終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
おかしい。
「おかしいな」
「センパイ、何がおかしいんですか?」
「飛行型が一匹もいない。それに……あのキューピッドから、覇気を感じない」
「覇気スか?」
「……ああ。なんというか、歴戦の機奇械怪や大型の機奇械怪からは、殺意……いや、捕食本能とでもいうべきものを感じるんだ。『お前を食べてやるぞ』、みたいなのがな。……昨日のキューピッドは、最初は無かったそれが途中から出てきて……最後にはまた消えた。だが今日のキューピッドはゼロだ。何もない。アイツはまるで、昨日の今日で生れ落ちた機奇械怪みたいだ」
おかしいと、ケニッヒは感じていた。
昨日のように尖塔の横に浮かぶキューピッド。けれど言われてみれば、ふわふわ浮いているだけのようにも見える、と。アニータもレプスも感じる。
おもむろにケニッヒが鉄骨を持ち出し。
──それを、投げる。
轟音。空気を切り裂くその音が一瞬地表に響き渡り──。
「まぁ、そんな感じはしてた、が!」
「!?」
驚愕の声を上げたのは──斬り付けたレプスの方だった。
ケニッヒが自前の槍でその斬撃を防いでいなければ、彼の背には鋭い刃が深々と刺さっていたことだろう。
「センパイ、避けて!」
「んで避けたらレプスの剣が、ってな」
弾く。
アニータの放った弾丸を、ケニッヒの槍が弾き、その弾道を変える。
隙を見てレプスがバックステップで退けば、ようやく場が整う。
「やぁ、奇械士」
宙にいたキューピッドが、少し降りて来た。
「……タイミングは、メーデーとケイタを殺した時か。意識を失ったこいつらを放置した時点でまぁまぁおかしいと思ってはいたさ」
「そうかい。気付いていたなら、何故皆がいるときに言わなかったのかな」
「言ってどうなる。コイツらに細工がされているかもしれない、なんてよ」
細工。
ケニッヒを襲ったのはアニータとレプスだ。その武器を持ち、けれど動揺した様子で。
自身の身体がどうしてこう動いているのかわからない──そんな面持ちで。
「キューピッド。聞きたいことは一つだ」
「おや、罵詈雑言の類は無いのかな」
「敵に言って何になんだよ。──あいつらは助けられんのか。どこを蝕んだ。言え、キューピッド」
「脳だよ。つまり」
「……そうか」
「言っておくけれど、これは僕の発案じゃないからね。アモルの発案だ。僕にこういう悪辣さは無いからね、文句なら彼女に言って欲しいな」
「どうでもいいよ、機械の事情なんて」
ケニッヒが槍を振るう。
たったそれだけで──彼から10mは離れていたキューピッドが尖塔の方へ吹き飛ばされる。
「よし、邪魔なのはいなくなったな。……聞いていた通りだ、お前たち」
「っ……」
「嘘、スよね……」
「嘘かどうかはお前らが一番わかってるだろう。身体、自由に動くか?」
動かない。
レプスは幅の広い剣を、アニータは長銃を構えたまま、動けない。
「いいか、アニータ、レプス。俺は生きたい。愛している妻がいる。大事な息子がいる。俺は帰るつもりがある。お前らはどうだ」
「お、俺だって生きたいスよ! 今度の休日、母ちゃん連れて映画行く予定だったし、ケイタさんと……メーデーさんも、ちゃんと弔ってやりたいし! 何より俺は、俺は!」
「センパイ、つまりこういう事ですよねー。生きたいなら殺せ。センパイも、私達も。……でも私達の場合は、センパイを殺したとしてー、機奇械怪として生きていく感じですかぁ?」
「さぁな! 好きに生きろ! 機奇械怪として地上を放浪するも良し! その身体の制御、気合で取り戻すも良し! できなかったら俺に殺されるだけだ。あのクソキューピッドの言いなりになって、人間を食べないと生きていけない身体になって」
「な──なんでそんなこと言うんスか! 助けて、助けてくださいよ! ケニッヒさん、言ったじゃないスか! 仲間を助けるのが奇械士だ、って!」
喚くレプスとは対照的に、アニータが銃の引き金に指を掛ける。ケニッヒが槍をまっすぐ二人に向ける。
身体の制御は利かない。だからレプスも剣を構える。構えさせられる。
「センパイ。全然体言う事聞かないんでー、多分実力の十分の一も出せないんですけど、それでも死んでください。私、死にたくないんでー」
「馬鹿アニータ、お前馬鹿、なんでそんな緩い──」
「ホワイトダナップに帰れなかったら、地上でレプスと二人、細々と暮らそうと思ってまーす。コイツ、中々言い出してこなかったけど、多分両想いなんで。愛の前に敗れてください、センパイ」
言葉だけは、意思だけは自由なのが悪辣だ。
思いながらアニータは引き金を引く。警告はない。指に勝手に力が入って行くことはわかっていたけれど、何も言わずに発砲した。
機奇械怪の装甲板を貫く威力の長銃。けれどそれは、ぐるんと振り回された槍に弾かれる。
知っている。
クリッスリルグ夫妻。弱冠十六歳で奇械士になった──ならざるを得なかった男女のコンビであり、そこから十五年、齢三十を超えても、子を持っても、衰えることなく奇械士を続ける強さの証明。
アニータは知っている。
たとえ身体を自由に動かせても、絶対に勝てる相手ではないことを。
「まったく、趣味が悪い。……レプス。多分もう、私達ここで終わりだからー、言っておくね」
「馬鹿アニータお前馬鹿──縁起でもないこと言うな。ケニッヒさんぶっ倒して俺達は生きるんだ。俺はお前がす、好き、だからな。俺が守ってやる。……ケニッヒさん、だから、すまねぇ。死んでくれ!!」
「ああ、来い! 互いに生きるために、生き残るために、愛のために戦おう!」
──あるいは、誰かの足がもう少し遅ければ。誰かの覚悟が、もう少し決まっていなければ。
ここから互いの生存を賭けた──胸糞悪いストーリーに転がされた奇械士達の戦いを見る事ができたのだろう。
ああ、けれど。
──それ以外には、ご退場願いたいね。
「……ぁ」
「カ──」
声が聞こえた。
恐らくケニッヒには聞こえなかったのだろう、だが確実に聞こえた。二人には聞こえた。
そして、それが。
脳のどこか。あるいは脳全体。わからない。頭の中のどこかが。
灼熱を持つのを、理解する。
「チィ……!」
気付いたか、勘か。
今まさに二人を迎え撃たんとしていたケニッヒが、可能な限り後退する。
する。したか。できたか。
わからない。だが、した、と信じた。
……それは、せめてもの抵抗。
最後の最後で掴んだ制御。ちゃんと向き合ってくれた彼への礼。
たったの一秒だった。奪い返せたのは。
ああ、それだけで。
そして、先程吹き飛ばした機奇械怪の方を向いた。
「趣味が悪い。……いや、アンタじゃないんだったか。だが……これはやりすぎだろう。弄ぶにも程がある。これをしたところで、俺になんの傷もつけられていない。……胸糞悪くなっただけだ」
「それが狙いだったんだと思うよ。彼女、人間種嫌いだからね」
「……アリアの方にも、似たような仕掛けを?」
「いや、あっちは単純な物量責めだよ。こっちもそこまで時間が無くてね。仕込めたのはさっきの二人だけだ。……昨日、チャルだっけ。あの子に壊された箇所も直ってはいない。修復はされたけど、それだけだ。完治していないから……僕はもう終わりだろう」
宙に浮き、戻って来たキューピッド。
その身体はおよそ半分が潰れている。顔の断面から見える精密機械は、それぞれが各々修復を試みようとしているようで、けれどその全てが失敗に終わっているらしい。バチバチと音を立てて火花を散らす身体は、会話をする程度の機能は残っているようだが。
「ケニッヒ・クリッスリルグ。どうかな、全ての戦いが終わるまでの間……すこし、建設的な話をしないかい?」
「敵と話すことなんざない。ましてや仲間を殺されて、俺が欠片も怒っていないと思っているのか?」
「
ケニッヒの言葉など聞いていない、という様子で、壊れかけのキューピッドは話し始める。
それはあるいは、彼なりの最後の抵抗。
操ることができるように作られ、初めから殺される運命にあった彼の、最後の最後の。
「隠し事をするんだ、ケニッヒ。沢山沢山。彼はそれを明かそうとはしない。君の素直さは美徳だけど、彼にとっては醜悪なものに映るだろう。誰にも教えていない、秘されたものを。それが生き残るため鍵になる。彼はそれがある限り、積極的に殺そうとはしない。だから」
「待て、誰の話を、」
「決して──口に出してはならない。彼の前で……『これが全力だ』とか……『正真正銘、最後の最後だ』、とか。まるで、物語のヒーローのような、こと、ば、は──」
キューピッドが……地に、落ちる。
衝撃で飛び出た動力炉。その中に入っていたコインが溶けて消える。瞬間、キューピッドの全身から力が失われ──動かなくなった。
機奇械怪、融合オーダー種キューピッド。
彼はここに、完全に沈黙したのだった。
「やぁ!」
避ける。放たれた銃弾を。そして、避けて尚追ってくる弾丸を。
戦闘が進むたび、増えて増えて増えていく弾丸の全てを避ける。避けて、避けて──それらが一点に集中するように誘導し、全てを掴む。
バラバラと落ちる弾丸。
「追尾型の弾丸を放つ銃だね。けれど、オールドフェイスを入れたオーバーロード状態ならば、絶対にそれだけじゃない。もっと上があるはずだ。ただ弾丸を撃つだけじゃなく、それに何ができるのかを感じ取るんだ」
「はぁっ!」
「格闘を混ぜるのも良い選択だ。けれど君の肉体はそれほど頑強ではないからね、僕を蹴るのは悪手だろう。次からは機奇械怪の装甲板を加工した膝当てなんかをつけてくるといい。プロテクターという奴だ。見た目が不格好になっても、有用性は計り知れないよ」
「く──やあああ!」
「やぶれかぶれに見せかけて、さっき放った誘導弾と一緒に突撃。間隔をずらして撃ったから僕に掴まれずに済んだそれをちゃんと把握していたんだね。けど、それも悪手だ。君は近接戦闘に向いていない。だから相手の間合いに入ることは考えちゃいけない。自分の間合いを保ち続けるんだ」
チャルは僕に英雄の才を見せた。輝きだ。未知の輝き。
だけど戦闘は凡夫のそれだ。いや、未熟と言ってあげるべきか。武術の武の字も知らない僕に対し、一撃も入れられない。
アレキは彼女の戦闘センスがいい、なんて言っていたけれど、これで"良い"ならお笑い種だ。これに追いつかれそうに、追い抜かれそうになっているアレキはどれほど弱いのかと心配になる。だってアレキにはチャルのような精神面での英雄性が存在しない。彼女はただの少女だ。それで弱かったら、ああ、無価値だ。
せめてチャルの相手は価値ある人間が良いんだけどね。まぁ価値のない人間だからこそチャルが守りたくなる部分もあるのかもしれないけど。
下は終わった。母アリアと雑兵二人もまぁ、そろそろ良いだろう。雑兵二人が死ななかった事は褒めてあげるべきだろうね。ほとんど守られていただけとはいえ、価値あるモノの邪魔をしないだけで十分な働きだ。
キューピッドはやっぱり壊れてしまった。まぁエタルド食らった後の、見た目を取り繕っただけの修理だったからね。他の機械への統制能力も無ければ、転移も使えない。僅かな念動力だけで体を浮かす、要はヘイト集め役のデコイ。
そして昨夜のうちに機奇械怪にした二人は、父ケニッヒに何のダメージも与えられていない、と。キューピッドが壊れる前に送って来た記録を見るに、まぁまぁ覚悟は決まっていたようだけど……うーん。平凡。
「っ……どうして!」
「うん?」
「どうしてあなたは、私を!」
何かまた読まれたかな。
言葉を読むに。
「どうして僕が、君を大切に思っているか、かい?」
「……!」
「簡単だよ。君が素晴らしい可能性を見せてくれたからだ。ふふ、昔にもね、他人の心理を読むのに長けた人間はいたよ。けど、そんな彼でも僕の心は読めなかった。どころか『君には心が無いな』とまで言うんだ。その時点で見限ったよ。チャル、わかるだろう。僕にはしっかり心がある」
「……感じるよ。あなたには、心が、感情が──ある」
「だろう? でもそれを感じ取れるのは君だけなんだ。ならそんなの、期待しないはずがない。僕は未知を愛している。君はそれなんだ」
だから。
蹴りを繰り出してきたチャルの右足を──掴む。
「っ!?」
「格闘はダメだって言ったばかりだよ。こうなるからね」
「離して……はなして!」
「それは構わないけれど、次で最後にしよう。君は殺すに惜しい。だから、次で最後だ。僕が死ななかったら僕は転移で逃げてあげるし、死んだら当然君の勝利。簡単だろ?」
「……私には、あなたに聞きたいことがある」
「なんでもいいよ。何を使ってもいい。モード・エタルド。テルラブのオーバーロード。今の君に出せる最高の一撃を出してみて欲しい。──話はそれからだ。君は生存のための価値を掴み取った。それ以上僕に何かを求めるのなら、君の価値をもう一つ見せておくれ」
掴んでいた足を放す。
綺麗なバックステップで退いたチャルは──深呼吸を一つ。
「なんでも、答えてくれる?」
「勿論だ」
「そう。じゃあ──わかった」
言って。
言って。
言って、チャルは……銃を捨てる。
唯一の武器を捨てて、彼女はなんと、ファイティングポーズを取った。
拳を握りしめて。
「……凄いな。君は僕を驚かせる天才かもしれない。けれど、うーん、それじゃあ価値にはならないかな。奇抜なことをするだけなら大道芸人にもできるからね」
「あなたを倒す。──そのつもりで、銃を捨てた。勘違いしないで」
「おや。……なるほど、僕の早とちりか。わかった、わかった。いいよ。君が何をするつもりなのかわからないけれど、受けよう。君の攻撃で僕を打ち倒すんだ」
果たして、無手の彼女に何ができるというのか。
そのまま僕を殴る? はは、そんなことをしたら彼女の拳が砕けてしまうね。殴れるようにしておこう。あるいは何か、懐刀の類でも持っていたりして。刃が折れてしまってはいけない。刺せるようにしておこう。
何をしてくれるのか。
ああ、想像しない方が楽しいのに、沢山の考えが巡ってしまう。想定外が欲しいなら考えない方が絶対楽しいのに──僕の悪い癖だ。
「行くよ、キューピッド」
踏み込み。
何の変哲もない、強いて言うなら未熟な踏み込み。体の動きは遅い。避けられるけど、腕の動きからして避けるに値しない弱弱しいパンチだ。なんだろう、本当に拳かな。僕が殴り飛ばされる準備を整えていると理解してのパンチ、ということ?
その程度じゃないよね。君は違う。そう信じている。
「──」
殴られる。
普通の……いや。
そんなはずがない。
今の遅さで、この程度の威力で。
何故、僕の身体が──こうも吹っ飛んでいる?
何故、彼女の腕が。
ああも血濡れになっている?
口角が上がる。
わかった。理解した。瞬時に解析してしまった。
ああ、このまま吹っ飛んであげるのもオツというものだけど、答え合わせを早くしたくて、念動力を使って止まる。
僕という物体をぶっ飛ばすだけの威力がそこにあった。直前まであんなに遅かったのに。あんなへなちょこパンチだったのに。
「……ああ。
「わかるんだ。……流石、なのかな」
「いや、いや。素晴らしいよ。素晴らしいと言える。──まさか"種"を、《茨》を飼いならすなんて」
チャルの反応が答えだ。
凄い。それは思ってもみなかった。
"種"。あるいは"毒"。もしくは"罅"。
僕が稀に打ち込む、機奇械怪のもう一つの動力源とでも言うべきもの。ああいや、動力源ではないか。なんだろう……機械を機奇械怪にさせているもの、って感じかな? 普通の機械は機奇械怪のように動き出さないからね。
彼らを化け物に、化け物たらしめているエネルギー。
それが種であり毒であり罅だ。
使用者は僕だけじゃなく、機奇械怪の一部も使い得るコレ。まぁ機奇械怪が使うと自分が弱体化するからあんまり使わないはずだけど、まぁまぁ食らった人間はいるのだろうコレ。
身体を蝕むものだ。茨として、病魔として、損壊として。
僕がキューピッドとして先日倉庫区画で言っていた、似たようなものを操れる、というのはまさにコレのこと。
まぁ、それを。
そんなものを。
インパクトの瞬間、腕全体にそれを纏って出力を上げて、さらに茨が僕に接するように調整して。
まるでグローブか、メリケンサックか。
「参考までに、聞かせてもらいたいかな。どうやって?」
「……教えない」
「いいね。その姿勢は凄く大事だ」
そうさ、そう簡単にペラペラしゃべってくれるな。
君達人間は、僕が想像もしていない力を隠し持ち、秘し、土壇場で出すことで……僕らを圧倒していく。
それが人間だ。いいよ、チャル。今君は、正解を引き続けている。
「あっと、そうだ。価値を見せてくれたんだ、君の聞きたいことに答えよう」
「アリアさんの毒。解毒方法を教えて」
「……うーん。まぁまぁ意外性の無い問いだね。でもまぁいいよ、約束だし。えーとね」
転移……は無理だな。どこにあるかわからない。
あー。
ああ、そうだ。さっき殺したのがあるじゃないか。
じゃあアレを使って。
「はい」
小瓶に、薄い赤色の液体。あ、着色に意味はないよ。元々無色透明の液体だけど、ホラ、こっちの方がそれっぽいでしょ? なんだろ、ヒヒイロカネとか、賢者の石とか、そういうもの感出るからね、赤色って。
それをチャルに向かって放る。
「それが解毒剤。もしくはその種の剥離剤でもある。一人にしか使えないから、じゅーぶんに考えて使うように」
「……飲めばいいの?」
「飲んでもいいし、患部にかけてもいいよ。……こんなところか。じゃあチャル、改めて。君は素晴らしい可能性を見せてくれた。今後も精進するように!」
赤雷が走る。
転移の光。さてはて、ホワイトダナップの位置は、と。
「待ちなさい」
「ん……あぁ、君か」
「これ。忘れ物よ」
言って。
投げ渡されるは──アモルの首。あ、フレシシじゃないよ。
「どうだったかな、一か月かけて創った新たな融合種の味は」
「威力はすさまじいの一言だけど、攻撃が単調すぎる。流石機奇械怪ね、協会の訓練プログラムと戦っているような感覚だった」
「成程。確かに僕は武術を嗜んでいないからね、その辺の動きはわからなかった。今度作る時は気を付けよう」
「……勝手にして」
アモルの首を、ぽいっと捨てて。
僕は──転移をした。
「ふぃー」
「お疲れ様です、フリス」
「あぁうん、君もね」
「私は遠隔で操ってただけですから」
ま、流石にホワイトダナップに直帰したりはしない。あの場にはチャルがいたからね。ワンチャン読まれるんじゃないかと思ってホワイトダナップに帰る素振りを見せたんだ。
……あれ、読まれてたらもっと悪かったんじゃ?
はは。
「えーと、じゃあ余計な入力をしてしまった箱庭内の機奇械怪を消すけれど、何かリクエストはあるかな、フレシシ」
「リクエストですか?」
「うん。どういう風に壊すのがいいかな」
「……では、安らかに、苦しみなく」
だろうと思ったよ。
フレシシは、いつでも機奇械怪側だからね。
「認識コード【リクカサト】」
チャルの双銃含む奇械士達の持つ機奇械怪由来の武器を除き、その全てに終了コードを言い渡す。
それだけで──母アリアに合流し、今から決戦、の雰囲気を出していた、奇械士達を囲む全ての機奇械怪が終了する。停止ではなく、終了。再起動はしない。
否、奇械士の周りのものだけではない。
ダムシュにいる機奇械怪のその全てが、だ。余計な入力を受けた、全体に影響しかねない入力を読み取った全てを終わらせて。
「……やっぱり、いなかったみたいだね」
「はい。国を滅ぼす程の機奇械怪。……恐らく、私達がダムシュに来るずっと前に、もう立ち去っていたんだと思います」
「まぁ、この惑星にいる限りはいつか出会うこともあるだろう。それまで──」
どうか、さらなる進化を遂げておいてくれ。
僕があっと驚くような、ね?
8月20日。
17日、18日の戦いを経て、チャルとアレキは学校に来なかった。お休み期間という奴だろう。
両親も多くの死者を出したためか、精神的に疲弊しているようで、帰ってきてすぐに抱き着かれてベッドに引き込まれた。今回ばかりは父ケニッヒも止めず。
そんな二日間を経ての、20日。
「おはよ、フリス!」
「おはよう、チャル。元気そうで何よりだよ。ニュースで見たよ、大変だったんだろう?」
「あー、うん。大変だった。だけど、ほら!」
ほら、と。
くるりと回って、全身を見せてくるチャル。
──彼女の背後で、アレキが鬼気迫る表情で……口パクをしている。「ほ・め・て!」と。
わかってるわかってる。顔怖いよアレキ。
「偉いね。ちゃんと無傷で帰って来たんだ」
「えへへ、うん!」
「……なんて、僕に嘘が通じると思ったかい?」
目を逸らすチャル。
いやまぁ、僕がキューピッドである、という以前に、彼女は全身を見せるとき右腕を体の影に隠していた。わかりやすっ! って口を衝きそうになったくらいわかりやすい動き。
そう、彼女はギリギリまで怪我をしなかった。しなかったけど──使っちゃったね、茨を。
飼い慣らしても、あれは己を傷つける仕組みだ。
チャルの右腕は裂傷に苛まれたことだろう。それがぱっと見普通の肌にしか見えないのは……。
「……フリス君、今日くらい無視してあげたらいいのに。チャルはとっても頑張ったんだから」
「おや、君から塩を送られるとはね」
「私は公平に行くだけ」
「そう。……けど、それどうなっているんだい? 普通の肌にしか見えないけど、怪我はしているよね。動きでわかるよ、チャル」
これは。
……まさか、
「これはね、今回の戦利品の一つなの。持ち帰ったら科学班がすぐに解析してくれて、とりあえずの複製を」
「チャル、話し過ぎ。フリス君は部外者なんだから、そこまで」
「あぅ」
いや、十分だ。
……なるほど、劣化してはいるけれど、アモルやキューピッドの身体から採取した
うんうん、科学班とやらには、良い働きをする人間がいるらしい。奇械士以外にもいるとは驚きだ。
「よくわからないけれど、その下は傷だらけなんだろう? あんまり無茶しちゃダメだよ、チャル」
「う……はぁい」
「『まったくだ』みたいな顔をしているけれど、君もだよアレキ」
「え?」
「頬と左手。切り傷と火傷があるね。それも隠しているみたいだけど……」
「え? そうだったの、アレキ」
「え、えっ!? ど、どうしてわかったの、フリス君。これは完全に隠せていると思っていたんだけど」
どうして。
……匂いで、って言ったら流石に引かれるよね。無計画に指摘しなきゃよかった。
「素振りでわかるよ」
「わかるわけないでしょ……」
「ちょっと、アレキ! あの時は『私がケガするわけないでしょ』とか言ってたのに……!」
「あの時は……あなたの方が重傷だったから、心配させたくなかっただけ」
「ちゃんと医療班のとこ行ったの? 隠してない?」
「大丈夫、ちゃんと行ったから。というか行って無かったらこの
「それは……そうだね」
よし。
なんとか誤魔化せたな。
「……それにしても、クラス……。みんな、まだ来てないのね」
「ああ、まぁ、難しいものがあると思うよ。目の前で友達が死んだ、ってトラウマだけじゃなく、こうやって教室で過ごしていたら、次は自分かもしれない、っていう恐怖もあるんだ。このまま卒業まで三人だけ、も十分あり得る」
「……そうね。誰もがフリス君やチャルみたいに強いわけじゃないし」
「あはは、その言い方だと、まるでアレキも強くない、というように聞こえるけれど」
「さて、ね」
「?」
何だろう、その反応は。
……もしかして、仲間の死を引き摺ってるとか?
「フリス」
「あ、うん。何かな」
「──放課後、屋上に来て欲しい。……言いたいことが、あるから」
「……」
ああ。
そうか。そういえば、言っていた。
チャルは……好きな子に告白するために、生きて帰るって。
……なるほど。アレキの反応は失恋ゆえか。まぁ、僕が悪かったよ。中途半端にアレキとくっつけさせようとして、結局僕に好意を寄せさせるようなことをしたんだ。全面的に悪い。
そればかりは謝ろう。心の中で。
「わかったよ、チャル」
「うん。約束だからね」
そして──この告白も。
ちゃんと。