終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
教団事件。
そも、ホワイトダナップには皇都フレメア時代から引き継がれた宗教が存在している。信仰対象は『空の神フレイメアリス』。とはいえこの神は完全なる偶像……いると信じられ、けれど存在しない架空の神。まぁこの神があるからこそフレメアの民は空に逃げたのだが、昨今。
機奇械怪の方を神と崇める集団が増えてきた。
もっともそんなものは今までの歴史にいくらでもいたし、各国で様々な名や形を取って、大事件や怪事件を引き起こしていた者達もいた。
誘拐事件程度ならば俺達上位者が気にするような話ではない──が。
「……こっちか」
フレシシを誘拐した者達は、フレシシが機奇械怪であることに気付いていなかった。その上で動力液を加工したものでフレシシを浸し、彼女に他の機奇械怪を融合させようとしていた。フレシシの証言によれば、彼らは装置を起動する事で機奇械怪の転移を可能にしていたとのこと。転移だ。
転移装置、というのは中々作るのが難しい。サイキック自体が《茨》に関連する技能であるために、それを理解している必要がある。
教団事件で捕らえられた者達の中に、それらしい知識を持つ者はいなかった。直接脳を確認したから間違いない。
つまり、ただ一人逃げ出した男……教団を作り、人員を集め、従わせ、危機を察して瞬時に逃げた首謀者の男がその知識を持つ者であり、あるいはサイキックを使い得る人物だ。
古来より上位者は人間に接してきた。
その中で幾度か"種"や"毒"を打ち込むことがあった。チャルのように《茨》を《茨》の状態で操った者は一人としていなかったが、"毒"を武器に自爆特攻をしたり、サイキックの断片……微弱な念動力や遠見のような能力を得る者はいた。
それか、と。
生き残り。"種"や"毒"を打ち込まれて尚、生き、子を成し、継承された事で能力となったもの。
それがいるのではないかと──少し、好奇心の昂ぶりがある。
もしそうなら、確実に新たな入力になる。
今までいた断片の能力者たちは、しかし短命であったり身体が弱かったりと、あまり機奇械怪に関わってはくれなかった。
だが今回の首謀者たる男は違う。
積極的に機奇械怪に関わり、人間にも関わり、何かをしようとしている。
動力液を神の髄液などと称し、融合を神の降臨などと言って。
それは確実に、ホワイトダナップへ起こす新たな風だ。
「血痕に弾痕……やはりこの辺りで……む」
今俺は、南部区画を練り歩いている。
時刻は深夜。どうも、何者かが複数人に追われているようなのだ。恐らくは誘拐事件。だが、追われている者が存外の抵抗を見せているのか、痕跡が多く残っている。
飛んでもいいが──さて。
「──いや、迷う意味は無いか」
身勝手なのが俺達だと言われてハッとした。
無論フリスの言葉に惑わされるつもりはないが、どこか人間達に混じり過ぎた事で、セーブをすることを意識しすぎていたらしいのだ。
良いのだった。別に。
どうせ今いる人間なぞ生きて五十年。長くて八十年くらいの命だ。何を目撃された所で構わない。
故に。
「失礼する」
「!?」
騒ぎの元の上空に転移し、落ちながら──斬る。
今まさに、人間にとびかからんとしていた機奇械怪を。
……まったく。フィードバックをしろフィードバックを。何度同じ手で人間に操られる気だ。
「誰だ、てめェ!」
「どっから出てきやがった!」
「ハウンドを正面からぶった切った!? やべぇぞコイツ!」
いつの時代もチンピラというものの吐く言葉は変わらないらしい。
もう少しバリエーションを増やしてくれたら楽しめるものを。
「さて──長い肩書きは持っているが、何、名乗る必要はなかろうさ」
「……何者だ」
「おっと、まさか守った者から名を問われるとはな。はは、成程成程」
成程、誘拐されそうな、されやすそうな雰囲気を纏う女だ。
弱々しいというべきか。まるで幽姫のような、けれどどこか──屍のような。
「そちらこそ名は?」
「貴様が名乗らないのならば、名乗らぬ」
道理だな。
どちらもが怪しいのであれば、そうするのが必然だ。
「まぁ、良い。お前は逃げろ、どこへなりと。こいつらは俺が引き受けよう」
「……何故だ。初対面の者に、何をそこまで」
「うん? あぁ、そうか。いや何、単純なことだ。ただ、単純に──」
刀を抜く。
彫られた家紋はリチュオリアの物。首の断たれた百合の花。
「俺が、罪を断つ者である、というだけの話」
斬る。
機奇械怪は動力炉を、人間は手足の腱を。
十数人と十数体を、一度に。
無論。
俺の身体がどれほど強かろうと、リチュオリアの技にどれほど優れた技があろうと、こんなことはできない。念動力だ。一振りのせん断力を視界に入った全てに適応した。それだけ。
夜ならば問題無かろう。それに、五人くらいまでなら念動力を使わずともできるしな。
「……逃げたか。良い判断だ」
振り返れば、女はいなかった。
逃げろと言ったのだから当然だろう。むしろ居られても困る。俺はこいつらを警察に届けなければならんし。
……ただ、逃げ方が下手だな。
仕方がない。まぁ、アフターケアというものだ。
点々と落ちている血痕。そこから血液や水分を浮かし、分解する。
「では警察へ行く前に、尋問の時間と行こう。──お前たちの本拠地を教えてくれはしないだろうか」
痛みに呻く男衆に問いかけても、返ってくるのは痛みを訴える声ばかり。手足の腱を切った程度で何を言っているんだか。
……まぁ、一人くらい、いいだろう。
「お前にするか。──さて、
「ひ……嫌だ、ぁあ、痛ぇ、痛ぇよ、助けてくれ……」
「そうか。まぁ口は悲鳴を出すのに忙しいだろうからな」
涙を流す男の額。
そこへ、指を突き入れる。
「へぇぁ?」
皮も肉も骨も関係ない。俺の五指はそれらを突き抜けて、男の薄い桃色をした脳を触る。
「お……で、頭、ぇ、あ?」
「ふむ。成程成程」
「どう、なっぺ……ぐ、ぐぃ、が」
読み取っていく。
生体から情報を抜き取る術は有していないので、その脳を機奇械怪に変換して、だが。
創り変える。触れたものを、意のままに。
「ギ──」
「……やはり木端に大した情報は渡されていないか。ご苦労だった、ハルト・イシワダ」
「ァ」
そして変換した機奇械怪を握り潰して壊す。万一外に出られたら入力になってしまうからな。
まぁ、なんだ。
「ひ」
「あぁ、安心しろ。お前たちにまでやるつもりはない。お前たちは捕まり、しっかり罪を償うがいい。それが生き残る術と知れ。そうして己の価値を見出すのだ」
でなければ、居ても居なくとも変わらない者として、価値のないものとして。
そこのソレのように、転がる事になる。
あとは少し殺気を当ててやれば、男たちは呻く事も忘れて気絶した。
まったく、この中にも才ある者はいくらかいるだろうに、勿体の無いことを。
「……しかし」
この人数、どうやって運ぼうか。
ああ、幻聴だが、フリスの「それでよく僕に無計画とか言えるよね」なんて言葉が聞こえてくる。
ええいうるさい。一度にやった方が効率が良いだろう。それだけだ、それだけ。
「フリス。いるなら手伝え」
「いないから手伝わないよ」
仕方がない。
全員抱えていくか……。
12月11日、昼。
鉤縄を登る速度を高めたアレキと共にホワイトダナップに帰ってきてすぐのことだ。
「あ……」
「あ」
ばったりと。
チャル・ランパーロに遭遇した。
──制服の。
「アレキ。体調不良って聞いてたけど、大丈夫?」
「あ、ええ……もう、特には」
「そっか。じゃあ、私帰るから」
学校、か。
フリスの記憶曰く、生徒はまだ三人だけ。つまりフリスとチャルとアレキしか復帰していない状態だった。そのフリスが抜け、アレキが修行で抜けて。
……一人か。それは、うむ。うむ。
「君。ああ、ランパーロさん。少し待ちたまえ」
「はい?」
「あ、兄上?」
チャルを呼び止め、同時、アレキの首根を掴んで前に押す。
残念ながらまだ「例の部屋」は出来ていない。だから「今からウチに来ると良い!!」は使えない。
とはいえ、うむ。
あまりじれじれされるのは好まん。人間関係に効率を持ち込んではいけないというのはわかっているが、進捗がゼロであるなら何をしても問題無かろう。マイナスになるなら閉じ込めて無理矢理回復させればいい。人間というのは窮地において二人きりになると互いに恋愛感情を抱く。それで万事解決だ。
だからここで要素をひとつまみ。
「金をやろう!」
「……えっと」
「兄上、あの……?」
「学業終わりには遊んで帰るものだぞ、ランパーロさん。アレキも仕事を終えたのだ、めいっぱい遊んで来い。そのための金だ」
強引に、二人に金を渡す。
まぁ、ビジネス区画のマンションを一年くらい借りられる量を。クレジットでない方のカードだがな。ホワイトダナップはキャッシュレスだ。
「うむ。うむうむ。──いいか、アレキ。尊き者を守り節制に準ずるのはリチュオリアの務めだが、学生の身分にある内はその限りではない。遊んで来い。良いな!」
「いえちっとも良くは、」
「ではさらばだ!」
ぽーん、と跳躍する。
うむ──やはり恋愛にアクシデントはつきものだ。頑張れ若人恋せよ若人。
人間が生きられる時間は限りなく少ないのだからな!
「……ごめんね、兄は……その、豪快な人で」
「あ、うん……これ、どうしようか」
「その、良ければ全部貰ってくれたら」
「貰えないよ。アレキ、金額見えてる?」
「……何これ」
「ね。でも使わないと使ってないこと見抜かれちゃいそうだし、少しだけ使って、あとは返そっか」
降って湧いた幸運──とは、アレキは思えなかった。
だってどう考えても無理だ。チャルとは関係改善どころか、時間が経つにつれどんどん距離が離れていっている。互いが十二分な力をつけてきている事も原因の一つで、そのせいでシフトが同じになる事が減っている。本来の協会であれば同じコンビをずっと続けさせる、という方針を取って来たのだが、キューピッドの襲撃事件でいくらかの欠けが出てしまい、それの穴埋めに向かう事が多くなっているのだ。
つまり、とかく、とにかく。
話しづらい──。
「じゃ、行こっか、アレキ」
「え」
「え、って。……私と行くの、嫌?」
「嫌じゃないけど……でも」
「いいから。難しい事、今は忘れて……行こう、アレキ」
差し伸べられた手。
アレキは、それを。
「美味しい。これ……クレープ、だっけ」
「え、何その言い方。もしかしてアレキ食べたこと無かった?」
「……その、家ではあまり甘味が出なくて」
「いやお家でクレープ出てくるトコはあんまりない気がするけど……」
北部区画の複合施設。映画館やら博物館やらが集うこの場所に、二人はいた。
施設の中の、フロア全体がゲームセンターになっている階。その隅のベンチ。
そこで、上階のフードコートで購入したクレープを食む二人。
「昔はもっと色々食べれたらしいけど、ダムシュとかジグからの交易が無くなっちゃって、色々減っちゃったんだよね」
「ええ、その辺りは頭に入っているけど……結局魚というものがどういう味なのかはわからないまま、ダムシュは滅びてしまって」
「私は食べたことあるけど……うーん、何味、っていうのがちょっと難しいかも。ぱさぱさしてて、油っぽい感じ?」
「鶏肉……に似ている?」
「ううん、全然」
「じゃあ想像つかない」
ホワイトダナップからは、ゆっくりと物が失われて行っている。
当然だろう。地上に降りることなく航行を続けるホワイトダナップは、食料自給率が著しく低い。少ない貯蓄と下層域の農耕と、合成食糧という栄養のみを重視した味の無い食料でこそ保っていはするが、誰しもが感じていることだろう。
──もしかしたら、もう少しで、とは。
「ほーら、暗い顔しない」
「ぁ……」
「アレキさ。──なんか最近、カッコよくなくなったよね」
ぐっさり。
アレキの胸に、ナイーブな矢印が刺さる。
「前はさ、ほら、前。エンジェルが学校に来た事件。私が奇械士になった事件の時」
「……うん」
「あの時のアレキ、カッコよかったんだよ。颯爽と私の前に現れてくれて、エンジェルを倒して、ドッグスからも守ってくれて」
「う……」
「その時私は、アレキのこと、かっこいいって思ったんだ」
チャルの顔に暗い色は無い。
少し背を仰け反らせ、足をぶらぶらさせながら。
懐かしい話を思い出すように言う。
「今はね、」
「ご──ごめんなさい」
「……」
耐えられなくなって、アレキは言葉を遮ってしまった。
ようやく、吐露してしまった。零してしまった。
「ごめんなさい。……あの時、私は……フリスの、ううん、キューピッドに敵意があり過ぎて……あなたの気持ちを全て無視した。私は……むぐ」
「そういうのが、カッコ悪い」
チャルが、アレキの口を塞ぐ。
人差し指で、とかじゃなく、右の掌で、いっぱいに。
「私ね、フリスのこと。ずっと覚えてる事にしたんだ」
「……」
「彼が仮初の人格でも、ホントは機奇械怪でも、そうじゃなくても。本当のフリスが、私達を憎んでいたんだとしても」
「……
「好きだった。だから──ありがとね、アレキ」
「え……?」
「多分ね、アレキの言う通り、ホントのホントは、私がやんなきゃいけなかった気はしてる。ううん、ホントはね、あったんだよ。デートしてたんだもん。その時言ったよね。アレキと合流して、私、もうわかんなくなっちゃって。フリスが言ったって、アレキに言ったよね。『さぁ、チャル。僕を撃つんだ』って。でも撃てなかった。ホントはね、私がダメなの。あの時私が撃ってれば、アレキが今覚えてる罪悪感なんか無かったはず」
「
そんなのは結果論だ。
それに、そこがあろうがなかろうが、アレキがチャルの心情を蔑ろにした事実は消えない。
「良いから聞いてよ。私だって色々言いたいことあったんだから」
「……うん」
「あのね、アレキ。私、超能力があるんだ」
「……?」
「あはは、いきなりこんなこと言われても意味わかんないよね」
意味が分からなかった。
否、超能力が信じられない、という事は無い。何故なら身内にそれらしき感知ができる人間がいるから。
だけど、それを今言うのが。
アレキは。
「私ね、相手が本当に大切にしているものが何かわかるの。それが見えるし、聞こえる。心が読めるとかじゃないんだけどね。それだけが限定的にわかる」
「……」
「ずーっと、ずーっと。アレキが私を縛って行った時も、ずーっと。アレキが私の事、本当に大切にしてくれてる、って。わかってるよ。アレキは気付いてないかもだけど、ずっと」
目を見て。目の奥を見て。奥の奥。
もっと大事な奥を見て。
チャルは──言う。
「ごめんね。アレキが嫌いになって冷たくしてたとかじゃなくて……私が、上手く話せる気がしなくて。
……三ヶ月も経っちゃって。ずっとずっと、つらかったよね」
謝るべきは。謝罪すべきは。
絶対にチャルではないのに。口を塞がれているから、言葉を発せない。
「最初はカッコよかった。アレキに憧れた。アレキの横に立ちたいって思って、私はオルクスを受け取った。……思えばさ、あの時。フリスが私にオルクスを渡したのは……いずれキューピッドになっちゃう自分を、殺してほしかったんじゃないかなって」
制服を着ていても、奇械士として携帯が許されている武器。オルクス。死を意味する名の銃だと、教えられたそれ。
チャルはホルスターを上からなぞって、言う。言うのだ。
「私はあの時、『フリスが私を大切に想ってくれているってわかるから、撃てない』、って。そう言ったんだ」
思い起こす。
思い返す。
思い出す。
「でも違った。大切に想ってくれているってわかっていたなら、撃つべきだった。大好きだから、大好きなままに。変わってしまう前に。だってそのためにフリスは私にオルクスをくれて、色んな試練を課した。《茨》を抑えてくれたのも、消してくれたのも。少しずつオルクスの機能を教えてくれたのも……ダムシュで、私を殺さずにいてくれたのも」
チャルは、言う。
「それが、ずっと後悔だったの。ずっと、ずぅーっと、心に引っ掛かってた」
生唾を飲み込んだのはアレキ。
「だからもう、無視しない。私は──私に向けられるここを。貴女の心を、無視しない。もう。……ケルビマさんは、それを見抜いていたのかも。ダメだって思ってたから。ずっと。このままじゃダメだ、って。私、気付いてたのに、ずっとずっと無視してた。だから」
掴む。
アレキは、自身の口に手を当てるチャルの手首を。
掴んで──離した。
「今のアレキはカッコ良くないけど──私を大切に想ってくれている、大切な人」
「嫌ね、それ」
「えっ」
「……私、チャルのカッコイイ相棒でありたい」
「それは……無理だよ。だって今のアレキ、カッコ良くないモン。ずっとずっと、私よりキューピッドを優先したから、って。私より自分を優先したから、って。そんなことをずーっとずーっと悩んでるアレキは、カッコ悪い」
「わかった。じゃあ、やめる。……私、あなたの憧れでありたい」
「えー。私はアレキに並びたいし、アレキを守ってあげたい」
「それは無理よ。だってチャル、カッコ良くないもの」
ようやく。
ようやく、互いが互いの目を見た。今までは見られるだけだったアレキが、チャルの目を見て。
「今ね、チャル。私、強くなるために修行してるの。兄う……兄の仕事を手伝って、戦い方も変えて。大型種はまだ相手にしていないからわからないけれど、特異種や融合種の群れくらいなら一人で倒せるようになったんだから」
「あ、それ、私もだよ。地上降りる時はもう一人でも大丈夫だな、って、ケニッヒさんからお墨付きもらったもん」
「……じゃあ、二人いたら」
「うん。無敵だよ」
その時。
チャルの右手首にあった"種"の紋章が、ゆっくりと変容していくのがわかった。光。そして。
「これ……」
「大丈夫? チャル、痛くは……」
「痛みはないよ。……でも、これ」
キョロキョロとチャルが周囲を見る。
その間にも紋章は変化を続け──そして、開花する。"種"が、"華"に。
「フリ──」
「チャル、これ」
「え?」
それは、チャルの右腕を掴んでいたアレキの両腕。
這い寄るように、侵食するように、《茨》の紋様がアレキの腕にも巻き付いて。
"種"を作る。
「……よくわかんないけど」
「ええ、嫌な感じはしない」
「あっ、それ私の言葉なのに」
「これからカッコイイ台詞は全部貰っていくから」
「別に言葉がカッコ良かったって言ってるわけじゃないんだけどなぁ」
二人はようやく、笑い合って。
「ね、チャル」
「なに?」
「兄のお金、もっと使っちゃいましょう。使っていいって言われたんだもの、今日は本気で、めいっぱい遊ぶ」
「……わかった。遊ぼう。ケルビマさんがドン引きするくらい使おう!」
距離が──。
「サービスが過ぎるだろう」
「ええ? あれだけ良い雰囲気だったんだから、何かそれっぽい事が起きないと。演出だよ演出。使い古された手法でもね」
「俺も無計画な自覚はある。二人の距離が戻ってしまった事で、ガロウズに作らせている部屋が無駄になった。無駄にする気はないので二人とも呼びこんで閉じ込めるつもりだが」
「あはは、君ってさ、効率と行動力のお化けだよね」
「そういうお前は無計画と悪戯心の化け物だ。不可視の状態で二人に近づいて《茨》に細工を施すなど、チャルにバレかけていたではないか」
「ああ、あれは肝を冷やしたね。彼女の眼、まだ進化の余地があるんだ。もしかしたら淨眼の域にまでもう成っているのかもしれない」
「……サイキックか」
「うん。僕はもうやる気ないけど、チャルの家系とか洗ってみるのはいいかもね。もしかしたら物凄い英雄とか出てくるかも」
「……まぁ、考えておこう」
それは複合施設の上の会話。
一人と硬貨の会話。
言葉は風に流されて消えていく。
「……終止符は、いつになるか」
「僕はもうすぐだって思ってるよ」
「心にもない事を」
「あはは」
上位者たちは。