終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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微笑みを浮かべる系一般上位者

 暗い地下を降りていく。

 ホワイトダナップはその性質上、地下というものを作るには様々な手続きを必要とする。この島は幾重もの層になっているので、倉庫区画や"秘密の区画"なんかに出てしまう可能性があるのだ。

 だからそうそうこんなに深い地下を作るのは無理なはず、だけど。

 

「……フリス」

「うん。人の気配がするね」

「わかるの?」

「地上にいた頃は、それができなきゃ死んでたから」

 

 地下一階は何も無かったが──地下二階。

 深度的にはまだ中層に入っていないものの、少しばかり冷えてきたその空間に、複数人の気配を感じた。まぁ僕の場合達人の言う気配を感じ取っているんじゃなくて、感知範囲に入った生命の存在を感じ取っているだけなんだけど。

 

「私が先に入る。フリス、」

「ああ、大丈夫。ああは言ったけど、人間相手ならある程度は対処できるよ」

「わかった」

 

 真剣な顔つきのチャルには悪いけれど、多分本命はこのフロアじゃない。何故ってフレシシがいないから。

 フレシシは……もう少し下だね。

 それじゃあ上には何があるんだって話だけど。

 

「っ!」

 

 一息でチャルが部屋に転がり込む。

 ……そして、息を飲んだ。

 

 暗い部屋だ。フロアタイルの敷き詰められた、部屋というよりは──独房に近い冷たさのある場所。いや、近い、じゃないか。

 部屋を区切るように嵌っている格子と、その中で襤褸布を纏い身を寄せ合う数人の男女。口には猿轡。

 僕やチャルを見る目は恐怖のソレで、彼ら彼女らの扱いも伺えるというもの。

 

「な……なに、ここ」

「誘拐してきた人間を入れておく部屋だろうね」

「なんでこんなこと……」

 

 恐らくというか十中八九この人間達は餌だ。機奇械怪に食べさせるための餌。要はウイルスの素。

 それにしても、牢が分けられているのは何か理由があるのかな。ふむ。人数の多い牢は餌だとして、人数の少ない……それも子供が二人入った牢は。

 特に目立った要素はない。体つきが良いとか、何かサイキック的なものを感じるとかもない。

 ふむ? 人間特有の意味のない男女への配慮とかかな?

 

「フリス、この鍵……」

「……うわ、これはまた古めかしいものを」

 

 パッドロック……対応する鍵じゃないと開かないタイプの、金属製の鍵。

 ダイヤルロックやデジタルロックさえも古風になりつつあるこの現代に、よくもまぁこんなものを持ってきたものだ。加えて雁字搦めの鎖、と。

 チャルが銃に手を伸ばさないのは正解だ。この人間達は凶器に対して強い恐怖を抱いているだろうし、パニックになられると面倒臭い。

 握り潰す、引き千切ることはできるけど、まぁチャルの前じゃやるつもりないし。

 

「チャル、今は」

「……うん。あの、ごめんなさい。今すぐに出してあげる事は出来ませんが、必ず助けます。これから上も下も、この会社の全部を壊してくるので……それまで待っててください」

「物騒だねチャル」

「フレシシさん助けに来ただけのつもりだったんだけど、ちょっと。……機奇械怪を使ってる時点で奇械士の攻撃対象だから、いいよね」

「良いと思うよ」

 

 絶対にダメだけど、良い。

 本来は警察に言うべきだけど、知らない。人間の法律はまだ勉強してないからなぁ。

 

「じゃあ行こうか、チャル」

「わかった」

 

 何か言いたげな──けれど、助けを求める体力はない、といった様子の男女を背に。

 僕らは地下二階を出て、地下三階へと進む──。

 

 

+ * +

 

 

「……ぁえ?」

 

 フレシシは目を覚ました。

 いつの間にか、なんらかの液体の満ちた球体の水槽の中に入れられている。今の今までの記録(意識)がない。あとメイド服も無い。

 機奇械怪たる肉体を覆う皮膜(スキン)を見られたところで羞恥など欠片も無いが、人間の多い場所で衣服を着ないと騒ぎになるのは常識なので、思わず身体を隠して。

 

 周囲を、ようやく見た。

 

「おお……可哀想に、目を覚ましてしまったか」

「眠っていれば……起きた時には全てが終わっていただろうになぁ」

「まぁ、良いのではないか? 造り替わる苦しみに藻掻き叫ぶ少女……中々オツだろう」

「……変態め」

「汚らわしい」

「誰かコイツをつまみ出さんか」

 

 周囲、十数人の男女。

 それがフレシシの入った球体を囲うようにして座っている。

 

 何かどうでもいいことを喋っている人間を無視して、フレシシは周囲の液体を舐めてみた。すぐに解析が始まり──これが、不活性状態の動力液であることを知る。

 動力液。つまり、動力炉の中にある液体のことだ。これが活性状態にある場合、動力液は入って来たものからエネルギーを取り出し、機奇械怪にそれを供給する。人間の胃液のようなものだ。活性、不活性を切り替える事で、エネルギーを取り出さずにとっておく事も出来る液体。

 それに己が漬けられている。

 うーん、とフレシシは悩む。

 フレシシは機奇械怪である。ゆえ、その身に生体パーツなど一つもない。皮膜だって生体パーツではないのだから、強いて言えばフレシシの動力炉に生体が詰まっているとは言えるだろう。それこそさっき食べた暴漢達が。

 それが狙いなのでしょうか、と悩んで。

 

 答えが出ないので、聞くことにした。

 

「あの」

「……今のは誰だ?」

「見間違いでなければ供物が喋ったように見えたが」

「馬鹿な。肺まで神の髄液で満たされているのだ。喋れるはずが……」

「あの、私に何用でしょうか? このような無意味な事をして……ええと、遺体を返してほしいということであれば、申し訳ありません、全て消化してしまったので、今は肉片しか」

「装置を起動しろ。会話を交わすと情が芽生えかねん。何より、無知な顔つきが苦痛に変わっていくところを見るのが好きなのだ。この子に情報を渡してはならん」

「起動には同意するが貴様はこの場から出ていけ。神聖な儀式に変態は要らん」

 

 答えは返ってこなかった。

 代わりに、フレシシの周囲が明るくなる。ライトアップされ──そして、ボコ……と。

 動力液の活性化が始まったのがわかった。

 

「えーと、私を動力源にする気……ということでしょうか」

「ふふ、お嬢さん。そんな勿体の無い事をするわけがないだろう。──名前も知らないお嬢さん。今から君には、神になってもらうのだよ」

「お前が一番喋っているじゃないか」

「はあ。神、ですか……」

 

 何を言っているんだろう、と。

 フレシシはハテナを浮かべる。その間にも動力液の活性は強くなっていって、既に有機生命を蝕みエネルギーを抽出できる段階になっている。

 が、当然フレシシには効かない。あるいはプレデター種の動力炉に存在する融解液であれば少しくらいはダメージも入ったかもしれないが、ただの動力液でどうこうなるフレシシではない。

 

 しかし、それに対して「どういうことだ」と騒ぐ人間はいなかった。

 

「さて──始めよう。神を降臨させる儀式を!」

 

 変態だの汚らわしいだのと罵られていた男が両の腕を上げる。

 伴い、罵倒を浴びせていた十数人の男女がぶつぶつと何かを呟き始めた。

 

 そして──動力液の満ちる球体の中に、何かが転移してくる。

 真白の光を纏うそれが、二つ。一応転移に巻き込まれないようフレシシが場所を移動する。

 

 ……しようとした。

 

「あれ……」

「ククク……動けない事に驚いたかね? その液体は神の髄液。活性と同時にゼリー状に固まり、半固体となる。従来の獣の髄液には無い特性だ。ククククっ、いいぞ、いいぞ、その顔……! 一糸纏わぬ少女が困惑した顔で固まっていくその様……!! 最高だ!」

「誰かアイツ撃ち殺してくれないか」

「気持ちが悪い」

「ん-、君達詠唱に集中したまえ」

 

 間に合わない。

 男の言う通り、腹部付近までを固められてしまったフレシシはもう、転移の巻き添えを食らうしかない。

 場所は両腕。

 よってフレシシはすぐに"対処"をする。

 フレシシは機奇械怪だ。別に両腕を失った所で停止することは無いが、その『固まる動力液』が体内に入ってくる事が問題だと判断。

 よって両腕から皮膜(スキン)の一部を回収し、肩口に展開。その後、両腕をパージ。これにより、まるで元から両腕の無かったボディであるかのように振る舞える。

 加え、両腕に接続されていた操作系機械神経を他の場所に繋げ──転移に巻き込まれる前に、己が両腕を隠れ家へと転移させる。

 一瞬走った赤雷には、誰も気づいていないらしい。

 

 そして現れる。

 機奇械怪だ。──人間を侵蝕中の機奇械怪が、二体。翼あるハンター種と、なんらかのオーダー種。

 

「ああ神よ! 今ここに、その身を()ろしたまえ!!」

 

 ザァ、と。

 両脇の機奇械怪から毒々しい粘液が伸びる。融合時によく見られる光景だ。

 その粘液はフレシシの身体にベタベタと張り付くと、すぐさま融合を始めた。

 

「……」

 

 始める、予定だった。

 

「……あの、別に私弱ってないので。融合、しませんよ?」

「な……なに? ありえない、ただの人間が神の御手に逆らえるわけが……!」

「活性だ! 神の髄液の活性をもっとあげろ!」

「そもそも何故言葉が発せている? あの供物の身体は口から喉、胃や腸に至るまで固まっているはずだ!」

 

 今度こそ動揺が広がっていた。

 あり得ない事だったらしい。フレシシからしてみれば、互いに合意の無い機奇械怪が融合するなどフリスの手以外ではありえないので、何をやっているんだか、という印象でしかないが。

 

「……うーん。これ以上は無さそうですね」

 

 フレシシは人間が好きじゃない。

 だけど、未知は解明したいと思うタイプだ。だから神だのなんだの言う人間に、動力液を改造した人間にちょっと付き合っていた。

 それもそろそろネタ切れと見切りをつけて。

 

「まぁ、融合して欲しいというのなら、いいですよ」

 

 両脇の肉塊と金属の混じった塊を見る。

 巻き込まれた、供物にされたのだろう機奇械怪に同情を覚えつつ──既に意思のない彼らを取り込み始める。肩口から取り出すのは、先ほどベタベタと体に纏わりついた粘液ではなく──無数のマニピュレーター。極細のソレは両脇の機奇械怪を掴み、少しずつその形状を変形させていく。

 フレシシは原初の五種の全てを持つハイブリッドな機奇械怪だ。

 だから当然、他の機奇械怪を積極的に捕食するプレデター種の特性も持っている。

 

 グチャグチャと不快な音が部屋に響く。先ほどまで詠唱とやらを呟いていた十数人の男女も、フレシシを見て興奮に鼻孔を膨らませていた男も、ぽかん、とした表情で彼女を眺めるだけ。

 フレシシから出たマニピュレーターは見るも無残な機奇械怪を分解し尽くし、そして──己が腕へと再構成していく。

 先ほど自らパージした腕。それと同等とは行かずとも、見た目だけ寄せたものを。

 固まる動力液を体内に入れないように注意しながら、上膊を、下膊を、そして手首、手を、と。

 

 ある意味。

 その光景こそが、神の御業にも見えた事だろう。

 腕を失った人間が、自らの力でそれを再生させる。そんなことが単なる人間にできるはずないと。

 

 祈る者がいた。拝む者がいた。

 神の降臨は成功したのだと。

 震える者がいた。腰を抜かす者がいた。

 別のモノを呼び出してしまったと。

 

 そしてトップらしい男は──。

 

「……まさか貴様、機奇械怪か?」

「今更ですねぇ」

 

 フレシシが、固まり、動けないはずのフレシシが、男に手を向ける。

 瞬間自らの机の下に隠れる男。

 

「おや、サイキック種の対処法を知っていましたか」

「フ──ククク、成程成程成程成程!! 誘拐部隊の惨殺現場で意識を失っていた時点で少しはおかしいと思っていたが、成程! 奴らを食ったか、機奇械怪!」

「おい変態、何を言っている! 何が起きているんだ!」

「神は降臨したのか!? 我々の悲願は──」

「そこまでです!!」

 

 この部屋に通ずる唯一の扉が吹き飛ばされる。

 転がり込んできたのは、二丁拳銃を構える奇械士。そして。

 

「──やぁ、フレシシ。元気そうで何よりだよ」

「フ──リス」

 

 その笑顔に。

 フレシシは、かつてない恐怖を覚えた。

 

 

+ * +

 

 

 地下三階の扉を開けたら、球体の水槽の中に服を着ていないフレシシがいて、それを囲うように人間がたくさんいた。

 

「フレシシさん! 助けに来ました!!」

「チャル、君は周囲の人間を相手にしてくれるかい? 僕はこの装置を止めてみるよ」

「うん……え? そんなことできるの?」

「あはは、まぁ見ててよ」

 

 興味深い。

 いや、装置のつくりは一瞬で看破したし、フレシシが浸かっているものが何なのかも理解したけれど、興味深いと思ったのはそれを昔見たことがあるからだ。

 

「奇械士……!」

「な、何故この場所が!?」

「たかだか少女一人だ! 機奇械怪を呼べ、数で圧殺してやる!」

 

 周囲の壁から多くの基本ハンター種が出てくる。まぁチャルがやってくれるだろう。

 

 にしても、中央の装置。

 アレは確か、既に滅びた国ネイトの……黒魔術。その正体は"毒"で、人間に扱えるものではなかったんだけど、それが神だのなんだのを呼び寄せるに違いないと信じた人間達が、機奇械怪と人間を生贄に大型機奇械怪を作ろうとしていたんだっけな。"毒"を以て融合種を作る、みたいな感じで。

 まぁできるはずもなく。

 時の英雄が悪事を暴いて、けれどその国の政府にまで根を伸ばしていた黒魔術派と英雄の派閥で国が二分。当然外からの機奇械怪の脅威も消えないままに、黒魔術派が鹵獲した機奇械怪を国で暴走させて、最終的に英雄と相打ちになってネイトは滅びた。

 50年くらい前の話だけど、生き残りでもいたのかな?

 

 さて、じゃあ装置を……まぁ止めなくてもいいか。壊そう。

 

 こう、中身をぐちゃっとして。どろっとさせて。

 プラス、球体を支えている足を念動力で割断して、と。

 

「ちょ──」

 

 ゴトリと落ちる水槽。ガラスは割れ、中の液体が零れだす。

 ただし零れだしたのは上部のみ。具体的にはフレシシの上半身までが液体として外に出て、下半身は固まったまま。

 成程、動力液にそういう事をしたのか。薄まっちゃうから勿体ないと思うけど、どうなんだろうね。

 それに、さっき感じた転移の気配は……。まぁ、言及しないでおくべきか。

 

「……やぁフレシシ。無様だね」

 

 チャルは戦闘中だから聞こえていないだろう。素直な感想を彼女に与える。

 

「えっと……フリス。これには事情がありまして」

「知っているよ。それで、それが君というスペックをそこに縛りつけている言い訳になるのかな」

「出──出ます、今すぐに!」

 

 何か焦っているようだけど。

 僕はまぁ、嬉しさ半分失望半分ってところかな、今の感情は。

 嬉しさは、彼女が今言い訳をしようとした事だ。彼女は基本僕に逆らわない。嘘もつかない。欲しいものは欲しいと言うし、嫌いなものは嫌いという。面倒だと思ったらちゃんと面倒だ、ともいう。

 フレシシがそうであるのは、結局のところ、僕が怖いからだ。

 僕に逆らえば、フレシシ程度一瞬で死ぬ事を、破壊される事を、彼女はよく理解している。だから逆らわない。嘘を吐かない。

 

 それが今、言い訳をしようとした。

 

 ()()()()()

 別に人間になってほしい、とは思っていないけどね。自ら僕に歯向かえるようになることは、良い事だと判断できる。

 

 失望したのは、単純に何をやっているんだか、という失望。

 彼女はまだ自身の動力炉内にウイルスが埋め込まれている事に気付いていない。僕が無様だと言ったのは彼女がそんな恰好で捕まっている事に対してじゃあないんだ。無様にオーダー種の干渉を受けて、それを思い出せない、思い至れない事に無様だと言った。

 今、サイキックを使ってこのゼリーから抜け出している彼女。フレシシ。

 

 さて、天秤だ。

 フレシシは僕が作った機奇械怪。全体に還す予定は無い。つまり、全体に影響しない入力を溜め込んだ機奇械怪であると言える。

 だから、要らなければ破棄すればいい。もう一度似たものを作り直せばいい。材料が目の前にあるんだ、もう一度同じものを作るのは容易い。

 

 が。

 

「あの……その、ええと」

「珍しいね。君が言いよどむなんて。──何か、僕に言う事でもあるのかな」

 

 言いよどむ。

 これもだ。僕に嘘を吐かないフレシシが言い淀むのは、己が失敗したと理解していて且つ、それが僕に失望されるものだと理解しているため。

 理解しているから──明確な答えを出さないで、なんとか切り抜けようとしている。僕が怖いのに。僕に逆らえないと知っているのに。

 

 ──うん。

 嬉しさが、半分を超えたかな。

 

「申し訳、」

「いや、いいよ。君は今、一つの価値を獲得した。だから安心するといい」

 

 フレシシが誕生したのは、今から321年前。

 原初の五機の製造から22年後となるその日に、僕は一枚のオールドフェイスを生成し──フレシシを創り上げた。

 そこからここに至るまでに……フフ、少し楽しみだ。

 彼女が何かを画策しているのはわかっている。さっき転移先も知ってしまった。だけど、そこに行くことはない。

 何故って楽しみだから。

 恐怖に震える彼女が、逆らえないがゆえに付き従う彼女が──僕にどんな反旗を翻してくれるのか。

 

 ワクワクしないはずがない。

 

「フリス、フレシシさん!」

「あぁ、チャル。……と。もしかして、もう全員倒したのかい?」

「あ、うん。戦える人ほとんどいなかったから、全員拘束したよ。ハンター種はキョロキョロしてるだけだったし」

「そうかい。じゃあチャル、拘束した奴から適当に衣服を貰ってきてくれないかな。フレシシをいつまでもこの格好にさせておくわけにはいかないからね」

「わかった!」

 

 さて、これにて一件落着だろう。

 流石にチャルの目を掻い潜って動力炉を、というわけにはいかないので、それは帰ってから、ということで。

 

 あ、そうだ。

 アレキ、大丈夫かな?

 

 

 

 地下にいた男の一人が持っていた鍵。

 それはやはり、地下二階の牢のパッドロックを開ける鍵だった。

 彼ら彼女らを解放し、じゃあ上へ……と行こうとして。

 

 それはもう、ズシンズシンと揺れる地上の震動音に、何が起きているのかを察することになる。

 

「チャル。任せてもいいかな」

「うん。奇械士だもん。任せて!」

 

 言って地上に出ていくチャル。

 アレキの声も聞こえて、そしてチャルとアレキと震動音が段々と遠ざかっていくのがわかった。

 

「それで、フリス。この人たちはどうするんですか?」

「警察に引き渡すよ。それで元の家に帰すんだ。……なんだい?」

「いえ、フリスがそんな殊勝な事を言うのが珍しくて」

 

 いつもの調子が戻って来たフレシシ。

 ふむ。

 

「君に任せる──と言ったら、何をするのか、教えてくれるかな」

「それは勿論」

 

 

 

 

 事情聴取なんかを含め、全てが終わったのは夜だった。

 ホワイトダナップ上に大型機奇械怪が現れたということで、奇械士総出となった結果、当然現場に両親も来て。両親には子供たちだけで行った事を叱られ、また抱き締められて、フレシシも抱き締められて。

 

 ようやく二人が寝静まった夜のこと。

 

「さて、フレシシ」

「はい?」

「仕上げだよ」

 

 言いながら──その胸に、腕を突っ込む。

 

「……ぇ?」

 

 何が起きているかわからない。

 そんな顔のフレシシを余所に、彼女の身体から引き抜くは動力炉。サブ、非常用のものも含めて、全て。その黄緑色に怪しく光るソレを彼女から取り外せば──簡単に。

 

「ぁ、え、……い、ゃ……」

 

 フレシシが崩れ落ちる。全身から活力が消え、口や目は半開きの状態で、壊れたドールを思わせる格好で、床に。

 ……一応のお仕置のつもりだったけど、これ余計に恐怖を植え付けたかな?

 

「……しかし、なんだこれ。この動力炉、百世代は前の材質を……。そりゃ効率も悪いよ。はぁ、なんで機奇械怪って互いに互いの学習をしないんだろう。今の地上の機奇械怪だってこんな材質の悪い動力炉使ってないって。……これじゃまぁ形状変えようが何しようが効率化なんて図れたもんじゃない」

 

 引き抜いた動力炉から動力液と、そしてウイルスの素になったのだろう肉片を取り出す。

 空っぽになったそれ。このまま再生成した動力液を入れてオールドフェイスを入れて、とするのもいいんだけど、まぁ、彼女は価値を獲得したからね。

 ご褒美くらいはあげても良いか。

 

「もう少し。もう少しだと思うんだけどなぁ。ね、フレシシ。君、そのままだとピオに抜かされちゃうよ? 彼女は古井戸のためなんだろうけど、かなりチューンアップしてた。動力炉もだけど、その機能も。君より遥かに劣るスペックで、けれど君に迫ろうとしている。それに気付いているかい? 君はピオを見下してはいないかい? 自身の生み出した、けれどデッドコピーだと」

 

 意識の無い、動かないフレシシに問いかける。

 手の中に生成される新たな動力炉。フレシシの使っていたものよりエネルギー伝導率が高く、丈夫で、薄く、且つ貯蔵容量の多いもの。

 フレシシは自身を特別だと思っている。実際特別なんだけど、でもそれだけだ。

 特別なだけじゃ、僕の願いは叶られない。何かを企てているのは知っているけれど、それが何であれ、フレシシという機奇械怪が新たなステージに立つものでないのなら意味が無い。フレシシはフレシシという小さな箱庭で、自己改造の極致を経ての進化をさせる。そのために手元に置いているんだから。

 

「人間は試行錯誤をするよ。今日のNOMANSだってそうだ。君が言っていた、主犯格と思われる男。いつの間にかいなくなってたっていう人間。警察の尋問を傍受したけど、装置を作ったのも計画を企てたのもほとんどその男なんだってさ。凄いと思わないかい? 計画は杜撰も杜撰、贄に選んだのは機奇械怪である君だったけど、その行動力は君が見習うべきものだよ。やりたいことをやるために、世間も機奇械怪も恐れることなく行動し、完成にまで漕ぎつけた。更には保身も考えていて、僕やチャルという脅威が来る寸前に逃げている」

 

 英雄ではないが、価値ある人間だ。

 NOMANSを名乗った時点で、可能な限りの苦痛を与えて殺そうと思っていた僕が、こうも手のひらを反すくらいには。

 機奇械怪。既存有機生命にない、新たな形の存在。

 既存生命を食さなければ生きていけない不完全な存在。

 

「うーん。やっぱりそろそろなのかなぁ。チャルとも付き合い始めたわけだし……そろそろ」

 

 動力炉に動力液を満たし、メイン、サブ、非常用にそれぞれオールドフェイスを一枚ずつ入れて。

 

「──僕が死ねば、全部が大きく動く頃合い……だよね」

 

 フレシシの身体に動力炉を戻す。

 エネルギー供給により再起動を始めるフレシシ。その目の前にしゃがみ込んで、彼女が一番苦手な微笑みを浮かべて待っていれば。

 

「……。……? ……──ひ」

「あはは、おはよう、フレシシ。気分はどうかな」

 

 何が起きたのかわからない。そんな顔から一変、僕を認知し──短い悲鳴を上げて。

 

「さ……最悪、ですねぇ……」

「うん、それは良かった。それじゃあ僕は家に戻るから、落ち着いたら上がって来るんだよ」

 

 彼女の顔を見て、理解した。

 頃合いだ。

 フリス・クリッスリルグはそろそろ死ぬべきだ。キューピッドもね。

 

 チャル、アレキ、母アリア、父ケニッヒ、そしてフレシシ。

 彼ら彼女らは時代を動かす波になれる。そしてその起爆剤は僕にある。

 

 事件を起こそう。

 そして僕が死んで──愛や怒りを爆発させよう。

 ホントの英雄を生むには古来、親しき者の死が必要って決まっているからね。

 

 そうすればアレキとチャルも、どこかぎくしゃくした青春友情ラブコメアクションストーリーに入れるはずだ。僕という存在の死を無視できない、忘れられない、けれど寂しさからアレキを求め、アレキはまたも罪悪感に苛まれ。

 うんうんうんうん。

 ならば準備をしよう。今回ばかりは、入念な準備を。

 

 是非、是非、是非とも。

 人間の輝きを。

 ……次の僕にフレシシが付いてこられるかどうかは、彼女次第、かな?

 

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