終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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RING「アスカルティンとアルバート」
ちょっとだけ開示する系一般上位者


 ホワイトダナップに季節らしい季節は無かったけれど、地上には当然のように存在する。

 この大陸の季節は主に三つ。雨季、夏季、冬季。その中で、今は夏季真っ盛り。

 つまり炎天下も炎天下の中、僕ら、というかアルバート一行は進んでいた。

 

 

 

 

「暑い!」

「ええ、これほどとは……」

「ホワイトダナップって凄かったんだね……」

 

 そんな気候に、言い方は果てしなく悪いけれど、温室育ちのお嬢様方はめちゃくちゃに疲弊している。そもそもホワイトダナップは貴族の乗り物だからね。あれ程過ごしやすい環境は中々無いよ。島外作業員が大型討伐に降りる時間だって数時間だし、この前のダムシュは海沿いで涼しかったし。

 こうもカンカン照りの所を何時間も歩く経験は中々。

 

「フリスさんは平気そうだね? そんなスーツを着込んでさ」

「仕事柄、火山地帯での試験を行う事もありますので、これくらいでは問題ありません」

「ふふふ、ボクも、この程度の暑さに文句を言うほど弱くはないかな。まだまだ夏は始まったばかりだし」

「単純に金属が熱いんです。私の身体、皮膜(スキン)のせいで熱が籠るので、開けても良いですか?」

「風通しを良くするのも手ですが、排熱機構を組み込むのもアリかと」

「排熱……」

 

 ガションガションと音を立てて自己改造を始めるアスカルティン。これくらい自分で思いついてほしいものだけど、まぁガロウズなんかはそれこそ温室育ちだ、教えなかったんだろうね。逆にフレシシは色んな環境を経験してきているんだから、教えてあげてくれてもいいものなのに。何を渋ったんだか。

 あるいは忘れてるとか? あはは、そうだったとしたら、帰った時に聞いてみよう。彼女の行く末や如何に。

 

「ああ、ただ、アスカルティン。あなたはそのインナースーツが熱を籠らせている主因でしょうから、それはもう脱いでしまって構いませんよ」

「えっ!?」

「ちょ、カンビアッソさん!?」

「はい?」

 

 バッとアスカルティンと僕の間に入るチャルとアレキ。どこか警戒した目で。

 ……え、僕なんか失言したかな。

 

「ふふふ、フリスさんは多分アスカルティンさんのことを機奇械怪としてしか見ていないんだろうね。けれど、彼女は女性で、しかも年頃の子だ。そんな彼女に『脱いで良いですよ』は中々な言葉じゃないかい?」

「成程。失礼しました。ただ、皮膜とて本来の肌ではなく一種の衣服ですので、インナースーツを脱いでも肌を晒すことにはなりませんよ」

「そういうことじゃないです!」

「はあ」

 

 あー、ね。

 まぁ、そうだね。乙女的な話ね。もしここにケルビマがいれば、「馬鹿馬鹿しい、非効率だ」と切って捨てただろう。うん、ケルビマはそんなこと言わずに無視するね。

 でも、実際に、というか当の本人は。

 

「じゃあこれ一旦体内に収納しちゃいますね! ……おおお、涼しい」

「だ、ダメ、アスカルティン! アルバートさんもカンビアッソさんもいるんだから」

「あのですね、人間の皆さまと違って、九割九分機奇械怪な私にとって、熱が籠る、というのは死活問題なんです。私だって肌を見られることに抵抗はありますが、それはそれこれはこれ。何も衣服を全て脱ぎ捨てるというわけではないんですから、これくらい許してください。でないと暑さで死にます」

 

 そういえば、全く気にしたこと無かったけれど、チャルもアレキも肌の露出が極端に少ない。というか学校にいたころの女子生徒もかなり少なかった気がする。

 履いているソックスは最も丈の長いもの、つまりサイハイソックスだし、アスカルティンのようにインナースーツを着込んでいる子も少なくなかった。チャルも時折腕までを覆うインナースーツを着ていたし。

 何かその辺あるのかな。過去の英雄の中には熱効率を考えて布地面積最小限! とかいうのもいたくらいなのに。

 

「ご安心を、お嬢様方。僕が貴女方に劣情を抱く事はありませんので」

「そ、そんなのわからないじゃないですか!」

「ふふふ、ランパーロさん。反論しようとするあまり、それは結構失礼だよ」

「あまり刺々しい言葉は使いたくないのですが──()()()に、興味はありませんので」

 

 ピシッ、あるいはピキッと何かが走る。

 そうなのだ。忘れがちだけど、彼女らはまだまだ子供。アレキとチャルが十六歳で、アスカルティンは十九歳。まぁアスカルティンは適齢になりつつはあるけど精神性が子供の域を抜け切れていない。

 僕が僕でない、人間のフリス・カンビアッソ君だったとしても、劣情は抱かないだろう。

 

「おや、フリスさん。君は幾つなのかな? 結構若く見えるけど」

「今年で二十八になります」

「……年上でしたか」

「アルバートさんは?」

「ボクは二十五です。失礼ながら、フリスさん。アナタは二十一とかそのくらいだと思っていましたから……驚きが強いですね」

「貫禄が無いとよく言われます」

「いやいや、そういう意味で言ったんじゃ」

「冗談ですよ。というよりアルバートさんこそ、二十五で最強の名を恣にしているとは、御見それいたしました」

 

 二十五歳。

 まだまだ現役で、まだまだ強くなれる年齢だ。クリッスリルグの二人が三十二でまた更に強くなっていっているのを考えるに、アルバートはどこまで行くのやら。

 

 ……そろそろかな?

 

「おお?」

「──転移光!?」

「青い光……」

「くっ、カンビアッソさん、失礼します!」

 

 抱き抱えられる。

 いわゆる姫抱きで、アレキに。おー、力持ちだねぇ。

 

 そして──ソレが落ちてくる。

 

「なにこれ……」

「新種!?」

 

 そう、新種だ。

 ミケル・レンデバランの新作。彼のアイデアは尽きるところを知らず、サンドリヨンやギンガモールのような巨大なものから、今回送ってもらったもののような小型の機奇械怪までなんでもござれ。彼自身も小型は試してみたかったらしいが、このタイプは如何せん奇械士と戦わせる機会の無く、困っていたらしいのだ。

 利害の一致。

 

「黄緑色のねばねばが纏わりついてて……なにこれ、気持ち悪い……」

「っ、気をつけてください! あれ、酸性の動力液です!」

「……特異ハンター種『アシッド・フログス』。最近になってラグナ・マリア周辺域で確認された新種の機奇械怪ですね。体表に纏う粘着性かつ酸性の液体は獲物を絡めとり、また、その長い舌での攻撃は岩をも砕きます」

「アレキさん。君はそのままフリスさんの護衛を。ランパーロ……いや、チャルさんとアスカルティンさんは、ボクと共に奴を片付けよう」

「はい!」

 

 しかし、なんだろう。

 一応段階的にしてほしい、とは頼んだんだけどね。転移の原理について教えてあげてから、それはもう狂喜乱舞して色んなものに組み込んでいた最中だったから聞いてなかったのかな。

 このアシッド・フログス、普通に死人が出るレベルの脅威度だと思うんだけど……ま、大丈夫か。英雄がそんなことで死ぬんなら価値はないし。

 

「……」

「ライブラリに記載されていない新種……。カンビアッソさんは、そういったものまで知っているんですね」

「形程度ではありますが、政府は各国と常に情報共有を行っております。そしてその情報は、いち早くホワイトダナップの装甲などの交換に使用されるため、その通過地点としてある科学開発班を情報が通り抜けるのです。結果、僕のもとには数多くの機奇械怪の情報が入ってきます」

「成程……では、先日のギンガモールも?」

「あれは……完全にあの場で出てきた新種ですね。こちらでも混乱が起きていました。そも、ホワイトダナップの航路上に出現した事が謎です。機奇械怪が意思をもってああしたのか、それとも悪意の贈り物(プレゼント)か……」

「プレゼント?」

「ああ、知りませんか。……昔から、突然転移してきた機奇械怪のことをそう呼ぶことがあるのですよ。市街地に現れたエンジェル、ホワイトダナップを襲撃したキューピッド、航路上に出現したギンガモール……。それらはやはり極自然的な転移であると見るより、誰かの悪意によって転移させられたものである、と見た方が納得が行くでしょう」

「……確かに」

「そういった『何者かの意思が透ける機奇械怪の転移』を悪意の贈り物(プレゼント)と呼んでいます。もっとも、この呼び名を知っているのは政府関係者かお年寄りくらいで、知らないのも無理はありません」

 

 悪意の贈り物(プレゼント)

 それはかつて、株式会社NOMANSが人類から愛されていた頃に起きた事件に由来する名前。当時の"英雄"にして最悪のテロリストと呼ばれた男が愛用していたフレーズであり、NOMANSは単なる便利な機械ではなく、使い方によっては簡単に人を殺し得る兵器になる、と意識付けられた瞬間。

 それこそが男の目的であり──彼は世界に警鐘を鳴らして捕まり、投獄され、獄死した。

 無論。

 歴史がそうなっているように、結局人類の意識改革はうまく行かなかったわけだ。ちゃんとNOMANSに反逆されて、人類は衰退に至ったわけだからね。

 

 バチン、と音が鳴る。

 

「失礼、攻撃を弾いただけです」

「……心強いですね」

 

 今回戦闘者ばかりのパーティであることを鑑みて、この肉体の性能は落としに落としてある。流石に感知範囲なんかは弄れないからその辺はわかってしまうんだけど、今みたいな高速の攻撃は本気で気付けない。だからちゃんと守ってもらわないと簡単に死んじゃうし、疑われて敵対しても簡単に死ぬ。念動力も、今はテルミヌスがあるからね。アレキは天敵かも。

 けど、アレキは本当に変わったなぁ。前は凡夫も凡夫だったのに……。やっぱりケルビマからの入力は大きかったか。

 

 ヒトも機奇械怪も、入力次第で簡単に変わる。驚くほどに変わる。

 僕はそれを知っているから、英雄を求めているんだ。

 

「カンビアッソさん」

「はい」

「少し、曖昧な……抽象的な質問をしてもよろしいでしょうか」

「僕に答えられることならば」

「……機奇械怪とは、なんなのでしょうか」

 

 お……おっと。

 まさかアレキからそんな質問が飛んでくるとは。

 

 ……ま、少しくらいの開示はするべきだろう。あんまり秘密にしていても、英雄の歩を阻むに終わるだろうし。

 

「──機奇械怪とは、『人間の代替機』です」

「代替……?」

「人間を駆逐し、成り代わろうとする生き物。そう認識されがちですが、少しだけ違います。機奇械怪は人間がなんらかの災禍によって完全に滅び行った時、人間の代替として生きるモノ。そして──」

「ッ、アレキ! そっちに飛んだ!」

 

 そして。

 人間の保管庫──でもあります。

 という言葉は轟音によって掻き消える。

 アシッド・フログスが大きく跳躍し、僕らを狙ってきたのだ。その身に纏う酸性の動力液は、僕の身体を簡単に溶かし尽くすだろう。

 アレキが僕を持って退避しなければ。

 

 アルバートがその剣の一振りで、アシッド・フログスを消し飛ばさなければ。

 

 ……ギンガモールの時も見たけど、本当にどんな手品だ、アレ。

 あの後、ちょっと記録映像引っ張り出してミケルと考察してみたんだけど、全くわからなかった。一応ミケルの考察では「爆弾か何かを仕込んでいたんじゃないか」とか「光学迷彩で消えたようにみせかけているだけ」とか「逆に立体映像であるようにみせかけていただけでもうなかった」とかが挙がっているけれど、多分どれも違う。

 ミケルもミケルで自分の作品が消し飛ばされたのは気になる様子で、追加調査をするつもりらしい。一応駒は幾つか渡しておいたから、ケルビマとかエクセンクリンに消されない範囲で好き勝手やるだろう。

 

「大丈夫だったかい?」

「はい。アレキさんが守ってくださいましたので」

「ふふふ、良い心掛けだね。これでアシッド・フログスを迎撃する、なんて方に走っていたら、ボクは君を怒らなければならなかった」

「……奇械士は一般人を守るものですから」

 

 おお。

 なんだかアレキ、本当に英雄っぽくなってきたね。でもアスカルティンくらいアッパーに成ってくれた方が僕は好きかなぁ。その方が特異になるからね。

 しかし……また自爆機構、発動しなかったな。ミケルが必ず仕込んでいる自爆機構。僕としてはとてもやめてほしいのだけど、「それだけは、それだけはどうか! 私の美学なのだ、ク、クク、散々暴れまわって、被害に被害を重ねて! 自爆! 全てを巻き込んで自爆! ──あぁ、美しい。わかってくれたまえ、頼むわかってくれたまぇぇぇ!」って。

 あそこまで頼まれたら理解(わか)るしかない。

 

「消し飛ばした……ということは、やはりギンガモールが唐突に消滅したのは、アルバートさんの仕業だったんですね」

「仕業だなんて、酷いですよ。ふふ、でも、そうか。科学開発班としてはアレを調べたかったんですね」

「はい。新種の機奇械怪ですから。奇械士達の証言だけでは、わからない部分も多いですし」

「それは申し訳ない。けど、あの機奇械怪を落としてしまっては、次なる大型機奇械怪が簡単に組み上がってしまいます。それに……中には爆薬が積まれていたらしいですから。あの至近距離で爆発されたら、ホワイトダナップも少なくない被害を受けていたでしょうね」

 

 まぁ、実はそうなのだ。

 ダムシュをあそこまでの廃墟にしたミケル作の自爆機構は、その被害範囲が凄まじすぎる。何を調合したらあんなになるんだ、ってくらいの範囲に爆風と爆炎をまき散らすため、ホワイトダナップの防御能力でもかなりの損害を負っていた可能性が高い。

 話を聞けば、サンドリヨンは全長百メートルくらいの超大作だったとのこと。それが自爆する際、ダムシュの奇械士達全てを取り込んで出させないようにした挙句、自身のパーツの一片さえ残すことなく大爆発を起こして消え去るというのだから、ミケルの設計力の高さが窺えるというもの。

 痕跡を残さないことにかけては歴代でも最高峰なんじゃないかな、彼。人を雇うと一気にグダるっぽいけど。組織の頭には向いてないってことだね。

 

「成程、的確な判断でしたか。戦闘者に対し、差し出がましい口出しをしました。申し訳ございません」

「いえいえ。アナタ方科学開発班の尽力あってこそ、ライブラリの補完や武装の充実がなっているんですから、お互い様ですよ」

 

 ちなみにホワイトダナップにある奇械士御用達の調整屋と科学開発班は犬猿の仲……ということもない。普通に技術提携しているみたいだし。あの調整屋の店主が元奇械士であり、科学開発班とも懇意にしていたから、引退と同時に「奇械士側から武具を支える店を開きたい」という要望を出して、ああいう店を作ったのだとか。

 ……こういう要らない知識、「身分を偽るなら覚えろ」とエクセンクリンに口酸っぱく言われて覚えさせられた。一夜漬けはつらいよ……。

 

「大丈夫ですか!」

「ああ、チャルさん、アスカルティンさん。お二人ともお怪我はありませんか?」

「はい、問題ありません」

「酸性耐性は先日付けていたので、なんとか。皮膜が一部溶けてしまったので、少しだけ素材調達をしたいんですが……」

「アスカルティン、これを」

 

 言って渡すのは、ハンカチ……くらいの大きさに畳んである、皮膜の原材料。

 普通に皮膜生成されるとプレデター種の微弱信号が出てしまうので、こっちが用意したものを使ってもらう必要があるのだ。

 

「ありがとうございます!」

 

 ……とまぁ、こんな感じで。

 野良の大型機奇械怪を含め、ミケルの実験新種を混ぜた襲撃を何度か経て──。

 

 僕らは、ラグナ・マリアに到着する。

 

 

 

 

 

「これは……海……?」

「そうだよ。世界の中心の海(ゲヌ・エリ・マレア)。厳密に言えばとてつもなく大きい湖で、だから淡水。深さは一番深い所で二千五百メートル……まぁ人間も機奇械怪も簡単に潰れる深さだね」

「巨大な爆発の痕跡、隕石のクレーター、大規模崩落があった、などと様々な説が挙がっていますが、どれも証拠のないものです」

 

 アレキが呆然と呟いたのも頷ける話だろう。

 目の前に突然広がったのは海。大陸の中だというのに、ぽっかりと空いたソレは、超巨大な淡水湖。ホワイトダナップの航路に無いからね、見るのは初めてだろう。

 

「こっちだ」

 

 湖の縁に沿って歩く。

 淡水ではあるけれど、この湖に魚は泳いでいない。ただ恐ろしい透明度の水が、深く深い所まで広がり、まるでこちらを誘っているような気分にさせられる、そんな場所。

 

「あぁ、アスカルティン。あなたは特にですが、全員、絶対に水に身体を入れないように」

「何故ですか?」

「ふふふ、それはね」

 

 アルバートが懐から何かを取り出す。……アレは、機奇械怪の腱かな?

 それを放り投げて。ぽちゃ、と……水に浸かった瞬間。

 緑の光がバチッと走ったかと思えば、その機械部品は消滅していた。

 

「……何、いまの」

「レーザーだよ。光線。ラグナ・マリアの基底部には全方位に向けたレーザー射出装置がついていてね。水に入ったモノを片っ端から消滅させるんだ」

「こわ……」

「この機構があってこそ、ラグナ・マリアは未だ滅亡せずにあれるというわけさ」

 

 ただし、これが反応するのは水中だけ。だから飛行形態を取る機奇械怪は普通に通過させてしまうのが難点の一つ。

 さらには。

 

「あれ……でも、橋が」

「そう。ラグナ・マリアが無敵ではない理由の一つがアレだ」

 

 アレ。

 チャルの視力がどうなっているのかちょっと問いたい所だけど、僕達の目的地である方向に、それはあった。

 湖からラグナ・マリアへ向かって続く、一直線の道。最深部程ではないとはいえ結構な深さのあるそこを、ざらりずらりと埋め尽くす真っ黒な道。

 

「……機奇械怪……?」

「通称、機骸の道(メクシンロード)。迎撃され続けた機奇械怪の死骸が沈んで出来た道であり、あまりの量、及び材質がレーザーを通さない域にまでなっていて、ゆえにラグナ・マリアは陸地に繋がってしまっています。今なおあの道を通って機奇械怪が来るため、太さは増す一方だとか」

 

 ラグナ・マリアは地上の国の中でも二番目に安全な国ではある。一番はエルメシアね。シールドフィールド持ってる国。

 この自然の堀のおかげで、飛行する機奇械怪はともかく、地上の機奇械怪は一方向からしか来ないとわかっているのだ。だから奇械士達も迎撃しやすい。それでも波状攻撃されたり長距離砲撃されたりすると弱いから、湖の外縁部に防衛基地を置いて、交代制で警戒はしているんだけどね。

 

 と、そんな風な説明をしながら歩いていた時の事である。

 

「──カンビアッソ先輩! こっち、こっちですよー!」

「……」

「お、露骨に嫌そうな顔をしたね、カンビアッソさん。もしかして彼女と知り合いだったのかい?」

「……ええ、まぁ」

 

 さて──これは、エクセンクリンの嫌がらせかな。

 僕ことこの『フリス・カンビアッソ』という存在は、当然ながら先日急遽でっち上げた誰か、である。ただ流石に唐突に職員が増える、というのは無理があるので、いくつかバックアップに用意してあった架空の偽名職員……つまり名前だけ登録された、中身の存在しない戸籍を使用している。

 カンビアッソ。その名で登録されていた架空職員は、現地調査を主とする科学開発班の一人で、基本的にホワイトダナップにいないため、認知されてなくても問題ない……というような身分だった。

 だけど、完全に人間関係がないわけじゃない。

 通信やメッセージのやり取りという形で存在の示唆はされていて、だからあっちで手をぶんぶん振っている長身の女性は、『政府塔の職員カンビアッソ』と何年もメッセージのみでやり取りを行っていた、ラグナ・マリアの職員(一般人)というわけで。

 

 でもね、僕、最近カンビアッソになったんだよ。ついこの前。

 そりゃログは読み込まされたよ。

 覚えられると思う? 学力の無い僕が。いや、勿論記憶力は良い方だよ興味ある事に関しては。

 でも凡夫とbotの会話データとか興味ないって……。誰が興味あるんだよってくらい興味ないって。

 

 ……できるだけ関わらないようにするつもりだった。各国にいるんだよね、そういう人。だから、完全にスルーするつもりで行くつもりでつもりでつもりだったんだけど。つもり、だったんだけど。

 まさか出迎えに来るとは……エクセンクリンめ、到達予想時間とか無駄に計算して連絡入れておいたんだろうなぁ。

 

「会えて光栄です! カンビアッソ先輩!」

「……はい。こちらもですよ、エリナ」

 

 出迎えに寄越すなら上位者にしてほしかった。それなら適当に合わせられるのに。

 僕が凡夫に興味ないってわかってないのかな。あんまり僕の前にこういう人間出してくると、チャルに見抜かれちゃうから怖いんだけど?

 

「あ、すみません。はじめまして、皆さん。私はアルマ・エリナ。ルバーティエ=エルグ・エクセンクリンさんからの連絡で、皆さんの案内及び仕事の斡旋をさせていただきます! どうぞよろしくお願いいたします!」

「よろしくお願いします……仕事の斡旋?」

「そう。道中で大型機奇械怪を狩ったのに加えて、各国で起きている問題……機奇械怪に関わる難題を片っ端から片付けてもらおうと思ってね。大丈夫、大体は武力で解決できるから、君達でもなんとかなるさ。それじゃ、今日から一週間よろしくね、エリナちゃん」

「もう、アルバートさん! エリナちゃんはやめてくださいって言ったじゃないですか! 私、これでももう十七歳なんですよ!」

「──!?」

 

 戦慄。

 ラグナ・マリアの成人が十五歳からである、という事を知らないのもあるのだろうけど、十六歳な二人はエリナの長身に驚き、そして十九歳である機奇械怪もその長身に嫉妬のようなものを向けている。コンプレックスには思ってたんだ、アスカルティン。でも君の身長は自己改造しない限りもう伸びないよ。

 やり方? 知らない知らない。フレシシが身長変えてるトコみたことないし、彼女も知らないんじゃないかな。

 

「十七歳は十分に子供だよ。……けど、驚いたな。カンビアッソさんとつながりがあるとは」

「えへへ、カンビアッソ先輩は私に機奇械怪の知識やイロハを手取り足取り教えてくださった方なんです!」

「手取り……」

「……足取り?」

「誤解を生む言い方はやめてください。僕とあなたは初対面です。確かに通信端末によるメッセージのやりとり、音声のやり取りはしていましたが、実際に会うのは初めて。手取りも足取りもしていません」

「私はされてるつもりで教わってましたもん!」

 

 この子、面倒臭いな。

 何で僕が英雄でもなんでもない人間の相手をしなくちゃならないんだ。恰好的に奇械士志望でもなさそうだし。適当な所で実験材料にでもするか?

 ……なーんて邪悪ムーブはしない。僕は上位者なので、魔王とかじゃないので。まぁ、好きに突っかかって来るといいさ。僕の興味の無さを面倒臭がっている、とチャルが勘違いしてくれたらそれがベスト。あと一応アルバートにも気を付けて、と。

 

「それではエリナ、案内をお願いしますよ」

「はーい!」

 

 僕達は、ラグナ・マリアへ入国する──。

 

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