終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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もう一人と密会する系一般上位者

「はい。私の身体の九割は機奇械怪です。内臓のほとんど、いいえ、筋肉や骨、一部の皮膚までもが。あ、でもこのこと協会に報告したりしない方が良いですよ。私のバックにいるの、政府なので」

 

 あっけらかんと。

 彼女──シーロンス改めアスカルティンは言った。

 その余りにもオープンな言葉に、開いた口が塞がらない。

 

「……人間を、食べるの?」

「はい。お腹が空いていれば」

 

 辛うじてチャルの発した問いも、堂々とした恐ろしい言葉で返されてしまう。

 

「なんでそんなことに……」

「誘拐された時、融合させられました。その後政府の方に救い出して貰って、けれどメクロヘリの家に返したら、私、多分家族の事食べちゃうので、それだったら奇械士に行った方が良い、と」

「それは、どういう意味? 何故奇械士だと……」

「動力炉が食べられるからです。動い(生き)ている機奇械怪というのは、その動力炉内に少なからず動力源を持っています。それが狙いですね。今生きている人間を食べるより、機奇械怪に捕えられ、動力源として使われている生命を奪った(解放した)方が倫理的にも良いと」

 

 淡々としゃべるアスカルティンに、チャルが目を細めている。

 彼女は超能力を持っている。それで彼女を見極めようとしているのだろう。なら、私達はもっと彼女から話を引き出すべきか。

 

「政府から派遣されてきたという事は、政府も知っているの?」

「一部の方だけですけどね。私を救ってくれた存在と、私の身分を用意してくれた方。私の事を知っているのはこれくらいです。あ、あと誘拐犯。まぁ大半が死んじゃったか捕まったかと思いますが」

「アスカルティン。今腹減ってないって言ってたよな。あ、ハガミを食ったってだけじゃなく」

「ああ、そうですね。政府から一日に三枚支給されるオールドフェイスというコインがありまして、これを食べていればお腹が減らないんです。まぁ今回はその枠組みを超えてお腹空いちゃったんですけど」

「オールドフェイス?」

 

 反応したのは私とチャル。

 何気に探しているのだ。オールドフェイスはチャルの銃を強化する手段。そして先ほどテルミヌスを調べている時にも、その柄にコインの投入口のようなものがあるのを見つけている。

 地上をくまなく探して、それでもまだ見つかっていないオールドフェイス。

 それを政府が持っている?

 

「もしかして、ホワイトダナップ政府はオールドフェイスを回収してるのかな」

「……オルクスやテルミヌスのように、オールドフェイスで強くなる武器を政府が有しているなら、有り得るかも」

「それだけじゃないよ、アレキ。……ね、アスカルティンさん」

「はい?」

「前に言ってたよね。メーデーさんの事知ってる、って。ううん、それだけじゃない。ダムシュ出身だとも言ってた。その服装はダムシュの正装だ、って。……でも、あなたはホワイトダナップ出身の、リンシュさんの妹さんだった」

「あー。まぁ、正解です。メーデーさんも、五割機奇械怪だった人ですよ。あんまり私にも明かされていないですけど、ダムシュ出身じゃないのは確かです」

 

 ならば。

 チャルの言いたいことは。

 

「……もし、政府がオールドフェイスを多量に集めてて、それが武器のためだけじゃなく……アスカルティンさんやメーデーさんのような人を鎮静させるためなら」

「マッチポンプ、って事かァ?」

 

 リンシュが、怒りの色を隠さない声で言う。

 そうだ。もしそれが繋がるのなら。

 アスカルティンやメーデーのような人と機奇械怪が融合した存在を政府が有し、オールドフェイスで鎮静化を測り──色々な所で暗躍させているのではないか、という疑念が。

 

「あ、それはないですね。それだったらもっと上手くやると思います。あんな仮装がダムシュの正装なわけないじゃないですか。目立つし。顔見えないだけでも怪しいし。もっと地味な感じの見た目にして、身体能力がバレる奇械士じゃなく、もっともっと重要な内勤とかに就かせて、……という感じで。あと、マッチポンプにするには政府にメリットが無さすぎますね。オールドフェイスがどれだけ希少か、お二人ならわかっているのでは?」

「……確かに、コスパが悪すぎるか」

「一応、これでも、政府には感謝してるんですよ、私達。だって拾われなかったら化け物になってたので。こうやって供給されずに飢えに飢えてたら、今頃ホワイトダナップの人間殺しまくって食べまくって、奇械士に機奇械怪として討伐されてたんじゃないですかね? そんな私達を人間にしてくれたのが政府です。だから、あんまり悪く言わないで欲しいかな」

「そっか。ごめんね、アスカルティンさん」

「すまねぇ、ウチも良く考えずに言ってた」

 

 チャルを見る。

 彼女は……本心から謝っている。

 嘘偽りない、ということ?

 

 ……わからない。チャルはこういう事に関してはあんまり顔に出さないから、後でちゃんと聞かないと。

 

「それで、話せなかったらそれでいいんだけど、アスカルティンさんを拾ってくれた政府の人って?」

「あ、それは」

「俺だ」

 

 崩れ落ちた建物の陰から──兄上が現れる。彼の右手には、本のようなもの。まさか。

 気配が全くしなかった。流石、といったところか。

 

「兄上……」

「外縁から命令無しに地上に降りた馬鹿がいると、俺のところに通報が入ってな。奇械士が盗掘者になるなど言語道断。──だが、今回アレキ達にフレメアへ行ってみろと言ったのは俺だ。アスカルティン、そしてリンシュ・メクロヘリ。お前達は二人に付き添ってきただけ。そうだな? よって咎は俺が受ける。が、いつまでもここにいるとお上が煩い。とっととホワイトダナップに帰れ」

「ケルビマさんが、アスカルティンさんを救った方、なんですか?」

「俺は人攫いの組織を潰しただけだがな。疑問は解消したか? ならば帰るといい。飛空艇はもう少し先の廃墟に来るよう手配してある。お前らの知る通り、政府はここをなかった事にしたがるからな」

 

 言って。

 兄上は、アスカルティンを担ぎ上げる。

 

「あ──アンタ、いきなり出てきて何すんっ」

「調整だ。ハガミを食した以上、影響は必ず出る。消費したエネルギーもあれだけでは足りないだろう。俺はコイツの監視役を仰せつかっている。命令違反して勝手に地上に行った、など、本来は許されん。それこそ即時処分が決まるくらいにはな。そこを取り計らう。ゆえに嚙みついてくるな、リンシュ・メクロヘリ」

「あ、姉さん、大丈夫です。この方案外優しいので」

「ええ、リンシュ。彼は私の兄なの。だから、大丈夫」

「そ……そうか。そうか。いや、なら、すんません。……アスカルティンをよろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げるリンシュ。

 驚きだ。彼女がこうも素直に、しかも丁寧な態度を取るなんて。

 やっぱり、それだけ妹さんが大事なのだろう。

 

「ああ、それと。アレキ、これを」

 

 投げ渡されるはボロボロな本。

 表紙も、ちらっと見た中身も、すぐに読み解けるソレではない事を理解する。

 

「待ってください、ケルビマさん」

「なんだ」

「あなたは……メーデーさんが、本当は誰だったのか、知っていますか?」

「……知っている。だが、ランパーロさんに明かせる人物ではない」

「その人は、私達の知り合いですか?」

「……成程成程、厄介な目だ。俺が答えずとも、質問を投げかけるだけでいい。政府の尋問官が欲しがる人材だろう」

「え……知って……」

「ランパーロさん。あなたが隠し事をしているように、俺にも色々あるということだ。では、また後でな」

 

 兄上は。

 また、ぽーんと凄まじい跳躍を見せて、アスカルティンさんを担いだままどこかへと去って行った。

 

 

+ * +

 

 

「なんとかなったか」

「私の演技、どうでした?」

「……食欲だけで動いた時点で殺処分行きだったのだがな。お前に価値を見出した奴がいるせいで、お前の破棄は無しになった。色々とペラペラ話してくれたせいで様々なことが台無しになったが、同時にこちらも動きやすくなった。お前の演技如何は俺にはわからん。文芸の才が無いからな。だが……」

 

 ──"ああも素直に全部言われちゃ、怒るに怒れないだろ、君"

 

 フリスの幻聴が脳裏に響く。

 煩い奴め。確かに……まぁ、そうだ。小細工を弄すフリスのやり方より、洗いざらい話して堂々としているアスカルティンの方が好感が持てる。負けたとはいえ、初見のハガミ相手に動力炉を引き抜く功績も上げたしな。

 "英雄価値"。フリスの言うところのそれとは少し違うが、俺にとっての"価値"は……戦闘能力と、その前に進み続ける姿勢だ。一度は切って捨てたコイツを見直すに値する事件だったと言える。

 

「今回の事を受けて、お前に供給するオールドフェイスを増やす次第となった。一日四枚。加えて、食欲が抑えきれなくなった……つまり暴走しかけている時用に二枚。計六枚だ」

「六枚!」

「ただし、予備の二枚はあくまで予備。一日に全て使い切るなよ」

「が……我慢できるかな」

「オールドフェイスも無限ではない。ゆえ、とっとと自己改造を覚えろ。機奇械怪の最大の本質は自己改造。己が身を己で改造する事で、さらなる強さや効率を得る。お前の場合は動力炉の効率化が最重要課題だな」

「動力炉って……でも、私の心臓みたいなものでは? 改造するにも、引き抜いたら死んじゃいそう」

「ハガミを食した時に気付かなかったか? 奴の身体にはメインの動力炉以外にサブ、そして非常用の動力炉があった。メインを改良している間はサブが稼働する。改良が終わればサブと非常用を改造する。動力炉一つ引き抜かれた程度で停止していては機奇械怪も不便で仕方がなかろうさ。彼らはそうやって常に稼動できるようにしながら、自身のパーツを少しずつ改造していくのだ」

「成程……」

 

 まぁ、そうか。

 生まれた瞬間から自己改造を知っている機奇械怪と違い、アスカルティンは人間の常識が邪魔をする。

 普通の人間は自身の身体に刃を入れて、内臓を効率的にしよう、などとは思わんからな。

 ……そういう意味では、教師が必要か?

 

「ふむ。アスカルティン」

「はい?」

「お前に教師をつける。色々バレたことだしな、アイツにも手伝わせるとしよう」

 

 少しだけ、悔しい。

 わかってしまったからだ。

 

 ──予定通りにコトが運ばず、予想外が起きる"楽しさ"。

 俺は今、この状況を。色々なものが台無しになったこの現状を、「悪くない」と思っている。奴のように。

 根本が同じとはいえ……長く生きたのなら、俺も。

 アレに収束してしまうのだろうか。

 

「あ、ケルビマさん」

「なんだ」

「ありがとうございました。私の食欲が抑えきれなくなって──あの二人を食べに行こうとした時、すぐに気づいてくれて。おかげで、これからも内緒の関係ではありますが、姉さんとも改めて肩を並べることができて……今、とても嬉しいです!」

「……ふん、結果論だな。だがまぁ、嬉しいのなら嬉しがっているといい。俺の知る所ではない」

「はい!」

 

 まぁ、これも。

 悪くはないか。

 

 

 

 

「やぁやぁやぁ。久しぶりだねー、ケルビマ。元気にしているかい? それとも元気じゃないかい? 元気じゃないのなら野菜を食べよう美味しいぞー?」

「相変わらずだな、エクセンクリン。そして、俺達が食したモノ如きに体調を影響されない事などわかっているだろう。そも、異変を来す事もない、とな」

「あー、うんうん、うんうん。ソウダネ、その通りだね。けどね、ケルビマ。病は気から、なんて言葉もある。嫌なコト、面倒なコト、気を揉まなければいけないコトが沢山重なると、人は体調が悪くなってしまうんだよ」

「お前も俺もヒトではない。以上」

「相変わらず冷たいなぁ」

 

 政府塔。

 その中の、秘された部屋。窓も扉も内側から溶接されているこの部屋には、転移でしか入って来ることができない。

 なればそこにいるのは。

 

「エクセンクリン。アスカルティンの素姓が知られた。至急新たなストーリーを用意してくれ」

「……知っているかい、ケルビマ」

「知らん。やれ」

「知らないだろう。私は今日で七十二連勤。休みなし! 外でアクティブに動きまくる同胞がこれでもかと仕事を増やすせいでその辻褄合わせに奔走する毎日!!」

「連勤で言うなら俺は稼働した時からずっと働いているが」

「君みたいなワーカーホリックと一緒にしないでくれ! 私は普通に休日が欲しい! 休みたい!!」

 

 目の前で百面相を繰り広げる、瘦せぎすの男。目が悪いわけがないのに眼鏡をかけ、体調が悪いわけでもないだろうに蒼い顔をし、無駄に高い背と裏腹にガリガリな手足をぶんぶん振って「怒っている」という表現をしている者。

 エクセンクリン。今はルバーティエ=エルグ・エクセンクリンだったか。

 ホワイトダナップの上級階級も上級階級、フレメアでの最高等級な特権を持っていた貴族の一人。且つ、上位者の一人。

 

「聞いているのかい!?」

「いや、一切聞いていない」

「素直だな君は!?」

 

 政府の内通者とはコイツのことだ。

 ちなみに先代のルバーティエも先々代のルバーティエもコイツ。人間に合わせて成長しているように姿を変え、老死し、また代替わりし……何百年と昔からルバーティエという家柄を演じている。

 だというのに。

 

「ああ、妻に会いたい……娘に会いたい。そう、そうだ。この間ね、二人目の娘が生まれたんだよ。ほら、ほうら、見てごらんケルビマ。可愛いだろう」

「人間の赤子に美醜など無いだろう。全て同じだ」

「この節穴め!!」

 

 エクセンクリンは、何百年の間に何度も何度も変わっているはずの妻子を愛している。どの妻子にも、最大限の愛を。

 フリスの奴が言っていたように、俺とて人間や機奇械怪を愛する、という感覚は理解できない。意味がないというか、なんであれば少しばかり引く。実験対象に愛恋を抱くなど、研究者としてどうかしてしまっている。

 ……が、最近、俺も他者の事をとやかく言えないと指摘されてしまったので、これは永遠に胸中にしまっておくことにする。

 

「はぁ。まったく。……まぁフリスの時よりは楽でいいけどね、今は」

「そうか。比べられるのは好かんが、奴より厄介だ、と言われた日にはお前の仕事を七倍にしていたところだ」

「怖っ! 地雷が過ぎる!」

「当然だろう。ホワイトダナップに配置された上位者三人。その内の『人間に最も接する端末』二つ。それが俺とフリスだ。上位者に優劣など無いが、だからこそ奴の方が、あるいは奴よりも、などと言われるのは気に入らん」

「い、いやまぁ、稼動年数があるしね? 君はほら、まだ若いじゃないか。私やフリスは云百年前から、フリスに至ってはフリスの名を得る前から動いている。上位者(私達)に優劣が無いとはいえ、経験に差が出るのは仕方のないことだよ」

「わかっている。……だからこそ、羨ましくあるだけだ。人間に対し、そうも情熱的なお前やフリスがな」

 

 嫉妬だというのは理解している。

 俺だけだ。

 俺だけまだ、目を灼かれるような、他の全てを擲ってでもそれを優先するような"英雄"に出会えていない。チャルもアレキもアスカルティンも、俺の目にはそうだと映らない。ルイナードの者達は論外、奇械士協会にいる者にはまだ出会えていない。

 

 感情的になる、という行為。

 それを羨ましいと思うのは──やはり、エクセンクリンもフリスも、楽しそうだから、にほかならないのだろう。

 

「……ふむ。そうか、そうかそうかそうか。うんうんうん。良い傾向だね」

「お前も俺を見て、そう言うか」

「フリスなら『悪くないよ』と言うんじゃないかい?」

「どちらも同じ意味だろう」

 

 エクセンクリンはやはり、どこかフリスに似ている。違いがあるとすれば妻子への愛と、喜怒哀楽が激しい事くらいだろう。フリスも度を越えられるとちゃんと怒るが。

 

「いいかい、ケルビマ。私達上位者は成長しない。何故って、私達は結局単なる端末に過ぎないからね。根本が成長する事はあるかもしれないけれど、端末は成長しない。……けどそれは、端末が端末のままであれば、の話だ」

「……」

「たとえば私。私も最初の最初はそうだった。自身の役目通りに事を運び、人間生物にもその他にも一切の興味を向けなかった。愛情なんて以ての外だったさ。……けど、色々経験した。色々な人間に会って、色々な悲劇や歓喜を経て……私は"感情を動かすこと"の喜びを知った。そこからだ。世界が違って見えるようになったのは」

 

 手を大仰に広げたり、時折こちらを覗き込んできたり。

 芝居がかった仕草で……だが、本心とわかる熱量で。

 エクセンクリンは、朗々と続ける。

 

「成長したんだよ。端末(赤子)でしかなかった私が、ようやく子供くらいにはなった。どこぞの拠点で、誰もいない部屋で、世界中の情勢をモニタで監視してふんぞり返る……そんな毎日よりずっとずっと楽しい世界になった」

「……まぁ、それは否定せん。俺はそれを知らんが、今の生活からそれになる、というのは耐え難いだろう」

「だろうね。けど、君はまだ端末だ。まだ赤子だ。私の娘と同じだ」

「斬るぞ」

「たとえ話だろたとえ話! 比喩表現じゃないか、もう、怖いなぁ君は」

 

 俺達には、大本がいる。

 大本。それから伸びた端末が上位者となり、この星で数々の実験を行っている。とはいえ大本が上位者に何かしてくる、ということはない。フリス曰く、エクセンクリン曰く、「あれは見ているのが好きなだけの存在だ」と。「手を出してしまっては勿体ないと思っているから、手を出してくることはない」と。

 俺はまだ一度も死んでいない。

 だから、その存在がどういうものなのかを根本的に理解できているわけじゃない。

 

「フリスの最初がどうだったのかは知らないけど、今回も人間に拾われて、人間社会に混じって、それでいて、いつも楽しそうだろう? 彼は昔からそうだよ。彼自身が積極的に交わりに行く事はないけど、何故か彼はいつも人間に見つけられて、拾われたり攫われたり持っていかれたりして、楽しそうな、幸せそうな、それでいて波乱万丈な人間の輪の中心にいるんだ」

「……そしてそれを、自ら破壊して次へ、か?」

「いやいやいやいや、まさかまさか。今回みたいにズタズタに破壊するのはそこまで多くないよ。特に何もなく、英雄となった者達の物語を眺めて、フラっと姿を消す、なんてこともよくあることだった。今回のはあまりにも急だったからね、余程良い相手を見つけたんだろう」

 

 チャル・ランパーロ。

 特異な目を持つ少女。相手が本当に大切にしているものを見抜く目。そしてそれは、嘘を見分ける能力も備わりつつある。

 ……それだけではない、ようにも思うがな。

 ほとんど初対面の友人の兄に向かって、「怪しかったから」という理由だけで銃を向ける胆力。自らを傷つける《茨》を御し、自らの力にする発想力。自らの信頼する能力の全てが警戒を出している相手に対し、好きだ、と言える精神力。

 とても一朝一夕に身に付くものではないと思うのに、フリスの記憶にある限り、あの少女が変わるきっかけになりそうなのは、オルクスを手に取ったあの日くらいしかない。あるいはフリスが《茨》を消した時とかか?

 

「フリスはね、突然変異みたいなものなんだ」

「……む?」

「君はこの星『メガリア』に、幾人の上位者が配置されているか、知っているかい?」

「凡そ10万。誤差はあるが」

「そうだ。この大陸だけじゃない、他の大陸でも私達上位者は活動している。けれど、おかしなことに、私のように喜怒哀楽が激しくなったり、君のように己の運命に悩んだりする上位者は出ていないんだよ。他の大陸では誰もが淡々と実験をしている。悪戯心なんて誰一人持っていない」

「……それが、奴と、奴の周りだけは、と?」

「うん。彼は端末の中でも異常な、他の上位者に影響を齎すタイプ、なのかもしれない。──あるいは」

 

 エクセンクリンは、薄く笑って、長い人差し指を口元に、ウインクをしながら。

 

「彼は私達とは違う存在なのかも──……なんてね?」

「……夢見がちなことだ。例えそうだとして、ならば何故奴は俺達に与している。死なば記憶を譲渡する仕組みも、他の上位者に表舞台を譲る仕組みも、機奇械怪の成長を促す姿勢も……何もかもが俺達と同様のルールで動いている。そうする理由が全く無い。奴の無計画さを深読みし過ぎているだけだ、エクセンクリン」

「おやおやおやおや、別に君がヤケになって否定することでもないだろう」

「……ふむ。……む? 確かにそうだな」

「うんうんうん。君は素直で好感が持てるね。フリスだったら『あはは、そう思うのかい、エクセンクリン。もしかしたら僕には、君達に言っていないような秘密があるのかもしれない。だってその方が面白いだろう?』とか言ってくるんだが」

 

 フリスへの理解が高すぎる。

 ……年季、か。

 

「さて、いやぁありがとう、ケルビマ。仕事に追われていない、こうやって雑談をしているだけの時間は私の癒しなんだ。ホントなら妻子に会いたいところだけど、まぁ君でも妥協できる」

「そうか。ではもう来るのをやめるか」

「うんうんうん、そういう所、少しフリスに似てるノワッ!?」

「何故避ける。どうせ斬れないだろう」

「斬れないよ!? 私はね!? でも君が今狙った書類は普通に斬れるよ!? 紙だからねただの!!」

「揶揄うのをやめろ、と言っている。不快だ」

「……はいはい。ま、そんなところで、そろそろ時間だ。君からの依頼は承った。私は山積みの仕事に加えてそれもやらなければならなくなったから、仕事に戻る。君だってまだ解決していない事件が幾つかある。そうだろう?」

 

 解決していない事件。

 ……そうだ。人攫いの件は珍しくフリスがマトモに片付けてくれたが、もう一つ。

 機奇械怪と融合した子供が出る、という噂。アスカルティンのことではないが、アスカルティンと似た境遇の存在が何かをしている可能性がある。それは確かに片付いていない。

 加え、どうせ聞かれるだろうアレキ達への様々な説明。……あの禁書に関しては、どうするか。俺も……あんなもの欠片程度しか読み解けないぞ。アレはフリスが作った創作言語ゆえな。だからアイツはサラサラと書けるのだが。

 

 成程、エクセンクリン程ではないが、問題は山積みらしい。最近盗掘者も多くなっていて面倒というのもある。

 ……いや、修行を考えるなら……アスカルティンとアレキを組ませて、盗掘者保護をやらせるのはアリか?

 

「ケルビマ。私は言ったよ。もう終わりだ、時間だ、とね。思案するなら帰ってからにしてくれ」

「む。ああ、悪い。ではな、エクセンクリン」

「はいはい」

 

 帰る。

 ……帰る? 否、まずは南部区画の再調査からだろう。教団事件の廃ビルに加え、周辺の捜索。ルイナードでももう少し深く聞き込みをするか。アレキとアスカルティンはどの道就寝するだろうから、帰るのは朝でいいな。

 さて、働こう。仕事だ。

 

 まったく、そこだけは理解に苦しむな。

 やることは多いに越したことはない。ワーカーホリックなどと罵られたが、奴らが働かなすぎなのだ。

 ……いやまぁ、ああも嘆願されたのなら、少しくらいはエクセンクリンに回す仕事を減らしてやりたい、とは思えるが。

 ……ふむ。

 無理だな。俺達の無茶振りの皺寄せは全て奴に行くのだから。

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