終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
かつての港湾国家ダムシュがホワイトダナップとの交易を断ったのは、何も国家間の関係が悪化したから、とかそういう話ではない。
単純に交易している余裕がなくなった──それだけである。どれだけ余裕を持った国でも、やはり無限に生まれ続ける機奇械怪相手に平和を維持し続ける、というのは難しい。奇械士がどれほど頑張っても、ひとたび大量の機奇械怪が近くに住み着いてしまっては、その区画を放棄せざるを得ない。
そういう意味では、このラグナ・マリアは恵まれていると言えるだろう。なんせ周囲が深い深い湖だ。機奇械怪が占拠してくることもない。
「それにしては……その、なんだかピリピリしている国、ですね」
ラグナ・マリアには一週間滞在するため、それなりの値段のする宿……というかアパートを押さえてある、らしい。エクセンクリンの手回しだ。無計画性がウリとさえいえる僕に比べて、エクセンクリンはそういう根回しが得意なんだよね。まぁ無計画に相手をぶん殴ったりするけど。
それで、チャルの言葉はもっともだ。
僕が前に来た時はこんな緊張感に溢れた国じゃなかった。どちらかというと余裕があるというか、ホワイトダナップを目の敵にこそしていれど、自分たちも優越感に浸っている……エルメシアに少し似ている国。そんな印象だったんだけどね。
今は、住民の誰もが何かに警戒している。そんな印象を受ける。
「エリナちゃん、教えてくれるかい?」
「はい……。その、最近あった事件なんですが」
アルマ・エリナの話に依ると。
何でも最近、吸血鬼が出るようになったらしい。
……うーん。
「きゅ、吸血鬼?」
「立て続けに四件。路地裏や大きな建物の、鍵の掛けられた一室などで、同様の凄惨な事件が起きていまして。その被害者が全員首筋に歯形らしき穴を開けられていた挙句、全身の血液が抜かれていた……なんて猟奇的なカンジで」
「それは……なんとも、まさに、という感じだね」
「はい。調査の結果、どうにもその犯行の全ては知り合いによるもの。つまり何の警戒もしていない状態で襲われている可能性が高い、と報告が上がっていて……それで、こんな風に」
吸血鬼か。
まぁ昔にはいたけど、今は機械の時代だからなぁ。いたとしても機奇械怪と融合した人間なんじゃないの? という目線をアスカルティンにぶつけてみれば、アスカルティンも似たようなことを考えていたようで、僕を見ていた。
何度も言っているけど、僕は全知全能じゃない。できないこともいっぱいある。上位者だから万能に近くはあるけど、無理なことも沢山あって。
その内の一つが「今何が起きているのかを瞬時に知ること」である。分析はするけどね、パッと見てパッと判断できる程頭が良いワケじゃないし、感知範囲もホワイトダナップ全域を覆うに足りないくらいだし。
今すぐにその吸血鬼とやらが何なのかを判断するのは難しいけど……まぁ機奇械怪関連だったら一瞬で片付けられるし、いいか、なぁ?
「では、さっそく調査に出掛けようか」
「あ……でも、アルバートさん。その、私達は調査とかあんまりできません……よ?」
奇械士はあくまで戦士だ。探偵とか警察じゃない。
彼女らは機奇械怪の痕跡を辿っての追跡、なんかはできても、殺人事件の全貌を探る、なんてことができるわけじゃない。
……じゃない、けど。
青春ラブコメアクションストーリーにこういう閑話パートがあるのもよくない?
「監視の任には含まれませんが、僕が鑑ましょう」
「いいんですか?」
「科学開発班の一人として、吸血鬼なるファンタジーには心惹かれるところもありますから。それに、心当たりがないわけでもありませんし」
「ふふ、そうですか。では、エリナちゃん。案内をお願いできるかい?」
「カンビアッソ先輩が見てくれるなら、一瞬で解決しちゃいそうですね! わかりました、案内します!」
こういう時の奇械士の越権は楽でいい。機奇械怪の調査と銘打てばどこへでもいけるからね、大体は。流石に政府塔とか内密区画へは行けないけど、事件現場くらいなら余裕だ。
「アスカルティン。匂いには気を配っておいてください」
「はーい」
それじゃあ行こうか。
青春ラブコメアクションストーリーの休憩小話──別荘地とかで起きる事件パートの始まりだ。
「これ、犯人は機奇械怪ですよね」
「……まぁ、誰がどう見ても」
「えっ」
僕より早く、アスカルティンが答えを出した。
ここは殺人現場。流石に遺体は片付けられているけれど、所々に残った痕跡があまりにも機奇械怪のもので。
アルマ・エリナが何に驚いているのかわからないくらい、機奇械怪の仕業だった。
「しかも……これ」
「動力液?」
「ふふふ、どうやら犯人は相当ダメージを負っていた可能性が高いね。動力液をここまで零しているという事は……奇械士との戦闘後。あるいは」
「自己改造の最中だった……かもですね」
奇械士達もこと機奇械怪の話となれば、頭が回る回る。というかそりゃそうだ。あのめちゃくちゃ難しい奇械士試験を乗り越えて、彼女らはここにいる。アスカルティンも後々受けて余裕でクリアしたらしいし。ちなみにエクセンクリンも受けたことがあって、合格はしているらしい。興味がない事覚えるの得意でいいね。
「アスカルティン、動力液を辿れますか?」
「はい。行けます」
「ということで、エリナ。恐らく今日中には吸血鬼を捕らえられるでしょう。ですので、この国の警察、あるいは自治機構の方を一人呼んでください。流石に僕らだけで捕縛する、というのは難しいでしょうから」
奇械士の越権といえど、他国の地で、人間に成りすましている機奇械怪を突然捕縛、は、まぁ無理だ。
ちゃんとした人がいた方が良い。
「わかりました!」
「それと、アルバートさん」
「なんですか?」
「犯人を消し飛ばさないように、お願いします」
「……フリスさん、もしかしてボクのこと脳筋だと思って無いですか?」
「僕はアルバートさんが機奇械怪を消し飛ばしている所しか見たことが無いんです。通常攻撃手段がソレならば、あなたは攻撃しない方が良い」
「うーん、フリスさんって天然なんですね……」
仕方がないと思って欲しい。
未だ原理も何やっているのかさえわからない攻撃だ。それを封じておかなければ、何をされるかわかったものじゃない。
この旅はチャル、アレキ、アスカルティンの修行パートだけど、アルバートが強すぎたら何の意味もないわけで。
「大丈夫です。ボクだって手加減はできますよ」
「そうですか」
……ん。
いた。
「あ、捉えました」
「はい?」
「アスカルティン。まだ、いいです」
「はい」
僕よりは狭いみたいだけど、アスカルティンの鼻の感知範囲もかなり広くなっているね。うんうん、やっぱりこの三人はバランスのいいパーティになってきている。サポートと特大奥義のチャル、スピードと体力のアレキ、索敵と火力が売りのアスカルティン。
ここにもう一人入れるとしたら……。
「カンビアッソ先輩!」
「あぁ、はい。来ていただけましたか」
「ハッ! ラグナ・マリア自警団が第二地区警備隊副隊長を務めます、石狩島ハルジアと申します!」
「では行きましょう。アスカルティン、お願いします」
「はーい」
アスカルティンが動き出す。僕が直線で向かうのもまぁいいんだけど、なんでわかったんだ、ってなるだろうし、アスカルティンならアルマ・エリナ達は納得しないでも、こっち全員が納得した雰囲気出してればそういうものか、ってなるだろうし。
けどアスカルティン? 別に犬みたいに鼻をヒクヒクさせて辿らなくてもいいんだよ?
「……ここです」
「こ、ここって……」
「その……」
まぁ、ホワイトダナップでは
──風俗店。
身を隠すにも、あるいは匿うにもうってつけの場所。
そもそもの話をするならば、ラグナ・マリアは元観光地。『居住可能なリゾート地』みたいな売り文句で建設されたここには、その頃の名残……歓楽街や賭博場というものが多い。今は余裕が無いからどの店もどんどん畳まれて行っているみたいだけど、こうやって残っているものは残っていて、そして誰もそれを怪しまない。あるのは特に不思議じゃないから。
むしろ困窮した時代だからこそ、残ってくれる店はありがたい……とばかりに繁盛しているようで。
木を隠すには森。吸血鬼を隠すには……さてはて。
「ふふふ、チャルさん達には刺激が強いね。それじゃボクとアスカルティンさん、フリスさん、エリナさん、ハルジアさんで調べてくるから、君達は近くで出てくる人や入って行く人の監視をしていてくれるかい?」
「お、オネガイシマス……」
「?」
顔を赤らめて指示に従う二人。それに対しエリナが疑問符を浮かべているのは、先述した通りラグナ・マリアの成人年齢が十五歳だから。チャルとアレキはとっくに、ではないにせよ、成人している扱いなのだ。アスカルティンに至ってはもう何年も前に。
ちなみにホワイトダナップの成人年齢は二十歳。だからアスカルティンもあっちじゃまだ子供の扱いだね。ケルビマも成人したてくらいだし。
「じゃあ、ボクが先に入るから、四人は後から入ってきてください」
「わかりました」
アルバートが風俗店の戸を開けて足を踏み入れる。
続けてアスカルティンが入り、僕達が入る。
奇械士と自警団、後なんかスーツの男。
こんなのが入ってきて騒々しくならない施設は中々無いだろう。それが風俗店となればなおさらに。
受付にいた二人の女性。一人は毅然にアルバートへの対応をしているけど、もう一人はなんか蒼褪めている。これ、心当たりある感じかな?
……お、判断力良。
「あ、逃げた」
「そのようだね。これは……裏口かな。勢いよく扉を開けた音がした」
「エリナ、ハルジアさん。この店押さえてください。僕と外の奇械士二人で犯人を追います。捕縛後あなた方に引き渡しますので……」
「はい! お願いします!」
踵を返せば。
──アレキがいない。もう向かったか。
「ランパーロさん、行きましょう。アレキさんとは反対側から回り込み、挟撃とします」
「わかりました!」
「アスカルティン、あなたは屋根上からの追跡を!」
「はーい!」
走り出す。
僕の落としに落とした身体能力は、丁度チャルと同じくらいだ。だから走力に差が出ることもなければ、疲れるタイミングも同じくらい。
逃げている犯人も流石は機奇械怪というか、街路を縦横無尽に駆け抜けているらしく、あのアレキやアスカルティンが追い付けていない。この国の熟知度はあっちの方が上だろうしね。
だから──読む。感知で。
「こっちです」
「え、でも」
「大丈夫。僕に任せてください」
二人のいる方とは全くの別方向に向かい、ある路地に入り込む。
ここはU字型になった道。あのままアレキが犯人を追って行ってくれたら、犯人はここに必ず入る。そして僕らと鉢合わせてTHE ENDだ。
「あ、あの、カンビアッソさん」
「大丈夫ですよ、ランパーロさん。犯人は必ずここに来ます」
心配性だね、チャルは。
僕だって頭の弱さは認めるけど、人間心理の読みにかけてはプロフェッショナルと言えるんだ。たまに外すしたまにわかんなくなるけど。
けど大丈夫。今回は完璧だから。
「そうじゃなくて──」
ガタゴトと音を立てて、ソレ……汚れたローブを纏う何者かが駆けてくる。
──壁を走って。
「あ」
「あ」
そのまま、僕らを乗り越えて、飛び越えて。
犯人も、そしてそれを追うアレキも走って行ってしまった。
……。
よろしい。好きなだけ僕の頭の悪さを罵るがいい。
「あははは……カンビアッソさんって、やっぱり少し天然なんですね」
「壁を走れる方がおかしいのです。普通の相手でしたらこうは行きませんでした」
「それは、はい。私も良く思います。飛空艇でも言いましたけど……やっぱりああいうのは、トクベツ、なんですよね」
「そうですよ。ランパーロさんが気に病む事じゃない。……まぁ、アルバートさん曰く、修行が終わった頃にはランパーロさんもアレができるようになっているらしいですが」
「できるかなぁ」
アレキとアスカルティンが大追跡劇を繰り広げている中で、もう走っても意味がない、と二人で歩く。犯人とアレキ達はもうラグナ・マリアの屋根上を行ったり来たりしていて、あんなの手に負えるわけがない。多分二人は犯人の動力切れを狙っているんだろうけど、今の今まで風俗店で何かを食べていたのだとしたら、切れるのはまだまだ先なんじゃないかなぁ。
あ、ちなみにアスカルティンは自己改造で動力炉の効率化が図れていて、オールドフェイスの消費量も一枚の消費時間もかなり効率よくなっているよ。
「ランパーロさんは」
「あ、チャルでいいです。ランパーロって長いと思うし」
「そうですか。ではチャルさん」
「はい」
「貴女は、どういう奇械士になりたいんですか?」
「……どういう、というのは、どういう……?」
折角だから、チャルともちょっと深い話をしてみようと思う。アレキとは少しだけしたし、アスカルティンには前にしたからね。
どういう奇械士になりたいか、と聞いたけど、本当に聞きたいのは彼女の英雄像だ。彼女は英雄をどうとらえているのか。それを聞きたかった。
「ホワイトダナップには色々な奇械士がいます。クリッスリルグ夫妻などは有名ですが、そのほかにも沢山。そしてアルバートさん。勿論各国に奇械士はいますが、あなたにとってはホワイトダナップが最もわかりやすいでしょう。その中で、貴女の憧れに類する方はいますか?」
「……憧れ」
「ああ、奇械士でなくても構いません。将来どういう奇械士でありたいか。それを聞きたいだけですので」
無いとは思うけど、大型機奇械怪を二撃で消し飛ばせるような、とか言われたら流石にお手上げだ。アルバートに秘密を教えてもらうしかない。
……いや、ホントどういう手品なのかな、アレ。消し飛ばすって。やめてくれないかな。機奇械怪減っちゃうじゃん。
「……具体的な話、じゃないんですけど」
「はい。お願いします」
「今度こそは……大切な人の願いを、叶えてあげられるような……そういう人間になりたいと思ってます」
「ふむ」
ここで「チャル……」みたいになれたら、なんだか感動の展開とかになったかもしれないけどね。
僕としては、ちゃんと『フリス』が心に刺さっているようで何より、って感じ。
「なれますよ」
「……そう、ですかね。でも私、結局あの時から……まだ、何にも」
「僕が保証します。貴女は必ず英雄になる。いいえ、あるいはもうなっている」
「英雄……ですか」
「大袈裟だと思ってくれて構いません。ただ、貴女は必ず凄い人になる。身体能力なんてどうでもいいと僕は思っています。大切な人の願いを叶えてあげられる英雄。そこに、飛び回ったり跳ね回ったりする身体能力なんて要りませんから」
さて、そろそろセーブしないとチャルに見抜かれそうだ。
英雄、なんてワードを使っちゃったのもちょっと良くなかったね。無計画にこういう話を振るのはよくないってわかってたんだけど、ついつい。
「ず……ずっと聞こうと思ってたんです、けど……カンビアッソさんって、昔、私と──」
「──ふふふ、仲間が戦っている最中に逢引きかい?」
「きゃっ!?」
「アルバートさん。犯人は捕まえたんですか?」
「……アナタはもう少し動揺というものをした方が良いですよ。人間味がないと言われることは?」
「昔からよく言われます」
逢引き。
……ふむ? こんなに「関心が無いです」オーラ出しててもそう見えるんだ。
じゃあこういう事とかしたらどうかな。
「それでは向かいましょうか、チャルさん」
「えっ……えっ!?」
「おや……」
チャルの肩を抱く。
まぁ普通に考えてセクハラなんだけど、果たしてこの行動、チャルに、そしてアルバートにはどう映るかな。あ、勿論何にも考えてないよ。面白そうってだけ。
「それは、流石に見過ごせないかな」
──……?
あれ。
「アルバートさん。
「今ですよ」
「どうやって?」
「ただ速く、動きました」
……。
いやいやいやいや。
どれだけ身体能力落としていると言っても、流石に隣にいた、しかも腕で抱いてた人間が奪われたら気付くって。速く動いたとかそんなチャチな話じゃ。
あと。
「アレキさん。出来得るのなら、その刀を下ろしてください。僕は別にチャルさんに好意を持っているわけではないので」
「……ではなぜ、彼女の肩を?」
後頭部にピンと突き付けられた刀。それで突かれたら死んじゃうなー。
「あ、アレキ! アルバートさんも、私、大丈夫、何もされてないから! 落ち着いて!」
「……」
「お子様に興味はないと言ってましたよね、フリスさん」
「はい。欠片も興味がありません」
「ふふふ、これは、今からでも違うアパートにしてもらった方が良いかな」
えー。
警戒しすぎじゃない? まぁその方が動きやすいからいいんだけど。
しっかしアレキの依存度もやっぱり上がってるね。さっぱりした関係に戻ったように見えたのは見せかけで、水面下ではじわじわと、って感じか。いいね。
ここにアスカルティンも混ぜ込みたいんだけど、流石に食欲大魔人じゃあコレには混ざれないか。アスカルティンがチャルやアレキを好く要素もないし。
「……え?」
「ランパーロさん。それは、秘密」
「あ、う、は、はい」
ん?
何の話?
「内密な事情を話しますが、本当の所、僕はアスカルティン単体の監視役です。なのでお嬢様方が僕から離れる分には問題ありません。ですが、アスカルティンは僕のもとに置かせてもらいますよ」
「アスカルティンにも、ああいう事をする気?」
「ですから誤解です。子供に興味はありません」
アレキの口調から完全に丁寧語が抜けた。気を許した、というよりは敵認定されたかな?
いいね、ずっと違和感あったんだ。アレキの丁寧語。このままチャルやアルバートからも抜けてくれたらいいんだけど。
「あの、ホントに何もされてないから。大丈夫だよ、二人とも」
「これからされてもダメだから」
「では、僕が折れましょう。アスカルティンの監視はアルバートさん、あなたに任せます。彼女が"そう"であることを念頭において行動してください。でないと事件が起こりますよ」
「ふふふ、謝罪をする気はないんだね、フリスさん」
「ありません。今のは必要な行為でしたので」
「!」
気付けば。
──アレキの刀が、眉間にあった。……突き刺さってはいない。寸止めだ。
高速の突き。わぁ速い速い。
「何をした?」
「さて、なんでしょうね」
「ふざけないで」
これはアレキの完全なる勘違いであるとはいえ。
……それ、いいね、と思った。そうだ、何かした事にしよう。それで、最適なのは……やっぱり《茨》関連だよね。
あはは、良いね。二人が良い感じにくっつけるようなイベントになるよう、《茨》にもう少し機能を振っておこうか。
「それでは、僕はエリナに頼んで他のアパートに部屋を借ります。用がある場合はエリナを通じてそこを訪ねてください。明日から仕事の斡旋が始まるかと思いますが、僕は僕でラグナ・マリアの周辺調査を行っていると思いますので、外で会った時にはよろしくお願いいたします」
この間、ずっと刀を突き付けられたまま。
……もうちょっと恐怖覚えた方が良かったかな? 人間味って難しいよね、出すの。
エクセンクリンとかケルビマの方が遥かに人間味はあるしなー。
「待ちなさい、何をしたのか──」
「アレキさん。落ち着いて。街中で刀を振り回すのはよくないよ」
「そうだよ、アレキ、それに、ホントに何もされてないんだって」
「じゃあ『必要な行為』って何?」
「それは、わかんないけど……」
うーん、
ま、無計画が活きることもあれば、こういう風に台無しになることもある。うん、いつも通りだね。
そんな三人を後目に、路地裏へ入る。
「アスカルティン」
「はいはーい、犯人引き渡してきたので褒めてくださーい」
「えらいえらい。あ、これ、追加のオールドフェイスです。すみません、僕が貴女の近くにいることは難しくなってしまったので、動力が五十パーセントを切ったな、と思ったら、そしてその時手元にオールドフェイスが無かったら、すぐに僕の所へ来てください。支給しますので」
「やたー」
少し動力を使い過ぎたのだろう、いつもの理性的なアスカルティンではなく、幼稚な機奇械怪としての側面が出始めている。危ない危ない。第二の吸血鬼になっちゃうよ。
「……喧嘩ですか?」
「さて。僕は必要な処置をしただけですが、まぁ世間的にはセクハラの類に見えるでしょうね」
「わぁ」
「そんな棒読みの驚きがありますか?」
「え、だってフリスさん、人間じゃないでしょ? セクハラなんてしないのはわかりますよ。私の裸見ても何にも動じないのはケルビマさんで知ってたし」
おお。
え、アスカルティン。君凄いね。今ガツンと僕のテンション上がったのわかる?
この肉体は完全に人間の肉体だ。培養体とはいえ完全に人間。
それをして、人間じゃないと見抜くという事は。
「どうして……僕が人間ではないと?」
「匂い。人間の匂いじゃないから」
「ふむ。体臭もしっかり人間に合わせたはずなのですがね」
「ん-ん。鼻を使う方の匂いじゃなくてね」
やっぱり。
やっぱりだ。やっぱり、アスカルティンはもうほとんど辿り着いている。あのスープの話を聞いた時からもしや、とは思っていたけれど。
……こうなってくると、優先度変わって来ちゃうなぁ。
僕がチャルを大事にしているのって、機奇械怪への入力が凄まじそうだから、なんだよね。だけどこうして具体例が……しかもアスカルティンはその出生が人間で、他の人間によって融合種に変えられた存在で。つまり上位者の手がほとんど入ってなくて。
確かに最初は破棄する予定でケルビマに預けていたから、そこの入力は大きいのかもしれないけど……まぁケルビマは帰属させるつもりだから最終的にはかわらなくて。
うん。うんうん。
悪くないよ。悪くない。今、とても悪くない状況だ。
「アスカルティン」
「はい」
「──僕の匂いは、どんな感じですか?」
「えーと」
アスカルティンは、一拍置いて。
「……あらゆるものの中でも、絶対に食べちゃいけないってわかる……匂い?」
その答えに、僕は。
「良い子だ」
「え……きゃっ!?」
アスカルティンを、高い高いするように抱き上げた。
抱き上げて。
「言った傍から、というのはこのことだね」
「……こんな暗い路地裏で」
「ストーカーですか、皆さん」
また、アルバートに奪われた。
……少しだけ予想してたからね。今、ちょっと掴んだよ、何をやってるか。
流石にこう何度も見せられたらわかっちゃうって。出来ればソレ、そこ止まりじゃない事を願うよ。でないと対策が簡単すぎるから。
たとえば。
「!」
「ッ──!?」
「あんまりしつこいと、敢えてやってなかったことをしてしまいますよ?」
何をするでもなく、手をチャルの方に向けた。
それだけでアレキが突きを放ってきたし、アルバートがチャルを抱き寄せた──けど。
殺気。
……えーとね、これ、やりすぎました。
警戒心マックス。いやー、無計画にもほどがあるとはまさにこのこと。これ、今日の夜にでも死にそうだなぁ。グッバイラグナ・マリア。
でもま、アルバートの技は掴めたからヨシとしよう。
それじゃあ最強さん。君の底が、その程度でない事を祈っているよ。