終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
花束を投げる。
個人のもの、ではなく、共同の墓地へ。そも、このホワイトダナップに個人用の墓地など滅多に存在しない。
気に掛けている、と周囲に告げていた者がいた。アレキやチャル・ランパーロではなく、奇械士ですらない、ルイナードに住んでいたある女性。
フリスが発した言葉は、本当だった。それがフリスの手によるものなのか、偶然かはわからない。
わからないが──彼女は死んだ。
タトルズの南部区画襲撃。それにより、大勢と共に死んだ。
「……ロクな感傷も持てんとは。不便なことだ」
弱きは罪で、俺は断罪者。
断罪者は罪人に余計な感情を持たない。刃が鈍るから。
それが俺に入力された、過去の武人の数値。その通りに生きてきて、その通りに刀を振るってきて。
今更だ。
「恋人ですか?」
──……背後を取られた?
何者……。いや、武人の気配ですらない、脆弱な……弱すぎてわからなかっただけか。
「どう、だろうな。少なくとも俺はそうだとは思っていなかったし、奴も……そう思っていたかどうかは怪しい」
「そんな関係性なのに、花を?」
「さてな……。理性も本能も、気に掛ける意味はないと言っているのだが……来なければいけないと、何かが強く訴えて……。まったく、難儀なことだ。はじめに不要だと切り捨てたものが……今になって、羨ましく思えるなど」
来る気は無かった。
死者への手向けなど何の意味も為さない事を、俺達は良く知っている。墓地に魂など存在しない。遺骸を運んだ時点で、魂は肉体から離れる。完全に死ぬまでは留まり続けるソレも、運びだし、焼き、こうして埋めてしまっては……何の意味もない。
だから、彼女の死を知って。
ただ「そうか」と終わらせるつもりだった。
きっかけは、エクセンクリンだ。
奴が自らの娘の死に対し、狂うような怒りを見せた事。
──俺はアレを、素直に羨ましいと思った。俺は多分、たとえアレキが目の前で死のうと、あのような感情はもてない。ただ「死んだか」と事実確認を述べるまでだ。勿体ない、とは思うのだろうが。
それを……エクセンクリンは、ああも感情を荒らげて。
羨ましい。何者かの死に対し、感情を荒げる事。それを感じてみたくて、彼女が死した事を再確認するための墓参りに来たが。
「結局俺は、彼女の事を……好いてすらいなかったらしい」
「そんなことはないですよ」
「……慰めか」
「いいえ。ボクにはわかります。アナタは、好こうとしていた。好きという感情を知らないアナタが、それを斬って捨ててしまっていたアナタが、こうして墓地に来てソレを取り戻さんとするくらいには、アナタは変わろうとした。それは、アナタがその方を好きになりたかったからです」
好きになりたかった。
笑いが零れる。互いに互いの名も知らない、ただ時たま会って近況を聞き合うだけの間柄。
──あぁ、しっくりくる。
「……ボク、家族がいないんです。両親も兄弟も姉妹も、気付いたらいなくなっていた」
「死んだのか?」
「いえ……いるにはいるんです。ちゃんと、この姓に見合った家族がいます。けどね、それは本当の家族じゃないというか……顔も名前も思い出せない、ボクの、ボク自身の家族がいたはずなのに、いつの間にか家族はいなくなっていて……今の家族だけがいた」
要領を得ない話。
あるいは孤児の類か? 幼少に誘拐され、親が殺され、どこかに引き取られた。そんな風に聞こえるな。
「そんな中で、唯一。好きな人だけは残っていました。いや、変わっていなかった、が正しいかな」
「……だが、墓地に来ているということは」
「あ、いえ、その方は存命です。今回来たのは、仲間が死んでしまったからで」
「そうか。失礼を言った」
「いえいえ」
やはり、誘拐された説が濃厚だな。
その者だけ死んでいなかった。そういう話か。
……誘拐。本当に、ホワイトダナップも堕ちたものだ。かつては……いや、入力された記憶で当事者ぶるのはもうよそう。
「ボクね、その時思ったんです。守らなきゃ、って。この人は、この人だけは、かつてのボクを知っている。多分この人がいなくなってしまったら、ボクは本当に昔の家族を忘れてしまう。ボクがボクじゃなくなってしまう」
「まるで楔だな」
「多分、そうです。ボクは勝手にその人を楔にして……縋っている。今も。最初はただ好きな人というだけだったのに、身の回りの環境が変化して、こういう不純な動機を抱くようになって」
「不純?」
「だってそうじゃないですか。ただ好きである、という感情なら……純粋だ。でも、他のみんなを忘れたくないから守りたい、なんて」
あまり要領を得ないし、具体的な言葉を零さんから詳細が推し量れないが。
……まぁ、この場にいたのがフリスではなく俺で良かったやもしれんな。
「俺は守護の意思を不純だ、などと思った事はない」
「……」
「
だから人間は喪失を恐れて強くなる。
あるいはそれを愛と呼ぶこともあるのだろう。決意と呼ぶこともあるのだろう。
英雄とは、もっとも喪失を恐れる者達の名だ。俺はそれを知っている。
「心から羨ましい。俺は……喪失を前に、身を掻き抱くような恐怖を覚えたことが無い。たとえ彼女であっても、家族であっても、友であっても……死んだのなら、それは弱いからだ、としか思えない。弱い事は罪だと、本能も理性も意識も肉体も、何もかもがそう断言する。俺は
俺は、フリスから彼女の危機を知らされて──尚。
あの部屋がアレキで埋まる事を。つまり、待つことを選んだ。全力を出しても破れないと知ったから、これ以上は意味がないと……効率が悪いと判断し、座すことを選択した。
結果的には、あのエクセンクリンの娘のおかげで早く出る事に成功したが、それがなければ俺は、ずっとずっとあの部屋にいたことだろう。
気に掛けている者の危機を知り、焦り、通常時よりも強い力を引き出す。その場で成長を行う。
そういった行為を選べなかった。その時点で、俺は。
「……なんだか哀愁背負ってる人がいたんで、思わず声をかけてしまっただけなんですけど……慰められてしまった。ふふ、ありがとうございます、名も知らぬ方。……だから、ボクからも一つ、助言を」
「助言?」
「はい。──大切だとわからないままそばにいることより、失ってから大切だと気付く方が、ずっとずっと苦しいです。アナタが喪失の感情を理解できないというのなら、感情を知る先達として助言し、忠告します。失ってもいい、なんて考えないでください。あるいは、失いたくないと考えて、死力を尽くして──けれど失ってしまった時。アナタは、喪失の感情を知り、そして激しい後悔を覚えるでしょう。こんなものは知らずにいればよかった、と」
「……そのような日が俺に来るとは思えんが」
「大丈夫です、と言ったら変ですが……ボクの言葉、そこそこ当たるんですよ。六割くらいの確率で当たる未来予知です」
「信用ならん確率だな……」
喪失。
誰を。何を。
「あ、そろそろ行かなくては。では、これにて。名も知らぬ方、またどこかで会う事があれば、その時はよろしくお願いします。ボク、こんなでも奇械士なので、市街で会ったらサボってまた雑談しましょう」
「務めは果たせ」
「ふふふ、冗談です。──それでは」
言って。
消える。……消えた。
素早く動いた痕跡はない。概念化したわけでもない。気配もない。
……なんだったのだ?
「だが、何故だろうな。不思議と……悪い気分ではない」
六割の確率で、俺は喪失の感情を得るらしい。
……ならば四割を引こう。実験は終了していない。まだ、俺の身の周りのものが死ぬのは勿体ない。用意の時間だって無限ではないのだ、これほど状況が揃っている事も珍しいからな。
空の神フレイメアリス。
さて──断罪の剣は、神殺しになり得るのか。
「修行しよう、アレキ」
「?」
「? じゃなくて。修行だよ修行。修行しようアレキ」
「ありゃりゃ。ギンガモール討伐戦に置いて行かれたチャルさんが、熱血に変わってしまうとは。これはケニッヒさんの罪重いですよ~」
「俺かよ。つかこっち巻き込むな。女子トークに入れる程俺のキャパは広くねぇんだよ」
「あー、ケニッヒ浮気してるー」
「してねえ。俺はずっとアリア一筋だっての」
「うわぁ、真顔で言いますもんね、ソレ……」
「ランビちゃんはいないんですか? 好きな人とか」
「いやぁ……いないですね」
「今溜めがあったあたり、思い当たる人はいるのね?」
「へぇ、ランビも色気づいたもんだな」
「ちょっと、セクハラですよケニッヒさん!」
「ケニッヒさんの事とかどうでもいいんで、聞かせてくださいランビちゃん。その方、どういう人ですか!」
「あ、ぅぅ……その、年下で……」
「年下! 何個ですか!? 10個とかですか!? 禁断の愛ですか!?」
「シーロンス、お前そんな奴だったか?」
「そりゃ、シーロンスちゃんだって女の子だし。恋バナには興味津々なんじゃない?」
「そういうものか」
賑やかな奇械士協会。
シフトの入っていない、巡回当番にない奇械士達が、ロビーのソファできゃいのきゃいのと騒いでいる。
特段何か用があるわけではないが、外にも用事がないため、こうして溜まり場のように奇械士達が集まって来るのだ。
「アレキ。修行しよう」
「チャルさんが修行しようbotになってしまっている……」
「わ、わかった。修行するのはいいけど、なんで、というかどこで、というか、何、訓練場行きたいの?」
「私も落ちる瓦礫を蹴ってぴょんぴょん跳ね回りたい」
「あー」
「それは無理かと」
「諦めろ、チャル」
「修行如何でどうこうなる問題じゃないですからね……」
「それなら、ボクと共に修行の旅へ行くかい?」
「行きます! って、え?」
皆が振り返る。
そこに、いた。
見るからに弱々しい青年。優しい顔の、優しい声の、「やぁ」なんて言って片手を上げている人。
「アルバートさん! 帰って来てたんですか!? いつの間に!」
「ランパーロさんが『修行しよう』って言ってたあたりからいたよ」
「全然気付かなかった……」
ここには匂いで周辺域を探れるシーロンスも、何かに至りつつあるアレキも、鋭い勘を持つチャルも、そして未だ成長期な三十台の二人もいる。
それらをして、誰も。
「ふふふ、……そんなに影が薄いかい、ボク」
「あ、はい。びっくりするほどに」
「うーん、気遣いゼロだねぇ。シーロンスさん、だっけ」
「気遣ってほしかったんですか? 私、自虐する人はツッコミ待ちだ、って習ったので」
「死ぬほど厄介そうな先生を持ったね」
また雑談に移行しそうな空気。
それを断ち切ったのは、チャルだった。
「あ、あの! 修行の旅ってなんですか?」
「ん。読んで字のごとくだよ。ボクは普段、ホワイトダナップの航路上にいない、所謂普通の討伐対象じゃない大型機奇械怪を倒して回っている。それに付いてくる気はないかな、って」
それは。
ソレが、どれ程危険な旅か──わからない者はいない。そんな軽く誘っていい内容でもない。
「強くなりたいんだろう? 埒外の身体能力を得たいんだろう? なら荒療治が手っ取り早いからね。ボクが修行を付けてあげるよ」
その提案に──チャルは。
「行きます!」
元気に、返事をした。
「エクセンクリン。折り入って相談があるんだ」
「はあ。あのね、フリス。仕事をしていない君にはわからないと思うけど、私には時間というものが足りないんだ。先延ばしにすればするほど家族と会う時間が減る。先日は娘と妻とあまりにも暖かな一時を過ごせたけれど、ここからあと百四十四日、私はまた連勤が決まってしまった。もう伸ばしたくないんだ。わかってくれるかな?」
「折り入って相談があるんだ」
「……早くしてくれ。私の仕事を増やすような事じゃなければ少しは協力するから」
「うん。実はね、チャルとアレキとアスカルティンがホワイトダナップを離れる事が決まったんだ。僕はそれに付いていきたい。けど僕が近付くとチャルは勘づいてしまう。どうにかして彼女に気付かれず、彼女たちの旅に同行する方法を考えたい。でも僕の頭じゃ考えつかない。そこで君だエクセンクリン。君の頭脳を貸してほしい」
「……この間私の言葉を完全に封殺した事を忘れたらしい。はぁ。……ん? けれど、つまり」
エクセンクリンは唐突な相談に、その思考を高速で巡らせる。
そう、つまりだ。
「つまり──ホワイトダナップから、君がいなくなる、ということかい?」
「そうなるね。寂しいかい?」
「いや! いや! そんなに素晴らしい事はない──そうだな、待ってくれ。すぐに案を出そう。そうだな、そうだな……そうだな!」
「嬉しそうだね。僕がいなくなるというのに」
「君がいなくなって嬉しくならない奴がいるのかい!?」
酷い言われ様に、フリスは《茨》でつくった涙をえぐえぐと流す。とんだ嫌われ様だ。あまりに自業自得であるが。
「第一の案だ。アスカルティンの中に潜む、というのはどうかな」
「いや、勘づかれるよ、それも。チャルの鋭さは君も体感したばかりだろう」
「そうか。そうだね。あの子の瞳は……そうだな、じゃあ、じゃあ」
「考えつかなかったら潔く諦めるよ。まぁ、『修行パート』はダイジェストでも構わないからね……」
「いや! 絶対に考えついてみせる!」
「……エクセンクリンがやる気になってくれて僕は嬉しいよ」
そうしてエクセンクリンは、第二、第三、第四、第五、第六の案を出して……そうして、第七の案で。
「それだ」
「うんうんうんうん。我ながら素晴らしい案にしか思えなくもない──さぁ出て行こうフリス。ホワイトダナップから今すぐに。欲しいものはあるかい? あるなら今すぐ手配しよう。うんうんうんうん、うんうんうんうん!」
「欲しいものかぁ。……うーん、じゃあ」
「やぁ、来たね」
「はい! アレキ・リチュオリア、チャル・ランパーロ、シーロンス。全員支度を終え、準備完了いたしました」
「うん。けど、ごめんね。ボクと君達だけで行く、というのは無理になった。奇械士協会本部……というより政府からの監視者が付くんだってさ。シーロンスさんが政府からの派遣奇械士だから、らしいけど」
「あ。確かに、私の預かりは政府でした」
「そういうことで、彼がボクらの旅に同行するよ」
紹介される形で、三人の前に出る。
見定めるようなアレキの目。首をかしげるシーロンスの顔。
そして──何か違和感を覚えている、チャル。
やっぱり別の肉体でも騙しきれないか。凄いな、本当に。
「紹介しよう。政府塔の科学開発班で働いているフリス・カンビアッソさんだ」
「え、フリス?」
「フリス……」
「初めまして、お嬢様方。僕の名はフリス・カンビアッソ。皆様の武器の調整や装備のメンテナンス、及び開発などを担当します。また、機奇械怪のデータに関する事であればお任せください。生きるライブラリとして、それ以上の知識を提供いたします。また、監視者として派遣されはしましたが、お嬢様方のやり方に口を出すことはないのでご安心を」
そう。
エクセンクリンが無い頭絞って搾り出した第七案。
──どうせバレるなら、初めからフリスって名乗っておけばいいんじゃないか作戦。これにより、たとえ彼女らが僕に違和を覚えても、フリスという名前から重ねてしまっているだけだ、と自己完結してくれる。
「初めまして!」
「あ、初めまして……よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします、カンビアッソさん」
とりあえずチャルにだけは違和感を覚えられながらも、掴みはオッケー。何かバレていたらアレキ辺りが斬りかかって来るだろうし。
それじゃ、と飛空艇に乗り込む。
「それと、シーロンス。ホワイトダナップ外部でなら隠す必要はないとのお達しです」
「あ、本当ですか? わかりました」
「何の話だい?」
多分二人も面倒だろうから、この軛は解除。
いやー、久しぶりの肉体。いいねー。あ、発着場にケルビマ。見送りにきてくれたのかな。なんか刀向けられてるけど。おお、フレシシとガロウズもいるね。とても嬉しそうに手を振っているのは見間違いなんだろうなぁ。
ちなみに付いていきたいと言っても特に何かするわけじゃない。いつも通りの無計画だ。ただホラ、僕の見ていないところでアスカルティンが暴走して全員食べちゃうとか怖いし。
何より、やっぱりチャルだよね。彼女が僕の見ていないところで成長するのは……うん。ヤだ。その価値は、決して見逃してはならない。
テルミヌスの開発もしなきゃだし。
「改めまして、アルバートさん。私の本当の名はアスカルティン。アスカルティン・メクロヘリと申します」
「……メクロヘリ。そうか、君がリンシュさんの」
「はい。妹です。後に話しますが、のっぴきならない事情があって顔と声を隠していました」
パンプキンの仮面を取ったアスカルティンが微笑む。
彼女、典型的なアルビノの症状なんだけど、日光のもとに晒されても平気だったあたり、機奇械怪との融合でああいう容姿になったのかな。その辺もじっくり調べたいところだ。皮膚はもう皮膜なんだけどね。
それに、アレキ。
武装も揃えて、何よりケルビマに憧れたか……どうやら、過去にいた英雄たちの域に辿り着きつつある。うんうん、まずは前提条件がそこだよね。そこから彼女がどう変わるか見物だ。
そして。
「そうか。じゃあ、改めてボクも自己紹介しよう。ガルラルクリア=エルグ・アルバート。偉大なるエルグの末裔にして、ガルラルクリアの長子。そして、ホワイトダナップの奇械士最強を名乗らせてもらっている影の薄い人だよ」
「アレキ・リチュオリアです。リチュオリア家が末裔で、罪びとを裁く剣を持ちます」
「チャル・ランパーロです! ……えーと、ランパーロ家に特になんかすごい事ないと思うけど、頑張ります!」
自己紹介はこれで終わり。
いや、いや。
でも、本当に楽しみではある。旅なんてしないからね、僕。基本的にはずっと同じ場所に留まって、人間達の中から価値を見出して、眺めて、時折試練を課して、余程のモノを見つけたら機奇械怪へ向くよう働きかけて。
だから旅なんてしている余裕が無かった。それを……いいね。
何より、このガルラルクリア=エルグ・アルバート。
僕に言った、僕をしてフレイメアリスと名指し、まだまだ知らない事がある、なんて豪語した存在との旅だ。
良い。
「それと、一応聞いておきたいのだけど、フリスさん」
「はい、なんでしょうか」
「君は戦えるのかな?」
「──全く」
「素直でいいね。じゃあ彼を守る事も修行の一つだ。いいね、君達」
「はい!」
新たな肉体を得ようと、僕に武人的才能がないのは変わらない。武術とか、意味わかんないし。剣振り回すのでよかったらできるよ。あと念動力でぶちゅっとかならできるよ。
しかし、そう考えるとこのパーティ、武人多めだね。アルバートのそれが武術なのかはわからないけれど、アレキは完全にそうだし、アスカルティンは野性的ながらケルビマから勝手に盗んだらしい武術を使える。
一般人は僕とチャルだけかな?
「あの……カンビアッソさん」
「あぁ、名前でいいです。フリスで構いませんよ。まぁ初対面の男性を呼び捨てにするのは抵抗があると思うので、敬称は任せますが」
「ぁ、う……」
「ごめんなさい、カンビアッソさん。私とチャルにとって、フリスという名は強い意味があるので……カンビアッソさん呼びではダメですか?」
「問題ありません。それで、何か用でしたでしょうか、チャルさん」
これも織り込み済み。
フリス、とは呼べないだろう。そして呼べないということに関連付けて、彼女らはどうしても重なってしまう僕とフリスを無理矢理分けて考えるようになる。それこそが狙いだ。
そんなわけがない、と考えるからこそ重なり、重なるからこそあり得ないと自分で否定してくれる。
僕は死んだ。フリスは死んだ。あるいは幽霊となって彼女を見守っているのかもしれないけど、肉体は死した。それを早々に覆せる彼女らじゃない。
「あ、はい。さっき、その、武装を開発できる、と言ってましたよ……ね?」
「可能です」
「なら、私もアレキ達みたいな、ぴょんぴょん跳ねられる靴とかを……」
「あ、ダメ。チャル、これは危ないんだから」
「そうですよチャルさん。あなたの肉体でぴょんぴょん飛び跳ねるには負荷がかかり過ぎます。というか、それを鍛えるための修行なんですから、近道はダメ、じゃないですか?」
「う……そうでした。ごめんなさい、忘れてください」
「はい」
ふむふむ。
やっぱりチャルは劣等感を酷く感じてしまっているね。
まぁ、そりゃそうか。アリアにケニッヒにアレキにケルビマにアスカルティン。リンシュ・メクロヘリもそこそこの身体能力があって、その中で自分一人がただの少女。まぁアレキがかなり特殊なんだけどね。チャルとほとんど奇械士暦が同等でありながら、元からトレーニングしてたから強い、なんていうのは。
そうだね、同世代で、同じくらいの身体能力の人がいなかった、というのは……まぁ、焦りを生むのもわかる。僕は感情のプロフェッショナルなのでこの程度簡単にわかるんだ。
「ランパーロさん」
「は、はい」
「僕は戦闘が出来ませんが、物を作ることができます。恐らくこのメンバーの中に、こういう武器などを作ることができる方はいないでしょう」
「あ、私がモゴモガ」
「……そういう事です。得手不得手は簡単に埋められるものではなく、現時点で焦った所で手に入るものでもありません。ただし、学習と成長、鍛錬は何事においても成果へと繋がります」
ま、繋げられない人間はごまんといる。そういうの凡夫って言うんだけど、チャルは違う。アレキも違うようになった。アスカルティンはもう完全に違うし、アルバートは……うーん?
なんにせよ、チャルは努力の才を有している。僕が見初めた"英雄価値"は今なお一切の翳りを見せていない。
「報告は聞いています。貴女はその銃を手に入れ、突然奇械士としての力を得た。それゆえに、少しずつ強くなる、少しずつできるようになる、という感覚をまだ得ていないのでしょう」
「あ……」
「問題ありません。大丈夫です。貴女は貴女としてある事で、ただそれだけで、強くなれます。……と言っても戦闘のできない僕じゃ説得力になりませんが」
「い、いえ……ありがとうございます。そうですね、私、ちょっと……焦ってました」
努力ができるのは才能だ。けれどそれだけじゃ凡人だ。
努力を成果に繋げられて、ようやく一端だ。でもそれでもまだ凡夫だ。前のアレキみたいにね。
努力をして、成果へ繋げられて、更にその先をこじ開ける。
それが出来るのが英雄だ。
そして、そうやって手に入れたモノは必ず特異だ。たるんだ機奇械怪を目覚めさせるような、物凄い、こう、うん。凄い奴。
「お優しいんですね」
「科学班にも毎年こうやって伸び悩む新人が入ってきますので」
「成程。でもボクには、違う執着も見えたような気がしました」
「……? 気のせいでは?」
「そうだったみたいですね。失礼しました」
こっわ。
うわ、もしかしてアルバートも何か目を持ってる? 見透かす系二人は流石に聞いてないなぁ。これ、途中でバレて殺される可能性大。そしたらもう幽霊みたいに化けてでてやろうか。そのまま憑りついてやろうか。
「私もものづくりできます!」
「あ、コラ!」
「あぁ、先程何か言いかけていたと思ったら、それでしたか。まぁできるでしょうね、貴女は機奇械怪ですし」
「はい! 加工から最近は裁縫の類までできるようになりました!」
「あ、ちょ」
「……」
アレキが口を塞ぐがもう遅い。
アルバートは。
「あぁ、やっぱりですか。何か変な気配だな、とずっと思っていたのですが、それなら納得です。あ、大丈夫ですよ。ボクは機奇械怪だからと言って差別とかしないので。それにほら、前にメーデーと名乗っていた方がいたでしょう。あの人も半分くらい機奇械怪でした。政府からの派遣奇械士は大体そうなのだと考えていますから、そこまで焦らずとも大丈夫です」
「ええ、どの道言う必要のある事だと思っていたので、開示させていただきました。アスカルティン、お腹が空いたら僕に言ってください。オールドフェイスの在庫を渡しますので」
「やったぁ!」
そういえば、チャルはあれからオールドフェイスのオーバーロードを使っているのだろうか。
使う機会というか、オールドフェイスに接する機会が無さそうなものだけど。
「世界共通硬貨が必要なのかい? それならボクもいくらか持っているよ。地上にいると、たまに拾うことがあるんだ」
「……世界共通硬貨の名を知っているとは、驚きですね。その名はもう失われているのですが」
「昔、二人の旅人に出会った事があってね。その二人から色々聞いたんだ。あぁ、ボクに機奇械怪への偏見が無いのは、その片方も機奇械怪だったから、だね」
古井戸とピオか。
……でも、どこかそれだけじゃないような感じもするね。ガルラルクリア=エルグ・アルバート。軽く経歴を調べた限りでは怪しい所は無かったけど……ふむ?
ちょっと、試してみるのもアリかな。
「そろそろ地上に着く。そうしたら、そこから徒歩だ。最初に話した通りね」
「はい!」
「ちなみに目的地はあるのでしょうか?」
「うーん、まぁ、とりあえず大型機奇械怪を見つけたら壊していくのと、ここから一番近いラグナ・マリアへ向かおうとは思っているよ」
「成程」
ラグナ・マリアか。
……えーと、あそこにいる上位者は、と。
「あ」
「む……」
「ん」
「カンビアッソさん、下がって!」
言われるままに退く。
地を揺らし、地中を掘り進んで出てきたのは──基本ハンター種『サンド・スネイクス』。今の僕の肉体は完全に人間のものだからね、さぞかしこの集団は美味しそうに見える事だろう。普通ハンター種はプレデター種に近づかないものだけど、それじゃあ修行にならない。なので、アスカルティンの皮膜にプレデター種から発される微弱な信号を遮断する仕組みを組み込ませてもらっている。
つまり、寄って来放題、というワケ。
「アハ──」
「チャル、アスカルティン! 動力炉は尾にある!」
「わかった! アルバートさん、カンビアッソさんをお願いします!」
何も聞かずに飛び出したアスカルティンと、静かにテルミヌスを構えるアレキ。そして駆けだしたチャル。
「うーん、フリスさんを守るのも修行だと言ったばかりなんだけど……置いて行かれちゃいましたね」
「その辺りは追い追いでしょう。どの道あなたが出てしまっては、修行にならないのでは?」
「確かにそうだね」
そんな感じで。
僕とチャルと他の、楽しい楽しい旅路が始まったのである。
TIPS
家名について
ホワイトダナップにおける名前は、基本的には
名・姓
となっているが、一部の最高等級の貴族だけは
姓=始祖・名
という構造をしていて、そこから零れた者が
姓・名
の構造を持つ。
作中では榊原ミディットなどが該当するが、この構造の名は没落したことを表明するようなものなので、人前では名・姓で名乗りかえている家も少なくない。