終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
フリス・カンビアッソ。
年齢二十八歳。十五の時に政府塔へ。所属は科学開発班現地調査隊隊員。各地で機奇械怪を観察し、その生態を記録することが主な仕事である他、その記録をライブラリにあげ、また各国へ共有することもまた彼の仕事の内。
そのため機奇械怪に関する知識は奇械士さえも舌を巻くほどであり、戦闘能力こそないものの、逃走手段や緊急回避の手段は幾つか持ち合わせている。
「……というのが、彼の素姓らしい素姓かな。ホワイトダナップを離れる前に急いで調べたものだから、帰ったらもう少し何かわかるかもしれないけれど」
「戦えないのに、地上で機奇械怪の相手をしていた、ってことですか?」
「まぁそうなるね。アレキの刀に一切の動揺を示さなかったのは、人間味がないからというより慣れているからだろう。命の危険という奴に」
「……どうでもいい話です。彼が何者であろうと、あのような不埒な真似をする輩であれば……私はもう、信用できません」
フリスのいなくなったアパートで、ホワイトダナップの奇械士達は緊急会議を行っていた。
アルバート、チャル、アレキ、アスカルティン。内アスカルティンは至極興味のなさそうな顔で、近くのお店で買った『
「そ……それより、吸血鬼。吸血鬼の話をしませんか?」
「……そうだね。身内に敵意を向けてばかりでも仕方がないか」
「身内だとは思ってません。……が、賛成です。ただ話を続けるようで申し訳ないのですが……アルバートさん」
「うん。彼がボクの技を見切った事、だよね」
「はい。あの時、
「つまりアレキ。君は、彼も吸血鬼なる存在なのではないかと疑っているわけだ。人間社会に紛れ込んだ機奇械怪──見た目は人間でありながら、爆発的な身体能力を発揮する存在だと」
「それは私が否定します。あの人は機奇械怪じゃないです」
今まで興味なさげにしていたアスカルティンが、口元を汚しながら割り込んでくる。
甲斐甲斐しくチャルがアスカルティンの口元を拭く中で、けれど止まらずにアスカルティンは喋る。
「何があったのかは現場にいなかったのでわかりませんけど、ちょっとあちらの事情を考えなさすぎに聞こえます。普通に最大限の譲歩じゃないですか? 彼は政府の監視役。それを放棄したとあれば、どんな罪が待っているか。それでもこちらの意見を素直に飲んでくれた時点で、普通に善い人では?」
「それは、何があったかを見ていないから言えること」
「ううん、違うよアレキ。アルバートさんも。二人とも、過保護すぎ。あの時も言ったけど、私は何もされてないの。アスカルティンさんもそうだよね?」
「はい。あの時抱き上げられていたのは、私の報告が彼にとって埒外に良いものだったようで、偉い、という意味での抱き上げをされていました」
「……それは、もしかして、父親が赤子にするような、かい?」
「はい。更に言うと、あの見た目ゆえお忘れかもしれませんが、あの人二十八なので……割合、普通に娘とか娘の友達とか、そういうのに接する感覚なのでは?」
フリス・カンビアッソの見た目。
それは、彼自身が自虐気味に言っていた「貫禄が無いとよく言われる」の言葉の通り──まだ成人してからすぐ、くらいにしか見えないものだ。だが、実際はアレキとチャルより十個以上年上。「お子様にしか見えない」の言動。
加味するに。
「なるほど……確かに、君達を欠片も女性だと思っていないのならば、納得は出来るか」
「あ、あはは……話が収まってきてくれて嬉しいような、ちょっと悲しいような……」
「……彼の言動については、わかりました。それで納得します。ですが、やはりあの身体能力については……」
「それについても、ボクなら説明できるというか……今まではボクだけが原理を知っていたから対処されなかったけど、彼はそれを解析して対処、応用にまで漕ぎ着けてきた、って感じだから、多分彼の身体能力が異常に高いとかそういうわけじゃないと思うよ」
「あ、はい。吸血鬼を追っていた時も、回り込むために走って息切れしていましたし、私達を飛び越えた犯人とアレキに一切反応できずに見送っていたので……身体能力というか、動体視力もあんまり良くないと思います」
次々に上がる擁護の声。
なんだか自分だけ拗ねているようで肩身の狭くなってきたアレキは、話題の変更を行う。
「アルバートさんの技、というのは……説明していただけるのでしょうか」
「構わないよ。はい」
はい。
アルバートがそういった時には──アレキは、壁に寄りかかって立っていたはずのアレキは、フローリングの上に寝かされていた。
「!?」
「今のでわかったかな。対象を一人に絞ってみたんだけど」
「……あの、理解はできた、とは思いますけど、それ二の舞……」
「え?」
「あ、それについても説明した方が良いと思います」
飛び退いて離れ、刀を抜くアレキ。
警戒心マックス。追い詰められた機奇械怪よりも恐ろしい殺気を出してアルバートを警戒する。
「……今、一瞬で三か所……太腿の裏、肩、背中を触られた感覚があった。……アルバートさん。今のについても、私達を女性と見ていない、で片付けるつもり?」
「"話がまた取っ散らかって来たな"──チャルさん、アルバートさん。今そう思ったでしょう」
「アスカルティンさん、心が読めるんだ」
「顔に書いてありました」
「ああ、そうか。そうか。……ふふ、これじゃあボクも彼の事はとやかく言えないね。つまり、何事も隠し事をしていては話が進まない──そういうことだ」
言って。
アルバートは……おもむろに、服を脱ぎ始める。
突然のことにアレキが目を白黒させている間、そーっと、そーっと彼女に近づいたチャルが、その身体を拘束する事に成功した。これでアレキはもう暴れられない。彼女にチャルを振り払う勇気は無いから。
アルバートは上着を脱いで、さらにはインナースーツにまで手をかけて。
「ちょ、」
その胸元にあったセレクタスイッチを捻る。
瞬間。
「ん──ふぅ……」
「ワオ」
「……さっき触った時、わかってはいましたけど……」
「あ……」
彼の。
否、彼女の胸が、大きく膨らむ。
同時、後ろでまとめ上げていた髪を下ろせば──そこにいたのは。
「隠していてごめんね。実はボク、女なんだ」
にっこりと。柔らかな笑顔を浮かべる、優しい顔の女性だった。
「ガルラルクリアの家は、その名にエルグがついている通り、特権貴族でね。なんとも時代錯誤なことに、長子は男子でなければならない、なんて伝統を今でも守っている。けど、ウチにはボクしか生まれなくてね。だからボクは男子にならざるを得なかった、というわけさ。血の継承は、内々に用意した男性と番わせられる予定……だったけど、ボクはそれが嫌でね、出奔して奇械士になって、がむしゃらやってたらいつの間にか最強だった。そんな感じだ」
困ったような笑顔でアルバートは言う。
その名が男児のものであるのも、同じ理由だと。
「ずっと気になってたんですけど、エルグってなんですか?」
「……知らないの? アスカルティンさん」
「え、チャルさんは知ってるんですか」
「割合常識の類。チャルだけじゃなく、ホワイトダナップの大体の住民が知ってるはず。学校で習わなかった?」
「あ、私病弱で、学校ほとんど行ってなかったです」
「それは、ごめんなさい。デリカシーがなかった」
エルグ。
アルバートやエクセンクリンの家名に付いたその文字。
「エルグは偉大なる始祖の名だよ。かつて一度だけ大陸中の国が一つとなった事があったのは知っているね?」
「あ、はい。聖都アクルマキアンを首都に、大陸の全てが国家となった時期があった。それは知っています」
「それを成し遂げた当時のアクルマキアンの為政者。それがエルグだ。そしてその血を継ぐ者が、エルグを名乗り続け、今もそれを誇っている」
かつて大陸の国は一つだった。けれどそれは、歴史の中で見たらほんのひと時の事。
すぐにその大国は分裂し、それぞれが国家として独立する。ゆえに魔都クリファスや皇都フレメアは国家であるにも関わらず都を名乗ったままだった。
改名する前に機奇械怪の波が襲い来たために。
「つまり、昔の偉い指導者の子孫、ということですか」
「そうなるね。けど、そんなのはもう飾りだ。みんな普通に働いているし、特権らしい特権も持っていない。ただプライドだけがある。そんな現状だ」
「成程。ご教授ありがとうございました」
「ふふ、問題ないよ。……まぁ、どうかな、アレキ。ボクが女だからといって君の身体に触れた事実は変わらないけれど、ボクがそれを気にしなかった理由はわかってくれただろうか」
「ええ……こちらこそ、さっきからずっと空回りで、ごめんなさい。……それで、あなたの技、というのは」
「うーん、じゃあチャルさん……だとアレキさんが怒りそうだから、アスカルティンさん。いいかな」
「どうぞ」
言葉を吐いた瞬間から、アスカルティンが硬直する。
完全に、だ。
それは、アルバートがアスカルティンの身体を持ち上げても、その口元に指をちらつかせても、座った姿勢の彼女を寝かせても。
アスカルティンは硬直したまま動かない。
「これは」
「──対象の時間を止める。いわゆる超能力って奴さ。効果時間は限られているし、世界全体を止める、なんてことはできないから、使いどころは難しいんだけどね」
アレキは舌を巻く。
巻いて、心の中で「また超能力か……」と呟いた。
まさかそんなファンタジーが、身近に二人もいるとは。けれど、だからこそアレキは納得できた。前例は常識を容易く覆す。
「……しかし、それではカンビアッソさんがあなたの技を完封した理由がわかりません。超能力に対抗した、ということですか?」
「止め返されたんだよ。とても古典的な方法でね」
「古典的?」
苦い顔で言うアルバートは、自身の荷物の中からソレ──手鏡を取り出す。
手鏡。鏡。
「もしかして」
「そう。ボクのこれは、相手を視認して発動するんだ。多分それを見抜かれて、フリスさんの時間を止めようとしたその瞬間に、ボクら全員が止められた。鏡に映ったボクら全員がね」
「それは確かに古典的」
言いながら、アレキの目線はチャルに向く。
けれどチャルは、静かに首を振った。
チャルの「相手が本当に大切にしているもの」を見抜く力は、鏡など関係ないらしい。超能力にも色々あるようだ。
「アレも観察眼の賜物だろうね」
「……もう一つだけ、気になる事が」
「なにかな」
「あ、アルバートさんに、ではなく……カンビアッソさんの事です。彼はチャルに対して、『適切な処置をした』と言いました。……それが何なのかが、気になっています」
そう、全員が流れかけていたが、たとえチャルやアスカルティンを欠片たりとも女性として見ていなかろうが、彼がチャルに何かをしたのは事実なのだ。何故なら彼が自白したのだから。
チャルの身体にあるものを知っているアレキであればこそ、その言葉が気になって仕方がない。
「それも多分、大丈夫。心配なら……アレキ。あとで、二人だけで」
「……わかった。チャルがそういうなら、この話は終わりにする」
「え? なんですかそれ。二人だけのヒミツですか? いかがわしい話ですか? 混ぜてください」
「ふふふ、ボクはアスカルティンさんみたいなことは思っていないけれど、二人だけで納得されてもちょっと気になってしまうよ。もし本当にいかがわしい事なら、それこそ彼が関わっているのは危険だしね」
「ぜ、全然いかがわしい事じゃないです!」
「日に日にアスカルティンが変態みたいになって行ってる気がする」
そこでようやく、空気の緊張感がとける。
明日の朝にでもフリスへ謝罪を入れる事を計画として、少女らは段々と女子トークで盛り上がっていく──。
突然だけど僕は今追われに追われている。
追って来ているのはチャル達──ではない。彼女らは多分今部屋で女子トークしてるだろうし。
ちょーっとぱぱーっと現地調査にでも出掛けようかな、なんて部屋を出てすぐのこと、なんか尾行されてるなぁ、なんて思っていたのも束の間に、どんどんそういう人影が増えて、今や三十人近い人数が僕を追って来ている。
いやー、僕が何かしたかな。まぁ僕は色々してるけど、フリス・カンビアッソは特に何もしてないと思うんだけどな。
「シャァッ!」
「おっと」
おかしいと思われない範囲で念動力を使い、避ける。
相手を押し出すんじゃなくて、自分を動かす感じのね。
「ん-、僕を狙う理由……は、まぁ僕が一番狙いやすい、って事なんだろうけど」
ホワイトダナップと各国。
特にエルメシア、ラグナ・マリア、再建邂逅などの、いわゆる技術レベルの高い国、というのはホワイトダナップを目の敵にしている傾向が強い。まぁ世界各国の上空を悠々と回遊する超技術の人工島だ。技術者にとっては羨望と嫉妬の対象だろう。
その、そこの科学開発班の一人が、護衛もなく一人ぶらついてたら、うん、そりゃ狙うよね。
「ちょこまかと──死ね!」
「危ないですね」
ただ、捕獲目的じゃないっぽいのがなぁ。明らかに殺しに来ているし。
あと一人どころか半数くらい機奇械怪っぽいし。融合機奇械怪ね。今朝の吸血鬼と同じ感じの。
って、あぁ。
お仲間捕まえられたから腹いせ?
「君達は──吸血鬼を名乗る機奇械怪の集団。あっていますか?」
「ッ!」
「あっていそうな雰囲気ありがとうございます。ですが、八つ当たりはよくないですよ。殺人は犯罪なんですから。たとえそれが生きていくために必要だとしても、ヒトの郷にいる限りはヒトの法に従うのがルールです。嫌なら出て行って、荒野や廃墟で暮らすことをお勧めします」
いやぁ。
僕が誰かにルールを説く日が来ようとは。
「だ──黙れ、政府の狗が。そもそも先に手を出したのはお前たちだろうが!!」
「そうだ! 娘を返せ、このクソ野郎ども!」
「私達を元に戻してよ! それが出来ないなら、死んで、私達の糧になれ!」
……うーん。
なんか大体の事情は把握したんだけど、これ僕が解決する案件でもないような。というかこの国の奇械士は何やってるの? とっとと解決してくれない?
斬りかかりを避ける。というか、僕は今ちょっと浮いてて、身体の周りに反発力を生む念動力のフィールドを出しているから、斬ろうが打撃しようが絶対に当たらない。僕が押し出されて飛んでいくから。
夜で、チャル達が周りにいなければこそ、だよね。
「折角サイキックを使える人間を見つけたというのに、"ハズレ"でしたから。僕、今すこぶる機嫌悪いんですよ。逃げるなら今ですよ。追いはしない」
「何を」
「──その通りでございます。皆さま、ただちにこの場からお離れください。この方──私と同類にございます」
足音一つ立てずに、夜闇を切り裂いて歩いて来たのは──真っ白なメイド服を纏った女性。
彼女を見た瞬間、吸血鬼たちは文句の一つも言わずに散って行く。
ふぅん? 統率してるんだ?
「統率ではなく保護にございます。──こんばんは、"最悪端末"。出張実験とは殊勝なことで」
「実験というより経過観察ですが。それより……なぜ女装を?」
「女装? 女装ではございませんよ。これは完璧なる女性のボディ」
「上位者は女性になれない。初めの上位者が男性ですから。生殖可能な身体である以上、上位者が女性になったら……上位者同士での生殖が可能になったら、機奇械怪も人間も関係ない楽園が出来上がってしまう。だからできない。はい、他に言いたいことは?」
「相変わらず性格がお悪うございますね、フリス」
「あはは、君も変わらないね、チトセ」
「……オレが一番変わっただろボケチビ」
メイドさん改め──この国に配置された上位者の一人。
チトセ。今の名は。
「今は横臥チトセだ。てめェは?」
「フリス・カンビアッソ。さて、チトセ。この国での実験状況を教えてくれるかな」
歩く。なんかでっかいお屋敷の中を。
「今の私はさるやんごとなきお方に仕えている身。あなたの感知に引っかからないとしても、誰がどこで聞いているかわからないので──これで通させていただきます。いいですね?」
「構いません。僕も同じ理由で通しますから」
ラグナ・マリアの中心にある宮殿というか城みたいな場所。
このお屋敷はその敷地内にある。だから、まぁ物凄い位の高い人間に仕えている、ということだ。チトセが、メイドになって。
「つきました。──決して粗相のないよう」
「わかりました」
長い長い廊下の末──そこへ入る。
重厚な扉。その先。
天蓋付きのベッド。
そこに、両目を布で覆った少女がいた。
あー。……チープな。
「ヘクセンお嬢様。お連れしました──彼がホワイトダナップにおける技術者、フリス・カンビアッソです」
「お初にお目にかかります、間宮原ヘクセンさん。僕はフリス・カンビアッソ。ホワイトダナップは政府塔科学開発班の現地調査隊に勤めています」
「まぁ! 来てくださったのね……私の目を作ってくださる方!」
「目?」
改めて、部屋を見る。
──並ぶのは、人間と機奇械怪の融合体。どれも動力炉が抜かれていて、つまり活動停止状態にある。男女共に衣服は着せられておらず、また立たされて──首から上が無い。
うわぁ。
ミケルの事気持ち悪い気持ち悪いと思ってたけど、この子もまた……。
「あら、チトセ? フリスさんに説明していないの?」
「申し訳ありません。お嬢様はよく連れて来た機奇械怪達に、楽しそうに語っていますので……説明がお好きなのだとばかり」
「あらやだ、そんな風に見られていたのね。でも、まぁいいわ。じゃあ説明しますから、よく聞いてくださいね、フリスさん」
「はい」
そこから──テンション高めな、彼女のちょっとした不幸話が始まる。まぁつまり生まれた頃から視力が悪いのだと。だから目の治療か、義眼を作れる者を探していたのだと。
この国の技術でも作れるには作れるが──間宮原は家名にこそ受け継がれていないものの、エルグの血を傍系にこそ受ける家系であるために、国お抱えの医者がメスを入れたがらないと。
特権階級のみを積んだホワイトダナップより、地上の国の方がそういう意識は強く残っているんだなぁ、っていうのがまず感想。
「お医者様がダメだというのなら、それ以外を頼るしかありません。そんな頃、この国に一人の男性が密入国してきました。彼は自警団を振り払い、警備のものも突破して──私のもとに辿り着いて、勿論チトセに締め上げられます」
「勿論」
「勿論です! チトセは強いので!」
ほらね。やっぱり変わってない。
「そうして捕縛した男性に話を聞けば、自分は半分以上が機奇械怪だ、というではありませか。機奇械怪が融合した人間。人間を食べたくて仕方がない人間。彼は様々な事を喋り散らかして──最後に私に噛みついて来ようとしたので、チトセに殺されました」
「それで、啓蒙を受けたのですね」
「はい! すぐに工場を作りました。秘密の工場……人間と機奇械怪をくっつけるための実験施設。最初の頃は中々上手く行かなかったのですが、段々とコツを掴んでいって……」
「今では三十人以上の融合体……吸血鬼を作り出した、と」
「その通りです。ですが、中々顔までを侵蝕される融合体、というものが作り出せず、失敗作は歓楽街に流し、成功例と思しきものはこの部屋に連れてきて、今の一連の話をしてから動力炉を抜いて……けれどやっぱり、人間に適合する眼球、となると中々無くて。瞳を含む顔や体の造形は美しいものばかりを選んでいますので、こうして観賞用に。ただ目をくりぬいてしまっているので、ぼやけた視界にはどうも真っ暗な眼孔が私を睨んできているようで、怖くなってしまって。ですから、首から上を斬って、こうして並べてあるのです」
うんうん、聞けば聞くほど気持ちが悪いね。
まぁそういう、機奇械怪をコレクションにする人間、融合した人間から動力炉を抜いて奴隷のように扱う人間、というのも昔からいたから、あんまり新鮮味はないけど。
「ですが、フリスさん……いえ、フリス先生ならば、義眼を作ることができると聞いていますわ。貴方がそれを作ってくださるのなら、もうこの国に吸血鬼は生まれません。彼ら彼女らが自己改造なるものをすることを知ってからは、一度放逐した失敗例達も再度保護してあげてることにはしていますけれど、その維持費も馬鹿にならず……。たとえ犯罪者でも突然人間がいなくなったら大事ですからね」
「眼球だけで、よろしいのでしょうか?」
「はい。私の他の部分は完璧ですもの。持って生まれた不良品は眼球だけ。後は空の神フレイメアリスに愛されたと言っても過言ではない程だと自負しております。うふふ、もし目が完全に治ったのなら、義眼で、色鮮やかな世界を見る事ができたのなら……お礼に貴方と一晩を過ごしてあげても構いませんよ?」
「……報酬の話をしましょうか、間宮原さん」
「まぁ! では、作ってくださるのね?」
「はい。それくらいでしたら、材料さえあれば簡単です」
「お金ならいくらでも払います。あとは、そうですね。この国の誰でも欲しい女の子がいたらあげれますし、移住権とか、土地とか、ほとんどの夢は叶えてあげられます」
「そうですか。では──」
僕が人間に求めるものなど。
決まっている。
ソレ以外は、必要ないよ。
──"SEEK……?"
「ああ。今日、来たぜ」
──"SEARCH……"
「いや、そういう感じじゃなかった。どっちかってーと……マジの付き添い?」
──"NO WAY……"
「オレだってそう思ってるよ。けど、変わったんじゃねェの、アイツも、オレ達も」
──"TRUST……NO THAT……"
「はいはい、わかってますよ
──"BYE……"
暗い、灯りの一つもない部屋で、チトセは舌を打つ。
明らかにイライラした声で。
「あと少しで実験終わりだってのに……余計な入力してくれやがんじゃねェぞ、"最悪端末"」
盛大に悪態を吐いて。
彼女は、暗闇の中で──動かなくなった。