終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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妹に言い寄られる系一般上位者

 空歴2544年01月31日──。

 その日、人工島ホワイトダナップは浮上から二度目の緊急停止をする事になった。

 

 

+ * +

 

 

「航路上に正体不明の機影?」

「うん。らしいよ。私もお母さんが話してるの聞いただけだからなんとも言えないんだけど」

 

 ホワイトダナップが緊急停止を行うのはこれで二度目。

 一度は十一年前。そして此度。たとえキューピッドの襲撃があっても航行を止めなかったホワイトダナップが停止せざるを得なくなった理由は、その進行航路上に謎の陰があるからだという。

 管制区域は朝から慌ただしく、奇械士協会にもひっきりなしに通信が来ている事から、それが機奇械怪であるという可能性もある、という話だ。

 

「……飛行できる大型機奇械怪だと、マズいかも」

「そんなのいたらもっと早くから見つかってただろー。つか、そもそも現時点で襲ってきてないのがおかしいし」

「あ、ちょっとリンシュお姉さん、私のパンを取らないでください噛みますよ」

 

 機奇械怪には基本種、特異種、融合種が存在する。これらは左から順に強さを増していくが、大きさはまちまちだ。基本種でも十メートルを超すものもいるし、特異種で人間より小さいものもいる。融合種は得てして大きくなりがちだが、それでも小型なものは存在している。

 そんな機奇械怪が集まって融合し、大型化したものを大型(ヒュージ)機奇械怪(メクサシネス)と呼ぶため、大型(ヒュージ)という種が存在するわけではない。だが、先述のように大型にまで辿り着き得る機奇械怪は限られて来る。それまでにプレデター種に捕食されてしまうもの、奇械士に負けて学習するものなどが段々と同じ形を取って、結局大型には似たような恰好のものしかいなくなるのだ。

 そういった進化の経路を辿る機奇械怪の中で、けれど飛行の形を取るものは実は少ない。

 基本種の、つまり、所謂「頭の悪い」機奇械怪には飛行形態を取る種もいるが、特異種、融合種と頭の良さを増していくにつれ、その数は減る。

 

 飛行に特化する、ということは、地上で生きられなくなる事と同義。

 無限の動力源などというものがなく、有機生命を捕食しなければ生きてはいられない機奇械怪にとって、飛行し続ける事は地上で休眠する事より何百倍も難しい。あるいは動物の鳥と同じように高地や樹上で休むことができるのならば話は別だが、残念ながら廃墟となったこの世界に立つ尖塔など限られている。

 一時的に飛行できる、ならともかく、飛行し続けられる、なんて機能を獲得するに至らないのだ。

 

「──皆、緊急だが会議室に集まって欲しい。巡回してる奴は通信を開きっぱなしで頼む」

 

 どこかそわそわした空気の中、それを切り裂くようにケニッヒ・クリッスリルグの声が響いた。

 真剣な声。それで誰もが察した。

 やはり、と。

 

 

 

 

「集まったな。よし、始めるぞ」

 

 会議室に集まった奇械士達を見渡して、ケニッヒはモニタの電源を入れる。

 そこに映し出されたのは。

 

「……お城?」

 

 城──あるいは宮殿だろうか。

 およそホワイトダナップで見ることの無いつくりの構造物。嵐と雷に巻かれたそれがモニタに映されている。

 

「融合サイキック種『ギンガモール』。大型機奇械怪だ」

「え……嘘、この大きさでサイキック種?」

「プラント種じゃないのか?」

「だが確かに、プラント種が宙に浮いているなど……」

 

 口々に驚愕と疑念が走る。

 それはそうだ。だってそんなものは、彼らの知識にないものなのだから。

 頭の良い機奇械怪は飛行形態を取らない。その中で、唯一の例外。それがサイキック種だ。念動力での浮遊が可能なサイキック種が飛行する様を、彼らは何度も見てきている。

 ただしそれも飛行し続けるモノである、という認識ではない。サイキック種の念動力とて動力を用いる。むしろ他の機奇械怪より激しく動力を消費する事で知られている。それは体の大きさや動かす物が大きくなればなるほどに。

 

 なれば。

 改めて画面に映る機奇械怪。その大きさは、恐らくホワイトダナップの五分の一程度には匹敵するだろうことが伺える。

 

「コイツがホワイトダナップの航路上に突然現れた。そのせいでこの島は立ち往生を余儀なくされている。俺達に求められたのはコイツの迅速な排除。及び、航路変更のための時間稼ぎ。既にアリア達の班はホワイトダナップ外縁で敵の出方を窺っている」

「突然現れた、というのは……転移で、ですか?」

「ああ。赤い雷を伴った転移光だったそうだ」

「!」

 

 どこかやるせないような表情で告げられた言葉。ケニッヒにも、やはり思う所があるのだろう。

 そして強い反応を示したのはアレキやチャル達だけではない。他の奇械士達だって、キューピッドの脅威は記憶に新しいのだ。

 

「皆もわかっていると思うが、これほどの巨体を浮かせるには凄まじい量の動力源が必要なはずだ。つまり、この巨体の内部のほとんどが動力炉である可能性が高い。ってことで精鋭班を組む。動力炉を壊しまくりゃ浮かせられなくなって落ちるかもしれないからな」

「どうやって侵入するんですか?」

「観測できる限りの侵入経路は四か所。ただしどれも入り組んでてな、もっともシンプルな経路は真正面と来た」

「……まさか、誘われてる?」

「と、考えている。引退した爺さん婆さんらも罠だ罠だとうるさいくらいだ」

 

 けれど、そうだとしたら。

 

「知性が……あり過ぎませんか? とても機奇械怪の考えとは」

「ま、その通りなんだがな。だとしてもだとしなくても、ここに突っ込んでいって中身ぶっ壊して出ていくのが一番なんだ。なまじ墜とせたとして、俺達も脱出しなくちゃいけねぇんだから」

「脱出って、けど無理がねぇか? コイツが落ち始めた時点でホワイトダナップより高度が下がってる。飛空艇を下に待機させるにゃ危なすぎる。かといって落ち始めてから駆け付けてたら間に合わねえ」

「ああ。だから、科学班が来年出すつもりだった技術、ってのを寄越してきたよ。本試験一切してない個人用飛空艇って奴を」

「……信用できねー」

 

 ケニッヒが持ち上げたのは、少し大きめのリュックサック。そのままそれの構造がモニタに映り、説明が行われる。

 

「要は背負って飛び降りると翼になって滑空できるキットって奴だ。ま、作動しなかった場合を考えてパラシュートも積んである。だからちっと嵩張るが、中で動力炉破壊しまくるだけなら問題ないだろ」

「パラシュートって……それこそギンガモールの落下に巻き込まれません?」

「まぁな。だから正直俺はこの作戦に乗り気じゃない。ああ、正確に言うと、俺達以外が行くのは乗り気じゃない。俺はまぁ、落ちる瓦礫さえありゃ安全に地上まで降りられるからな」

「流石ケニッヒさん、人間じゃねー」

「だからこその精鋭部隊だ。特に希望がなきゃ、俺が選ぶ。ああ、つっても突撃班だけが危ないってことはない。恐らくというか十中八九迎撃が来る。中に行かない奴には俺達の行く道を付けてもらわねぇといけないし、俺達がいない間のホワイトダナップを守ってもらわなきゃならん。と、こんな所だ。んじゃ聞くが、希望者はいるか?」

「あ、はい。行きます」

 

 誰もいないだろう、と思って聞いたのだろう。

 サラっと流す気だったケニッヒの耳に、快活な声が入る。

 ──パンプキン仮面の少女。色々と誰かを思い起こさせるその少女が、真っすぐと手を挙げていた。

 

「シーロンスか。まぁお前の身体能力なら問題ないか。他に」

「私も行きます」

「アス……シーロンスが行くなら、ウチも行くわ。つかクリッスリルグが行ってウチが行かないの、なんかヤだし」

「私も……」

「お前は無しだ、チャル」

「えっ」

 

 シーロンスにつられて、アレキ、リンシュの手が上がる。

 その中でチャルも手を挙げる──が。

 

「まぁチャルは無理だろ」

「チャルさん、アレキさんと一緒に行きたいのはわかるけど……その」

「正直チャルさんって身体能力は貧弱だし、ねぇ?」

「射撃センスはかなりあるんだから、ランパーロは俺達と一緒に迎撃班だ」

 

 そう。

 たとえ特異ともいえる武器を扱い、また読みに長けると言っても、チャルにはアレキやシーロンスのような特別な肉体が無い。崩れ落ちる瓦礫の中をぴょんぴょん跳ねたり、広い構造物を縦横無尽に駆け回るような身体能力が。

 彼女の持つオルクスが放つモード・エタルドも、あれほど巨大な機奇械怪相手では文字通り歯が立たないだろう。

 

「チャル。お前の気持ちはわかる。転移光が赤雷だった時点でお前の行きたいって気持ちはマックスだろう。が、ダメだ」

「……わかりました」

「よし。とりあえず希望者は三人だな。……ま、なんか都合よく回されてる気がして気に入らないが──もう一人、外部からの協力者がいる。ソイツ加えて四人だ。精鋭部隊はその四人だけで行く」

「外部からの協力者?」

「ケニッヒさんは行かないんですか?」

「俺とアリアは別の入口から入って暴れまわる。通路になりそうなモンとか関係なしにぶっ壊して回るから、俺達と一緒にいると逆に危ない。加えて今回はアルバートも出るぞ。だから、思ったより早く事は済むだろうさ」

「アルバートさんも!?」

「え、帰って来てたんだ」

「あの人ナチュラルぼっち過ぎてマジ影薄いよなー」

 

 外部からの協力者も気になる所だったが、その後に出た名前の方が気になり過ぎた。

 アルバート。その名は、ホワイトダナップの奇械士ならば知らぬ者はいない──つまり、最強の名。普段はホワイトダナップの航路上に無い場所で観測される大型機奇械怪の討伐に勤しんでいるため見かけないが、たまに帰って来ては協会で賑やかにしている奇械士達をニコニコ眺めている、影の薄い人。

 

「雑談はここまでだ。リンシュ、アレキ、シーロンスは南西詰所に急いでくれ。そこに協力者がいる」

「はい」

「よし、射撃、遠距離攻撃使える奴中心に突撃班のサポート班組むぞ。近接メイン連中は外縁迎撃の時と同じ班だ。急げー」

「はい!」

 

 奇械士協会が一斉に動き始める。

 その中で、チャルは。

 

「……やれること、やらないと」

 

 何か決意を秘めて──。

 

 

 

+ * +

 

 

 

 聞いていない。

 聞いていないが、アイツのやりそうなことだ、と天を仰ぎ見る。

 

「……何が入力したくない、だ。こんなもの……視認されただけで多大なる入力だろうに。というか今は俺の番だろうが……」

 

 ぶつぶつと呟く。

 正直ホワイトダナップにはほとんどいない着流しで、長い髪をそのままにぼやいているその様は恐ろしく映るだろうが、ぼやきたくもなるというもの。

 真っ先にエクセンクリンに問い質しの通信を入れても、「私にもさっぱりだよ。どうせいつもの悪戯心だろう」との返事。虚空へ呼びかけても反応なし。ふざけている。

 

「兄上?」

「む……」

「あれ、確かアスカルティンを救ってくれた……」

「あ、ケルビマさん。お疲れ様です」

 

 奇械士と合流してソレを倒せ、と命令されて待機していたら、三人が来た。

 溜め息。そういうストーリーか、と。

 

「外部からの協力者とは、兄上のことでしたか」

「まぁ、これほどの緊急事態に盗掘者はいないからな。奇械士からはお前たちだけか?」

「はい。あ、別口でケニッヒ・クリッスリルグ、アリア・クリッスリルグ、ガルラルクリア=エルグ・アルバートが入ります」

「……ほう?」

 

 俄然、やる気が湧いた。

 聞いていない、知らされていない計画に腹を立てていたが……成程。

 フリスの元両親の強さは奴の記憶で理解している。そして何より、奇械士協会きっての「最強」。そのお出ましとあらば、俺も気合が入るというもの。

 英雄のいない消化試合が一転、まだ見ぬ最強と(まみ)えるやもしれんとなれば、刀を握る力も入ろう。……それを見越しての配役ならば、もう文句は言わん。奴の方に経験で負けた。それだけだ。

 

「リンシュ・メクロヘリ」

「あ、うす」

「お前はアスカルティンとコンビでいいな? いや、元よりそうか」

「そうですね。姉さんと私で連携取れるので、ケルビマさんとアレキさんで連携取ってください」

「兄上、力及ばずながら、並ばせていただきます!」

 

 テンション高いな。

 ああいや、先程まで面倒な気持ちに溢れていた俺と違い、それなりの決意のもと来たのだから当然か。

 ……そこまで強大な機奇械怪には見えんが、新種……であることに違いはない。ただこれが、(フリス)の手の入ったものなのかそうでないのかで話は変わる。ガロウズやフレシシであれば考える事がわかりやすいから楽なのだが。

 

「あ」

「アスカルティン?」

「ふむ。まぁ、おあつらえ向きだな」

 

 中々鋭くなったアスカルティンの嗅覚。俺の感知とほぼ同タイミングでソレを捉える。

 

「イグルスの群れ……いえ」

「なんだありゃ、タトルズか? 空飛ぶタトルズなんて聞いたことねぇぞ」

「泳いでいる、が正しいな。あの機奇械怪……ギンガモールだったか。奴の周辺に念動力の海があると考えろ。……陸亀はともかく、海亀など模してもわからんだろうに」

 

 タトルズ。基本サイキック種タトルズ。

 要は亀だ。陸亀。巨大な甲羅を持ち、鈍重かつ堅固な身体と念動力で戦う機奇械怪。それの海亀版。だが、空を征くホワイトダナップの住民では、アレを海ガメだ、と判断することは難しいだろう。生き物図鑑の類でも好きでなければ。

 

 それがまぁ、数千。数万か。

 そこそこの数が出てきている。まるで足場にしろ、と言わんばかりに。

 ……これで確定する。アレはフリスの手が入っている。奴は自分や自分の成果物と奇械士を戦わせる時、一方的な攻撃より「どうにかすれば自分に届き得る襲撃」を選ぶ。先日のキューピッドもそうだ。あんなもの、誰も届かん上空からホワイトダナップ全域に槍を投げていれば終わっただろうに、わざわざ足場を用意した。

 ダムシュでも同じく、攻撃力に富むわけでもない鳥系の機奇械怪を使っていたしな。

 

 今回もそうだ。

 奇械士側に有力な水平移動のできる機器がない事を見越して、飛び移っていける足場を用意したのだろう。

 来られなくては面白くないから、な。

 

「迎撃班! 撃ち落すぞ!」

 

 そして、まぁ、勿論それらはただの足場ではない。

 しっかりとした機奇械怪だ。しっかり人間を狙う捕食者。

 

「行くぞ。俺達の足場まで撃ち落されては敵わん」

「はい」

 

 フリスめ。

 俺にストーリーを告げなかった事を後悔するといい。お前の好きなクライマックスはまたも訪れない。あっけなく終わらせてやる。その後で、俺の実験に付き合わせてやる。

 

 ……しかし、無駄に大きくしたな。コンパクトなものを好むフリスには珍しいデザインだ。

 

 

 

 

 タトルズの背を蹴ってギンガモールに突入する。

 まぁ一刀のもと全体を切り伏せる事もできるが、流石に人間離れしているからな。今までがしていないとは言わないが、目撃者が多すぎる。自重は必要だ。

 

 さて、入ったは入ったで……。

 

「これは……!」

「おいおい、中身は動力炉だけなんじゃなかったのかよ」

「そんなわけがないだろう。機奇械怪にとって動力炉とは人間の心臓に等しい。いくら大量にエネルギーを消費するからといって、人間の中身が心臓だけになる、などということはない。自己改造の可否という違いはあれど、そこは同じだ。大切なものは奥か、もっとも取られ難い場所に置く。そうでなくとも機奇械怪にはその他の機構があるのだ、動力炉だけで」

「ケルビマさん、そこまで聞いてないです。これ、コイツの迎撃システムだけじゃないですよね」

「む? ……あぁ、収納している機奇械怪も幾らかいるようだな。というよりこれは、居住……成程、オーダー種も取り込んでいるのか」

 

 突入した場所にいたのは、地上でよく見るスネイクスやアーマードタンクといった基本種。加えて縦横無尽に動き回る有刺鉄線。時折噴き出ている蒸気も人間の肌には耐えられない温度だな。

 存外。いや、存外だ。

 フリスの奴が作るにしては、しっかりとしたつくりをしている。奴のは上位者としての力に物を言わせた超性能のものか、ちゃんと日数をかけて作り上げた素人芸術のソレであることが多いのだが。

 

「まぁいい。突撃だ。動力炉と機奇械怪以外は傷つけないよう気を付けろ。崩落しかねんからな」

 

 返事は待たない。

 正直な所、機奇械怪に用はない。こんなものが俺の障害になるわけでもなし、俺とて機奇械怪への無駄な入力は避けたい気持ちを持っている。どうせこのギンガモール諸共中の機奇械怪の破棄される運命なのだろうが。

 一応アレキを気にしても、まぁ問題ない事がわかる。オサフネの作った装備一式をしっかりと使いこなしているし、テルミヌスも問題なく使えている。懸念があるとすればリンシュ・メクロヘリとアスカルティンだが、リンシュ・メクロヘリの足りない部分はアスカルティンが完全にカバーできているので問題なしだろう。

 

「……何がしたいのかいまいち掴めんな」

 

 呟く。

 弱いのだ。

 無論、俺が苦戦する、などという事態が来るとしたら、それは相手が上位者だった時くらいで、機奇械怪の如何によってどうこうなるはずもないのだが、それにしても弱い。

 奇械士達だけで十分対処できるレベルの敵、機構しか用意されていない。そこに何故俺を呼び込んだのか、全く理解できない。

 

「兄上、リンシュ達から離れてしまっています!」

「……あぁ、少しペースを落とすか」

 

 リンシュ・メクロヘリにはああして反論したが、確かにこの規模の機奇械怪を浮かせ続けるには、動力炉が少なすぎるという感覚もある。最新世代の最も効率のいい動力炉を用いていたのだとしても、こうも長時間浮遊し、自らの周囲に念動力を展開し続けるとなると……少なくとも野良の機奇械怪には思いつかない手法を使っているはずだ。

 それに……先ほどから違和感がある。

 俺に攻撃が集中しているのだ。それはつまり、俺を最も厄介な敵として見ている、かのような。

 これが普通の生き物であれば正しいのだが、フリスの手が入った機奇械怪と考えるとおかしい。奴が試練を課すのは人間相手で、それも機奇械怪のために育ってもらいたい、という意味でしかない。俺に攻撃を集中させる理由が存在しない。

 

 考えても仕方のない事だ。

 ……いいか。終わらせれば。

 

「兄上──」

「アレキ、そろそろ自分で判断できるように、」

「後ろががら空きですよ、兄上」

 

 防ぐ。

 そのまま、念動力で掴み、壁に叩きつける。

 たったそれだけのことでバラバラになったアレキ。四肢はもげ、首は取れ。

 

 中から、ケーブルやら歯車やらと、"らしい"ものを覗かせて力尽きた。

 

「機奇械怪……?」

「ご明察です、兄上」

「……」

 

 兄上、兄上と。

 アレキと同じ声で話しかけてくる──無数のアレキ。

 

「なんの真似だ」

「さて、それは私にもわかりません」

「お前たちには聞いていない。いるんだろう、フリス。今更こんな玩具が俺に効くとでも思っているのか?」

 

 刀を振る。

 一振り。それだけで、同じ軌道の斬撃が各所に発生する。バラバラになるアレキの人形。

 

「あはは、僕からのプレゼントはお気に召さなかったかい?」

「奇械士最強が参加すると聞いて多少のやる気は出したがな。お前の幼稚な催し物に興味はない」

「それは手厳しい言葉だね。けれど、ケルビマ。次はちゃんと感知してから斬るといいよ」

「何?」

 

 どこからか聞こえてくるフリスの声は、ただそれだけで不快。その声に悦を孕んでいると感じるから。

 だが、その指摘、その言葉は──俺の耳に、うめき声を届かせた。

 

「ぅ……あに、うえ……」

「……」

 

 呻き、息を荒げながら、大量の血を流しながら──こちらに手を伸ばしてくるアレキ。

 

 くだらん。

 首を断つ。

 

「おやおや、そんな簡単に見捨てて良かったのかい?」

「くだらん真似はよせ、と言っている。今のは教団事件の時に誘拐されていた人間達の誰かだな。姿形だけアレキに寄せて、俺へ向かわせて。それが何になる。アレキの顔をしているからと、俺が躊躇するとでも?」

「あはは、可愛げがないねぇケルビマ。じゃあここで問題だ。本物のアレキはどこへ行ったかな?」

「……」

 

 感知範囲──には、いない。リンシュ・メクロヘリとアスカルティンもだ。

 孤立した。いや、させられたか。

 

「そうして、アレキの元へも俺の偽物が、か?」

「それも面白かったね」

「……何が目的か、と聞いている。上位者たる俺を巻き込んでまでやる遊びにしては、入力が過ぎるだろう」

「うんうん、よくぞ聞いてくれたね。なんとこの機奇械怪、僕が手を加えたわけじゃないんだ」

「何?」

「自然発生でもないけどね。このギンガモールは人間が造り上げた機奇械怪。性能も機構も、一から百まである一人の人間が作っている。凄くないかい?」

「……その人間に"英雄価値"を見出した、というのは理解した。それで、俺を巻き込む理由はなんだ」

「実験だよ」

 

 周囲。

 バラバラにしたアレキの人形が──組み上がり、融合し。

 また新たなアレキとなる。

 

「この仕組みでさえ、僕は関わっていない。そして実験は──」

「!」

 

 襲い来るアレキ。その一撃は、先程不意をつかれた時よりも遥かに重く。

 

「兄上……兄上、兄上! 私、もう、ずっとずっと食べてないんです……兄上、ごはん、ください」

「兄上、大丈夫ですか! 今助太刀します!」

「見えますか兄上、これがぜぇんぶ、私ですよ」

「ふふ、兄上、顔をこわばらせて……可愛らしい」

 

 首を断ったはずのアレキもまた組み上がり、立ち上がり、声を発して集い来る。

 

()の発明が、上位者に通じるかどうかの実験、だ。ああちなみに開発者から音声データを預かっている。『クク……どうだね、ケルビマ・リチュオリア。自分の身を狙ってくる無数の妹! 妹! 妹妹妹妹! 夢のようだろう! 妹ハーレムッッ! 男の夢!! ちなみに衣服の下も完全に再現してある──私の分析力を甘く見ないでくれたまえ。戦闘記録映像から裸体データを抜き取る事など造作もない』、だそうだよ。気持ち悪いね」

「……教団事件の首謀者か。お前が珍しく真面目に仕事をしたかと思えば……警察に引き渡したのは影武者だな?」

「勿論。さて、僕から君へ行う入力はここまでだ。君が上位者としてあっけなく全てを終わらせるのも悪くはないし、彼の手腕が君を抑えつけるのも悪くはない。他の面々にも楽しい事をしてくれているから、僕はそっちを見に行くつもりだ。今日はチャルがいないから、近くで見てもバレないしね」

 

 群がり、纏わりついてくるアレキを振り払い、斬る。

 本物がいないことはわかっている。いくら姿形を似せても無理な部分が存在する。それはフリスも理解しているはずだ。

 つまり、やはり、今回の作戦は一から百までその首謀者の男が考えたものである、ということなのだろう。フリスが関わっていない、しかし恐らく頭脳面では当代最強を名乗り得る可能性のある人物が手掛けた要塞。

 

「兄上、兄上」

「兄上……好きです、兄上」

「愛しています」

「兄上になら、どこを見られても……」

 

 斬っても斬っても。

 すぐに融合し、新たなアレキになる。

 これはどういう仕組みだ。そもそも動力炉が無い。肉体に機奇械怪が融合しているのは確かだが、動力炉は存在せず、代わりに心臓がある。それを両断しても、他のアレキにくっつく。

 なんだ? 何の仕組みを使っている?

 

「……どうでもいい。斬るか」

 

 周囲に本物がいないというのなら、それは好都合だ。

 斬る。この機奇械怪を、一刀で。

 

 ──だが。

 

「ああ、ごめんごめん。言い忘れていたよ。──ここから先、君の念動力は封じさせてもらったからそのつもりで。まさか念動力を失ったくらいでハンデ、になんてならないだろ?」

「同位の上位者の能力に干渉するなど、ルールを忘れたのか、フリス」

「あはは、同位だなんて思っているのは君だけだよ、ケルビマ。僕にとって価値があるのは機奇械怪の自主進化と、まぁ、人間の新規の英雄たちだけ。僕以外の上位者に価値なんか見出していないのさ。十分、十二分に、ここで潰れてくれて構わない」

「俺達上位者の誰もが問答無用になれば、人間も機奇械怪もすぐに絶滅するだろうに──早まったな」

「そういう話はこのギンガモールから脱出してから言って欲しいな。──さぁ、お楽しみの始まりだ。そうそう、君に危機感を一つ植え付けるのなら」

 

 視界を覆い尽くす、アレキ。アレキ。アレキアレキアレキ。

 機奇械怪の身体にアレキの頭だけついたものや、そのままアレキのカラダのもの、あるいは首だけのもの。それらを斬って、壊して、バラバラにしても、再度再度と組み上がる。融合する。

 

「もたもたしていると、君の大切な人まで死んじゃうかもね?」

「!」

 

 それを境に、フリスの声は聞こえなくなる。

 代わりに聴覚の全てを覆い尽くす「兄上」と呼ぶ声。同じ顔。同じ声。

 本物のアレキらしく他のアレキを俺から引き剥がそうとする者もいれば、媚びた声で、アレキが絶対に言わない言葉を吐いてくるアレキもいる。

 

 憐れではある。

 機奇械怪も、融合させられた人間も。

 自らをアレキだと思い込み──あるいは発す言葉を強制的に変えさせられて、姿形を弄られて、死んでも死にきれない運命を背負わされて。

 

 それもこれも、弱いから悪いのだが。

 

「……くだらん」

 

 足元に溜まり始めた、アレキの死骸。残骸。

 

 奴が関わっていないらしい"ストーリー"に、悪態を吐いて──刀を振るう。

 

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