終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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ちょっぴり嘘を吐く系一般融合機奇械怪

「……」

「どしたよ、アスカルティン」

「ちょっと不味いかもです」

「?」

 

 ギンガモールに入ってすぐのこと。

 違和感に気付く。いや、違和感というよりは。

 

「……閉じましたね、入口」

「はぁ!? マジかよ!」

「罠だった、っていうのは本当だったみたいです」

 

 しかも、閉じた感覚は……ただ入口が閉じた、というよりは。

 まるで、捕食されたかのような。いつかのランプリーを思い出す。あんなに弱くはないけど……これは、だから。

 

「もしかしたら、この機奇械怪……動力炉が全部なんじゃなくて……」

「っ、アスカルティン、話は後だ! 敵が来るぜ!」

 

 敵。

 ケルビマさんとアレキさんが蹴散らしていった後でも、どこからともなく湧いてくる機奇械怪達。強い種はいないのだけど、如何せん数が多い。私がこうやって理性を保っていられる時間もそう多くはないし、冷静にあれる内にコレを蹴散らして、どうにか姉さんを外に出す方法を。

 正直姉さんは足手まといだ。ヒトではないナニカであるケルビマさんと、なんかおかしな域に達しつつあるアレキさんは多分大丈夫なのだけど、姉さんは姉さんでしかない。私は機奇械怪だし。ほとんど。

 クリッスリルグの二人のように特別すぎる身体能力を持つでもなく、アルバートさん? っていう最強さもなく、人間の域を出られない姉さんに、この機奇械怪は危なすぎる。中に入ってからわかった。

 

 この機奇械怪は、ちゃんとした意思を持って動いている。

 

 ……どうせ、あの二人は放っておいても大丈夫だ。

 姉さんを連れて引き返して、ホワイトダナップに置いてくるのはアリ。

 

「一度帰投しましょう、姉さ、」

「アスカルティン! 後ろだ!」

 

 あり得ない。確かにいま振り返りはしたけれど、私の知覚機器は眼球だけじゃない。匂いで、聴覚機器で、敵の接近は気付き得る。

 だから突然、振り向かないといけない程に近づかれる、ということはあり得ないんだけど──実際に。

 ガクン、と。左足が掴まれる。そのまま、引っ張られる。引っ張られていく。

 下手人は……黄緑色の液体。

 

「動力液……ッ!?」

 

 見覚えがある。有り過ぎる。

 オールドフェイスに次ぐ第二の私のごはん。それが浸かっている液体であり、私の中にもあるモノ。

 それが、まるで意思を持っているかのように私の足を掴んで、私を引っ張って行っている。

 

 その速度は……姉さんが追い付けないレベル。

 

「ッ、姉さん! 出口見つけて帰ってください! この機奇械怪は、多分、みんなが想像しているものよりマズい──」

 

 聞こえたかどうかはわからない。

 わからないけれど、最後まで言う事は出来た。あとは音が、反響が、彼女に声を届けてくれるかどうか。姉さんが聞き分けてくれるかどうか。

 

 ……とりあえず、引っ張られるがままに引っ張られてみる。

 時折素手で床や壁に拳を入れてみるけれど、破壊することやブレーキ代わりにするのは難しそう。それくらい速度が出ているのもそうだけど、引っ張る力が強いから、下手に止まると脚部を持っていかれる。

 

 脳裏に起こされるは、ケルビマさんがつけてくれた先生二人の言葉。

 お爺さんはこう言った。

 

 ──"良いですかな、アスカルティン殿。機奇械怪の本質は増殖と自己改造にあります。弱い種であればコレに時間をかけてしまいがちですが、アスカルティン殿は違う。貴女は人間とプレデター種の融合を維持し、なんと御してしまっている。であれば、自己改造を戦場で行う事もできるはず"

 

 お姉さんはこう言った。

 

 ──"自己改造は私達機奇械怪の特権ですよぉ。私は怒られてばっかだけど、地上の機奇械怪はみーんな互いに互いの良い所を学び合って吸収しあって、どんどん高みを目指すんです。まぁ創造主はそれだけじゃ気に入らないみたいですけどねぇ。……つまり、アスカルティンさん。まず敵を分析するんです。で、敵に有効な武装を考える。また、敵の武装を無効化できる機構を考える。必要なのはそれだけですよぉ。分析分析、一個飛ばしてまた分析。よく見てください、敵を。それが貴女の寿命になりますからねぇ"

 

 自己改造。

 機奇械怪ならその全てが行えるという、自己を改造する行為。自らの身体に刃を入れ、自らを構成する要素を動かし、開発し、強靭でしなやかな、それでいて特異なものに仕立て上げていく──己が意思で行う進化。

 

 先生二人のもとで、最初にやらされたのは──自分の身体に傷をつけること。無論無暗に、じゃない。傷をつけることを一切迷わないように訓練させられた。私は機奇械怪。九割が機奇械怪。プレデター種の機奇械怪。

 

 そも。

 何故、プレデター種が同族を積極的に捕食するのか。

 それは勿論、捕食によって素材が手に入るからだ。食べた相手のパーツを体内で加工し、己のパーツにして強化を図る。

 それが今の私。病弱だった私など欠片も残っていない。今はもう、食べて、食べて、食べて。

 自己改造を覚えて、強化して、強化して、強化して。

 

 ただ、食べて、強くなることを覚えた──獣。

 

「──だから、アナタが私を食うなどあり得ない」

 

 止まる。

 止める。

 両腕を通路に突き刺して、止まる。

 

 当然脚部、腕部、肩部、腰部からギシギシと嫌な音が聞こえ始める──けど、関係ない。

 だってここ、機奇械怪の中だ。だから──そこらじゅうが食べ物であることと同義。

 まずは今突き刺した腕。片方を引き抜いて、掴んできたケーブルや配管類を口に運ぶ。今度は反対を。そうやって交互にアンカーをつけて、この機奇械怪を食べていく。

 ぶち、という音は、恐らく足の皮膚が千切れた音だろう。別に良い。皮膜(スキン)を生成する機能も獲得している。今は別だ。別に注力する。

 

 私は弱い。あ、戦闘能力の話じゃなくて、脆いのだ。材質が。

 あの時融合させられた機奇械怪がなんだったのかはわからないけれど、そこまで等級の高いものではなかったのはわかる。だって私の意思で説き伏せてしまえたし。調伏できたし。

 でもそれじゃあいけない。私は強くならないといけない。私は強い身体を手に入れないといけない。

 体内の加工スペースへ、食べた金属を運び、新たな金属繊維やフレームを創り上げていく。それを足中から足先へ運んで既存パーツと置き換え、元のパーツをまた運んできて違う武装にあてる。

 足りない。速さが足りない。

 またぶちぶちという音が響く。今度は肩か腰か、膝か。どこかの皮膚が裂けたのだろう。次第に私の下に血だまりが広がっていく。でもそんなものは人間の要素だ。捨てたって構わない。

 本物の肉を持っていなくても、見た目さえ取り繕えたらいい。冷たい金属の塊になっても、ごはんが食べられたらいい。

 

 関係ない。

 関係ない。

 ──だけど。

 

「……!」

 

 ドパァ、と。

 それは怒涛。それは大波。

 仄かに光る黄緑色の動力液が、通路を埋め尽くす勢いで私に襲い掛かる。

 纏わりつく、どころじゃない。私を埋め尽くして──引き抜いて、連れて行く。もれなくすべてがゼリーのような、固まる力を持った液体。

 

 私に肺はない。酸素なんかいらない。

 けど、これは……捕食だ。わかる。

 昔、融合させられるときに入れられた、確か、神の髄液、とか言われていたもの。だけじゃない。何か酸性のものも含まれているのか、髪や肌がずぐずぐと溶け始めているのを感じる。それは当然、私のフレームも。あと元から邪魔だった仮面も。

 

 急ピッチだ。

 さっきの素材を使い、強度から酸性耐性を持つ素材へと変えていく。目を閉じるのが遅れたせいで、右目がやられた。すぐに眼孔にたまった液体を掻きだして仮の視覚機器を生成。無骨なものだ。誰に見られるわけでもないから良い。

 痛覚など元より残っていない。神経などほとんど通っていない。九割が機奇械怪というのは比喩表現じゃない。脊髄も首も脳の一部も、私のほぼすべてが機奇械怪だ。引き戻せない場所に私は立っている。

 

 酸性耐性。

 ……無理だ。今持っている素材では、全身に適用できない。できるとしたら一部。だけど、一部でどうする。溶けだしていく身体。恐らくだけど、私はこのままギンガモールの動力炉に入れられて、動力源にされるのだろう。

 食べられる。

 何故だ。私は、食べる側だ。

 

「そう、だから」

 

 口を開けば当然、動力液が口に入って来る。

 最後の最後までとっておいた味覚器官……舌がジュウジュウと焼ける。これがないと味を感じられないので、後で再現しなければ。

 だけど。そうだ。

 だから、決まっている。

 

「たべちゃえば、いいんだ」

 

 開口して噛みつく。ゼリー状だからかみ千切ることができる。酸性耐性は口、喉、動力炉。他は今は気にしない。

 皮膚の全てはほぼ溶けた。フレームの一部も融解している。

 けれどそれが何だというのか。動力炉はまだ生きているし、口は問題なく動く。そして、敵はわざわざ私に寄ってきてくれている。

 

 味が必要だった。 

 だから、九割機奇械怪な私が最後の最後まで残していたのは、舌と味覚中枢。味が無ければ灰色だ。味のしないごはんじゃ意味がない。

 プレデター種(わたし)は私と融合して、ヒトを食して、味があることに感動を覚えたのだ。機奇械怪を食して、味がある事に驚いたのだ。

 それは今まで感じたことの無い感覚だった。血肉の味、などではない。なにか、どこか、甘美で刺激的で、それでいて一つとして同じ味のない──ナニカの味。

 

「あなたは、たぶん、記憶にあるかぎりの……炭酸ジュース?」

 

 貴女はすぐにお腹を壊すんだから、と滅多に与えられなかったもの。

 時折姉さんと一緒に出掛けた時にだけ、「母さんたちには内緒だぜ?」なんて言って買い与えてくれた、最初は口が無くなったんじゃないかと驚いた……けど、美味しかったもの。そしてお母さんの言う通り、飲んだ後は必ず腹痛になって、「リンシュ、変なもの食べさせたんじゃないでしょうね!」なんて怒られる姉さんに申し訳ない気持ちになって。

 ああ、でも。

 今は──もう、問題ない。私はもう、私で。自分で。自らで。己で己を、問題なくできる。

 

 食べる。食べる。食べる。食べる。

 食べる──。

 

 

「アスカルティン! アスカル……ティ、」

 

 ああ。

 もう少し、来るのが遅かったらなぁ。

 

 

 

+ * +

 

 

 

 兄上、リンシュ、アスカルティンとはぐれた。

 これは緊急事態だ。戦場においてこうなった場合、すぐにでも戦場を離脱し、本部に連絡を取れと叩きこまれたが──如何せん。

 

「邪魔!」

 

 敵が多い。

 そのどれもが弱いものなのに、束になることで壁になっている。

 

 リチュオリアの刀はあくまで一対一を想定している。兄上クラスになれば多対一も可能なのだろうけれど、私の今の実力ではそこに届いていない。

 届くとしたら、この刀。

 

「一つ、二つ」

 

 斬る。

 テルミヌス。この刀を持ち返った後、兄上から詳しい話を聞いた。

 この刀は念動力を切り裂ける武器。サイキック種に対抗するために鍛造された武器だと。モードについては「今のお前には使いこなせん」と言われてしまったからわからずじまいだけど、念動力に対抗できるだけで御の字だ。キューピッドを相手に何もできなかったあの時を思い返せば、刀を握る力も強くなる。

 そして、意外な所から追加情報が得られた。

 それはアスカルティン。彼女はその身のほとんどを機奇械怪にしているがゆえに、感覚でわかる、というのだ。テルミヌスの秘された機能。それは。

 

「断つ!」

 

 剪断する。

 私がかつて愛用していた刀は、その刀身を熱する事によって行う溶断だった。

 けれどテルミヌスにその機構はない。代わりに。

 

「三つ、四つ──」

 

 関節部。

 機奇械怪達の身体を埋める、配管。ケーブル。それを通る、流れる──《茨》。それがそうだと教わったわけではないけれど、わかるのだ。自分やチャルに埋め込まれたものと、本質的に同じであると。

 そしてこのテルミヌスは。

 

「五つ──即ち、首断ち。……首じゃないとこも」

 

 それを斬る。

 流れを分断する。《茨》を斬る。ゆえに、溶断こそできないものの、その硬さとこの能力を以て──機奇械怪をバラバラにする。

 効率だ。敵を動けなくするにあたって最も有効的な部位を見極め、剪断する。効率だ。動力炉に繋がる、動力炉から出ている直接の配管を見極め、剪断する。効率だ。全身の応力の集中する一点を見極め、突く。

 

 どれも効率。

 それだけで──機奇械怪は倒れる。

 

「……ふぅ」

 

 疲れはない。ただ、流石に集中力を要しすぎる。晴れていく、色を取り戻していく視界に、またもまたもと群がって来る機奇械怪に溜め息を吐いた。

 

 その時。

 

「アハハハハ! ねぇ、もっと、もっともっと! 仲間のもとに案内してよ! 食べてあげるからさぁ!」

 

 甲高い高笑い。

 テンションの高いこの声は。

 

「あぁ、溜まってる、溜まってる~! そうなの? そうなんだね? 私に食べられるために、集まっててくれてたんだ~……ありがとう!」

 

 鋼色の風。

 私に群がっていた機奇械怪が引き剥がされ、バキン、と折られるような音が響く。それは続けて、何度も何度も。基本種ばかりの集った私の周囲。残骸となった機奇械怪を含め、全てが全て、その鋼色の風に──食われていく。

 

「んふふふ~最後は~──ヒト!!」

「正気を取り戻して。それは私」

 

 防ぐ。死角からの攻撃ではあったけれど、声を出している時点で奇襲になっていない。

 存外の速さと威力に多少退いてしまったが、なんとか防ぎ切って──ソレを見る。

 

「……う」

「私? ……あ! 食べちゃいけないヒト!」

 

 両手が塞がっていなければ。防御の刀を抑えるための両手が塞がっていなければ、口元に手をやってしまっていたかもしれない。

 

 ──醜悪だった。苦しいながら、それが仲間であるとわかっていながら。

 

 金属に張り付いている、皮膚だったもの。一部に残ったそれは黒く爛れているし、そうでない場所は機奇械怪のフレームが露出している。ただそのフレームやパーツの中にも皮膚が溶け落ちていて、とても見るに堪えない。

 眼球の片方は存在せず、骨組みに支えられたレンズがこちらを覗くだけ。全身も、シルエットこそ人間だが、骨組みの位置は人間の骨とは全く違う構造で、声や言葉が無ければ即断敵として叩き斬っていたかもしれないくらいだ。

 

「あ、あー。あー。そっか、終わりかぁ。じゃあ変わるね。代わるね。えーと、えーと」

 

 姿勢も完全に四つ足の……つまり獣のような恰好で壊し殺しまわっていたがゆえだろう、新種のプレデター種と言われたら、あのチャルでさえも頷いてしまいそうな姿で、けれど可愛らしい声が響く。

 

 そして。

 

「ぅあ……」

「もーっ……ちょっと待ってねー」

 

 ぶしゅう、と肩口から噴き出てきたのは──皮膚。

 違う。あれは皮膜(スキン)だ。かつてダムシュでアモルと偽キューピッドから採取した、人間の肌のように見える皮。

 それがまず彼女の腕部を覆い、つるんとした腕を作り、そこから全身に向かって皮膜が伸びて行って……次第に少女となっていく。

 胸、腹、背。もう片方の腕。腰、足。最後に顔と、髪の毛。

 そこまで来て、獣の姿勢から足を負ってへたり込むような姿勢に変わって。

 

「あー。あー。あ、あ、あ」

「……アスカルティン?」

「あ、あ、はい。そうですそうです。あ、でもさっきのも私ですよ。別にどっちがどっちとかあんまりないんで。こっちの私は理性的だから普段表に出ているだけというか。ああいう幼稚なのも私です。ところで服とかないですか」

「突入作戦に替えの服なんて持ってくると思う?」

「ですよね」

 

 アスカルティンになった。

 もう見た目は完全にアスカルティンだ。だけど、だからつまり、本当に。

 今の今まで──彼女の中身はずっと、ああだった、ということ。ホワイトダナップで一緒にいる時も、食事をしている時も、雑談をしている時も。

 今更だけど、本当に、彼女の中身は機械だったのだ。

 

「あ、じゃあ服じゃなくてもいいんで、布ってないですか?」

「……化学繊維なら、持ってきたリュックにパラシュートが入ってる。というかリュックも布といえば布」

「それがありました!」

 

 聞いてすぐ、来た道を戻っていくアスカルティン。

 追いかけようとも思ったけど、それより早く彼女は帰って来た。リュックを抱いて。

 

「まさか、リュックを着るの?」

「いえいえ。じゃあいただきまーす」

 

 何を、と聞く間もなく──アスカルティンは、リュックを食べていく。中の飛行機械やパラシュートを取り出すことなく、ばくばくと。

 絶句している間に彼女は全てを食べ終わって、立ち上がる。

 そして──。

 

「さ……裁縫は、少し難しいですね……金属加工とはまた違う……えーとえーと」

「作れるの?」

「あ、はい。そうです。でも服とか作ったこと無くて」

「別に、ちゃんとした服じゃなくてもいいんじゃない? 今は肌が隠せればそれで」

「あー、そうですね。そうします」

 

 気を取り直して、そして。

 アスカルティンの皮膜を覆うように、リュックやパラシュートだったものの繊維が巻き付いていく。それは服というよりインナースーツのようなものだったが、それであれば彼女が元々着ていたものとそう変わらない。身体のラインは前より強く出てしまっているが、人目は防ぎ得るだろう。

 

「機奇械怪って……なんでもありね」

「そんなことないですよー? 結構不便も多いです。めちゃくちゃお腹空きますし」

「お腹と言えば、大丈夫? あなたは燃費が悪いとかなんとか聞いた覚えがあるけど」

「ああ、さっき結構補充したので大丈夫です。それに、殺した機奇械怪で補充できるので」

「成程。ああ、もしかしてそれでこの作戦に志願したの?」

「そうですね。こんな機奇械怪見たことが無かったので、どんな味がするんだろう、と。おかげでまた新しい味に出会えましたよ。動力炉、一個潰してきたんですけど、炭酸ジュースみたいでした」

「へぇ……って、一個潰した?」

「はい」

「……大手柄。私はまだゼロだし。ちなみにそこに他の動力炉は無かったの?」

「無かったですね。それに、ギンガモールが落ちる気配のない事を見るに、もっと潰して回らなきゃいけなさそうです」

 

 ずっと基本種の足止めを受けていたのが仇になった。

 競争感覚というわけではないが、兄上に並び立つのだから活躍しなければ、と思っていたのに。

 

 そういえば。

 

「そういえば、リンシュは? 一緒じゃないの?」

「あ、姉さんなら死にましたよ」

「──?」

 

 あっけらかんと。

 あっさりと。

 何か、受け入れがたい言葉を。

 

「死にました。残念ですけど、仕方ないです。この機奇械怪は姉さんのレベルじゃまだ早かったですね。ああだから、チャルさんを連れてこなかったのは正解かもです」

「死……んだ?」

「はい? はい。全身食べられて死にました」

「……そんな」

 

 何故そうも淡々としていられるのか。

 そう激昂しようとして……けれど、思い直す。

 

 彼女はもう、変わってしまったのだ。

 そうだ。血眼になって、プライドを捨ててまで妹を探していたリンシュの前で、自ら顔と声を変えて「リンシュお姉さん」なんて呼んでしまえるくらいまで彼女には配慮とかそういう類のものがない。けれどそれは多分、もう、人間ではなくなってしまったからで。

 

「あ、その一瞬出した『何も思わないの?』って顔。思いますよ、一応。薄くですけど、残念だなぁって思います。でもごめんなさい、その程度です。怒るなら怒って良いですよ」

「いえ……いい。怒ったところで、リンシュが帰ってくるわけでもないし。彼女も奇械士。死が隣り合わせなのは、承知の上だったはず」

「──……まぁ、そうですね」

 

 ここは戦場で、自分たちは戦士で、敵は人間を食べるのだ。況してやここはその敵の腹の中。

 全員が無事に帰る、なんてことは決して「いつも通り」じゃない。

 

「アスカルティン。私は兄を探したい。貴女はどうする?」

「どうするって、もしかして今から尻尾巻いて逃げ出す、とか言い出すって思ってます?」

「聞いてみただけ。……兄もケニッヒさん、アリアさんも、まだ戦ってるはず。あとアルバートさんも」

「はい。あ、ある程度なら動力炉の位置とかわかるんで、そっちに行きましょう」

「本当? なら、案内をお願い」

 

 さて──ここに誕生するは、純然たる火力のコンビだ。

 チャルには申し訳ないけれど、戦場を駆けまわって走り回って、見える機奇械怪全てを壊していくやり方は、彼女には似合わないだろう。

 

「また暴走して、私に攻撃してこないように!」

「わかってますわかってます。抑えてますから。あ、でもタガが外れたらちゃんと止めてくださいね。でないと私、アレキさん()食べちゃうと思うので」

「まったく、とんだ爆弾を……」

 

 突き進む。

 向かうは動力炉。兄上は多分、その道中にいるだろう。最悪合流できなくとも兄上なら大丈夫だろうから。

 

 

 私はチャルじゃないから。

 吐かれた嘘には、終ぞ、気付けなかった──。

 

 

+ * +

 

 

「兄上、兄上」

「どこへ行かれるのですか、兄上」

「痛い、です、あに、うえ……」

「兄上──まだまだ、終わりませんよ、兄上」

「……」

 

 視界を覆うアレキだけを殺し、後は放置するようにしてから小一時間。

 ……どうにもこの部屋には、出入口というものが存在しないらしい。俺が入ってきた場所もいつの間にか閉じられてしまっている。

 ならば叩き斬ってやると本気の一撃を叩きこんでみるも、なんとこっちが弾かれると来た。フリスの手が入っていないとのことだが、恐らくフリスの提供した、俺の筋力を越える耐久性能を持つ鉱石が使われている事は伺える。間接的な手助けは「手が入っていない」の範疇だ、ということだ。子供(屁理屈)か。

 

 切稜立方体に近いこの空間だが、既に床の半分以上がアレキで埋まっている。

 というのもこのアレキ、融合限界があるようなのだ。何度も同じアレキを破壊してみたところ、一定回数で完全に動かなくなる。未だ仕組みの程は計れていないが、法則さえわかればこっちのものだ。

 アレキの攻撃はどの道俺に傷一つ付けられないし、妹の姿をしているからと言ってその死骸を踏むことになんら躊躇いはない。

 

 ゆえに当面の問題は出られない事、それだけだ。

 念動力は封じられているが、果たしてあったとしてこれを斬れたかどうか。恐らくフリスが封じたかったのは念動力の方ではなく転移の方だと推測している。俺に逃げられないようにするために。まったく回りくどいことをする。

 

「……いや、そうか」

「兄上? どうかされたのですか?」

「座り込んでしまって、兄上。諦めたのですか?」

「私の愛をとうとう受け取ってくれる気になったのですね、兄上!」

「甘美なことをしましょう。全てが忘れられるような、甘美な時間を」

「兄上、好きです!」

 

 座り込む。

 当然アレキが群がって来るが──振り払わない。

 

 すると、アレキの上にアレキが、その上にアレキが。

 どこから現れているのかは知らないが、明らかに元いた量より多くアレキが群がって来る。

 

 これでいい。

 これで、待っていれば。

 投入され続けるアレキがこの部屋を破裂させるだろう。

 

「兄上、兄上。キスしましょう兄上」

「兄上、この部屋から出ましょう。危ないです。危険です」

「この部屋から出たいですか、兄上。私も出たいです」

「痛い、潰されてしまいます、兄上。たすけて」

「兄上──」

 

 やかましいが、それだけだ。

 俺は機奇械怪ではないので聴覚のシャットアウトなどはできないが、無視すればいいだけの話。まぁ、アレキがこの部屋を埋め尽くし、破裂するのがいつになるかはわからないが──既に半分なのだ。もう一時間くらいで満杯になるだろう。

 

「兄上」

「……」

「兄上、話をしましょう。──ある神と使徒の話を」

「なに?」

 

 思わず反応してしまった。

 終わるまで黙して待つつもりが、その言葉に。

 

 使徒。それはかつて、聖都アクルマキアンで、上位者を指していた言葉だ。

 

 声は群がって来るアレキの外。

 少し離れた所から聞こえる。

 

「申し訳ありません。脳を弄られているので、あなたのことは『兄上』としか呼称できない事をお許しください」

「……構わない。続けろ」

「ありがとうございます。──私は実験体一号。そして成功例一号でもあります。南部区画に隠れ、身を潜めていたところを使徒に連れ去られ、ここにいます」

「……そうか。アスカルティンだけではなかったか」

「はい。申し訳ありません。こちらも脳の都合上、自らの名を『アレキ』としか発声できません。故に私のことはお好きにお呼びください。──私、アレキは、ミケル・レンデバランによって造られた人間を素体とした融合種の成功例です。そしてあの夜、兄上に助けられた者でもあります」

「お前が……そうだったのか」

「申し訳ありません。折角お救い頂いた命、こうして捕まってしまい、無駄にしました」

「……良い。というより、お前の身の上話に興味はない。使徒の話を話せ」

 

 憐れに思う。

 弱きことは、それだけで罪だ。

 まぁ──フリスの、あるいは首謀者の罠にまんまと嵌っている時点で、俺も罪ありし者なのだが。

 

「私はルバーティエ=エルグ・エクセンクリンの娘です」

「──ハ」

 

 ハ、ハ、と。

 短い笑いが漏れる。

 ……あいつは何をしているのだ。仕事にかまけるあまり、人間に子を攫われるとは。さてはて、ではフリスはエクセンクリンも敵に回したか?

 

「彼が……父が残した、研究資料。空の神フレイメアリスについての考察。兄上。貴方が使徒であると判断し、之を伝えます。私の勘違いであれば聞き捨ててください」

「いや、俺は使徒であっている。……そして、フレイメアリスの研究と言ったか。エクセンクリンがそんなことをしていると」

「はい。使徒たる父は数世代に渡ってフレイメアリスについての研究をしています」

「……フレイメアリスは架空の神だ。だが、その言い方から察するに……」

「察するにとどめてください、兄上。言葉にすれば、観測されます」

「承知した。続けろ」

 

 兄上、兄上。

 群がって来るアレキの喧しさが遠のいていく。

 まるでここにいるのが、俺とエクセンクリンの娘だけであるかのような感覚に陥る。

 

「空の神フレイメアリス。彼の神は、確認されている使徒や他の神とは違い、突然現れた神です。私達をどこからか見ている"目"。それが遣わした使徒。この惑星メガリアにはそれが、まるで『TOWER』かのように等間隔で配置されていると父は書いていました」

「……NOMANSのTOWERか。成程」

 

 ダムシュでフリスが組み替えたTOWER。

 アレはもともと、滅ぶ前の人類が使っていたNOMANSという会社の機械類、それに命令を送ったり、それから報告を受けたりするための送受信塔だった。ゆえに各地にあったのだ。

 

「けれどフレイメアリスは違います。どこにでも現れて、けれど当然のように迎え入れられ、当たり前のように輪に加わって──いつの間にかいなくなっている。また、フレイメアリスを受信した使徒はどこか変調を来し、使徒ではいられなくなる、とも」

「……」

  

 使徒ではいられなくなる?

 ……それは。

 

「──申し訳ありません。もう少し話していたかったのですが──限界です。脳の侵蝕率が閾値を超えました。最後に、父エクセンクリンが遺した言葉を。『これを見た上位者の誰かよ。すまない、私はもう彼を疑えない。だから、託したい。フレイメアリス。彼の神は決して私達と同じ存在ではない。決して、決してだ。友好的に見えても、敵対的であっても、決して同列の存在ではない。あれはもっと別のナニカだ。気を許すな。隙を見せるな。そして、底を見せるな。全力を見せるな』……ぅ、ぐ」

 

 ガコン、と大きな音。

 

「ふ──ぅ、『見限られるな。フレイメアリス。あれこそが、本物の』。──この言葉を境に、父はフレイメアリスの名を……、口に、しなくなりました。そして、お別れです。このままでは私アレキは……ッ、本当に、アレキに、なってしまうので──自爆を敢行いたします」

「……そうか。ご苦労だった」

「はい。また、この自爆はこの部屋に風穴を開け、使()()()()()()()()()()()()()。しっかり防いでください」

「何を馬鹿な」

「そう自己改造いたしました。──では」

 

 あり得ない。

 だが、武人としての勘が言う。

 不味い。

 アレは──通じる。人間が、上位者に牙を立てる。まさにそのための武器だ。わかる。肌が粟立つ感覚など、一体いつぶりか。

 

「さようなら、兄上。助けて頂いた貴方の名を呼べなかった事。私の名を教えられなかった事。全てが悔いです──どうかご無事で」

 

 瞬間。

 世界が、白に包まれる──。

 




TIPS

NOMANS
 世界が滅びる前に存在していたサービス会社。社名と同名の便利な機械類NOMANSを発売・貸出していた。
 空歴2355年には全世界の電化製品におけるNOMANSのシェア率が100%になっていることから、非常に愛されていた、また便利なことこの上無かった製品・会社だった模様。
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