのは嫌だろ? 生きて帰りたいんだろう? なら、どうかな」
手を差し伸べる。
「お願いします、って。言ってみようか」
チャルは、その手を。
撃って来た。
「おおっと、怖い怖い。容赦がないなぁ」
「脅威は、あなただけ。他の機奇械怪はみんなが対処できる。メーデーさんもケイタさんも、あなたが相手じゃなければ大丈夫だった。私はそう信じてる」
「……やめなよ、チャル。ifを語るなんて、凡人のすることだ。英雄は一つの事だけに専心するから英雄なんだ。そんな凡夫が如き行動は、君のとるべきものじゃない」
やめてほしい。
あの時ああじゃなかったら、とか。あの相手じゃなかったら、とか。
折角ここまで期待度上げてるんだ。つまらない事で失望させないでくれ。
「英雄とかどうでもいい。私は生きて帰る。みんなで帰る。──そのために、あなたを殺す。たとえあなたが機奇械怪でなくとも、人間でも、ううん、なんだったとしても!」
「言葉ではなんとでも言えるさ。それで、どうするんだい? 手加減されているのがわかった。その上で君は僕にまだ一撃も入れられていない。それに、忘れたのかな。あの時……君が茨に苦しんでいる時、アレキは全霊の突きを僕に放った。それが効かなかったんだ。それくらい僕は堅固なのさ。だから君の銃も格闘も、何の意味もないものだ」
「嘘。銃撃はちゃんと対処してくるもん。効かないなら避けなくていいはず」
いやまぁ仮面が割れるとコトだからね。
銃撃は極力外させるようにしているんだ。これ、特殊合金とかじゃないから普通に割れるし。
「フェアに戦えるように情報を落としてあげているんだから、ちゃんと信じるべきだよ」
「本当だったら勝ち目がない。なのにあなたは私の前に出てきた。殺すのは簡単なはずなのに、私と戦うことを選んだ。銃が効かないから。殴られても痛くないから。だから殴り合いをして、私を絶望させて楽しむ。──
「!」
「……キューピッド。私ね、特技があるんだ」
思わず生唾を飲み込む。
読まれた。フリスのとして接している時の驚きの延長線上。けれど、キューピッドとして彼女と接したのなんてほんのわずかな時間だけだ。
それだけで、僕という存在を推し量った?
「私ね。──その人が何を好いているのか。その人にとって何が一番大事なのかが、わかるの。言葉を投げて、返してもらえれば、わかる。会話を重ねるごとに、どんどんわかっていく。……あなたの前だから言うけど、アレキの気持ちにも気付いてるよ、私」
思わず口元に手をやって、けれど仮面で覆われている事に気付いて、笑う。
笑う、までもない。
口角が上がっているのがわかる。
良い。良い。
君は悪くないどころじゃない。
久しぶりに見つけた。君は凡夫ではない。君は──歴史に名を連ねる存在だ。
チャルが、懐から何かを取り出す。
それはコイン。ああ。そうか。君は戦う気なんだね。
ならば付き合おう。僕は君を英雄と認めた。だけどそれだけじゃ足りないんだ。まだ足りない。もっと先が欲しい。
僕の知らない先が欲しい。
「オールドフェイス投入……モード・テルラブ、オーバーロード」
チャリン、チャリンと。
二枚の音が鳴る。へぇ、僕があげたのは一枚なのに、もう一枚見つけていたのか。
ならば、双銃が双銃として輝ける。
最上階に濃密な圧が生まれる。生み出しているのは銃だ。
アレなるは、謂わば最新の機奇械怪。ある特殊な材料を用いて作り出した、デッドコピーなアモルや見た目だけ寄せたキューピッドなんかとは比べ物にならない、最高の武器。
その圧は肌で感じるだけではない。最上階のガラスを全て割り砕き、僕が掃いた装置の類もすべて破壊する。メーデー、ケイタに寄せた人形も、そしてチャルの殺した肉塊も。
風圧とは違う。
それが何かを説明する前に──彼女が来た。
「私のために、死んで! キューピッド!!」
「さぁ遊ぼうか、最新の英雄! 見せてくれ、僕に。君の輝きを!」
実験は大成功だ。
もう思い残すことはない。キューピッドはもう要らない。彼女の糧にしていい。
だけど、言葉だけ、精神性だけじゃないところを見せてほしくもある。だから戦おう。君の今の全てを僕に見せてくれ。
そして保障しよう。君の安全を。
君には価値がある。だから君を無事に帰すことを約束する。
──それ以外には、ご退場願いたいね。
地上。
TOWERの根本付近で、大きな爆発が起きた。