終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
此度12月12日。
アレキのための装備をオサフネから受け取ったのだが、当のアレキが島外作業員として地上に降りる日であったため、修行もそこそこにそちらに注力してもらった。
一日暇になった。
だから誘拐組織を潰すことにした。うむ。
子供の姿をした機奇械怪、あるいは機奇械怪を体に取り込んだ子供、というのも気になりはする。だが、目撃箇所を何度か当たってみてもそれらしい影や痕跡は見つからなかった。代わりにいたのがチンピラ一同。ご丁寧に機奇械怪を従えたそいつらを捕まえ、何度も何度も尋問した──が、思うような情報は入らず。
さしもの俺も苛立ちが募る。というより、こんな木端を相手にしていても効率が悪い。
こういうのは大本を叩くべきだ。ゆえに。
「ここか」
降り立つは、北部区画のあるビル。その屋上。
やった事は簡単だ。操られている機奇械怪から、オーダー種の発する信号を逆探知した。それだけの事。
特にフェイクもなく発せられていたソレは、このビルの最上階付近を指し示していた。
屋上に剣を突き立て──斬る。
なに、後で直せばいい。その思いで最上階に降りれば──暗い部屋に出た。
「……何者かね」
「ケルビマ・リチュオリア。政府公認の断罪者だ。数多の誘拐、民間人に機奇械怪を掛け合わせる非道、その成果物による破壊活動。その他諸々の容疑でお前を捕縛する」
「知らない名だな。しかし、成程。政府の狗か」
「お前の名を聞いておこう。いずれわかる事だが」
「クク──」
突然、ライトアップされる。
別に目が眩んだりはしない。眩むこともできるが、まぁ問題ないだろう。
そして同時、ライトの横に数十人の人影。それらが持つのは銃器。……質はあまり良くないが、フルオートか。
「ククク! 気付かなかったようだな……貴様は誘い込まれたのだ!」
「何?」
「そろそろだ、とは思っていた。これほど被害を出せば、オーダー種の信号を逆探知してここを突き止める者が現れるだろう、と。まさかそれが断罪者などという眉唾な存在だとは思わなかったが、問題は無い。貴様を殺し、その後に来る者達も殺す。残念だったなリチュなんとか! ここに誘拐した者達はいない!」
いや。
いる。
階下か。誘拐された数とは合わないが、少数いる。俺の感知範囲はフリスより狭いが、まぁこのビルくらいなら問題ない。
「さぁ機奇械怪達よ! この愚かな男を食い殺せ!」
「俺は名を聞いたのだがな」
「ぇはへ?」
一足のもと距離を詰め、男の頭蓋に手を入れる。
……やはりか。口調は似ているが、コイツは教団事件の首謀者ではない。フレシシから提供されたデータと一致する部分は口調と背丈だけ。おそらくコイツは捨て駒で影武者。あるいは自分が"そう"だと思い込まされた哀れな存在と見た。
だが……少しは物を知っているらしい。
ハンター種が体に噛みついてくるが、当然牙は通らない。コイツがいるからか、銃は撃たれず、携行していたらしい警棒等で人間が殴って来るが、当然。殴った物の方が拉げたり、折れたりする。
名乗ったのは悪手だったか。この者達全員の脳を潰す手間が増えた。
「お前に命を出したのは、ストーンヘイズ……思い切り偽名だな。顔も仮面をつけていてわからなかった、と。人並外れた走力、跳躍力。機奇械怪を一人で制圧し得る戦闘能力。様々な分野に精通する知性に──ド、が付くほどの変態。間違いないな」
「ァ、ガ」
機奇械怪化したその脳を握り潰して捨てる。恐れおののき、腰を砕かせた男らも同じだ。
操られていたハンター種からは動力炉を抜いて放置。
階下へ下れば、フリスの記憶にある南部区画の雑居ビルを思わせる、あの地下を思い起こさせる間取りの牢だらけのフロアに。
そこに、やはり衣服を纏わぬ男女が複数名入れられていた。
そして。
「成程成程。基本オーダー種『ビーハイブ』。発信源はお前か」
牢の中心部に縛りつけられたオーダー種。その動力炉も取る。これでもう大丈夫だろう、と思わせるところまでが作戦なのだろう。こいつのシグナルはそこまで遠くまで飛ばせない。置くなら政府塔でなければだめだ。北部区画のビルにあったら、南部区画や西部区画にまで届ける事は出来ない。フリスやフレシシの襲われた場所まで遠すぎる。
だから、今口にしたのはフェイクだ。
どうせどこかに盗聴器が……ああ、やはりか。
ストーンヘイズとやらは随分と手の込んだ遊びが好きらしい。
「あぁ、安心しろ。警察を呼んである。お前たちは直に保護される」
「──あの」
「うむ?」
声。
……それは、奥の檻。誰しもが猿轡を噛まされている中で、ただ一人そうされていない者からの声。
少女だ。他に同年代の子供もいるというのに、なぜか一人隔離された少女。歳の頃はアレキと同じくらいだから、少女というには少しばかり大きいが。
「なんだ」
「警察は、ダメなんです。私を保護してください、お兄さん」
「……」
警察がダメ、というのは。
なんだ? 何か犯罪を犯しているのか、この少女は。
「私は……人間を食べるので、捕まってしまいます」
「そうか」
「あの! そうか。じゃなくて!」
「生憎だがな、俺に子供を拾う趣味はない。お前の事情は理解した。機奇械怪を融かされているな。だから有機生命を食わないと生命維持ができない」
「あ、は、はい。正解です」
「そして、そうである者に対し、俺は優しくない」
何故ならこの少女、機奇械怪と融合した者らしく、子供にしてはかなり強い力を揮えるだろうことが伺えるのだ。
こんな檻程度、簡単に破ってしまえるくらいには。
それをしないのには理由があるだろう。また、むざむざ捕まっていた事にも。
「そんな……」
「大人しく警察に保護されるか、自力で牢を出るか。地上に行けばお前の匂いにアテられ、多くの機奇械怪が寄って来るだろう。返り討ちにして動力炉を奪えば、中の生命を奪い得る。それで生きて行けばいい」
「む、無理です。私、戦えない」
「ならば死ね。そうすれば人も食わずに済む」
ああ、嫌いだ。
特異な身体になったのなら、機奇械怪への入力を行え。戦う術を得たのなら、是が非でも鍛え上げろ。無理だのなんだのと言い訳をするな。襤褸切れを一枚纏って戦え。それだけでいい。人間相手でも機奇械怪相手でも、戦って戦って戦い続けろ。
それ以外に貴様の価値を示すものはないぞ、凡人。
「ま、待って!」
硬質な音。
それは檻が噛み千切られた音。
ほら、やはり出られる。何を思ってそこにいたのか。あぁ、待っていれば餌が貰えるからか?
「戦います、だから!」
「煩わしいな。これでお前は一人で生きられると証明した。それでいいだろう」
「む、無理、なのに」
「おおい、この中に! ダッグズ・リフレエンドの名に聞き覚えがある者はいるか!」
俺とフリスの違いは、量産型の英雄に目を向けるかどうかだが。
俺とフリスの同じところは、というか上位者として嫌っているものは、同じだ。
凡人、凡夫。才の無いもの。向上心の無い者。
英雄にならん存在に向ける目など存在しない。可能性があれば見はするがな。
「反応は四人。……一人足りんな。別の場所に捕らえられているか」
依頼を引き受けたのだ。
それを反故にすることはない。ダッグズをルイナードに陥れた女五人の救出。もうすぐ警察が来るとは言え、今反応した四人だけは先に救出しておくべきだろう。何があるかわからんからな。
「──ぁ」
牢を開ける。
まったく、裸に剥いたのなら毛布くらい置いておけ。人間は冷えると風邪を引くものだろう。それくらいはわかるぞ、俺も。
「お腹──空いちゃった」
「そうか」
突如物凄い速度で牢へ飛び込んできた少女。その大きく開いた口に、指を突っ込む。
閉じられる顎。重さで言えばトンを超える圧力は、しかし俺の指へ傷一つ付ける事は無い。
「あぐ──がぐ──」
「……融合プレデター種アリゲーター。融合個所は口から胃、他内臓近辺。さらに浸食がすすんで四肢か。……成程成程、一人で閉じ込められているわけだ」
「か……め、
その時、俺の脳裏に電流走る。
……此奴、使えるんじゃないか?
今はいないが、脳内で幻聴フリスが「良いと思うよ」なんて言ってくる。「僕らが作ったわけじゃない人型の機奇械怪。十分にオールドフェイスを与えておけば食人に走る事は少ないだろう。内臓が機奇械怪だと中々バレ難いし、送り込むには十分な人材だ」と。余計なことまで言うな。
ふむ。
英雄的な価値はゼロに等しい。だが、実験材料としては良いな。
「……いいだろう、連れ帰ってやる。だが、俺の言う事を聞いてもらうぞ」
「え──ぁ、はひ」
「それと、そことそことそことそこの女。こっちへ来い」
ダッグズの名に反応した女を集める。
素直に従って此方へ来た四人。
外見的特徴は一致する。何も知らないのに助かりたくて反応しただけ、の者ではないようだ。
「あぁ衣服の類も必要か。……ふむ」
このままフラッシュバンからの転移、も考えたが、それをすると白昼堂々俺が裸の女四人と裸の少女一人を連れて歩く者になる。身勝手に振る舞う事を思い出したとはいえ、人間社会にもう少し馴染むなら流石に必要なものがあるだろう。
さて、どうするか。
転移でどこぞのブティックから服を持ってくる……は、無しだ。罪を取り締まる側の俺が窃盗など。それに、ブティックなど立ち寄らんゆえどこにあるかわからん。
ならば作り出すのはどうだ。……なしだ。目撃者が多すぎる。ここにいる全員の脳を、となると面倒が過ぎる。
では機奇械怪化する……論外。
「──やぁ、お困りのようだったから、貸しを作りに来たよ」
「俺がお前を嫌う理由がここに詰まっている」
「あはは、それはどうも。大人四人、子供一人分の衣服だね?」
「……盗むなよ」
「借りるだけさ。罪悪感を覚えるのなら、後で君が支払いに行けばいい」
赤雷が走る。
思わずため息を吐いて、その転移光が収まるのを待つ。
概念のフリス。その声は人間達に届いてはいないだろう。だから、俺が突然虚空に向かって話し出したように見えたはずだ。そこはまぁ、どうでもいい。
……結局盗みか。全く、こういう時いうほど万能ではない自分たちが嫌になるな。上位者と言えど、無から有は、というか専門外の衣服は作り出せん。
「ふ
「そうだ。お前たちも着ろ。お前もだ」
未だ俺の指を噛む少女を前に突き出す。
すると、女四人が肩を震わせて退いた。
……成程、既にここの人間達の前で何人か食っているか。まったく、面倒な事をする。
「飲め」
「えっ……うっ!?」
噛まれている方の手に生成したオールドフェイスを、そのまま少女の喉に突っ込む。
プレデター種だ。喉につっかえることはないだろう。
そして、転移し終わった子供用の衣服だけを持ち、少女の方へ放る。
「着ろ」
「……美味しい!」
「そうか」
ああ──苛立ちが募る。
せめてルイナードにいたい。あそこは放棄されたとはいえ才ある者達で溢れている。
こんな凡夫は一人としていない。
……フリスのように、凡夫と日常的に接しているわけではないからな。
俺は短気だぞ。
「着たな。ならば、飛ぶ」
今度こそフラッシュバンを取り出し、発動させる。失明するような光量ではない。だが確実に、この暗い室内においては数分は前が見えなくなるだろう光。
その隙に転移だ転移。
場所は、南部区画。
かつて教団のあった場所。あそこはまだKEEP OUT、立ち入り禁止のテープが貼られていて、誰も入ってこないからな。
そこからルイナードに入ってダッグズへ報告を入れるか。否、五人目を見つけてからの方が良いか? 恐らく、というか確実にこのビルは本拠地ではない。そこを潰してからの方が……いや、だが、アレキの修行やチャルとアレキを強制的に近づける作戦もあるし、この材料をある程度にまで育てる必要もある。
……本当に。
やることの多い世の中だ。
フリスに言わせるなら、悪くはない。忙しいのは悪くない。
結局、保護した女たちはダッグズに引き合わせた。
が、互いに特に何を言うわけでもなく解散。彼女らは自らの家に帰る次第となる。残念ながら俺には「一部の記憶を消す」というような器用な事はできないため、口止めをして終わりだ。ペラペラと話されたらそれで終わりだろう。名は名乗っていないので、眉唾物として扱われるかもしれないが。
ダッグズから最後の一人、マキヨ、という女性についての捜索を深く願われた。ああ、一度受けた依頼なんだ、忘れはしない。
そういう事があっての──今。
「奇械士、ですか?」
「そうだ。お前にはそれになってもらう」
「でも……私は」
「問題ない。一日にオールドフェイスを三枚支給する。それで稼働に支障はない」
少女。
名を、アスカルティン・メクロヘリというらしい少女。普通に家族もいるとのことで、親元に返すことも考えた──が、当の本人が拒否したため廃案。
ただ一つ問題があった。
「姉が奇械士を?」
「はい」
「……ふむ」
それは、うむ。
面倒だな。やはり処分するか?
──等と考えていたら、また面倒なのがニヤニヤしながらやってくる気配がしたので、その浮いたオールドフェイスを思い切り指で弾く。
肉体に依らない俺達とはいえ、依り代が飛んでいけばそれに追従せざるを得ない。
どうせすぐ帰って来るだろうが、時間稼ぎにはなっただろう。
「声と面を変えればいい」
「……わかりました。けど、なんで、奇械士にならないとなんですか?」
「言ったはずだ。機奇械怪はそれぞれに動力炉を持つ。稼働中の機奇械怪はその動力炉に消費しかけの有機生命を有している。お前が生きた人間を食いたくないというのなら、そしてオールドフェイスだけでは味気ないというのなら、それを食えばいい。奇械士が機奇械怪の弱点たる動力炉を奪わんとするのは特に変わった行動ではないからな、怪しまれもしない」
「おおー」
「身分は政府に用意させる。それまでにある程度お前を戦えるようにする。いいな」
「わかりました!」
……返事だけは立派じゃないか。
才の無い者は嫌いだが、やる気も才の一つだ。英雄に成れるとは到底思えんが、実験材料としての価値を俺に示し続けてくれることを願う。
そして入力をしろ。俺もフリスも、上位者の思いつかない特異な入力を。機奇械怪を進化に導く入力を。
「それで、私は何をすれば?」
「まず、お前がどれほど戦えるのかを試す。地上に降りた経験は?」
「ありません!」
「そうか。機奇械怪との戦闘経験は?」
「ないです! 人間は七人食べました!」
「そうか」
プレデター種なら納得だが、同時にプレデター種だというのなら本当に食したいのは機奇械怪だろう。
まずコイツを地上に降ろし、戦わせてみるのが一番か。
……となると、アレキの修行をずらして……いや、アレキの方が優先度は高い。……時間を、ううむ、だがダッグズの依頼も……。
ふむ。
「夜の南部区画を一人で歩いてみろ」
「はい! ……え?」
「あそこは今無法地帯に近い。子供が一人でいれば、お前を攫った組織が必ず狙いに来る。奴らは機奇械怪を複数従えている。返り討ちにして来い。目撃者を出さないのなら、襲ってきた奴らを食うのも構わん」
「……わかりました」
「なんだ、嫌そうだな」
「一応、トラウマが」
「知らんな。お前は言ったはずだ。『戦います』と。安心しろ、俺の見立て通りなら、お前のスペックはハウンドに劣る事は無い。どころか地上の特異種くらいの性能はある。技術など要らん。本能のままに戦え」
「……わかりました!」
よし。
これで、ついでに機奇械怪を取り込んだ子供、とかいうのも見つけられる可能性が高まる。
……まさにアスカルティンが機奇械怪を取り込んだ子供であるのだが。
「夜になるまで待機だ。俺は行くところがある」
「はい!」
ここは俺のセーフハウスの一つ。リチュオリアの家には流石に置けん。アレキが帰ってくるからな。
成程成程、確かにあのような凡夫と日常的に接していたら、あんな温厚にもなる。フリスの残虐性は、フリス・クリッスリルグになってかなり薄まっていた方だ。死んで蘇ったが。
……死して尚、チャル・ランパーロに執着するのは……あるいは、本当に何かあるのやもしれんが。
俺には関係のない事、か。
チャル・ランパーロに見合うよう、アレキを育て上げる。それだけでいい。アスカルティンも、とっとと奇械士協会に送り込んで……送り込んで。
そういえば、愛を覚えさせる、んだったか。……なんとかなるだろう。
幻聴が言う。「君、ホントによく僕の事無計画だって言えるよね」。うるさいわ。
「……申し訳ありません、兄上」
「調子に乗ったな」
「はい。……見たことの無い種の大型機奇械怪を前に、突っ込み過ぎました。チャルが止めてくれていたにもかかわらず……私は」
アレキが怪我をして帰って来た。
思わず出そうになる溜め息を隠す。まぁ、天才型の英雄と違い、アレキは努力型。そういうこともあるだろう。むしろ奇械士になってからずっと無傷だ、などという者の方が異常だ。
だが……。
「足の骨か」
「……はい」
「これでは修行は無理だな。流石の俺も、この怪我を押して戦え、とは言わん。安静にしていろ」
「……申し訳ありません」
腕なら、片腕で戦え、と言っていたんだがな。
足は無理だ。人間は移動や攻撃の大半を足に頼っている。
これは、予定が崩れるな。
「ああ、今日オサフネの所からお前の装備一式を取って来た。中々の出来だった。これを着たくば、安静を守り、早く治せ。良いな?」
「はい。ありがとうございます」
「うむ」
原因はどう考えても昨日の会話だ。チャル・ランパーロとアレキが親密に戻った時の、「二人なら無敵」などという言葉。アレで調子に乗ったのだろう。
あまり失望させてくれるな、とは……まぁ、思わない。
少しだけ良い事があったからな。それで帳消しだ。
使用人に暇を出しているため、アレキの看病はガロウズに任せ、俺は夜のホワイトダナップを飛んでいく。
「やぁ、今日は良い日だね、ケルビマ」
「俺も機嫌が良い。弾き飛ばさずにいてやる」
「あはは、すっかり疫病神扱いだ」
「自業自得だ」
フリスも機嫌がいい。
それはそうだろう。
「新種の機奇械怪。それも
「うん。凡そ七年ぶりかな」
「そんなに経つか」
そう、アレキが怪我をした敵。新種の機奇械怪。
これは非常に喜ばしいものだった。
というのも、既に機奇械怪というのは「強い型」「効率の良い型」というのが定まりつつあるのだ。基本的に自己改造によって自身の姿を変えていく機奇械怪だが、ハンター種、プラント種、プレデター種、オーダー種、サイキック種それぞれの最強とされる型が。
自身より効率の良い型に出会えば、それを己にフィードバックする。相手が機奇械怪だろうと奇械士だろうとそれは変わらない。最も有機生命を食しやすい形に、最も敵を殺しやすい形に。同じ形の機奇械怪が多いのはそれが理由だし、特異種や融合種になっても形を変えない種がいるのも同じ理由だ。
そうして高効率のカタチになった機奇械怪が融合しても、結局同じものにしかならない。それは大型機奇械怪にしても同じ。
ライブラリ、などというものに全てを記載しきれるのは、案外種別が少ないからに他ならない。
それが今日、新種が出た、と。
「ダムシュを滅ぼした種もまだわかっていないし、エンジェルを送り込んできたのが誰なのかもわかっていない。その上でまた新しい機奇械怪だ。チャルが奇械士になってから、立て続けにわからないことが起きている」
「チャル・ランパーロのおかげ、だと言いたいのか?」
「全てじゃないよ。ダムシュが滅んだのはチャルが奇械士になる前だし。でも、感じるんだ。時代のうねり。大きな波を。彼女を中心に世界は動き──その余波は機奇械怪をも変える。343年。ううん、なんならその前の時代でやっていた事を全て『無駄だった』と吐き捨てられるくらいの大渦。それが彼女を中心に渦巻いている」
「……執心が過ぎるようにしか見えんがな。色眼鏡がチャル・ランパーロを英雄視させている。そう聞こえるぞ」
「あはは、それはいいね。僕もチャルに振り回されるというのも悪くはない」
俺達の今までを全て「無駄だった」と吐き捨てられる程の価値。
そんなものが、あの少女にある、と。
あの少女のおかげで、新種が出た、と。
……凡夫の発言であれば馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるんだがな。
コイツはコイツで、俺とは違う感覚を持つ上位者だ。根本が同じとはいえ、枝分かれした先が違えばやはりそれは違うもので。
「羨ましくはある」
「アレキとアスカルティンじゃ不満かい?」
「不満だな。もっと、目を焼かれるような英雄に俺も出会ってみたいものだ」
「それにしてはルイナードへ懇意に通っているじゃないか。あそこには目を焼かれるような英雄がいないってわかりきっているのに」
「……学校生活以上には、いるだろうさ」
「あはは、やっぱり君はまだ稼働から日が経っていないんだね。わかりやすい」
つまり幼い、と言われた事に、少しだけむっとする。
確かにフリスの方が稼働歴は長い。当然だ、俺はリチュオリア。アレキと同じ母を持ち、母の腹から生まれたのだから。
年齢としてはそこまでのものを持っていない。
だが、それだけだ。上位者として──。
「感情は魂だけに宿るものじゃあないよ。肉体にも蓄積する。君に足りないのは経験だ。凡夫を嫌って俗世を離れる気持ちはわかるけれど、『それも悪くはない』の精神で凡人の世界に足を踏み入れるのも中々乙なもんだよ。それを無駄だと切り捨てている内は、理解なんて及ぶはずが無いからね」
「……考えておく」
「うん、年上からの忠告を無下にしないのは、君の美徳かもしれない」
それだけ言って、フリスは消える。
……全く。
凡夫に混じる、か。
まぁ……いつか、だな。
「全部食べました!」
「そうか。……アスカルティン。明日より時間ができた。地上で修行をするぞ」
「はい!」
あるいはこの才なき者も、その渦の一部に。
……難儀な話だな、それは。
「褒美のオールドフェイスだ。食っておけ」
「ありがとうございます!」
ともあれ、実験だ。
折角新種が出たのだから、この流れを掴みたいものだな。