終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

33 / 75
取引を持ちかける系一般上位者

「え……?」

「カンビアッソさんが?」

 

 ラグナ・マリアについた日の、翌日の事。

 チャル達はフリスの居場所をエリナに聞きに行って──そこで、衝撃の事実に晒されることになる。

 

「はい……昨晩のことです。ラグナ・マリア市街地で『戦闘が起きている』と通報が入り……自警団が向かった時には、もう」

「……命に別条は?」

「それは……わかりません。未だ危険な状態で。ただ、カンビアッソ先輩はしっかり抵抗してて、致命傷に至る傷はほとんど無くて……」

「それでも危険な状態ということは」

「はい。……血が、抜かれていました」

 

 フリス・カンビアッソが入院している。

 昨晩に襲われ──意識不明の重体だと。

 

「吸血鬼。……まだ、いたんだ」

「これは……覆しようのないレベルの失態だね」

 

 彼を護衛すること。

 それは自分が自分で課した任務ではあるが、そもそも戦えない一般人を守るのが奇械士の存在意義だ。

 

「申し訳ありません……我が国の問題に巻き込んでしまって」

「いえ、今回の事は完全にボクの責任だ。エリナさん、アナタが責任を覚えることじゃない」

「……ありがとうございます。あ、それと……アスカルティンさん、これを」

「?」

 

 アスカルティンを名指して、エリナは彼女に何かを渡す。

 

「あ、オールドフェイス……」

「カンビアッソ先輩の部屋の机に、メモと共に置いてありました」

 

 オールドフェイス。世界共通硬貨が十枚。

 メモには、ただ一言。

 

 ──"後は任せました"

 

 まるで。

 まるで、自身が襲われる事を理解していたかのような文面に、アスカルティンはうん、と頷いて。

 

「でも勝てないかもです」

「アスカルティン、なんでそんな弱音を」

「フリスさんを入院させるような相手ですし。本気でかからないと」

 

 アスカルティンの頭に浮かぶのはまず、圧倒的な力を持ったケルビマ。食べる事の出来なかった彼。それに並ぶ存在がフリス・カンビアッソだ。武力はほとんどない、なんて嘯いてはいたが、果たしてそれがどこまで信じられるのか。

 確かに見た目の筋力やスタミナは無かったが──彼があの程度の機奇械怪にやられるとは、到底思えない。

 だからこそ、入院が事実なら。

 なにか、もっとヤバいのがいるんじゃないか。アスカルティンはそう考えたのだ。

 

 それは果たして、全くの勘違いなのだが、ほとんど機奇械怪で且つ感知タイプであるアスカルティンが見せるその様子に、周囲三人も気を引き締める。特にアルバートは自らの剣を強く握り、「最悪の場合は……」などと呟いていて。

 図らずもフリス()の思い通りに事が進んでいる──その手助けをしたことに、アスカルティンが気付く事は無かった。

 

「エリナさん。フリスさんが襲われた現場に案内してくれるかい?」

「わかりました!」

 

 アルバート一行は責任感を背負って事件解決に臨む。

 まさか。

 

 まさか、まさか──その様子を、「無計画が活きる事ってやっぱあるんだねぇ」なんて呑気に呟いている当事者が近くにいる、なんて欠片も思わずに。

 

 

+ * +

 

 

 当然だけど、僕は入院していない。フリス・カンビアッソに似せて成型した機奇械怪の死骸はおいて来たけどね。動力炉の無い人型だ、創り変えてしまえば一瞬でフリス・カンビアッソっぽくなる。担当医も看護師も間宮原ヘクセンの息のかかった者だから、あそこには経過観察をしに来る者さえいない。

 さて──眼球。

 間宮原ヘクセンの依頼の品。そんなの作るのは一瞬だ。人間に馴染む眼球の製作なんて、一時間あれば完璧に仕立て上げられる。

 

 けど、それじゃあ面白くない。

 だから──報酬制にしようかな、って思ったんだ。

 間宮原ヘクセンにはこう告げた。

 

 ──"僕の連れて来た奇械士の中に、この国の融合体と同じ……いえ、上位互換とも呼ぶべき者がいます。素材として必要なのは彼女の眼球と動力炉。それさえあれば、あなたに完璧に馴染む義眼を作り得るでしょう"

 

 これを聞いて、間宮原ヘクセンは喜び勇んでチトセに命令したんだ。

 どんな手を使ってもいいから奪ってこい、ってね。

 チトセは物凄い目で僕を睨んでいたけど、あはは、彼はもう少しユーモアを覚えた方が良いね。遊び心こそがいつまでも若くあるためのファクターだよ。まぁ上位者は年とかとらないけど。

 

「けれど当然、チャル達も必死だ。必死に抵抗するし──必死に駆逐する。なんせ守るべき僕を自分たちの都合で守らずに危険に晒したんだ。何よりも奇械士の矜持がそれを許そうとはしない。あるいは敵の目的がアスカルティンだとわかっても、守るだけでなく殲滅する勢いで行動するだろう」

 

 となれば──うん。

 ちょっと、吸血鬼側の戦力が足りないね。

 

「アルバートの手品。時止めのサイキックなんか珍しくもない"ハズレ"だけど、君にはもう一つ不可解なものがある。ギンガモールやアシッド・フログスを消し飛ばしたアレ──アレは、時間を止めたところでどうにもできない。そもそも君の身体は匂うんだよね。……だから、ほら。ちょっと」

 

 トラウマでも刺激してみようか。

 

「よ、ほっ……っとと、お、やっぱいた!」

「うん?」

 

 色々と用意するものを羅列していると、足元から少年の声が近付いて来た。

 あ、ここ屋根の上ね。チャル達からはかなり離れているから気取られる事はないと思うけど。

 

「これ、これ……ジュナフィスや、老人はそんな風に動けんよ」

「念動力使ってくればいーだろ」

「……ああ、目的の者は、上位者であったか」

 

 老人の声。それが段々と近づいて──ふわーっと浮き上がって来て。

 パルクールさながらの速度ではしごやら雨樋やらを駆け上がってきた少年と共に、僕の隣へ降り立つ。

 

「いよう! 久しぶりだなフリス!」

「ほっほっほ、儂は初めましてですな、"最悪端末"殿」

「ああ、ジュナフィスと……もしかして、リンゴバーユかい?」

「ほ? 何故儂の名を。初めまして、だと思ったんですがのぅ」

「リンゴバーユは前身がいたんだよ。一度大本のもとに帰っているから、記憶のリセットが入っているんだろう」

「え、それ何年前のこと? 俺知らないぜ?」

「僕が"種"を蒔く前の話だから……少なくとも500年以上は前だね」

「うわ、じゃあそんとき俺も稼働してねーじゃん!」

 

 ジュナフィス。リンゴバーユ。

 話を聞いてわかると思うけど、二人も上位者だ。ホワイトダナップに上位者が三人しかいなかったのは狭かったからで、各国の上位者はそこそこいる。姿形も様々であるけれど、チトセに言った通り女性はいない。

 皆が皆名前だけ固定して姓を変え顔を変え肉体を変え関係性を変え、長きにわたって人間の陰に潜んでいるわけだ。

 

「何用かな」

「いや? 特には。今チトセの番だからなー、俺達は静観状態なんだよ。けどそこにフリスが来たんだ、だったらちょっかいかけに行くのもおもしれーかなって!」

「儂は事情も聞かされずにいきなり『ちょっとついてこいジジイ!』ですからのぅ」

「用がないなら──」

 

 邪魔しないでくれるかな、と言おうとして、思いとどまる。

 僕、上位者にはあんまり興味ないんだけど……吸血鬼側を強化するには使えるな、って。

 

「君達は今起きている吸血鬼事件、どこまで把握しているんだい?」

「どこまでってそりゃ、全部だよ。チトセの実験内容なんだし、ふつーに共有されてるぜ?」

「チトセは怖いですからのぅ。下手に手を出したり、貸したりしようものなら、後が怖くて怖くて」

「あはは、やっぱりチトセは変わってないね」

 

 ……この分だと、協力を取り付けるのは──。

 

「んで? 何やんだ? へへっ、俺にも噛ませろよ!」

「ふぉふぉふぉ、手を出すことはありませんが、突然目の前に現れたら仕方のないことですじゃ」

「……リンゴバーユ、君も変わってないねぇ。ジュナフィスはずっとそうだけど」

「お前には負けるって、"最悪端末"!」

 

 エクセンクリンとケルビマが特別真面目なのは、あそこが貴族の乗る船……というか島だったから。あんまりふざけたのを置くと割と簡単に排斥されちゃうからね、エクセンクリンくらい真面目に仕事する上位者じゃないとダメだった。

 なんならそもそもホワイトダナップに設置された上位者というのはエクセンクリンだけだ。僕は拾われ子だし。それで、エクセンクリンだけじゃいろいろ手に負えなくなるのが確定したからケルビマが製造された感じ。

 たとえばこのまま僕がホワイトダナップを去ったのなら、今度は僕と似たような無計画性を持つ上位者が製造されるか、抽出されるか、まぁどっちかになると思う。

 

 何の話って、ラグナ・マリアにいる真面目な上位者たちの分、ジュナフィスやリンゴバーユ、チトセのような個性の尖った上位者もいるよ、っていう。バランスとってるからね、彼らは。

 言葉を聞いてわかる通り──この二人は、僕側。僕の目的は違うとはいえ「面白ければなんでもいい」側の上位者だ。

 

「君達は機奇械怪、どのくらいの頻度で作ってる?」

「どのくらいの頻度って……滅多なコトじゃつくんねーよ。上位者の作った機奇械怪なんて余計な入力でしかねーじゃん。俺の仕事はこの国の子供たちに奇械士になるような思想誘導を働きかけることだし、機奇械怪作ってる暇なんかねーって」

「儂も製造からとんと作っておりませんですじゃ。作らずとも……どうせこの国は、あと百年もしたら滅ぶでしょうしのぅ」

「時間的余裕はどれくらいあるのかな」

「そりゃまぁ、別に、作ろうと思えばいくらでも」

「ですなぁ。浮浪児と徘徊老人、わざわざ気に掛ける人間もおりませんでの」

「じゃあさ」

 

 ちょっと、人形劇に参加して欲しいから──練習しといてくれない?

 

 

 

 

 

「よいしょ、と……ふぅ。見つかってないね」

「誰にだよ」

「奇械士に、だよ。そりゃこんだけ大々的に念動力使えば、君が駆けつけてくることはわかっていたよ、チトセ」

「……釣ったのか、オレを」

「言い方が悪いな。おびき出したと言って欲しい」

「同じっつか悪くなってるだろーが!」

 

 ラグナ・マリアから少し離れた場所にある山麓。

 そこに僕とチトセはいた。

 

 赤雷が走る。

 

「うぉっ……おい、転移使うなら先に言えよ」

「えー? 君も上位者なんだから、そろそろ転移気配くらい悟れるようになりなよ」

「言うに事を欠いてソレか。オレは知ってんだぞ、てめェが転移気配察知できずにガッコやめたって話」

「……情報源はフレシシかい?」

「バッ、え、いや、ちちち、ちげーし! 誰があんなへっぽこと連絡を」

 

 わかりやすっ。

 ……ま、いいよいいよ。沢山隠し事しといて。その方が楽しいし。

 

「違うならいいんだ。──さて、チトセ。ちょっと離れてね」

「ん……創り変えんのか?」

「うん」

 

 今僕が転移させてきたのは、遠くの山に形だけ残っていた、風力発電に使っていたのだろうプロペラ型風車。中々珍しい旧時代の名残を惜しみなく創り変える。

 手を当てたソレにバチバチと赤雷が走って、周囲の鉄くずやら鉱石やらを飲み込んで。

 

「『TOWER』か。芸がねぇな、お前も」

「僕は別にクリエイターじゃないからねぇ」

 

 造ったのはTOWERだ。ダムシュの時と同じ。だけどもっと小さいし、洗脳波なんて出せないもの。劣化版、といっても過言ではない。

 そんなTOWERにもたれ掛って、通信端末を起動。

 

「あ、もしもしミケルー? 聞こえるー?」

『気の置けない友達のような距離感で話しかけてくるのはやめたまえ。というか君は、今ラグナ・マリアにいるのではなかったか? 通信可能範囲を超えているだろう』

「無理矢理超えたんだよ。ま、そんなことはよくてさ。僕のいる位置の座標送っておくから、明日か明後日あたりに納品してほしいものがあるんだよね」

『……ククク、これは貴様が私にとっての敵である──ということの一切をかなぐり捨てて言うがね。納期とは七日間以上は空けるものだ……それが良いビジネスの基本! わかったかね!? わかったなら納期をもう一度言ってみたまえ!』

「明日の正午までに納品してほしいものがあるんだよね」

『短くなっただと!?』

「おいおい、ミケル。僕をあんまり失望させるなよ。君に普通の人間の、凡夫の常識が当てはまるのかい? 僕は君の底なしの英雄性を買っているんだ──凡人に戻るというのなら、とりあえず研究設備の取り上げから入るけど?」

『なんでもいいたまえ! どのような機奇械怪でも作ってやる! だが素材は寄越せ、パトロン!』

 

 君の扱いやすい所、好感が持てるよ、ミケル。

 彼の端末へ作って欲しいもののデータを送る。終始ジト目で見てくるチトセを無視して、ミケルがそれを確認するのを待つ。

 

『……まぁ作れるには作れるが』

「本当かい? いやぁ、僕、デザインとかそういう類はからっきしだからさ。この国の芸術家に頼むわけにもいかないし、思いつくのが君だけだったんだよね」

『それは……私の芸術センスを買っている、ということか?』

「え? そりゃ勿論。ギンガモールもアシッド・フログスも、機能と見た目の美意識を完璧に追及した天才的なデザインだったよ。全体的に気持ち悪いし悪趣味なところは否めないけれど、少なくとも僕には作れない芸術だ。だからそれも、僕のそのゴミみたいな仮デザインは捨てて、君のセンスで作ってくれていい。機能さえ同じならなんでもいいからね」

『──承知した。この発想は私にとっても価値のあるものだ。今すぐに製造に取り掛かる。通信を切るぞ』

「うん。応援しているよ、ミケル」

 

 通信を切る。

 

 チトセへ振り返れば──なんだか、難しい顔。

 

「……ミケルって、誰だ。上位者にいねェだろそんな奴」

「人間だよ」

「人間ン? フリス、お前がそこまでの信を置いてんのが人間だって?」

「ああ。今までの比じゃない、類を見ないレベルの"英雄価値"を持った人間だ。いやぁ、本当に去年も今年も豊作ばかりでね。もしかしたら──全実験が今年か、あるいは来年の内に終わるんじゃないかってワクワクしているよ」

「……てめェの実験は、英雄を作り出す事で、機奇械怪に有用な入力をする……だったな」

「うん」

「ならオレの実験を邪魔するんじゃねェ。オレの実験にはヘクセンお嬢様が不可欠だ。そのためにくだらねェメイドに成りすまして演技し続けてきたンだ、もうちょっと我慢しろや」

「それは、間宮原ヘクセン次第かな。彼女が焦れば君の実験は失敗するし、少しでも身を引く事覚えられたら成功するだろう。もう"種"は蒔かれている。僕らは芽吹きを待つだけだ。まさか新芽を摘む、なんて真似をする事はないだろう?」

 

 ──僕とチトセの間で、衝撃波が走る。あーあー、TOWERが壊れちゃったじゃないか。

 

 ギチギチと音を立てて、空間が押され合う。地が、山が割れ、空が、雲が割れ。

 上位者同士の力の押し合い。念動力と転移はどの上位者にも備わっている力だけど、基本的に意思が強い方が強い力場を生み出せるものだ。それはサイキック側の原理。

 

 ゆえに。

 

「──ヘラヘラしてるクセに、相変わらず化け物みてェな力場だ」

「あのさ、こういう少年漫画みたいな展開求めてないんだよね。僕が今作ってるの青春ラブコメアクションストーリーだからさ。こういう汗水たらして河川敷で殴り合う、みたいなのはジャンル違い」

「わけわかんねェこと言ってんじゃねェよ、フレイメアリス!」

「うわ、君までそれ言うの? 何度も言ってるけど僕神様とかじゃないって。というか神がいないことなんて君達が一番よく知ってるだろ。大本でさえ神じゃないんだから」

 

 チトセの性格は、簡単に言えばヤンキーというか不良というか、殴りあって友情を確かめ合って、強敵であればあるほどテンションが上がって……みたいなタイプ。だから人間を相手にする時も自分のスペックを落としてから戦うし、機奇械怪を相手にする時でさえそれは同じ。

 だからこそあの夜は驚いたものだ。彼が威圧し、融合体を退かせたこと。あれはつまり、自身が彼らよりも上位の存在であることを以前からひけらかしていた、ということになる。

 根っこの性格は何も変わっていないようだけど、実験を通して何か……別の人格が発現しているようにも見える。

 

 少し、面白い。

 何も変わっていなかったジュナフィスや、生まれ変わって尚変わっていないリンゴバーユと違い、チトセには何かが起きて、何かが変わっている。

 

 上位者の成長。それは面白いものだ。

 

「ぐ……クソ、押し切られ──」

()()()()()()()()()()()()

 

 久しぶりに──僕の中の、最も厄介で楽しい部分が鎌首をもたげるのを感じた。

 無計画性。それも──ホントのホントに何も考えていない方。

 

「君さ、大本と連絡を取り合っているだろ。いつか僕を切除するために」

「──!?」

「あはは、もしかしてわかってないと思ってた? 甘いよ。……だけど、だったら取引をしよう、チトセ」

「取引……、ッ!?」

 

 力を籠める。

 それで、それだけで──チトセの展開していた念動力のフィールドは圧し潰される。僕の勝ちだ。

 そうして掴み、彼を持ち上げて。

 

「……てめェ、手加減してやがったな」

「当たり前だろう。僕は上位者に興味がないけどね、むやみやたらに殺して回る気もない。向かってくるなら相応の力で返すだけだ。そして──取引だ、チトセ」

「脅しかよ……汚ねェな、相変わらず」

「一週間。つまり、僕らが去るまでの間、戦闘を長引かせるんだ。奇械士達との戦闘をね。どうせ間宮原ヘクセンは現地に来ないだろうから、誤魔化しようはいくらでもあるだろ?」

「……取引ってンだ。何かオレにメリットがあるんだろうな」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!」

 

 TOWERの残骸を引き寄せて、とりあえずの形を作っていく。

 本物はこんな雑じゃないけど、ポーズでね。

 

 そして、天秤のように差し出したもう片方の手には──義眼を。

 

「テメッ、やっぱりアスカルティンとかいうのの目は必要無ェんじゃねーか!」

「当然だろう。眼球を作るのに眼球が必要だなんて、そんな等価交換に何の意味がある。機奇械怪を創り上げるのに必要なのは等価な対価ではなく運命だ。──あはは、チトセ。人間に混じり過ぎて、大切なことも忘れてしまったようだね」

「うるせェな! いちいち説教くせェんだよてめェは! 自分ができてねェくせにグチグチと!」

「うんうん、そうだね。それじゃあ改めて取引だ」

 

 チトセを持ち上げて、間宮原ヘクセンの骨組みと、義眼を差し出して。

 

「君が実験で何をやりたいのかは知っている。君が約束通り戦闘を一週間長引かせ──見事この義眼を勝ち取ったのなら、君が見たがっているだろう、()()()()()()()もその場で見せてあげよう」

「……!」

「"ソレ"はエネルギーでしかないにもかかわらず、君達にとっても命題だ。"ソレ"がないと生きていけないにも関わらず、人間も機奇械怪も直視しようとしない。ならば"ソレ"はどこに宿るのか」

 

 間宮原ヘクセンの身体と義眼を、転移で消す。

 

「取引だ。僕の要求を飲んでくれるのなら、君の望むものをその場で見せてあげよう」

「……わーったよ。飲む。オレも、こんなクソ面倒な事二度もやりたかねェんでな」

 

 OK。

 交渉成立だ。

 

 彼を念動力から解放する。

 

「ったく……メイド服がしわくちゃじゃねェか」

「あ、そういえば聞いていなかったね。どうやってそのボディになっているんだい?」

「ア? んなもん決まってるだろ」

 

 膨らませて、切り落としたんだよ。

 それだけだ。

 

 ……そういって、チトセは「んじゃ準備があるからオレは行くわ」なんて言って、去って行った。

 

 ふむ。

 

「その手があったか……」

 

 僕はやらないけど。

 成程なぁ。

 

 

 

 

 

 さて──病院。

 命が危険な状態ということで、酸素マスクをつけられ、体中に計測器を刺されてモニターされて、まさに「峠ですよ」な感じの肉体に戻ってくる。

 

 まぁこんなのはポーズだ。

 どうせ看護師も来ないんだからこんな邪魔なの取って──って。

 

 え、おいおい。警備は?

 

「……フリスさん」

「……」

「脈が低い……そうだよね。血を抜かれたんだ。……殺されるに至らなかったのは、アナタの逃走技術ゆえか」

 

 アルバートだ。

 どうやって来た……って、あ、そうか。元々影が薄いのもそうだけど、警備の人の時間止めてスルスル抜けて来たのか。

 鍵も、奇械士ならお手の物だろうし。

 

「すまなかった。聞こえてはいないだろうけれど、謝らせてもらう。……正直、舐めていたんだ。この国の脅威度はそこまででもないと思っていた。アナタを買っていた、というのは……言い訳だけどね。アナタを殺せる程の機奇械怪はいない。そう高を括っていて……だから、アナタは一人にしても大丈夫だ、なんて」

 

 それは懺悔。

 僕が年上だと知った時から続けていた丁寧語は鳴りを潜め、今は彼……彼女本来の言葉で僕に語り掛けている。

 

「何よりボクは、アナタに何か……何か特別なモノを感じていたんだ。普通の人間ではないような、そんな空気感。共同墓地で会った着流しの彼。政府塔に勤務するやせぎすの彼。さっきすれ違ったメイドさん。下町にいた、子供に混じって遊ぶ少年。路地裏を歩いていた老人。子供を負ぶる男性。機骸の道(メクシンロード)を守る警備兵の片方。奇械士協会の受付の青年。エリナさんの上司だろう男性。ハルジアさんの詰所にいた最年少だという少年警備兵。──それらさえも凌駕する気配」

 

 えー、内心バクバクです。

 サイキックは"ハズレ"だったけど、いや、いや、そうだよね。だって対象の時止めだけで最強が名乗れるはずないし。

 というか、精度がおかしすぎる。今挙げた人物、その全員が上位者だ。ラグナ・マリアに設置された上位者。チトセ、ジュナフィス、リンゴバーユ以外の、つまり僕がまだ出会っていない上位者までもを羅列し、そのどれもが間違っていない。

 

 なんだ、この人間。

 今僕の中でアルバートの評価がガリゴリと書き換えられて行っている。いや、元からあのギンガモールを消し飛ばした超火力という部分での未知数な評価はあった。けどそれだけじゃない。チャルのものとは違うけど、やっぱり彼女にも何か見抜く「目」が。

 

「……しかしそれも、勘違いだった。いや、もしかしたら勘違いではないのかもしれないけれど、少なくとも強さに類するものではなかった。ボクの怠慢だ。勝手に推測して、警戒して──アナタを危険に晒した」

 

 いや、勘違いじゃないよ、と起き上がって言ってあげたい。

 彼女の素質を育てるのに、それを勘違いだと誤認するのは勿体ない。

 

 け、けど、もうちょっと聞きたい。あと今起き上がるのは他の部分が台無しになりすぎるのでできない!

 

「白状するよ。……ふふふ、意識の無い相手の前でしか言えないボクの臆病さを許してほしい」

 

 アルバートは、膝をついて。

 まるで騎士が剣を捧げるかのような格好で──言う。

 

「ボクは過去の人間だ。過去から来た。ボクの生まれは空歴2044年。今年でちょうど、500年前の人間、ということになるかな。……とはいえ、記憶や経験があるだけで、この時代にもしっかり子供として生まれてはいるんだけど」

 

 それは。

 まぁ、知っていた。だろうな、とは思っていた。だから適当な所で過去の事件の再現などを見せる事で、トラウマになっていそうなところを掘り起こす予定だった。まさか自分から話してくれるとは思って無かったけど。

 なんで知っていたかというと、そも、対象者の時を止める、という発想が、この機械の時代では出てこないはずなのだ。上位者が潰して回ったから。時間とは絶対である。空間には頑張れば干渉できるけど、時間に手を出すことはできない。

 それは教育として、あるいは誰かが突然変異として思い付き、発現したとしても……必ず上位者が闇討ちしに行く。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()という理由で、潰す。

 転移や念動力、シールドなどがこの時代の最たる技術だ。時間を扱うのは、機械の時代ではない。

 

 つまり、アルバートがそれを扱う以上、彼女はこの機奇械怪蔓延る……あるいはNOMANSの使われていた時代よりも前に物心ついていないといけない。そうでなければ消されているはずだから。

 

 これはまた機械の時代にはやるべきではないからあんまり言及したくないんだけど、時間を操るのは結構簡単だ。上位者がやることも珍しくないし、法則として過去には行けないけど未来には行けるから、「ここではしばらく何も起きない」と判断した上位者が未来へ飛ぶ、なんて事も昔はよく行われていた。

 僕が機械の時代を作ってからは誰もやっていないけどね。前の……つまり、それこそ吸血鬼とかが普通にいた魔法の時代ではありふれた事だったんだ。

 

 機奇械怪も魔法も、結局の動力は《茨》。呼び名が違うだけだけど、「その時代にそぐわない」力は使わない。使われない。何故って雰囲気を壊すから。

 

 ……あ、だから、そうか。

 もしかしてそういうことかな?

 

「誓うよ、フリスさん。ボクは必ず君の仇を取る。最強の名にかけて──そして、何より」

 

 

 

 ──ちゅ、と。

 額に湿り気が落ちた。

 

 

 

「ボクは、君に感じた特別を、何をも凌駕するその気配を──恋だと判断したからね。少し、恋心という奴に燃えてみる事にするよ」

 

 

 

 あ、それ完全な勘違いです。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。