終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
さて──当然だが、リチュオリアの本館にもフレメアの城跡にも『歴史の真実の記された禁書』など存在しない。
アレキとチャル・ランパーロに語った話は純度100%の嘘だ。原初の五機や年は本当だが。
オルクスはエンジェル襲来事件において、フリスがその場で作った銃。原初の五機に対抗するために作られたものなどではない。
無いが、そういうのがあと四つあるのは「面白い」と判断した。
よって、急遽"そうだったこと"にするための歴史作りを始めることにした次第だ。
「……あなた方は、本当に……なんというか、凄いのか阿呆なのかわからなくなりますね」
「あの、私まだ混乱してるんですけど。なんですか妹機って。なんでこんなお爺ちゃんの見た目なんですか」
「おお、姉上。中々にひどい事をおっしゃる。これでも儂は14歳。ピチピチですよ?」
「うわぁ、今ゾゾゾッてきました機奇械怪なのに」
うむ。
歴史作りのために招集したのはフレシシ。ガロウズはフレシシの後継機だが、使っている部品が違うのと得意とする分野も違うため、俺がアレキやアスカルティンに構っている間は二人に連携して歴史作りをしてもらうことにしたのだ。
フレシシはサイキック種の色が強く出ているために、念動力での土木作業。
ガロウズはオーダー種の色が強く出ているために、周辺の機奇械怪を遠ざけたり、あるいは手伝わせたりする現場監督。
各々が役割分担をして、元皇都フレメアに「謎の痕跡」を残してもらう。
「はぁ。まぁ、わかりました。フリスも噛んでるみたいですし、私は逆らいませんけど……。それで、具体的に何を作ればいいんですか?」
「任せる」
「はい?」
「む? 任せる、と言ったのだ。いいか、あのフリスが自身に文才の類は無いと言い切っているんだ。俺にあると思うか?」
「ケルビマ様に文才があるならあの二人の恋路はもっとうまく行っていたでしょうな」
「アレはお前が自白剤なんてものを使ったのが悪いだろう!」
「おやおや、責任転嫁ですよケルビマ様。あの二人はその前日時点で既に仲直りしていた。それをわざわざ閉じ込めると言ったのはあなたです」
「なにおう!? それは、お前が折角作ってくれた部屋を無駄にしないための俺の配慮だろうが!」
「儂のせいだとでも言うんですか?」
「──いや俺のせいだが。ああ、そうだな。一度下げた頭を上げる程俺は腐っていない。だが納得もいかん。お前も謝ってこいガロウズ」
「嫌です」
ぽかーん、としているフレシシを余所にいつものじゃれ合いをすれば、流石に見兼ねたのだろう、俺の懐からオールドフェイスが一枚出てきた。
そしてそれは周囲から機奇械怪の残骸を集め──球体にレンズの一つ付いたような形の機械となる。
「フレシシ。ケルビマの様子に驚いたかい?」
「あ、その厭らしい口調はフリス! 自分で動けるんですね」
「うんうん、君、僕がいなくなってから一段と僕に敵意を向けるようになったね。良い事だと思うよ」
浮遊する鉄くずの寄せ集めが喋る。
機奇械怪を作り出している側から言うのはおかしな話だと自覚しているが、酷くシュールな光景だ。まぁ創造物であるフレシシと同じくフリスは念動力に長けているからな。こういう事は得意中の得意だろう。
あぁ、だからと言ってアレだ。ガロウズがオーダー種寄りだからと言って、俺からオーダー信号が出せる、という事は無い。認識コードは使えるが、それはただの上位者権限だしな。
ガロウズがオーダー種寄りなのは、奴の元となったガロウズ・リチュオリアを殺した機奇械怪がオーダー種だったから、というだけだ。実験の最中に死んだガロウズ・リチュオリアとアレキの母。そしてそのオーダー種も死にかけていたので、合わせた。それだけ。
「さて、この説明下手な効率馬鹿に代わって僕から正式な依頼を伝えよう。君達に作って欲しいのは、『ここ皇都フレメアでは秘されていた真実があった』風な痕跡だ。具体的にはただの民家の下に隠し階段隠し部屋とか、聖堂の主祭壇の裏に地下へ続く階段とか、鍵穴の無い鉄扉、力づくで開けたらそこには頑強なケースに入れられた禁書……とかね」
「あー。フリスの好きそうな設定ですねぇ」
「そして、場所自体は君達に任せるけれど、絶対に置いておいて欲しいものが二つ。一つは今言った禁書。これは歴史の真実の記された書、という奴だ。これは僕が書いておいた」
フレシシの手元に赤雷が走り、ぽふ、と本が落ちる。
古びた本。装丁も所々がボロボロになっているし、表紙に書かれた題名は当時のフレメアで使われていた言葉ですらない、聖都アクルマキアンの最高司祭の一部くらいしか知らないだろう、空の神フレイメアリスに纏わる神話に登場する神語。誰が読み解けるんだアレ。
中身は一応古語の類だが、まぁ読めない事は無い、くらいにはなっているらしい。
「珍しい。フリスの準備が良いとか、明日は槍が降りますよ」
「姉上、槍程度なら簡単に降らせられるのでは?」
「その姉上呼びやめてくれませんか? 見た目と合わな過ぎて。普通にフレシシでいいですよ、ガロウズ」
「わかりました、フレシシ姉上」
「……性格悪」
鏡に向かって悪態を吐いている機奇械怪はともかく、長話になりそうなのでフリスに先を促す。
俺は午後から普通に仕事があるんだ。簡潔に終わらせろ簡潔に。
「うんうん、良い視線だ。じゃ────ゆ────った────り────しゃべろ────か」
「叩き斬られたいのか?」
「斬れるのかい?」
「……ふん。今の俺には無理だな。制限がある」
「だねぇ。それじゃあまぁさっさと話を進めよう。置いてほしいもの一つはこの歴史本。そしてもう一つは」
またも走るは赤雷。今度はガロウズの手元に。
転移光が消えたそこには──鞘に納められた長刀の姿が。
「それはテルミヌス。念動力を切り裂ける刀だ」
「……人間側が過剰戦力にならないか?」
「あはは、大丈夫だよ。むしろそうでなければ困る。今の機奇械怪は恐怖を知らないからね。絶対的な力は油断を招き、慢心を覚えさせ、危機を忘れさせる。ハンター種が当たり前のように持っている回避本能を、サイキック種が有していない……なんてことがザラにある。それは避ける必要が無い、念動力でどうにかすればいいと思っている証拠だ」
「事実だろう」
「うん、事実だよ。だからダメなんだ。人間が短期間で進化するのは、どんな時でも追い込まれたから、という理由だ。それは生命の危機だったり、精神的にだったり、周囲から置いて行かれるという恐怖であったりと様々だけど、決まって恐ろしいと感じた時にこそ彼らは目覚ましい進化を遂げる。機奇械怪に必要なのはソレだと思うんだよね、僕は」
「……まぁ、一理はあるな。それこそフレシシが良い例か」
「え、今私に話振るんですか? 明らかに一般機奇械怪が絡んじゃないけない話な気がしてたんで外部情報シャットアウトしてたんですけど」
確かに、フレシシは変わった。
フリスの記憶にある限りのフレシシはもう少し従順だった。恐ろしさに囚われ、絡めとられ、ゆえに軽口こそ叩けど、絶対服従の姿勢だった。
それがこうも……なんというか、生意気になるのを見ると。
恐怖が機奇械怪を変える、というのは、正しく聞こえてくる。
「ああ、勿論愛も良いアプローチだ。アスカルティンについては君に一任しているから止めはしないし否定もしないよ。それこそピオという好例がいるしね」
「では、ケルビマ様は愛で、フリス様は恐怖でそれぞれアプローチをしていく、と」
「いいね、ガロウズ。君は詩的だ。それじゃあ現場監督だけじゃつまらないだろう君に、チャル達が訪れ調査するだろう場所に何か『詩的で謎めいた文章』を残すことを許すよ。頑張って欲しいかな」
「……眠れる獅子を起こしましたか」
「ガロウズ、ダメですよ。フリスは悪戯好きなんですから、欠片でもやる気を見せると無茶振りされます。今度から気を付けるように」
「あはは、流石だねフレシシ。君も新しい仕事が欲しいと見たけど、どうかな」
「嫌です」
「うん、じゃあ君は、城跡付近に巨大な破壊痕を作っておいてほしいかな。こう、巨大なマンティスの鎌が通った、みたいな痕を」
「姉上、フリス様の扱いには慣れているという風でしたが」
「慣れてたらこんな苦労してないですよぉ」
うむ。
姉妹機が仲良くしているのは良き事だ。これを機に互いに高め合ってほしい所だ──が。
「すまんが、時間だ。俺は仕事に戻る。なに、猶予は一か月もある。この何もない地をどう飾るかはお前たちの自由だが、期待はしている。では任せたぞ」
「頑張ってね。僕も楽しみだから見ないでおくよ~」
「うわぁ、マジの丸投げですねぇ。ガロウズ、良いんですよ。ああいうの見て『最悪ですね』って言って」
「いつも言ってます」
──それが、ひと月前の話。
現在。
トクステスとランプリーを倒した
恐らくアスカルティンに「どこへ行くのか」を問われ、上手い答えが出せなかったのだろう。それが結局同行を許すことになった、と。
「いやぁ、ケルビマ。中々凄いのを育てたね」
「アレキのことか。ふん、奴自体はほぼ変わっておらん。オサフネの技術が凄いだけだ」
「いやいや、アスカルティンのことだよ。シーロンス、でもいいけど」
……またか。
こう、価値観の相違が、結構激しい。それこそチャル・ランパーロに言われた通り、「果てしなく気が合わない」とは之このことなのだろう。言い当てられたときは思わず柄にもない爆笑をしてしまったものだ。
「アスカルティンは、お前から見て"英雄価値"があるか?」
「まぁ、君の好きな『武人的』や『生き汚くも歩き続ける』タイプの英雄ではないのは確かだよ。けど彼女は十二分に英雄だ。だって凄いと思わないかい? 姉が血眼になって探してくれている。誘拐された自分を、ずっとずっと。だというのに、その彼女の前で平然と彼女を『姉』と呼び、口調も隠さず暴れまわって、挙句優先するのは自身の飢え。情が無いわけじゃない。親愛を受け取れないわけじゃない。ちゃんと人間らしい感情を有しているのに、人間を食し、姉を心配させたままにし、捕食本能に素直に従える」
「……"英雄"というよりは"化物"に聞こえるがな」
「同じさ。どちらも自らの群れから突出してしまったが故に呼称される蔑称でしかない」
フリスの言う通り、俺の好みの英雄はそういう"戦闘能力に長けた者"なのだろう。だからチャル・ランパーロの特異性を肌で感じても、あまり熱が入らない。弱いから。
否、あるいはほとんどの奇械士にはそれを感じない。ボーダーはクリッスリルグ夫妻か。あの二人から上の存在であれば、俺も心躍るのだろうが。
逆にフリスは弱くても新しければ良い、という好みをしている。どれほど無様でも今までにいない存在なら新たな入力になると。機奇械怪への入力数値としてしか人間を見ていないが故の好み。"英雄価値"とはよく言ったものだ。
「けれど、君が修行を付けたというのに、アスカルティンの動きには君らしさが無いね。僕は武術の方はからっきしだから、実は含まれている、とかだとわからないんだけど」
「いや、言う通りだ。アスカルティンにはリチュオリアの技術の一切を伝えていない。チャル・ランパーロが近くにいること、加え、アレキもあれでいて天才の部類だからな。アスカルティン……シーロンスがリチュオリアの技を使っていたら怪しまれるだろう」
「メーデーと同じ格好な時点で十分怪しいと思うけどね」
「それは政府にいる奴に言え」
俺だって頭を抱えたんだ。
奇械士と愛を育ませるという名目で送り込んだのに、あれでは怪しまれるばかりだと。
……まぁ、結果。何故かシーロンスは受け入れられたのだが。
「ということはつまり、彼女の強さは完全な我流か」
「我流にすら至っていないだろうな。プレデター種としての本能が体を突き動かしているに過ぎん。一か月地上に放り出してサバイバルさせたからか、気配察知能力が格段に上がったのは御の字だが」
「……君さ、加減って言葉知ってる?」
「弱きは死ねばいいとは思っている」
リチュオリアの理念など本来の俺には関係ない。
人間として振る舞っている内はその通りの行動をするが、俺が俺である時は弱きを憎む。切り捨てる。なんなら自ら殺しに行くかもしれない。
……そういう意味では、一か月を完全に乗り切り、生身を残す身体でプレデター種として生き残ったアスカルティンは、まぁまぁ、評価に値するのかもしれないが。
「調査は……難航しているようだな。ガロウズめ、上手く隠し過ぎだ」
「あの二人、結構凝り性だからねぇ。うーん、今回で見つからなかったら、明日また大型を出現させようか?」
「無駄だ。流石に連日となると、別の奇械士が当てられる」
「あー。……できれば今日見つけてほしかったけど」
「希望はある。五日後、またアレキとチャル・ランパーロのシフト日のはずだ。リンシュ・メクロヘリとシーロンスは違うが」
「なんでそんなこと把握しているんだい?」
「アレキの修行のためだ。ブランクを取り戻したいと、追加の修行を求められていてな。正直、身体が足りん。お前から引き継いだ仕事だ、アレキの育成は完璧に仕上げたいが、アスカルティンのこともある。教団事件や謎の機奇械怪の少女、他にもいろいろと──おい、待て」
口が滑った、と思った時には遅かった。
球体。フリスのオールドフェイスが入った球体は、球体であるはずなのに、その単眼レンズがにんまりと笑ったように見えて──次の瞬間。
「いやぁ、はっはっは、それを待っていたぞ!」
「……最悪だ。お前、一応一回死んだんだ。少しは大人しくしていろ、本気で」
「ん、ん゛ん゛ッ……ふ、それは野暮だろう兄弟。俺達は根本を同じくする上位者。ならば分裂しようと有り得ぬ話ではない。そうだろう?」
……先ほどまで球体だったフリス。
それに、転移光が纏わりつき、何かがガシャガシャと組み上がる音がしたかと思えば、次の瞬間。
俺がいた。
俺だ。ケルビマ・リチュオリア。無論偽物。人形。中身はフリスな俺。
「ああ、そう。当然だが、俺は武術などできん。からっきしだ。故にアレキ、アスカルティンへの指導は引き続きお前に任せる。代わりに事件の調査なんかは俺がやってやろう」
「不安しかないが」
「あはは、僕も君の行動見てて不安しかなかったからお互い様だよ」
「俺の顔でその口調はやめろ。気色が悪い」
果てしなく気が合わない。
流石だ、チャル・ランパーロ。今ここに、改めて盛大なる称賛の拍手を送ろう。お前の目は本物だ。誰が認めずとも俺が認めてやる。
「それじゃあ、俺。見届けは任せた。俺はホワイトダナップで調査をするからな!」
「……余計なことはするな。いいな?」
「勿論さ!」
生身ではないにせよ、久方ぶりの肉体だからだろう、どこか浮かれた雰囲気でフリスはホワイトダナップに戻って行った。
……知人に会うのが怖くなったな……。
うん。
やっぱり実体で感じる風は違うね。呼吸をしなくてもいい身体だけど、する楽しみというのはある。
僕ら上位者は、やろうと思えば好き勝手ができてしまう。だから自分たちで自分たちにルールを幾つか敷いている。たとえば、誰かが何か大きな実験をしている時は静観する、とかね。
そんなルールの中で、僕の出番はもう終わりだった。別に死ぬわけじゃないからああやってケルビマとか他のにちょっかいをかけたりしていたんだけど、完全なる自由、ってわけじゃないから色々と不便もあったんだ。
それが、ケルビマからの依頼で「もう一つ身体が欲しい」との事で。
いやぁありがたいね。僕が実体化する理由を作ってくれたんだから。これで大義名分を振り翳してホワイトダナップの地を再度踏みしめる事ができる。
ま、フリスとしては行かない。フリスは死んだ。フリス・クリッスリルグはもう死んだ。
ここにいるのは"なんらかの方法で分身したケルビマ・リチュオリア"だ。大丈夫大丈夫、彼は強さで有名だからね。淡々と「ああ、それなら分身しただけだ」とか言えば、周りも納得するよ。
「さて、と」
とはいえ、である。
半ば……いや、九割がた揚げ足を取る形で出て来たけれど、同時期に同じ人間が別の作業をしている事を目撃されるのも、上位者二人が積極的に人間や機奇械怪に関わっているのもあんまりよろしくない入力だ。
だから、楽しむのは事件の解決を終わらせてから、かな。あるいは解決しながら楽しむべきだろう。
まぁ、もうアタリはついている。
つまらない話だけどね。そもそもこの広い人工島で、東西南北の区域・区画のどこかからかオーダー信号を飛ばしている、という考え方がナンセンスだ。
どこかにオーダー種が鹵獲されていて、その信号を使われているというのなら、その場所は当然真ん中に決まっている。
地表には政府塔や奇械士協会がある。だから悪事に向かない。
ならば地下だろう。多少距離は離れるけれど、どこかの区域に置くより満遍なく信号を飛ばせるからね。
「そういう事に気付かないのは、感知範囲の狭さ故なのか。──お前はどう思う?」
「……ッ、赤雷の転移光……クク、まさかとは思っていたが……貴様までもが機奇械怪とは。この島は実は終わっているのではないか?」
転移だ。
人目につかない転移、ではない。
オーダー種と、その前にたたずんでいた人間の前に、直接の転移。ああ、長い髪邪魔だなぁ。ケルビマはなんで髪伸ばしてるんだろ。
「ケルビマ・リチュオリア。先日私達の拠点の一つを潰してくれた
「二十五点、といったところか」
「落第ギリギリかね? ク、ク……しかし、よくここがわかったものだ。誰も調べなかった此処を、ピンポイントな転移で当てるとは。見くびっていたよ、ケルビマ・リチュオリア」
「ああ、立地としては選んで正解だ。
男。
フレシシの記録を見た限り、コイツが、そうだ。
こいつが、フレシシの誘拐やあの教団の立ち上げ、計画の遂行、人員の招集、そして保身からの逃走。その全てを一人でやって、警察にも奇械士にも捕まらずにいた"価値ある人間"。
ケルビマの姿をした僕を前にしても余裕は崩れない。演技ではなく、本気で。
「して──何用かな、ケルビマ・リチュオリア。私は何か、君に牙を立てただろうか」
「断罪者たる俺が罪を犯した者を殺しに来る。それに何かおかしなところがあるか?」
「あるとも。君の言う罪が、"贄の調達"、"素体の創造"、"神の降臨"──そのどれを指しているのかは知らないが、その全てを私は罪であると認識していない。つまり私は罪を犯していないのだよ」
「不当に奇械士協会の下に居住区画を作り、機奇械怪を招き入れた。十二分な罪だと思わないか?」
「……ふむ。成程。確かに。居住区に関する法律までは気にしていなかった。すまない。謝る」
ううん。
この男、さてはある程度馬鹿だね?
「許す許さないは俺の関与するところではないな」
「不法侵入、不当占拠が死罪に値すると?」
「罪は罪だ。子供の万引きだろうが、大量殺人だろうが、罪は罪。──ならば正しく首を斬る。それがリチュオリアである」
「ふむ。流石は機奇械怪。判断基準がイカれている」
刀を引き抜く。
……言うまでもないけど、僕に刀なんか使えない。体術で戦った方がまだ戦えるくらいだ。
だからこれはポーズ。
ケルビマには悪いけれど、狂った断罪者ロールプレイって奴だ。
「どうしたら見逃してくれるだろうか」
「貴様の首を差し出すのならば」
「話にならんな。ではこちらから取引材料を差し出そう」
言って──男は。
裸の女性を一人、オーダー種の影から引っ張り出した。首、胴、足首、手首にベルトを巻かれた女性。ただ、片腕、片足がない。それぞれ右と左。縫合は無駄に綺麗だ。失血の心配はない。
「君が探しているのはこの女性だ。ダッグズ・リフレエンドの元ガールフレンド。その内の一人」
確かに、彼が引き受けた依頼の一つがこれだ。
この女性を連れ戻す。しかしこの男、中々の情報収集能力。ケルビマとダッグズの口約束まで知っているのか。
……これは、ルイナードにも監視者がいると見た。
「生憎とこの女性だと気付いた時には少しばかり遅くてね。実験に使った後だったのだ。命があっただけ良しとしてほしい。……これを返すから、私の命は見逃してくれたまえ!」
「断る。──何故なら、既にその女性は俺の手にある」
先程見せているので惜しみなく使うは赤雷。転移。
女性を手元に引き寄せ、全身に付けられたベルトとそれに組み込まれた爆薬を朽ちさせる。
「……見抜かれたか」
「ああ、胃にもあるのか。中々周到だな」
初めから人間爆弾として用意してあったのだろう。用意周到なことだ。
この女性の処置は……まぁ、失った手足を戻す、なんてのは流石にできないので、後で本人意思を聞いて義手義足でもつけてあげるか。ダッグズからの依頼に五体満足で、というのはなかったけれど、サービスだ。ま、機奇械怪なんだけど。
なので一旦転移させる。
「随分と燃費が良いようだな。それほど転移を連発して、そろそろ動力不足になるのではないか?」
「ほう、それなりに勉強しているようだな。だが、安心しろ。俺は機奇械怪ではない」
刀で自分の頬を斬る。
──そこから垂れる、赤い血液。赤く着色した《茨》だけど、どうかな、それっぽくない?
「サイキックを使える人間……まさか、キューピッドと同類か」
「そんなことまで知っているのか。ふむ、やはり奇械士協会に内通者を持っているな。否、政府やその他企業にも一人ずつくらいは連絡役がいそうだ」
「──クク、さて、どうかな」
これ、どうしたものかな。
殺すのは簡単なんだけど、コイツ掴まえて芋づる式に各組織の腐敗を取り除いた方が人間にとっては良い気がする。なんなら僕としてはコイツ殺したくない。地上に放り出してどんな入力するのか見てみたいくらい。
が、今は
「取引材料は失われた。──では、首を断つ」
「まぁ待て。そもそもあの女程度が私の命と吊りあうとは思っていない」
「……二十秒だ。それまでに出せなければ」
「融合プラント種『サンドリヨン』。……この名を知っているかな、ケルビマ・リチュオリア」
──……。
……?
「知らんな」
「だろう? 当然だ、我々が造り上げた新種の機奇械怪だ、知っていたらどうしようかと思ったくらいだ」
「お前たちが……造り上げた、新種?」
「そうだ! フフ──融合と融合、配合と交配の結果生まれた、
人間が機奇械怪の新種を造る。
そうか。
もう、そこまで来ていたか。
「わからないか? わからないだろうな! ふふ、当然だ、証拠は一切残らない。何故ならアレは敵対する者を取り込み続け、最終的に
「……まさか、ダムシュか?」
「クハハハ! 正解、正解だよケルビマ・リチュオリア! そう、港湾国家ダムシュを滅ぼしたのは、我々の作り上げたサンドリヨンだ!」
良かった、鉄くずを寄せ集めた体で。
生身だったら、口角が上がるのを抑えられなかったかもしれない。
なんて入力だ。なんて影響だ。
そうか、フレシシに行おうとしていたアレは、あの場にいた新たな教団メンバーへのアピール、デモンストレーション。既に成功させた技術のお披露目会!
此奴は、この男は、既にダムシュという国を一つ滅ぼす程の機奇械怪を組み上げ、操作までしていたというのか。
ああ、そんな。
そんな。
「──素晴らしい」
「なに?」
「いや、いや。敢えて今はこう言うべきだ。悪くない。ああ、とても悪くないよ、君」
念動力で、男を捕まえる。
前にアレキにやったような強い力ではない。けれど逃がさないように包み込む。
「ッ……待て、話はまだ終わっていない! 取引だ、ケルビマ・リチュオリア! 取引材料は」
「ここの更に地下にいるサンドリヨン。その解体、あるいは起動スイッチを押さない事。そんなところだろう?」
「……!」
言動は小物だ。咄嗟の判断も悪い。
だが、それ以外が素晴らしい。研究者として、技術者として、扇動家として、先駆者として。
これは"英雄価値"だ。
「名を名乗ってくれるかな」
「……ミケル・レンデバラン」
「へぇ! へぇ、へぇ、へぇ! それはそれは、奇縁もあったものだ」
「さ、先程から口調がおかしいぞ、ケルビマ・リチュオリア。まるで少年のような──」
レンデバラン。
──それは、アリア・クリッスリルグの元姓。アリア・レンデバランが彼女の名。
弟? 兄? 親族?
脳筋なアリアに比べて、ああ、なんたる知恵者か。
「ミケル・レンデバラン。君に一つの選択肢を上げよう」
「一つって、それしか無、」
「僕が君を支援する。大口の支援者になろう。誘拐事件はやめておくんだ。多方を敵に回すからね。とりあえず影武者を用意して捕まってもらおう。それで、君は闇に戻る。人間は僕が十分に用意してあげるよ。なんなら他国の人間も。機奇械怪も取ってきてあげる。手に入り難いものも。──その代わり君は、新種の機奇械怪を造り続けるんだ。神でも悪魔でもいい。なんでもいいよ。──僕が気に入るものが出来たら、君を解放してあげよう」
「……貴様、誰だ。ケルビマ・リチュオリアではないな」
無視する。
「いいかい? 君が底を見せない限り──アイデアを思いつき続ける限り、君の命は保障される。僕が気に入るものが出来れば解放し、君の考えが底を突いたら、僕は君を殺す。今まで君が作った機奇械怪の餌にするのもいいね」
「ッ──しかたない、かくなる上は!」
ミケルが奥歯を噛む。
──ああ、古典的だけど、好きだよ、それ。
「君の体中に仕込まれた様々な起動スイッチはどれも発動しないよ。その機械も、先にいる機奇械怪も、全て分解したからね」
「今までの全てが貴様手のひらの、上か……ッ!」
「あはは、何を言っているんだ」
そんなの、何千年と前からだよ。
この星が生まれた頃からね。ま、だからこそ自ら零れ落ちていく砂粒に目を輝かせるんだけど。
「さて、どうするのかな、ミケル。選択肢は一つだけ。選ぶか、選ぶか。どっちだい?」
「……今に見ていろ、化け物。貴様を討つ機奇械怪を創り上げ、この腐り果てた箱庭をぶち壊してやる」
いいね。悪くないよ、君。
楽しみにしているよ、人間風情が──僕らを越える理想を。