終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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一般断罪者を鍛え上げる系一般上位者

 考える。

 人間を守りながら機奇械怪と戦う少女を見て、考える。

 

 ──ううむ。

 

「弱いな」

「ッ」

「無駄が多すぎる。奇械士のくせに、機奇械怪の弱点を知らないのか? 腕部を削ぐ、脚部を破壊して移動を困難にする。結構結構。だが、もっとあるだろう。機奇械怪の動きを一撃で止める方法が」

「動力炉の破壊……ですが」

「ですが、ではない。ライブラリの全てを覚えているというのなら、動力炉の位置も覚えているだろう。アレさえ壊してしまえばいいのだ。どれほど硬い装甲にも隙間はある。隙間を見極め、一刀のもとに動力炉を突け。それだけで終わる」

「それが出来たら苦労は──」

「それを出来るようにするために、お前は俺に師事したんだろう、アレキ」

 

 英雄には二つの種類がある。

 一つは先天的な英雄。生まれ持った才能、特異な技術、他と隔絶した身体能力。それらを以て、特別によって他者を惹き付ける者。

 もう一つは、後天的な英雄。努力をし、努力をし、努力をし、努力をして、才能を持つ者達が食い散らかした可能性の、残された一つを掴み取る事で成る英雄。こちらは長い間評価されない事も多いし、目立った才には見られない事も多い。無論、努力できる才能を有した者である、ともいえるが。

 

 チャルやアリアは前者の英雄。ケニッヒは後者の英雄。

 されどアレキは……そのどちらにも辿り着けないように見える。今はまだ、だが。

 

「基本プレデター種ディノス。大仰な突進、大振りな尾の攻撃、最大威力の噛みつき。だがどれも遅い。アレキ、お前の戦闘スタイルは速きに重きを置くものだ。振り回されるな。振り回す側にあれ」

 

 フリスへの依存度が高すぎる。

 それはフレシシから齎されたチャルの近況だった。どこへ居ても物憂げな表情で、アレキとの関係は険悪でなくとも良好とはいえないレベル。先ほど俺と邂逅した時もそうだが、アレキを守る、という行動はできていても、そこに恋愛感情は無いように見えた。

 多少の計算違いだ。やはりアレキの最後の悪手があまりにも悪すぎたのだろう。

 この関係を修復するには、アレキを一段階、いや三段階は上へ上げる必要があると判断した。

 よって父ガロウズからアレキに話を持ち掛け、こういう「修行パート」を開始したのだが──。

 

「うっ……この!」

「まただな。アレキ。相手は機奇械怪だ。既存の生物とは違う。ヒトを殺す殺人剣から流用できる技術は何一つないと思え。必要なのはただ、効率的に動力炉を破壊する技術だけだ」

「……効率的に……」

 

 ディノスの噛みつき。

 それを避けたアレキは──けれど、攻撃しない。今の今までだったら、首を狙った一撃を放っていたにもかかわらず、一瞬で"変えた"。

 眉尻が上がるのを感じる。

 

 その後もアレキは攻撃を避け続ける。ゆらゆらと、回避に専念する。

 

「効率的に……」

 

 ふら、と。

 アレキの身体が前方に倒れる。炎天下だ、とうとう獲物の体力が尽きたかとディノスが捕食に入らんとした──その瞬間。

 大きく開けた口を狙い、高速の突きが叩きこまれる。倒れかけた姿勢のまま、体勢を整えることなく踏み込み、一足でそこまで辿り着いたのだ。

 そしてその突きは、的確に動力炉を捉える。最後の力を振り絞ってディノスが顎を閉じんとした頃には離脱している。

 

「なんだ、出来るじゃないか」

「……なんだか、気持ちが悪いです。いえ熱中症とかではなく」

「だろうな。リチュオリアの技とは、罪人を斬るための剣技。罪人を逃がさぬよう足の腱を断ち、罪人が暴れることのできぬよう腕を断ち、動けなくしてから首を断つ。確実に殺すために。だが当然、機奇械怪相手にそんなことをしていても意味はない。奴らは動力炉ある限り無限に動き続けるからな。動けなくする、という事が無理だ」

「リチュオリアの技は、無意味と……?」

「そうは言っておらぬ。動力炉が露出している機奇械怪……ハンター種に多いが、そういうタイプなら動力炉を首と見定め、断ってしまえばいい。要するに、機奇械怪は首を落としても死なぬからリチュオリアの技が活き難い、という話だ」

 

 才媛であり、努力も欠かさぬアレキが英雄足り得ないのは、あくまで対機奇械怪の話だけ。

 齢15でガロウズに圧勝するくらいには、対人性能に特化した存在だ。もし世が世で、対人ばかりの戦争の最中などであればアレキはチャルよりも英雄足り得ただろう。

 英雄にも様々なベクトルがある。アレキは今の世に合っていない、というだけ。

 ならば、変えてやればいい。

 

 先程"変わった"時、それが成せると感じた。

 成程成程、この才は育てる事によって開花する大輪。なればより強きものを、より効率的なものを魅せて、焦がれてもらうのが一番だろう。

 

「ひ、ひぃぃいいいっ!」

「出、出た! 『サイクロン・バード』!!」

 

 盗掘者たちが騒ぐ。

 それはそうだろう。最近になって現れた大型機奇械怪で、最も被害を多く出しているのがコイツだ。盗掘者の何人が死んだか、数えるのも億劫になる。

 

「め、奇械士! アンタら奇械士なんだろ! 助けてく──」

「うむ。助けてやろう」

「れ……え、なんで、これ、手錠……」

「む? あぁ、自己紹介が遅れたな。俺はケルビマ・リチュオリア。政府公認の断罪者だ。盗掘者を保護し、連行する役目を担っている。──死と、投獄。どちらがいいかなど、わかりきっているだろう」

 

 盗掘者の首根を掴み、アレキの方へ投げる。 

 流石に今のアレキには荷が勝る。

 

「アレキ、そいつを捕まえたまま、見ていろ。これが効率というものだ」

「はい──兄上」

 

 特に何か細工しているわけではない刀に手を掛ける。ただ硬いだけの、あまりに硬いだけの刀。切れ味ですらそこまでではない刀。

 俺からの入力はあまりしたくない。だから──フィードバックする間もなく、壊す。

 融合ハンター種サイクロン・バード。全身に嵐が如き暴風を纏い、その身で突撃するだけで全てを切り裂く機奇械怪。

 

 動力炉は背中。翼を広げた時にだけ露出するシリンダー。

 なれば飛んでいる最中こそが隙。突撃時には翼を畳むため、硬い装甲に阻まれる。本来であれば飛んでいる時は地上の生物では攻撃を届かせられないだろうが──まぁ、俺は違う。

 

 助走もろくにせず、跳躍。高い跳躍だ。

 サイクロン・バードを超す程の跳躍は、奴の視覚センサー外にまで達する。この辺りは本来の鳥の方が優れているんだがな、なんて思いつつ──視野角外からの急襲。降り立つのではなく、動力炉のみを斬り落として、地に着地する。

 戦闘時間は四秒に満たない。跳躍して落ちてきたら終わっていた。アレキから見たら、そんな感じだろう。

 

 けれど、現実。

 俺が地に着地した後、ふらふら、ふらりとサイクロン・バードが地に堕ちる。

 その身体に活力は無く。

 その背中にシリンダーはない。当然、俺が持っているから。

 

「……兄上」

「お前には、これくらいできるようになってもらう」

「まず、その異常な跳躍が無理です」

「……ふむ」

 

 まぁ、そうだろう。

 俺は念動力でどうとでもなる上に、しっかり全身に機奇械怪系装備を仕込んでいる。さしもの俺も生身の人間にここまでの跳躍力は要求しない。たとえ英雄でも、それを生身でされたらまずサイキックを疑うし、そうではなかったら人間認定しないまである。

 

 だが、そうだな。

 

「アレキ、お前、機奇械怪を組み込んだ武装は刀だけのようだな」

「ええ、はい」

「何故だ?」

「何故、と言われましても……」

「強くなりたいのだろう。ならばまず装備一式を整える所からだ。人間には限界というものがある。時折それを外す阿呆がいるが、お前はその類ではない。機奇械怪は言わば全身機奇械怪系装備なんだ、刀一本で相手をしよう、という方が傲慢だろう」

「……なる、ほど」

「うむ。ではこれからホワイトダナップに戻り、装備を整えるとしよう。お前の出勤時間も迫っているしな」

 

 これはフリスも気にしていたことだ。アレキにしろチャルにしろ、いいやミディットやクリッスリルグの二人にも言えるが、どうにも装備が薄すぎる。生身と武器一つで戦うのがカッコイイ、とでも思っているのかは知らないが、もっと全身に仕込みやプロテクターを張るべきだ。

 時の英雄たちは皆、身体中に機械を仕込み、生身では到底あり得ない跳躍や攻撃を以て機奇械怪に対峙してきたのだから。古井戸が良い例だな。

 

「兄上、ちなみにどのようにして帰還するのですか?」

「まず、飛行船を呼ぶ」

「おお」

「これは掴まえた盗掘者を引き渡すためだ。ああ、既に呼んであるから安心しろ。もう来る」

 

 言葉が終わるか終わらないかの時点で、通信が入る。

 二、三言メッセージを返して、次に降りてくるのは頑丈なワイヤー付きの服を来た隊員。俺に敬礼を一つして、先程掴まえた盗掘者と、俺が裏で捉まえていた盗掘者三名をワイヤーに括り付ける。救助活動を思わせる連行は、互いがベテランゆえにスムーズに終わる。

 

「……えっと、行ってしまいましたが……私達は?」

「時にアレキ。お前は鉤縄というものを知っているか?」

「え? あ、はい。映画などでよく見る……」

「うむ。かつてはリチュオリアも取り入れていたが、ホワイトダナップに上がる際に捨てられた技の一つだ。俺はそれを、ホワイトダナップから落ちた瞬間、島の基盤底部にひっかけておいた」

「……申し訳ございません。あの時は恐怖とパニックで気付くことなく……。……えっと」

「うむうむ。つまり今、ホワイトダナップからはロープが垂れ下がっている。後はわかるな、アレキ」

「いえわかりません。時に兄上、ホワイトダナップが上空何メートルにあるかご存知でしょうか」

「凡そ十二キロメートルの所だな」

「……登るんですか」

「ああ!」

 

 アレキに足りないものは幾つかある。戦い方、効率化、これから揃える装備一式。

 そして、先天性を覆さんとする血の滲むような努力。

 

「十二キロメートルくらい、ランニングするなら簡単だろう?」

「ランニングするなら簡単ですよ兄上。ランニングなら!」

「登るのも変わらん。もっとも、効率の悪い登り方をすれば無理やもしれん。疲れ果て、地上に落ちるかもしれぬ。良いかアレキ。何事も効率だ。人間関係以外な!」

「……」

「はっはっは、地雷を踏んだな。赦せ」

 

 ということで。

 まずはロープのもとまでダッシュ。そこから気の遠くなるようなロープクライミングだ。

 修行修行!

 休んでいる暇はないぞぉ!

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁ」

「どうだアレキ。十二キロメートルを登り切った感想は」

「二度と……したく、ない、です」

「ふむ? 異なことを言う。俺の仕事を手伝うんだ、毎回落ちるし、毎回登るぞ」

「……」

 

 意外や意外、アレキは俺の速度にちゃんとついてきて登り切った。無論かなり遅めにしてはいたが、それでもロープクライミング初心者だと考えれば相当だ。やはりアレキは学習速度とその記憶能力に長けている。最年少奇械士なだけはある、という事か。

 ちなみに俺は奇械士の資格試験の教本を見て奇械士になるのは嫌だと思った。覚えることが多すぎるし、絶対現役の奇械士でも覚えていないだろう細かいルールが書かれ過ぎている。俺はフリスよりか頭の良い方だが、それでも受けるのは無理だ。

 そう考えるとやはりチャルは凄いし、チャルを受からせたアレキも凄いのだろうな。

 

「さて、息は整ったか、アレキ」

「……はい。問題ありません、兄上」

「なら行くぞ。ああ、といっても行くのは奇械士の調整屋ではないのでな。ほれ、手を貸せ」

「う……その、姫抱きは恥ずかしいのですが」

「なら俵抱きにするか?」

「それはそれで……」

「まだるっこしい奴だな。いいだろう、俺達は兄妹だ。ほら、──よっ」

「きゃ!?」

 

 時間がないと言ってるだろうに。

 アレキの出勤時間である十四時まで三十分を切っているんだ。四の五のうだうだ言ってないで、行動行動!

 

 嫌がった姫抱きにして、またも跳躍する。

 向かう先は南部区画。

 そこから地下へ入り、倉庫区画を抜けた更に先にある──アンダーグラウンド。

 比喩表現でなく、文字通りのアンダーグラウンド。島の最下部……とは行かないが、かなりの下層。

 

 そこまで爆速で行く。

 

「到着だ」

 

 行った。

 

「う……ここ、は」

没落貴族の繫華街(ダウンタウン・オブ・ルイナード)。まぁ、純潔を着飾る者達(ホワイトダナップ)がどれほど白を着飾ろうと、こういう闇は生まれてしまう、という事だ。その是非如何は今はどうでもいい」

 

 南部区画の治安が悪いのは、何も開発が遅れているから、だけではない。

 こういう場所に繋がる"穴"がそこら中にあるためだ。そしてここは無法地帯。平然と飼い慣らされた機奇械怪が売られていたり、武器類防具類があったり、まだ齢十五であるアレキには見せられないオミセも沢山ある。

 その陰鬱とした、暗鬱とした空気のそこをずんずん進んでいく。俺はここ常連だからな、ちょっかいかけてくる奴はいない。

 

「おぉ、ケルビマの旦那! なんだ、今日はえらい別嬪連れて来たなぁ。しかも未成年者! へへ、なんだなんだ、人身売買に興味が出たかァ?」

 

 いた。馬鹿が。

 

「貴様、兄上に対し──」

「アレキ、ここでは身分や格式は存在しない。礼儀はあるがな」

「ヒッヒッヒ、なんだ、怒らせちゃったかぁ、ごめんなぁお嬢ちゃん。あぁそうだ、ホレ、お詫びに飴ちゃんやるからよ、機嫌直してくれねぇか?」

「……わかりました。申し訳ございません。初対面の方に突然殺気を飛ばすなど、無礼を」

「ああ、貰うのは良いが食べるなよ、アレキ。それは媚薬の練り込まれた飴だ」

「びやく……? とは、なんでしょうか、兄上」

 

 おおっと純情少女。

 そうだよなぁ、この歳の頃で、剣に明け暮れたアレキが知っているはずもないか。

 

「ヒッヒヒッ! 食べただけで男が欲しくモガフッ!?」

「違法な薬物が入っている、という事だ」

「なっ……そんなものをお詫びと称して渡したのですか? 兄上、やはりこの男、叩き斬るべきです!」

「それには同意するが、今ではない。ヒースリーフ、俺達は今急いでいる。話なら後にしろ」

「ヒヒヒ……あぁ、邪魔したな、ケルビマの旦那。それと、この貸しは……アンタの"大切なモノ"がわかったって情報でチャラにしてやるよ」

「そうか。ありがたいな。だがあまり踏み込むなよ、ヒースリーフ。俺はそこまで気が長くない」

「ああ、引き際は弁えるさ。……オサフネなら奥にいる。今日は珍しく酒を飲んでねぇからなぁ、マトモな話ができると思うぜ」

「情報感謝しよう。行くぞ、アレキ」

 

 アレキの手を引いて、奥に向かう。

 正直に言えば、ここはあまり好きではない。

 掃き溜めなのだ。「英雄に成れなかった人間」「英雄から取り溢された人間」「才能はあるのにそれを活かせなかった人間」。俺の嫌いなもののオンパレード。先ほどのヒースリーフだって、その情報収集能力は他者に引けを取らない。数分前に起きた事件のあらましの全てを知っている、というくらいには根を這わしている。

 その性格が他者を遠ざけているが、かつては管制区域で働いていた程には有能な人材だったのだ。

 ここはそういう人間が集まっている。

 才を持ち、性格が邪魔をし、持て余し、零し、ドロップアウトした成れの果ての集まり。

 それが没落貴族の繫華街(ダウンタウン・オブ・ルイナード)

 

 だが──だからこそ、表では売られていないものも多く扱われている。

 

「ここだ。オサフネ、いるか」

「……アラ? ケルビマじゃない。久しぶりねぇ、元気してた?」

 

 声を掛けてすぐのこと。

 とても──とても扇情的な格好をした女性が、奥から出てくる。胸元は大きく開いているし、腹部や足のほとんどはシースルー素材によって露出しているに等しい。隠れている部分の方が少ないくらいの、女性。

 

「無論、俺は生まれてこの方病を患った事が無いからな」

「流石ケルビマ、つ・よ・す・ぎ。……それで? アタシの家に女連れてくるなんて、もしかして当てつけ?」

 

 オサフネ・チグサガネ。

 それが本名であるとは思えないが、とかく武器作り、防具作りに長ける他、機奇械怪の構造や転用にも詳しい女性。昔少しだけ機奇械怪について手解きしたのがダメだった。そこからのめり込むように機奇械怪にハマり、今では盗掘者を雇って地上の死んだ機奇械怪を買い漁る始末。俺はそれ取り締まる側なんだがな。

 

 とはいえ腕は超一級だ。奇械士の御用達の店が型にはまった、美しい武器を扱う武具店だとすれば、ここは型をぶん投げて美しさを側溝に捨てて、実用性と奇抜さだけを重視した趣味の店。

 

「妹だ」

「……へぇ、へぇ、へぇ! 妹! アナタ妹がいたのね。そう……そうそうそう。へぇ、言われてみれば、よく似ている……」

「彼女に俺と同じ装備一式を。値が張るとしても問題ない。作ってやってくれ」

「いえ、兄上。これでも私はそれなりに稼いでいて……」

「それはお前の趣味や片恋相手のために使え。なに、俺の金は溜めるだけ溜めて使い道がないのでな。問題は無い」

「……え、なに? ケルビマアナタ……そんな奴だったかしら。昔のアンタはもっとこう……他者に一切の興味が無くて、突っかかってこようものならすべて斬り殺して。そんな、抜身の刃みたいな……」

「妹の前だ。丸くもなる」

「なりすぎよぉ!」

 

 まぁ確かに、フリスから受けた入力が大きすぎた、というのはある。俺の人格が一部変異するレベルで入力を持ってきやがってくれたせいで、周囲の人間にそう指摘されるくらいには変わってしまった。

 記憶。十五年間の、暖かな日常。誰を殺すことも無く、誰と敵対する事も無く、父母に愛され、友を作り友と過ごしフレシシと軽口を叩き、チャルと恋仲となって……ただそれだけの、ゆったりとした日常。

 あるいはあのエンジェルさえ送り込まれてこなければ、未だフリスとして、チャルを奇械士にすることもなく、キューピッドを作り出すこともなく、俺に入力をすることもなく──卒業まで行っていたのだろう。その先も。

 

 それが、思いのほか大きかった。

 別に学校生活くらい何度も体験したことがあるし、友人も、恋人も、数えるのが億劫になる程いた。今回が初めてではない。ただ、十五年のすぐあとだから、こうも影響を受けている。

 ここから一世紀二世紀と経たば、また元の俺に収束するだろう。

 

「……マ、いいケド。で、アナタと同じ装備って言ったかしら」

「そうだ」

「……使いこなせるかはアタシの領分じゃないからいーけど……ごめんなさい、今素材が少し足りないわ」

「何が足りない?」

「装甲系とバネ系、あとピストン系ね」

「了解した。詳細な種別についてはあとで通信端末に送っておいてくれ。……そうだな、三日。三日後に素材を集めてくる。それまで、他に作れるものを作っておいてほしい」

「オッケー。……あ、デザインは女の子用でいいのよね?」

「あまり露出の激しいものにするなよ。余計なシースルー等が入っていたらその場で斬る」

「ハイハイ、シスコンお兄様の逆鱗に触れないよう頑張るわぁ」

 

 それだけ言って、オサフネは店の奥に戻って行った。

 接客のせの字もないのはルイナードじゃ当たり前のことだが、まぁ、彼女にも少しばかり思う所はあるのだろう。

 

「アレキ、では三日後までに、全ての素材を集めるぞ」

「……成程、そのための三日でしたか」

「ああ。だが、とりあえず今日はここで終わりだ。出勤時間に間に合わんだろう」

「はい。……正直、この場については納得のいかない事も多いのですが、……今日という日が私にとって、とてつもない糧になった事は事実です。兄上、深い感謝を。そして、これからもよろしくお願いします」

「うむ。……さて、ここから出る方法はわかるか?」

「わかりません!」

「うむうむ。では送って行こう」

 

 三日間。

 それでどれだけアレキを強くできるか。

 オサフネも言っていたが、俺の使う装備は何よりも使いこなせるかどうかが肝だ。使いこなせなければ──まぁ、アレキはそこまでだった、と。

 それだけだろう。

 

「爆速で行く。舌を噛むなよ」

 

 今度は二分で行った。

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、ケルビマ」

「……人払いはしたのか?」

「はい。恙なく」

 

 アレキを協会に送り届けて、家に戻って。

 出迎えて来た父ガロウズに連れられて、奥の奥の部屋。ガロウズの書斎へ行く。

 

 ここは流石にどの使用人も、家族も来ないからな。

 

「……いや、いや。それで、アレキはどうですか?」

「なんだ、心配か? 人間だ、お前にとっては敵だろう」

「十五年育てた存在ですからね。多少の愛着は湧きますよ」

「そのようなものか」

 

 ──アレキの前でのやり取りからは考えられない、明らかに上下関係の変わった口調。

 それもそのはず。

 

「そうだ、ガロウズ。お前、動力炉は最新のものにしているか?」

「動力炉ですか? はい。素材、形状共に最新の……ああ、いえ、申し訳ございません。最近地上に降りていないので、私が確認した限りの最新を用いております」

「ふむ。少し見せてみろ」

「はい」

 

 ガロウズが衣服をはだけ、その皮膚を破き──金属を露出させる。

 その奥。黄緑色に光る、動力炉。砂時計を思わせる形をしたそれは、生物ではなくオールドフェイスを効率的に使うための形状。

 

「……まぁ、及第点だな」

「ありがとうございます。しかし、どうしてこのタイミングなのでしょうか」

「なに……フリスの元にあったフレシシ。アレがあまりに古い動力炉を使っていたのでな、気になっただけだ」

「あぁ、姉上。……姉上は私の事を記録していないのでしたか」

「フリスもフレシシもお前の存在は知らなかったさ。特にフリスを作った時の開示情報はあまりに少なかったからな。あぁ、フレシシも、フリスの付き人にした時記憶を消去したんだったか」

「失礼を承知で言いますが、相変わらずの不思議生物でございますね、ケルビマ」

「はっはっは、上位者とはそういうものだ。俺もどこまで知ってるかわからん」

 

 俺は上位者だ。

 そしてガロウズは機奇械怪だ。正確には、アレキを産んだアレキの母が死した時、ガロウズも死んだ。その遺体を今のガロウズとして再利用したのが俺だ。ガロウズの脳から吸い出した記憶データをガロウズに模した機奇械怪にインストールし、ガロウズはその自覚部分以外、ガロウズ・リチュオリアの全てを引き継いで機奇械怪になった。

 フレシシと少し違う製法であるのは、単純に記憶というもののデータ化に関する実験において起きた死者だったから、というだけの話。つまりはまぁ、アレキの父母を殺したのは俺、ということにもなろう。だいぶ間接的だが。

 

 ああ、それでも俺はちゃんとアレキの母の息子だ。

 フリスのような拾われ子とは違う。

 

「観測できている限り、ホワイトダナップの英雄は二人。クリッスリルグは二人合わせて一人分。チャルと……そしてまだ見ぬ最強の一人、か」

「アレキは辿り着けそうですか?」

「本人次第だな。欠片程度の才はあるが、今すぐ劇的に、となると難しい。年単位での努力をすれば、というところだ。……だが」

 

 今朝アレキが見せた、"変化"。

 あれは紛れもなく特技……才能に近い何かだ。

 今のアレキでは絶対に英雄にはなれない。あ、絶対は言い過ぎた。99%なれない。

 だが今のアレキを捨て、更に捨て、完全に一新すればあるいは……という可能性を見た。

 

「育てる価値はある、と言ったところだな。……が、問題は」

「恋路、ですね」

「うむ……」

 

 まったく、フリスの時の無計画性には頭を悩まされる。いや俺も特に変わりなく無計画な部分はあるんだが、フリスはそこに悪戯心が加わるからな……。あそこでちゃんと死んで良かったというべきか。

 あの悪戯心に関しては、それこそ平和を十五年間過ごしたがゆえのもの。俺はそうではないからな、リスクヘッジがある程度しっかりしている。

 

 ……そん、な、ことは、ない……かもしれないが。まぁ。まぁまぁ。

 

「そこで、どうだろう、ガロウズ」

「なんですか?」

「チャルをこの屋敷に呼ぶ、というのは。そしてちょっと細工して、最高峰に頑丈な部屋を作って、こう、二人だけ閉じ込めて」

「その部屋、誰が作るのですか?」

「お前以外に誰がいる」

「ですよね……。はぁ、結構大変なんですよ? 使用人やアレキにバレず、屋敷を改造するのって」

「ならば使用人に暇を出せばいい。ああいや、解雇しろ、ということではない。休みを取らせろ。どうせアレキはこれより俺と修行に明け暮れるのだ、屋敷の掃除などお前ひとりで十分だろう」

「掃除までさせるんですか!?」

「……なんだ、嫌ならフレシシでも呼ぶか? あいつはメイドスキルぴか一だぞ」

「いえそれは……姉上に申し訳ないですし」

 

 ガロウズは正式なフレシシの後継機だ。ピオとは違う。

 よって明確に姉という意識があるらしく、加えて迷惑をかけたくない、みたいな意識から、今まで一度も接触してこなかったとか。

 俺としては機奇械怪同士学び合い教え合い高め合ってほしいのだが、確かに絵面として老人と年若いメイドがイチャイチャしているのは思う所がある。

 

「とにかく作っておけ。十日後くらいには呼ぶからな!」

「うわぁ、機奇械怪使いが荒い……。そんなだから願い成就しないんですよ……」

「関係無かろう!」

 

 あの拗れに拗れた関係性。

 俺が爆速でくっつけてやろう……!

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