終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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一般機奇械怪捜索のためにデートする系一般上位者

 フレシシの朝は早い。

 クリッスリルグに仕えるメイドとして、ケニッヒとアリアのお弁当を作る。その後フリスのお弁当も作る。三人分のお弁当もなんのその、効率を完璧に導き出して作られる彼女のお弁当は絶品で、且つ懐にも優しい仕様。無論クリッスリルグ夫妻は相当稼いでいるのであまり気にしないでもいいのだが、安い食材で美味しいものを作った方が()()()()()()()フレシシはそうしている。

 全員分のお弁当を作り終えた後は掃除である。

 音を立てることなくリビングを、廊下を、埃一つ残さずに掃除して──その後は、アリアが起きるまで休眠モードに入る。

 

 フレシシは機奇械怪(メクサシネス)である。特異中の特異、全ての機奇械怪の父と言えるフリスによって手ずから造られた人造人間(アンドロイド)であるために、その性能は原初の五機にも匹敵する。分類上は融合サイキック種となるが、その実五種に振り分けられない数多の機能をその身に備える、いわばハイブリッドな機奇械怪だ。

 だけど、多くの機能を持ちつつも、どうしても覆せない欠点があった。

 それが動力炉問題。

 彼女は小型である。他の機奇械怪に比べて、最小ではないけれど、かなりの小型だ。小型の癖にハイスペック。だからエネルギー消費に対して貯蔵エネルギー量が吊りあっていない。ゆえに買い出しなどが無い一日の大半は休眠モードで過ごしているし、外出中で、且つフリスが近くにいない時はちゃんと"つまみ食い"ができるようにしている。

 この動力炉問題は目下の課題であり、結局せびってもフリスから新しい動力炉を貰えなかったフレシシにとっては死活問題でもある。ちゃんと自分の動力炉の効率化については勉強したり改造したりを繰り返しているけれど、どうしても、どうやっても今が最高効率。これ以上はない、という段階まで来てしまった。

 

 困る。

 フレシシは困っていた。

 メイドとして振る舞うのにもエネルギー消費無しじゃいられない。加えて昨今はフリスの無茶振り……もといご命令が多いため、長期の活動ができないとなると()()()()()()()()()()()()

 それも困る。フレシシがホワイトダナップでぬくぬくとやっていられるのはフリスの恩寵あってこそだ。無論地上の機奇械怪に負けるつもりはないが、それでももう殺伐としたあそこに戻るのは嫌だと考えている。

 常に気を張り、餌を奪い合い、仲間を食らい合うあの世界になど。

 

 最高の知恵者であるフリスが頼れない。自身の素性を明かすわけにもいかない。

 フレシシには同じ立場の機奇械怪がいないから、相談相手がいない。

 

 なので──。

 

「いらっしゃいませー……ん? メイドさん?」

「お気になさらず」

「は、はぁ」

 

 やって来たのは、人間の経営する奇械士御用達の武器調整屋。

 本来一般人……一般機奇械怪の来られる場所ではないのだが、基本的に超絶忙しい奇械士に代わって代理人が来ることもある、との話を聞いて、こうしてやってきたのだ。

 実際、店番の青年もフレシシの姿にこそ驚いている様子だったが、奇械士以外が入店したことには驚いていない。

 確かに油汚れの激しくなりがちな場所に真白のエプロンを付けてきたのは悪手でしたね、なんて独り言ちるフレシシ。

 

 彼女は店内を一通り見て回った後、肩を落とす。

 ──レベルが低い。技術も知恵も、やはりフリスの足元にも及ばない。フレシシにさえ届かない。

 無駄骨か。そう吐き捨てようとして、フレシシはレジの真横にあるブルーシートに気が付いた。

 

「……そちらは、作業場、でしょうか?」

「え? あ、は、はい。そうです。……もしかして、武器の調整に興味が?」

「いえ……いえ、はい。興味があります。特にその……球体について」

 

 様々部品の置かれたブルーシート。

 そこにある、キラリと光る球体。ガラス玉のようなそれは、果たして武器のどこに使うのか。

 

「球体? ……あぁ、コアの事か」

「コア?」

「えーと、メイドさん、どれ程機奇械怪についての知識ありますかね。なんもだとこっちが説明してもなんもわからんと思うんですけど」

「主の戦う相手ですので、一通りは知っています」

「あぁやっぱりどこぞの……。いえ、なら話が早い。これは動力炉ですよ、機奇械怪の」

 

 そんなはずがない、と思った。

 フレシシの常識にある限り、機奇械怪の動力炉は円筒状……大小の差はあれど、そうだと決まっている。そうでないと捉えた生物を入れるに困るからだ。捕食口から獲物を飲んで、すぐに動力炉へ。それができる形でなければ、他の機奇械怪に獲物を奪われてしまいかねない。

 だからこんな球体はありえない。獲物を入れる口もなければ、エネルギーを取り出す口もない。こんなものを動力炉にしたところで何の意味もない。

 

「あり得ない、って顔してますね。まぁこれは最近開発された技術なんで、そう思うのも仕方ないです」

「最近……開発、された? ……誰が開発を?」

「へへ、ウチの親父ですよ。親父はもう奇械士としちゃ一線を引いてますけど、エンジニアとしてはホワイトダナップじゃ右に出る奴はいないってくらい凄いんで」

「……あの、これ、触ってもいいですか? 割ったりはしないので」

「問題ないですけど、油とか手に付きますよ。大丈夫すか?」

「はい。お気になさらず」

 

 開発した。

 奇械士として使い物にならなくなった人間が、機奇械怪の新しい形を。

 

 コアなるものに触れる。

 ……取り出せる。手で触っただけだというのに、フレシシでもこの球体からエネルギーを抽出できる。だというのに、誰も触れていない状態の球体からエネルギーが流出することはない。

 

「あの、店員さん」

「はい」

「これは、どのようにしてエネルギーを補充するのですか?」

「あーちゃんと知識ある人だったか。すんません、じゃあ説明不足でしたね。これ、使い捨てなんです。結構安価で提供できるんで、満タンまで溜めたコイツをいくつか戦場に持ってってもらって、使い切ったら次のを、って感じで」

「……一つにつき、どれくらいの規模の武器が、どれくらいの時間動くのでしょうか」

「たとえばその槍。ガルゲニオルグって武器なんすけど、コイツは基本プレデター種『サーペント』の中枢骨から作ってます。だからこうやって、節根みたいに曲げたりなんだりが可能です。で、こういう動かせる武器、展開後に形状を変えられる武器だと、最大稼動して八時間。特に激しい戦闘じゃなきゃ十二時間は保ちます」

「あまり……長持ちではない、ような?」

「そうですかね? この小ささだと、普通の動力炉ならフル稼働六時間が限度ですし、かなり効率化してる方ですよ。詳しい理論は親父がいないとアレですけど、従来の円筒状より球状の方が遥かに抽出エネルギー効率が良いとかなんとか」

「成程……。いえ、お仕事中にお邪魔して申し訳ございませんでした。大変参考になりましたので、今日のところはこの辺りで」

「あ、はい。またのご来店をお待ちしてますね」

 

 店を出るフレシシ。

 正直言って、あそこにあったコアとやらは嘲笑しながら見下したくなるくらいの出来損ないだった。だが同時に、その発想は称賛に値する。

 フレシシは従来のものをどうにか効率化しようと頑張っていて、だけどその限界に来ていた。

 ならば形を変えればいい。それこそ、球状に。そして替えを常備する。こっちも無い発想。

 フレシシの技術とこの発想があれば、さらなる効率化が望める。

 

 惜しむらくは、この発想をした奇械士が一線を退いている事だろう。

 フレシシからすれば良い事なのだが、フレシシの主たるフリスは奇械士による機奇械怪への入力を望んでいる。今の機奇械怪達では人間の武器の形状が変わったからといって特に気にも留めないだろうし、武器についた小さな動力炉より、持ち主である人間の方に魅力を覚えてしまうだろう。

 もし、これを作った奇械士が現役で、あのコアを使って一騎当千の実力を見せていたら。それを何かが取り込んでいたら。見ていたら。学習しようとしてくれていたら。

 ……まぁ、「へぇ?」くらいは言ったかもしれない。彼が本当に目指してほしいのは、生命という動力源からの脱却だから、いくら効率化したからって特に何も言わない可能性もあるけれど。

 

 とかく、ここへ来たことはフレシシにとって収穫だった。

 すぐにでも帰って自らの動力炉を球状にしてみたい。他、自分が作っているものに対しても色々試してみたい。

 フレシシは機奇械怪で被創造物だけど、長らく創造主のそばにいたためだろう、作る楽しみ、というのも感じるようにはなってきていた。未知が好きなフリスと違い、未知は解明し尽くさないと気が済まないのがフレシシではあるが。

 

「……」

 

 そんなウキウキ気分のフレシシも、ふと周囲を見渡してため息をついた。人間らしい行動が無意識に出るあたり、随分とこの演技にも慣れたものだと苦笑する。

 暗がりに複数人の男。ナイフや銃を持ち、隠れる気があるのかわからない格好で物陰にいる。

 その中の一人、大柄な男が前に出てきた。

 

「こんにちは、お嬢さん。一つ聞きたいんだが、奇械士御用達の店から出てきたあたり、君は奇械士……あるいはその志望者であっているのかな」

「不躾ですねぇ。でも、幸運ですよ、あなた達。今多少気分が良いので……逃げるなら追いません」

 

 気分が良いのは本当だった。今害されたが。

 

 ──フリスと違って、フレシシは人間をあまり好んではいない。当然だ、餌でしかないのだから。その上で奇械士など、同族を殺す獣でしかない。害獣だ。駆除し、餌にすべきだと本気で思っている。

 それでもアリアやケニッヒ、チャルらと仲良くできているのは、フリスがそうしろと命じたからだ。他の知能の低い機奇械怪と違い、フレシシにはとてもとても、フリスに逆らおう、なんて気は起きない。彼が許してくれるとわかっていなければ、無用な衝突はしない。メーデーの時は例外だったが。

 

 とかく。

 フレシシは、人間が好きではない。

 

「逃げる? 一体何の話だね、お嬢さん」

「こういうことです」

 

 だから警告は一度だけだ。改める機会など与えはしない。

 乾いた音が響く。同じくして、悲鳴も。

 

 男がそちらを振り向けば、そこには自らの足から血を流して蹲る、彼の部下の姿が。

 そしてその上で──拳銃が浮かんでいた。

 

「な……」

「あるいはこちらがお望みですか?」

 

 また悲鳴。今度は、彼らの連れて来た機奇械怪が突然主人に牙を剥いたがゆえの断末魔。

 

 フレシシは特異な機奇械怪だ。

 原初の五機、五種の機能の全てを体に宿し、それでいて小型。彼女にとって敵の武器は己の武器だし、周囲の機奇械怪は配下に等しい。

 ただ一つ、欠点を上げるのならば。

 

「──久しぶりに、ご馳走ですね」

 

 燃費が悪い──大食らいである、ということくらいだろう。

 普段はフリスが許さない、人間を餌として食べる行為。オールドフェイスを貰っているから問題は無いけれど、やはり味気の無いコインよりナマがいい、なんて。

 貞淑なる淑女でメイドなフレシシは、欠片も思っていない。

 ただ、改良前の動力炉()にガツガツとソレを入れて──恐怖に慄き逃げようとする者をも念動力で掴み、絞め、全てを平らげて。

 

「ああ……ごめんなさい。忘れてました。逃げる者は追わない。……そういうのも、ありましたね」

 

 怪しく、凄惨な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 さて、失ったエネルギーを補充したフレシシは、「これならもうちょっと回れますね」なんて調子に乗り始める。

 当然、これが原因だ。時間になってもフレシシが返ってこなかった原因。

 そして──。

 

「……ぁえ?」

 

 気付けば彼女は、巨大な球体の中に浮かんでいた。

 

 

 

+ * +

 

 

 

 朝になってもフレシシは帰ってこなかった。帰って来たのは父ケニッヒと母アリアの方で、二人とも首を振るばかり。

 どうやら本当に誘拐されたらしい。

 うーん、人間程度に誘拐されるのならもう要らないかなぁ、とか思っていた矢先のこと。

 

「フリス!」

「ちょ、ちょっとチャル! 私は行かないって……」

 

 彼女にしては珍しく、礼儀正しくなくドアをバーンと開けてウチに入って来た。あれ、鍵は?

 

「フレシシさんを探しに行くよ、フリス!」

「彼女だって、一日や二日いなくなりたいときもあるよ」

「いーから!」

 

 はて、チャルはこんな強引な子だっただろうか。

 いや確かに結構強引なことはあるけど、戦えない僕を引き摺りだしてまで行くような子じゃなかったはずだ。なんせ相手は奇械士をしても足取りの掴めない組織。どう考えても危険。

 それを無理矢理やるのは──。

 

「……アレキ。君、なんか言ったね?」

「──ふん、話すことなんかアイタっ!?」

「アレキね、フリスのことキューピッドだっていうの。そんなわけないのに。だからその『そんなわけない』を証明するために、フレシシさんを探そうと思って」

「おや、僕の聞き間違いかな。今前後が一切繋がっていなかったように思うんだけど」

「キューピッドっていうのは悪人なの。自分のメイドさんを助ける、なんて絶対にしない。どころか、『捕まる程度の奴なら捨てておけばいい。メイドなんていくらでもいるし』とか言っちゃう嫌な奴」

 

 あ、うん、大正解。

 

「でも、フリスはフレシシさんの事大事に思ってる」

「意地悪な質問をするけれど、どうしてそう思うのかな」

「だってフリス、フレシシさんの前でだけ、私にも見せないような笑顔で笑うもん」

「……なんでそんなことをチャルが知っているのかな?」

「前フレシシさんに見せてもらったよ。『珍しい、フリスの本気の笑顔』って。『私にだけ見せてくれるんですよねぇ』って」

 

 ほう。

 僕の本気の笑顔が出る時は、チャルのような"英雄価値"を見つけた時だけだと思うんだけど。

 何かな、それ。その画像データ、気になるな。

 

 俄然。

 俄然、興味が湧いて来た。チャルの言う通り捨ててもいいや、また作ればいいやと思っていたフレシシだけど、そういえば確かに、彼女の記憶領域には僕に関する様々な重要案件が記録されている。人間の技術でそれを吸い出せるとは到底思えないけれど、万一もある。先日なんか動力炉の形状を変える、なんて技術を人間が生み出していたからね。名前は忘れたけど。

 

「いいよ、行こうか。あぁ、でも母さんたちの助力は期待しないで。二人とも夜中ずっと各所を駆けまわって、疲れてるんだ」

「うん、大丈夫。私は私で有力な情報手に入れてきたから!」

「……」

 

 アレキの眼光が鋭い。そりゃそうだ。彼女にとっては確定キューピッドが乗り気でコトに当たろうというんだ。

 何をしでかす気だ、と。そういう目線だろう。

 

「何をしでかす気?」

「勿論、フレシシを探すんだよ」

「……他に何か企んでる。絶対」

「うーん、僕がそのキューピッドとやらじゃない、というのは、どうやったら証明できるのかな」

「斬られなさい。私に。今すぐ」

「あはは、流石の僕でも斬られたら死にそうだ」

「ちょっと! アレキ、変なこと言わないで! というかフリスも抵抗して! アレキは思い込み激しいから、ホントに斬って来るかもなんだから!」

 

 心当たりがある。

 微笑みかければ、キッと睨まれた。

 

「それに、アレキも見たでしょ。前、私の茨をフリスが掴んだ時、血がいっぱい出たの。キューピッドは斬れない。だからあんなのでケガするはずない。違う?」

「そ……れは、そう、だけど」

 

 おお、無計画が活きる事ってあるんだなぁ。

 確かにあの一件はチャルにとって衝撃の強い事件だったはずだ。目の前で、自分のために好きな子(ぼく)が怪我をする。トラウマに近いだろうそれは、だからこそ無敵のキューピッドと結び付けられない。

 

「チャル、嬉しいけど、あんまり大声出すと両親が起きちゃうから。……うん、書置きはしたから、じゃあ行こうか」

「あ、ごめん。……うん。行こう。……アレキは、来る?」

「行く。キューピッドがチャルに何するかわかったものじゃないし」

「もー、アレキは一回思い込んだら頑固なんだから……」

 

 家を出る。

 そして──当然、と言わんばかりに、腕を組んでくるチャル。

 

「!?」

「うーんチャル、流石に歩きづらいよ」

「……彼氏と彼女は、こうやって歩くんじゃないの?」

「時と場合に依るかな。なんたって今はフレシシを救出しに行くんだ。デート気分じゃダメだろう」

「あ……うん。ごめん」

 

 そういえば、だけど。

 心を読み解く特技を持つチャルにとって、フレシシはどう映っているんだろう。

 彼女、普通に人間見下してるからその辺見抜かれたら仲良くなれなそうなものだけど。

 

「それで、有力な情報って?」

「えっと、私達奇械士には、自分たちの武器を調整してもらう調整屋さんがあるの。壊れちゃったらそこで新しい武器を買ったりもするところ」

「へぇ」

「そこの店主さんがね、昨日のお昼ごろにメイドの格好をした、フレシシさんの似顔絵にそっくりな人が来たって言ってて」

 

 フレシシが……人間の経営する店に? しかも奇械士関連の?

 自分から行くとは考え難いな。たとえ行ったのが本当だとしても、彼女なら、そのレベルの低さにため息を吐いて、なんなら毒でも吐いて去っていきそうなものだけど。

 

「それで?」

「それだけ」

「それだけかぁ……」

 

 有力な情報というから、どこかへ連れ込まれた、とか。どこかへ誰かと入って行くのを見た、とかかと思ったんだけどな。

 一応、アレキも見る。

 

「……私からは何もない。それと、これは私の名誉のために言うけれど、私も今『それが有力な情報?』って思ったから」

「ああ、うん」

「え、なに、どういうこと?」

 

 どうやらアレキも知らなかった事らしい。

 

 前々から述べているけれど、僕は全知全能じゃない。万能に近くはあるけれど、何がどこにあるか、とかをパキっと判別するような能力は有していない。

 感知範囲内に入れば朧気にはわかるんだけど、正確な場所は無理だ。

 となると、地道に足で探すしかなくなる……んだけど。

 

「……いや」

「フリス?」

 

 同時期に起きた事は、関連付けして考えるべきだ。

 即ち──僕が機奇械怪を使役する集団、NOMANSに襲われた事件と、フレシシの誘拐事件。

 これらが繋がっているのなら、なんらかの方法でフレシシにウイルスを飲ませ、フレシシを操って連れ帰った……という線を引っ張り出せる。

 というかそれくらいじゃないと無理だ。僕がさっきから「人間程度に捕まるなら捨ててしまっていい」という考えを浮かべているのは、何も薄情がゆえのみではない。それほどフレシシのスペックは高いのだ。やりようによっては彼女一人で地上の国を滅ぼせるくらいには、オーバースペックに作ってある。

 それを使いこなせない知能なら要らない、という意味で捨てる、と言っているけれど、まぁ、百万歩くらい譲ってオーダー種の汚染を受けたというのなら仕方がない。

 

「僕ね、昨日、襲われたんだ」

「……え、だ、誰に?」

「NOMANS。機奇械怪を使役する人間の集団。僕がクリッスリルグの息子だって知った上で近づいて来た」

「それ。殺したんでしょ、どうせ」

「アレキ!」

「……ふん」

 

 まぁ殺したけども。

 

「ほとんど同じ時間にクリッスリルグに纏わる二人が襲われてるんだ。下手人も同じだと考えて良いと思わないかい?」

「……まぁ、NOMANSなら犯罪者集団だし。協会にそっちを探してもらうのは、アリかもね」

「おや、協力的じゃないか」

「別に。フレシシさんは関係ないし」

 

 あぁ、なるほど。

 そりゃそうか。だって、アモルはアレキが壊したんだ。その時点でフレシシとアモルは繋がらないか。

 

「でもまぁ、それじゃあ遅い。二人とも、戦闘は任せても良いんだよね?」

「勿論!」

「戦えるクセに……」

「まぁ地上にいたからね、そこそこはできるけれど、現役の君達程じゃないよ」

 

 まぁ、まぁ、まぁ。

 NOMANSの拠点ならわかってるんだ。チャルに任せようか両親に任せようか悩んでいただけで、なんなら一人で潰すくらいの気概はあった。損得勘定でやらなかっただけで。

 

 そもそもNOMANSの名を騙った時点で僕の逆鱗を踏み抜いてはいるんだけど。

 

「行くよ、チャル、アレキ。こういうの、古い言葉でこう言うんだよね」

 

 ──カチコミだ。

 

 

 

 

 

 南部区画にある雑居ビル。

 ここ南部区画は他の区画に比べて開発が遅れていて、少しだけ治安が悪い。そんなところに学生の少女二人と男子一人だ、悪目立ちもするけれど、チャルもアレキも一目で奇械士だってわかる格好をしているので問題は無い。

 下卑た視線だけは止まらなかったけれど、手を出さば飛ぶだけだ。首と銃弾が。

 

「ここが……」

「なんでわかったのか聞いて、答えてくれるわけ?」

「NOMANS。かつてあった、とあるサービス会社の名前でね。僕はそこの製品が好きだったんだけど、ある日倒産してしまって、すべてなくなってしまったんだ。それが最近になって、同じ名を聞くようになって……だから調べたよ。ま、出てきたのは明らかに人道から外れた事をしている組織だったけど」

「調べたって……調べて出てくるものなの?」

「はは、アレキ。大抵の事はネットで調べれば出てくるものだよ。況してやこの狭いホワイトダナップの事なら、尚更にね」

「……」

 

 これ以上の説明はできないし、要らないだろう。

 自動ドアの入口は、しかし開かない。電源が入っていない。

 

「チャル、お願いしてもいい?」

「あ、うん!」

「ダメよ。撃ったら破片が飛び散って危ない。私が斬る」

「斬ったって同じじゃ……」

 

 アレキの刀が赤熱する。音は重なって二回。振るわれるのは四回。されどドアに変化なし。

 その自動ドアを、そっと。

 刀の柄で小突くアレキ。

 

 すると──小突かれた部分が奥へと倒れ、菱形の穴が開いた。

 

「ヘェ、凄いね。アレキは空き巣に向いてそうだ」

「どんな評価よ……」

「あぁチャル、気を付けて。ガラスの断面は鋭利だからね」

「フリスこそ、怪我しないでね」

 

 ナチュラルイチャイチャをアレキに見せつけて、暗い感情を煽って。

 

「悪い奴は大抵一番上か一番下にいるものだけど、今回はどっちだと思う?」

「二手に別れたらいいでしょ。上が私とチャル、下があなた」

「アレキ」

「う……。はぁ。わかった。私が一人で上に行くから、二人は地下に。上にいなかったら私もそっちへ行く」

「おや、いいのかい? 僕とチャルを二人きりに、だなんて」

「……何かするつもり?」

「イチャイチャしようかな、と」

「えっ!」

 

 アレキは……ふん、と鼻を鳴らした。

 

「デート気分じゃダメだって言ったのはどこの誰。とっととフレシシさん救い出して、帰る。デートは後日にして」

「あはは、了解。それじゃあアレキ、また後で。行こうかチャル」

「う、うん。……アレキ、怪我しないでね」

「大丈夫。大型機奇械怪でもいなければ、怪我なんてしないから」

 

 ──アレキ、知っているかい。

 そういうのフラグって言うんだよ。

 

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