終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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無理矢理力を与える系一般上位者

 機奇械怪(メクサシネス)には原種と呼ばれる五種が存在する。

 積極的に敵を狩りに行くハンター種、テリトリーを作ってその中に入って来た敵を迎撃するプラント種、他の機奇械怪をより積極的に捕食するプレデター種、他の機械を統制するオーダー種、そして転移や念動力などを扱うサイキック種。

 僕が最初に作った機奇械怪五種であり、そこから基本種、特異種、融合種が派生する。先日のドッグスはハンター種の基本種、タンクはプラント種の基本種。エンジェルは……まぁ個体によるけど、オーダー種の特異種かな、一応。

 これら種別は得意分野が違う、というだけで、特に種族が違うとかそういうことはない。だから他種同士での融合や捕食は可能だし、あるいはパーツを分け与えての修理、なんかもできる。そんな風に手を取り合う機奇械怪はまだ見たことが無いけど。ちなみにフレシシはサイキック種に分類されるね。

 

 原種の五機はまだ地上で元気にやってるはずだ。そう簡単に壊れる性能にはしていないし。そして、彼らが自己増殖や自己発展を繰り返した結果、デッドコピーとでもいうべき機奇械怪が生み出された。それが第一世代……僕の手から離れた機奇械怪の最初の世代。

 機奇械怪達に搭載されたAIでは、己の体の完全複製をするには至らなかった、ということだ。

 

 ま、元よりそこは期待してなかった。同じものが増えたって仕方がないしね。

 それで、そうして、デッドコピーとコピーと、時たまの突然変異を機奇械怪が繰り返していった結果、この星『メガリア』は滅びを迎える事となる。地上に残された国は僅か五つ。その内四つが困窮に喘ぎ、今にも滅亡しそうな勢い。

 残りの一つは独自に開発した機奇械怪を寄せ付けないフィールド、とやらで他の国より優位に立っているけれど、燃料問題に窮しているらしい。

 

 そんな中、早々に地上を切り捨て空へと逃げた者達。それが人工島ホワイトダナップに住む今の人々の先祖であり、だからこそ地上の国々では「臆病者」だとか「逃亡者」だとか言われる対象となっている。ま、その中にはもう侮蔑だけでなく羨望も含まれるんだろうけど。

 もう長い事地上に降りていないホワイトダナップ。その燃料がどこから来ているのか──は、僕と政府のみぞ知る、って感じかな。

 

 ところで、機奇械怪といえば、これらと戦う奇械士(メクステック)も武装に機奇械怪のパーツの一部を用いている者達がいる。なんならアレキのアレも機奇械怪のパーツだ。それを加工・改造したものであると言えよう。僕がチャルに渡した銃も、ね。

 たとえパーツとなろうと、機奇械怪は進化を続ける。アレキの刀も、チャルの銃も。無論動力炉が付いていないから各自で充電なりメンテナンスなりを行うのだろうけど……。その度に、戦闘を経る度に、段々と使用者の最適解へ、そして己の生存の最も良い形に変化していくはずだ。過程において、あるいは使用者を動力炉として認め、取り込みにかかる可能性すらある。

 それはそれで、悪くはない。

 

「ここへ来るのも久しぶりだね」

「ですねぇ」

 

 砂を踏みしめ、歩く。

 砂漠。あるいは荒野。どこまでも広がる赤い砂丘に、数多の瓦礫……廃墟と化した建物群が突き刺さるように倒れている。

 昔はここにも都市があった。各国の流通ルートの中心となる貿易都市であり、ここへ来ればなんでも手に入る、と言われた程の都市。

 ──無論、有機生命を糧とする機奇械怪によって、栄光は砂塵と共に消え去ったけれど。

 

 さて、僕がここに何をしに来たのかといえば、所謂経過観察である。

 当然だけど、動力源を求めてホワイトダナップに来る木端機奇械怪より、地上で長い間変異と融合を繰り返してきた機奇械怪の方が僕の目的を達成している可能性が高い。フレシシがいるのでプレデター種以外の機奇械怪は襲ってこないし、襲ってきたとしても特に問題は無い。

 全体へのフィードバックがされてしまえば入力になってしまうけれど、その場で完全に機能停止、破壊にまで追いやれば然程問題になることはないのだ。

 

「この辺りはライガー種が多いね。群れでも形成しているのかな」

「恐らくは。地上はプラント種やプレデター種が多いですからね、彼らのような体の小さな種は寄り添って狩りを行ったり、守りに身を固めるのが合理的だとわかっているんでしょう」

「群れるくらいなら一つに融合した方が楽な気もするけど」

「これは一般機奇械怪の意見ですけど、機奇械怪にも個というものはあるんですよ? 融合を選択するのは最後の最後、人間に破壊され、意思なき鉄くずになることを恐れるがためです」

「へえ。じゃあ恋心もあるのかな」

「そういうのはないですけど。だって自己増殖が可能ですし、繁殖の必要が無い以上誰そ彼そに恋慕を、なんて馬鹿らしいじゃないですか」

 

 フレシシのこういう所も面白いものだとは思っている。

 前にも述べたけれど、僕は恋愛感情というものを肯定している。他、家族の縁だとか、兄妹の契り、仲間という名の悪絆(くさり)。そういう人と人との繋がりというものは、時に誰もが考えもしなかった結果を導き出す。

 長く生きてきて、僕は何度もそれを見てきた。

 だからもし、機奇械怪に恋心が芽生えたのなら、それは悪くはないことだ。そこから生まれる何かもあろう。

 

 アレキとチャル、だけじゃない。

 母アリアと父ケニッヒ、あるいは他の奇械士。他国の国防を司る者達。盗掘者。

 機奇械怪はもっと学ぶべきだ。単なる動力源でなく、目の前のそれを教材として。

 

「機奇械怪で恋心といえば、いたじゃないですか。数年前の、ほら……二人組」

「ああ。地上を旅してたあの変わり者たちの事か」

「自覚はないようでしたけど、機奇械怪の方は確実に恋をしていましたよ」

「そうだったかな。あれはまだ幼過ぎて恋愛と親愛の違いも区別できなそうに見えたけど」

 

 実は、人の形をした機奇械怪はフレシシだけじゃない。

 それもそのはず、フレシシとて自己増殖を行う。僕と共に地上にいたころに増殖したデッドコピー……武装のほとんどを失い、それでも性能はフレシシに比肩し得る彼女は、名をピオと名付けられていたか。

 

「ピオ・J・ピューレ。私にとっては娘であり他人であり……なんだか変な感覚なんですけどね」

「あはは、己を複製してできた機奇械怪に家族の情愛を抱いている機奇械怪なんていないんじゃない?」

「少なくとも私はそうですけど、全体がそうであるかは知らないです」

 

 そう、ピオだ。ピオ・J・ピューレ。

 フレシシの記憶を引き継いだわけでもなく、ただ複製体として投げ出された彼女は、数十年に近い放浪の末、人間のパートナーを見つけていた。こっちもこっちでかなり珍しい、地上を旅する人間。

 名を──古井戸。

 うん。何の冗談だって聞き返した覚えがあるけど、名前は古井戸だと言っていた。本名は覚えていない、孤児なんだって。

 とかく、ピオと古井戸は世界各地を旅していた。それが数年前で、そこに恋心があったというのなら……もう成就している可能性はある。

 機奇械怪と人間の恋なんて、面白い事この上ない。絶対機奇械怪側になんらかの特異反応が起きているはずだ。是非とも見つけたいもの……だけど。

 

「あぁ、探知とかしなくていいからね、フレシシ」

「言うと思ったので立ち上げてませんよ」

「うん。こういうのはばったり出会うからいいんだ。それに、既に野垂れ死んでいる可能性もある。期待は期待で留めて、確定させないでおこう。その方が失敗の時のがっかりも少ないからね」

 

 震動。

 

 フレシシに手を差し伸べる。

 それを彼女が取った事を確認して──次の瞬間、僕らは近くの廃墟の上にいた。

 

 直後、先程まで僕達がいた場所の砂地が大きく凹む。凹んで、ドンと大きな音がして。

 節。節。蛇腹。ギチギチと音を立てるメタリックなソレが特徴的な、長大な身体の持ち主が、砂の中からその身を躍らせた。

 円形の口にびしりと生え揃った歯。あれはたとえコンクリートの壁だろうと鉄壁だろうと掘削するシールドマシン。形状を加味すると、かつてこの星に存在したアグナザという種類の魚類に似ているか。彼らは地中に棲み、砂中に潜むサソリやカエルの類を動力源として活動している他、時たまこうして砂上にいる機奇械怪を捕食しに来るプレデター種だ。

 その巨体に反して動力炉が小さいことも特徴で、そんなに長い間は活動していられない。ま、だからこそサソリやカエルみたいな小さな生物を食べるだけでお腹いっぱいになれるところはあるんだけど。

 動力炉を改造する進化の過程で、効率を考えた結果動力炉を縮めて極力動かず必要な時だけ動けばいい、なんていう自堕落な方向にシフトした機奇械怪。

 プレデター種特異種ランプリー。

 それがフレシシを狙ってきたのは、余程お腹が空いていたのか、それとも──。

 

「──いたぞミディット! もうだいぶ弱ってる! 仕留められる!」

「ええ、でも油断しないでね、ケイタ!」

「わかってるさ!」

 

 やっぱりか。

 ホワイトダナップからは結構離れているけれど、あの格好はホワイトダナップの奇械士(メクステック)だ。この地域に来るのは少し深入りしすぎな感は否めないけど、それだけ自信あり、という感じか。

 男女の奇械士。武装は大きなハンマーと杭打機。どちらも装甲の厚い機奇械怪には有効だけど、ランプリーにはどうかな。柔軟性に秀でたランプリーには相性は微妙な気がしないでもない。

 

 そして──その二人を追いかけるように飛んでくる、カメラ付きのドローン。

 あれは奇械士協会の監視及び連絡、指示用の撮影ドローンで、そしてあれこそが島外作業員と居住区域巡回奇械士を差別する現況。

 あのドローンで撮影された内容は政府の広報課に回され、都合の悪い部分を編集した上でお茶の間のテレビに放映する。その編集にはもみ消しだけでなく演出も含まれ、それが結果ヒーローショーのようになっている、というわけだ。

 

 ただ、ホワイトダナップとの距離からして……そろそろ操作受付範囲外のはず。画像も鮮明じゃなくなってくる頃合いだ。僕の知らない内に改良とかされてなければ、だけど。

 

「……フレシシ」

「はい」

「アレ。捕まえて、固定して。壊さないで、カメラもどっか適当な方向に向けて」

「わかりました」

 

 アレキとチャルへの入力は失敗した感が否めないけど、こんな僻地なら両親も来ない。 

 この二人で試すのはアリだ。

 

 フードと仮面を確認して。

 

「認識Code【ポトス】」

 

 呟きながら、ランプリーの上に乗って──今まさにこれを叩き潰さんとしていたハンマーを左手で受け止める。

 

「は──あ、なァ!?」

「こ……子供!?」

 

 そしてそのハンマーに向かって、右パンチ。

 誰に師事したとかはない。人間に師事した事など一度もない。何のへったくれも無い、ただの拳。

 

 ──それを受けて、巨大で重厚なハンマーは粉々に砕け散る。

 受け止められたことの驚愕と、どちらが上だったか。

 男……確かケイタと呼ばれていた奇械士は呆然とし、けれどすぐに我を取り戻して後退した。凄いね、こんな予想外があって、ちゃんと判断ができるのか。

 ミディットと呼ばれていた奇械士の方も油断なく杭打機を構えている。うんうん、いいね。恐怖や混乱に陥ってしまうよりずっといい。

 

 これなら、試し甲斐もある。

 

「てめェ……何者だ!」

「キューピッド」

「はぁ!? ふざけてんのか!?」

 

 君達の恋を応援するキューピッドだからね。間違ってない。

 ああフレシシ、笑いをこらえているのは見えているよ。

 

「ふざけてはいない。ただ、興味がある。──君達は、カップルかな」

 

 紅潮するのは……ミディットだけ。ケイタの方は、怒りで顔を赤くしてはいるけれど、恋愛のそれじゃないね。成程、片思い。あるいはケイタが朴念仁なのかな?

 

「け、ケイタ! ダメ、挑発も威嚇もダメ。ケイタのハンマー一発で壊した相手だよ? 慎重に行かないと……」

「っ……そうだった。ありがとな、ミディット」

 

 いいね、ここも青春ラブコメアクションストーリーだ。

 けれどあと一歩が踏み出せないと見た。それじゃあ、弱って動力源を探して、彼我の力の差さえわからなくなってフレシシに噛みついてくるような──そんな弱者たるランプリーを倒したって、なんの発展にもならないだろう。

 転移。

 何かを送るのではなく、持ってくる転移。

 引き出すは二十二。先日の戦いで殲滅されたタンク種の亡骸。

 

「サイキック!?」

「まさかコイツ、機奇械怪か!?」

「認識コード【トラッツ】」

 

 今の今まで完全に停止していたランプリーが動き出す。

 その目に入るのは僕……ではなく。

 幾らかの人間を食べた動力炉を持つ、タンクの残骸。動力源にされた人間が助かる可能性は五分。身体が徐々に溶けていくので、助かるかどうかは見た目でわかる。助かるものは既に抜き出されていて。

 助からないと判断された者は、動力部から動力炉を切り離した上で、後々丁重に冥府へ送られる──予定だった。僕がここに持ってこなければ。

 

 さぁごちそうだ。

 何日も食べていなかっただろう、この大きさの糧は。

 

 ついでにタンクの亡骸も食らうと良い。

 そうして強くなれ。死に瀕し、ゆえにこそ高みを求めろ。

 それが君の強さとなる。

 

 

 

「……融合、した……か」

「ッ、撤退するよ、ケイタ! 今の装備じゃ無理!」

 

 二十二の砲塔を翼のように構えるワーム。ランプリー。アグナザ。とうの昔に滅びた古い古い島国の言葉を敢えて使うなら、ヤツメウナギ、という奴。

 

「ダメ。それじゃあ、意味が無い」

 

 あたり一帯を半透明の壁で球形に囲む。地上の国が使うフィールドを、僕なりに改良したもの。

 外からの攻撃も、中からの潰走も許さない檻。

 

 簡単だよ。勝てばいい。勝って告白しちゃえばいい。そうすれば彼の心は君のものだ。なんたって今、彼は守られるしかないんだから。

 

「ッ、協会本部へ緊急要請! 島外作業員ケイタ・クロノア、同じく榊原・ミディット! 正体不明の敵と邂逅、子供の姿をした機奇械怪! 個体名キューピッド!! 場所は地上西部廃墟群! 距離8㎞! 至急応援を──」

「ケイタ! ──ッあ、ぐ」

 

 通信端末へ怒鳴りつけるケイタの身体を、ミディットが突き飛ばす。

 

 直後──轟音が立ち昇った。

 それは当然、ランプリーだ。回復しきり、融合による強化を終えたランプリーが砂中に潜り、普段狩りをするように飛び出した。それだけ。

 

 それだけで……彼女の半身は。

 ……失望だ。その程度で終わってしまうのなら、青春ラブコメアクションストーリーには成り得ない。それはただの雑兵だ。英雄ではなかった。それだけ。

 

「み……でぃ、と?」

「ぁ……アアア!」

 

 ああ、けれど。それは。

 そればかりは、流石に驚いた。思わず口角も上がってしまっていた事だろう。

 

 だって、死んだ。絶対に死んだと思った。いや、いや、人間なら、人間生物なら、確実に死んでいる。その傷は。だって下半身が。そうなったら、絶対に死んでいる。

 それでも動けた。ミディットは、動いた。文字通り死に物狂いで動いて、その武装たる杭打機をシールドフィールドに突き立てて──爆発的な威力を集約させる。

 オーバーロードだ。本来出せない……出してはいけない威力を出した。出せば己が腕や肩が壊れるからとセーブしていたのだろう威力を、その死に体で。

 

 結果。

 球形のフィールドに、穴ができる。綻びが。

 人一人が通り得る穴が。

 

「ミ、ディ……」

「──」

 

 何かを喋ろうとした。恐らくは「行って」「振り返らないで」とかその類だろう。

 けれど、内臓から逆流した血液がそれを許さない。ごぼりと吐かれた血液がそれを防ぐ。妨げる。

 

 もう無理だと、誰にでもわかった。

 

 ……そして、機奇械怪に慈悲というものはない。

 次は二人とも食べると言わんばかりに砂へ潜るその姿に、ケイタは。

 

「──ごめん。……ありがとう!」

 

 聞こえていたかは定かではないけれど。

 その言葉に、ミディットは目を閉じ、弱弱しく口角を上げて……力尽きる。倒れる。

 ああ、その顔に絶望を浮かべて……けれどケイタは走り出す。逃げ出す。生かされたことを自覚し、蛮勇を奮わない。生きる。その意思が伝わってくる。

 

 ならば、君の運命にも試練をかけよう。

 

 フィールドを、解除する。

 これ幸いにとケイタを追いかけていくランプリー。頑張れ。君が生き残り、ホワイトダナップまで辿り着けたら君の勝ちだ。途中でランプリーか、他の機奇械怪に食べられたら君の負けだ。

 

 なぁ、ランプリー。何も思わないか。今のを見て、素晴らしいって思わないか。

 ……思わないか。

 

 ケイタの姿が遠ざかっていく。ランプリーの出す震動も遠ざかっていく。

 僕のもとに残ったのは、半身の無いミディットという女性だけ。

 

「よ、っと。ドローンはもう壊しましたけど、良かったですよね?」

「うん。問題ないよ。通信端末を含め、色々聞こえていただろうし」

「流行りの第三陣営ムーブ、ですか」

「これは黒幕ムーブじゃない?」

 

 さて、それよりも、である。

 ケイタとランプリーの行く末は気になるけれど、ランプリーには発信機を付けてある。応援に駆け付けた奇械士によって壊されるならそれで良し、ケイタを食らって逃げてしまったのなら、僕が直々に壊さないといけない。何故ってモロに入力しちゃったからね。

 で、それよりも。

 

「うん……まだ生きてるね」

「あと幾許の時もない、が正しいのでは?」

「あはは、魂がここにあれば生きているよ。もうすぐ離れるのは事実だけど」

「魂とはまた、ファンタジーな」

 

 魂は存在する。

 なんなら機奇械怪の動力だって……って、今はいいんだ。

 

 それより。

 それより。

 

「僕はさっき、とても感動した。ミディット、君は死んでいたはずだった。確実に死んだはずだった。半身だ。下半身だ。その全てを持っていかれて死なない人間がいるのかい? いや、いるんだろう。死にはしないのかもしれない。けれど気が狂うほどの激痛だったはずだ。それを、その最中、苦痛と激痛の最中、君は彼を逃がす行動に出た。命を削り、身を削り。好きな相手を逃がすため、生かすためだけに全霊を使った。──感動したよ。君は悪くない。その弱さは罪だ。勿体ない程の。高潔な魂に反し、肉体があまりにも弱い。弱すぎる。失望していたんだ、その事には。だから」

 

 だから。

 

「──君に力を与えよう。生きる力を。強い力を。あぁ、けれど、決してバレてはいけない。決してバラしてはいけない。君はこれより生まれ変わり、新生し、新たな存在となる。君が君であることは引き継ぎつつ、新しい生を得るんだ。──これは僕からのプレゼントだよ、ミディット」

 

 反応はない。

 もう、彼女は、もうすぐ。すぐにでも。

 

 だから、その下半身に。

 何もない下半身に手を翳して。

 

「──ハッピーバスディ、ミディット」

 

 そこに身体を創り上げた。

 

 

 

 

「──!」

「目覚めたかい?」

「……っ、キューピッド……!」

 

 瞼を開き、周囲を確認し。

 僕を視認したと同時、物凄い速さで後退した彼女に、うんうんと頷く。

 失敗なんてありえないことではあるけど、この世に絶対は無い。低すぎる確率の一つを引いてしまう可能性を考慮して一応目を覚ますのを待っていたけれど、良好のようだね。

 ここは簡易で作ったテントの中。近づく機奇械怪はフレシシがぶっ壊しまくってるから安全だ。転移系のエネルギー損耗の激しい機能を使わなければ、彼女は最上位奇械士とも渡り合える性能を有している。

 

「どうかな、足腰の調子は」

「……? ……!?」

「ああ、あんまり強く引っ掻くのはやめた方が良い。それはただの皮模(スキン)だからね。弾力は人間と同じくらいにしたつもりだけど、中身が金属であることに変わりはない」

「金属……まさか、これは!」

「そう。機奇械怪だ。君が死にそうだったから、機奇械怪の下半身を与えてあげた。馴染むだろう?」

 

 義足という奴だ。範囲は足だけに及ばないけど。

 ミディットはそれを聞いた途端、自身の足に拳を入れようとして、けれどやめて。それを何度か繰り返して……ぽふん、と。

 ベッドに仰向けになった。諦めたらしい。

 

「……あなたは、何者なの」

「キューピッドだよ」

「……エンジェルの、一種?」

「まぁ好きに想像してよ。はい、お水。喉乾いたでしょ? あ、喉の血とか、内臓の位置とかは調整して掃除しておいたから安心してね」

 

 確かに、言われてみればキューピッドはエンジェルの一種に捉えられるかもしれない。エンジェルというより神だけど。あ、僕ホントに神様の類じゃないよ。

 これはまた先のエンジェル現出事件に絡められそうだなぁ。

 

「落ち着いた?」

「ええ……落ち着ける状況じゃないけど、どうしようもないみたいだし」

「それは悪くない判断だね。それじゃあ落ち着いた君に、二つの選択肢を迫るとしよう」

 

 指を差す。

 

「君は半分機奇械怪で、半分人間だ。これがどういうことかはわかるよね?」

「……もしバレたら、解剖と実験で一生を過ごす」

「いいね、理解が早い。人間もあんまり信用していない。逸材だ」

 

 人間の汚さを理解しているからこそ、そして己の価値がわかってしまったからこそ、理解も早いし──勘違いも深い。

 

「まず一つ。普通に帰る。ケイタと奇跡の再会をして、奇械士としての通常業務に戻る。ただし莫大に跳ね上がった身体能力は隠さなきゃならないし、君の死をまじまじと見たケイタには怪しまれるだろう。あるいは偽物じゃないかと糾弾される未来も見えるね」

「……」

「次に、機奇械怪として生きる。これはちょっとおすすめしない。君の上半身は生命だからね、彼らにとっては普通に餌だ。寝る暇もなく襲われ続ける生活が好きならコレがいいかもしれないけれど、どうかな」

「……嫌よ」

「それは良かった。これが良いと言われたら、僕も君を狙わなきゃいけなかったからね。──じゃあ、最後。簡単だ。正体を隠してホワイトダナップに戻る。あぁ、他の国に亡命するという手も見えるかもしれないけど、それは無理だよ。何故って今の君は強すぎる。すぐに悪目立ちするだろう。けれど、ホワイトダナップなら──」

「強化された私とさえ肩を並べる奇械士が幾人かいる、か」

「うん、そう」

 

 たとえばウチの両親とか。

 それに肩を並べる奇械士や、それ以上のもいる。

 存分に訓練出来て、ライブラリが完備されてて、居住区域で実戦経験を、厚い先輩に囲まれて島外での討伐経験を、何よりホワイトダナップの芳醇な香りにつられて来るさまざまな種の機奇械怪と戦い得るあの島の奇械士は、どこの国よりも恵まれている。

 だからこその強さだ。叩き上げだけでは得られない地力がそこにある。

 

「仮面と変声機、その他必要なものはこっちで用意しよう。ミディット、君だとさえわかられなければ、ケイタとも話ができる。残念ながら経歴だけは白紙に戻るけどね。あぁ、そんな怪しい姿でも奇械士になれるような便宜は僕が図ってあげるよ」

「……そんなことができるなんて、あなた本当に何者? 機奇械怪じゃ……無い?」

「協力者がいるんだ。君が怪しんでいる政府塔にね」

「……ソイツは、人類全体の裏切者ってことね」

「共犯になるんだよ、君も。いやもうなった、が正しいね。ここで自らの命を絶つのでない限り」

 

 政府塔の内通者。

 これは本当にいる。僕がどういう存在なのかを知る人物がいる。その人物は大きな大きなリターンの代わりに、このホワイトダナップに所属する全ての人間をリスクとして差し出している。

 

「キューピッド」

「何かな」

「今ここであなたを殺す、というのは?」

「できるのかい?」

「……いえ、やめておくわ。ケイタのハンマーを壊したのもそうだけど、発言を思い出す限り……あなたは、機奇械怪に対する絶対権のようなものを行使できる。私の足にもできるんでしょ?」

「驚いた、そこまで頭が良かったのか。耳も良いし、記憶力も良い。本当に逸材だ」

「馬鹿にしないで。……最後の選択肢を取る。それで、その内通者を殺す」

「あはは、そういうのって心に秘めておくものじゃないかい? 僕に言ってしまっていいのかい?」

「今少し話しただけで、わかった。多分その内通者というのは私の想像しているよりも高い地位にいる人。──だからこそあなたは話さない。()()()()()()()()()()()

 

 ……おお。

 僕、その辺の事話したっけ。

 凄いな。もし本当に会話だけで見抜いたというのなら、こんなに面白い拾い物はない。

 いいね、先日の流れ弾で少しばかり運気を邪険に扱っていた僕だけど、これならば。

 

「うん、正解だ。それじゃ、話もまとまった事だし。ミディット、君をホワイトダナップに送ろう。あ、そうだ。名前は何がいい? 新しい名前だ」

「……メーデー」

「悪くない名前だ。あぁ、そうそう。帰ったら沢山ご飯を食べてね。その下半身は通常の機奇械怪と同じで、有機生命を動力源にしている。だから、十二分なご飯が与えられなければ──その下半身は君の上半身に手を掛けるよ」

「ちょ、そんなの聞いてな──」

「それじゃ、おやすみ。改めてハッピーバスディ、メーデー」

 

 ミディット改め、メーデー。

 しばしの休息を。そして、これからの活躍を期待しているよ。

 

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